抱いて

自殺のそぶりや自傷行為を繰り返し、周囲に動揺を与える

自殺のそぶりや自傷行為を繰り返し、周囲に動揺を与える

陽菜の生活には、誰にも知られたくない側面があった。深夜、自室の鏡の前で、彼女は腕をまじまじと見つめる。そこには、赤く細い線がいくつも刻まれている。

「これで誰かが気づいてくれるなら、私は救われるのかな……」

そんなことを考えながらも、切る瞬間は自分自身を罰するような衝動に支配されていた。誰かに「大丈夫？」と聞かれることを期待しているわけではなかった。ただ、自分が存在していることを確かめたかったのだ。

美咲の直感
ある日、美咲が陽菜の家を訪れた時のことだった。普段は何気ないおしゃべりを楽しむ2人だが、その日、陽菜は元気がなく、どこか遠くを見つめているようだった。

「陽菜、大丈夫？」
美咲のその一言で、陽菜の心は一瞬揺れた。けれど、「平気だよ」と笑顔を作って応えた。その時、美咲の視線が一瞬陽菜の腕に向けられたことに気づき、陽菜はとっさに長袖を引っ張った。

その後、美咲は何も言わなかったが、陽菜の様子が気になって仕方がなかった。

病院での出来事
数日後、陽菜は美咲に付き添われて再び精神科を訪れた。医師に「自傷行為をしています」と告白することは、陽菜にとって勇気のいることだった。

「なぜ自傷行為をしてしまうのか、自分でもよくわからないんです。ただ、そうすると気持ちが楽になる気がして……」
陽菜の声は震えていた。

医師は静かにうなずき、こう説明した。
「自傷行為は、強いストレスや感情をコントロールする手段として行われることが多いです。陽菜さんが自分の感情を表現する方法を見つけることが大切ですね。」

美咲の言葉
病院の帰り道、美咲は陽菜の手をぎゅっと握りながらこう言った。
「陽菜、私はあなたがどんな状態でも受け止めるよ。でも、あなたが自分を傷つけるたびに、私もすごく悲しくなるの。だから、一緒に他の方法を探していこう。」

陽菜は涙を流しながら、美咲の言葉を心に刻んだ。

新たな手段
それから、陽菜は感情をコントロールするために新しい方法を試み始めた。絵を描いたり、日記を書いたり、自分の感情を言葉にする練習をした。最初は戸惑いもあったが、次第にそのプロセスが心を少しずつ楽にしてくれることに気づいた。

小さな変化
自傷行為は完全には止められなかったが、頻度は少しずつ減っていった。そして、以前よりも周囲の人々と感情を共有できるようになった。

ある日、美咲がこんな提案をした。
「ねえ、陽菜。私たちで何か作らない？絵でも、文章でも。陽菜の感じてることを、形にするのって素敵だと思うんだ。」

その提案は陽菜の胸に小さな希望の種を植えた。

境界線の先
陽菜は少しずつ「自分を傷つける」から「自分を表現する」へと変わっていった。周囲の人々を巻き込みながら、彼女は新しい自分を探す旅を続けている。

境界線はまだ存在する。それでも、陽菜はその向こう側にある光を信じて歩き続けることを決めた。

「ありがとう、美咲。私、もう少し頑張ってみるね。」
そう言って微笑む陽菜の顔には、少しずつ生まれ始めた強さと希望が輝いていた。