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春秋花壇

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気分や感情が激しく変化し、周囲の人がついてこられない

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気分や感情が激しく変化し、周囲の人がついてこられない

陽菜の感情の波はいつだって予想不可能だった。それは嵐のように激しく、周囲の人を巻き込むこともあった。数日前のこと。昼休み、同僚の田中さんと一緒にランチに行った際、陽菜はつい饒舌になって自分の話ばかりしてしまった。田中さんは笑顔で聞いてくれたが、その後、彼が別の同僚たちと楽しそうに話しているのを見た途端、陽菜の心の中はぐちゃぐちゃになった。

「私なんて、ただのお荷物なんだ。」
田中さんのほんの少しの態度の変化が、陽菜の心を大きく揺さぶった。彼の笑顔は演技だったのではないか? 陽菜の話なんてどうでもよくて、単に優しいふりをしていただけではないか? 頭の中で次々に疑念が膨らみ、心がどんどん重くなる。

翌日、陽菜は田中さんに冷たく接してしまった。「どうせ私のことなんて嫌いなんでしょ?」という気持ちが態度に出てしまい、田中さんは困惑した表情を浮かべた。その瞬間、自分の行動が間違っていることに気づいたが、感情の渦に飲み込まれて謝罪する余裕がなかった。

周囲の戸惑い
陽菜のこうした激しい感情の変化は、周囲の人々に混乱をもたらしていた。田中さんだけではない。親しい友人の美咲でさえ、時折どう接すればいいのか迷うことがあると話していた。

「陽菜、あなたが感じていることは本当だと思う。でも、私たちにはその気持ちを完全に理解するのは難しい時もあるの。」
そう美咲が言った時、陽菜はひどく傷ついた。自分を理解してくれる人がいないという孤独感が心に押し寄せたからだ。しかし、美咲の言葉は優しさと本音の両方を含んでいた。それに気づけたのは、数日経ってからだった。

小さな一歩
陽菜は精神科医のもとを訪れる決心をした。診察室で医師に感情の激しさや人間関係の問題を話すうちに、陽菜は次第に心の重荷が軽くなるのを感じた。医師はBPDの特徴と向き合う方法を丁寧に説明してくれた。

「まずは、自分の感情が激しく揺れ動いた時に、その感情を無理に抑え込むのではなく、少し距離を取って観察してみましょう。」

医師の提案で、陽菜は感情を記録するノートを始めた。その日の感情の動きを書き留め、何がその感情を引き起こしたのかを分析することで、少しずつ自分の傾向を理解するようになった。

周囲との関係
ある日、田中さんが陽菜に声をかけてきた。「最近、元気そうですね。」
陽菜は一瞬戸惑ったが、素直に「ありがとうございます」と答えた。その後の会話の中で、陽菜は自分が田中さんに対して誤解を抱いていたことを正直に伝えた。「実は、私、自分の気持ちをコントロールするのが苦手で…。」

田中さんは少し驚いた様子だったが、「誰だってそういう時ありますよ」と優しく返してくれた。その言葉に、陽菜は少しずつ自分を許せるような気持ちになった。

境界線を越えて
感情の揺れは今でも続いている。激しい波が押し寄せるたびに、陽菜はノートを開き、自分の心の動きを見つめ直す。そして、少しずつだが、感情の嵐に巻き込まれずに冷静に対処できる日が増えてきた。

美咲や田中さん、そして職場の仲間たちの支えもあり、陽菜は自分のペースで前に進んでいる。「私はこの世界に居場所がある」と、陽菜は少しだけ自信を持つことができるようになった。

陽菜の旅路は、決して簡単ではない。しかし、境界線を越えて自分自身を受け入れ、他者と繋がる喜びを見つけるその過程は、確かに彼女の中に新しい希望の光を灯していた。







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