抱いて

影の中の光

「影の中の光」

それは静かな夜だった。月明かりが大地を照らし、空気はひんやりと冷たい。アリサは屋敷の中で一人、窓の外を見つめていた。彼女の心は乱れていた。何かが足りない、何かが不足していると感じるたびに、その空虚感はますます大きくなる。周囲の人々が何も気づかずに過ぎていく中、彼女の内面は深い闇に包まれていた。

アリサは、家族や友人に囲まれて育ったが、常に自分が他人と違うと感じていた。彼女が持っていた欲望や、内に秘めた衝動は、社会や常識の枠を超えるものだった。それが彼女にとっては普通のことだったが、周りから見ると異常であり、彼女はそのことに悩んでいた。

ある晩、屋敷の中で静かなパーティーが開かれた。家族や貴族たちが集まり、酒と音楽で盛り上がっていた。しかし、アリサの目にはその場の楽しさが何も感じられなかった。自分だけが孤立しているような感覚に苛まれ、部屋を抜け出すと、夜の冷たい空気が彼女を包み込んだ。

「こんな場所、もう耐えられない…」アリサは小さくつぶやいた。

彼女は庭園を抜けて、屋敷の裏手にある古びた小道を歩きながら、自分の内面に向き合っていた。誰にも見せたことのない、自分の欲望や衝動が次々と彼女の頭をよぎる。これまで抑えてきたものが、今は抑えきれなくなりそうだった。

その時、誰かの気配を感じた。アリサが振り向くと、そこに立っていたのは、屋敷に仕えている青年、カイルだった。彼の目は、いつものように冷静で、無表情だったが、その姿にアリサは驚きとともに不安を覚えた。

「こんな夜に、どうしてここに？」アリサは声を震わせながら尋ねた。

カイルは一歩近づき、低い声で答えた。「あなたがどこに行くか、知りたかった。何も言わずに屋敷を抜け出したから。」

その言葉にアリサは一瞬、何も言えなかった。だが、彼の目に浮かんだ微かな優しさを感じ取った瞬間、自分の中で抑えきれない感情が爆発しそうになった。

「カイル、私は…私は…」

言葉が続かない。彼女の心の中で、愛と欲望が交錯し、彼の存在が自分にとっての救いとなるか、あるいはさらなる痛みをもたらすか、予測がつかなかった。

その瞬間、カイルは無言でアリサに手を差し伸べた。アリサはその手を握ることができなかったが、その温もりを感じ取ることで、自分の中の迷いが少しだけ解けた。

「あなたが求めるものが何であれ、私はあなたを見守っている。」カイルは静かに言った。

その言葉が、アリサの心に深く響いた。彼女はそれまでの自分を抑え込んできたが、カイルの言葉が少しだけ、その壁を崩した。しかし、アリサはその先に進む勇気が持てなかった。彼女の心の中で葛藤が続いていた。欲望と理性、愛と恐れ。

その夜、アリサは何も言わずに屋敷へ戻った。カイルもまた何も言わず、静かに見守っていた。彼の眼差しが、彼女の心に深く刻まれていった。

しかし、アリサはその後もカイルの言葉が耳から離れなかった。彼女は自分の欲望を抑えることができるのか、それとも新たな一歩を踏み出すのか。どちらを選んでも、道は一筋縄ではいかないことを知っていた。

終わり