抱いて

声にならない物語

「声にならない物語」

冬の午後、陽の光が弱々しく窓辺に差し込む部屋で、舞は一人アルファポリスの小説ページを開いていた。趣味で読み始めたオンライン小説は、いつの間にか彼女の生活に欠かせない存在となっていた。しかし今日は、どこか疲れていて文字を目で追うことすら億劫だった。

「読み上げ機能が使えたら、こんなとき便利なのに……」
舞は、いつも使っているMicrosoft Edgeの音声読み上げが、アルファポリスのサイトでは機能しないことに気づいてため息をついた。

試行錯誤の末、舞はついに諦めてパソコンから顔を上げた。
「仕方ない、自分で読むしかないのか……」
彼女は気持ちを切り替え、画面をじっと見つめ直した。目の前には心に刺さるような言葉が並んでいる。「声がなくても、心で感じることはできる」とでも言わんばかりの文章だった。

物語の中の登場人物たち
その小説は、盲目の少女エリナが主人公だった。視覚を持たない彼女は、音や匂い、触感で世界を感じていた。ある日、彼女の住む村に吟遊詩人の青年アレクが現れる。彼は美しい旋律を奏でることで人々の心を癒す存在だったが、エリナにだけその音楽は届かなかった。

「なぜ私には感じられないの？」
エリナはアレクに問いかける。だが彼は微笑むだけで答えなかった。

エリナは必死で耳を澄ませる。アレクの奏でる音楽が自分の心の中に響くまで、何度も何度もその場に座り込んだ。ある時、アレクが彼女の手を取り、そっと弦の振動を伝える。

「音楽は耳だけで感じるものじゃない。君の中にも響いているよ、ただまだ気づいていないだけだ。」
その瞬間、エリナは初めて音楽を感じた気がした。それは耳ではなく、心で聞く音だった。

舞の気づき
舞は小説のラストに目をやる。エリナが音楽を心で感じたように、舞も小説の中の感情を直接受け取った気がした。読み上げ機能がなくても、その世界は間違いなく彼女の中に広がっていたのだ。

「言葉を目で追うだけじゃなくて、心で読むことも大切なんだな……」
舞は、小説の画面を閉じて窓の外を見た。冬の寒空が広がっていたが、どこか温かいものが心に残っていた。

音声がなくても、物語の力は失われない。舞はそれを、エリナの物語を通して学んだのだった。