抱いて

真夜中のSkype

 「真夜中のSkype」

真夜中、部屋の隅で震えながら、美咲はパソコンの前に座っていた。心が締め付けられるような不安に耐えられず、ふとSkypeを開く。そこには、いつも話を聞いてくれる人がいる。

「大丈夫？」

画面の向こうから届く声に、美咲は少しだけ呼吸を整えた。その声の持ち主、遥斗（はると）は、数年前にオンラインゲームで知り合った友人だ。顔を見たことは一度もない。だが、その穏やかな声は、彼女にとって唯一の救いだった。

「また、不安になっちゃって……」
美咲は震える声で答える。

遥斗は少し黙ったあと、いつものように落ち着いた口調で話し始める。
「それは仕方ないよ。でも、こうやって話せてるんだから、一人じゃないよ。」

その一言が、美咲の心を少しだけ軽くした。

響き合う孤独
美咲がSkypeを通して遥斗と話し始めたのは、4年前のことだ。SNSに書き込んだ「夜が怖い」という短い投稿に、遥斗が「よかったら話さない？」とコメントをくれたのがきっかけだった。

当時、美咲は孤独の中で沈み込んでいた。家族とも疎遠になり、友人にも本心を打ち明けられない。誰も自分の苦しみを理解してくれないという思いが、彼女を追い詰めていた。

遥斗もまた孤独を抱えていた。彼は長年、体調を崩して働けず、社会から取り残されているような感覚に苛まれていた。誰かと繋がりたいという思いから、SNSを通じて人と話すことが彼の日課となっていた。

「僕も夜が怖いと思うことがあるよ。」
遥斗は、そう言って自分の体験を語った。美咲はその言葉に驚きつつも、安心感を覚えた。自分だけが苦しいのではないと知ることが、彼女の心を少しだけ癒した。

真夜中の声
ある夜、美咲はSkypeを開き、遥斗にメッセージを送った。

「今すぐ話せる？」

すぐに通話が繋がり、画面越しに遥斗の声が聞こえてきた。
「どうしたの？」

「胸が苦しくて……。誰かに嫌われた気がして、消えたくなる。」

遥斗は少し間を置いてから、静かに言った。
「誰に嫌われても、僕は君を嫌いにならないよ。だって、君は僕と話してくれるじゃないか。それだけで、僕にとっては十分なんだ。」

その言葉を聞いた瞬間、美咲の中で張り詰めていたものが解けるような気がした。涙が止まらなくなる。画面越しの彼にはその涙の理由が伝わらないかもしれない。それでも、美咲にとってその瞬間は救いだった。

互いの支え
遥斗もまた、美咲との会話に救われていた。自分の言葉が誰かを慰めることができる。その実感が、彼自身の孤独を癒していたのだ。

「ねえ、遥斗さんはどうしてそんなに優しいの？」
ある日、美咲が尋ねると、遥斗は少し照れたように笑いながら答えた。
「優しいんじゃなくて、自分が孤独だったからだよ。同じ気持ちの人を放っておけないだけ。」

その答えに、美咲は何も言えなかった。ただ、遥斗の存在が、彼女にとってどれほど大きいものなのかを改めて感じた。

夜明け
何度目かの通話のあと、美咲はふと時計を見た。もう夜が明ける時間だった。窓の外には、淡い光が差し込んでいる。

「朝になったね。」
美咲が言うと、遥斗は笑った。
「うん。これから君がどんな日を過ごすのか、ちょっと楽しみだな。」

「私、頑張ってみるよ。」
美咲の声には少しだけ力が込められていた。それは、誰かに支えられることで、少しずつ前に進めるという確信だった。

真夜中のSkypeは、彼女にとってただの会話以上のものだった。それは、孤独の中で生まれた小さな希望の光だった。

そしてその光が、また新しい一日を照らしていた。