徒然草

小説

徒然草 第百九十段「秘めたる男の情景」

徒然草　第百九十段「秘めたる男の情景」

都の街角、日の傾く頃、藤原俊成は庭先で紫陽花の手入れをしていた。彼はこの世に一人住まう孤高の男。妻を持つことを潔しとせず、世俗の喧騒から距離を置くことで心の平穏を保っていた。そんな彼のもとへ、しばしば訪れる女がいた。名前は絢子。彼女は独り身の俊成に対して何ら遠慮も見せず、自由奔放に彼の生活に入り込んでくる。

今日も絢子は、突然に現れた。

「俊成さん、また庭のお花を綺麗にしているのね。素敵だわ。私も一輪いただいてもいいかしら？」

絢子は、彼の庭に咲く白い百合を手に取り、微笑んだ。その笑顔は太陽の光を浴びて輝くようだったが、俊成は冷静な表情を崩さなかった。

「どうぞ。花が誰かの手に渡り、喜ばれるのは嬉しいことだ」

俊成は冷静に答えたが、その言葉の裏には微かな戸惑いがあった。彼の心は、絢子に対して次第に動かされつつあったのだ。

彼の心に芽生えたこの感情は、世間からは到底理解されないものだろう。彼自身、妻を持つことが男の価値を下げると信じていた。妻を持てば、男はその尊厳を失い、俗世の煩わしさに巻き込まれるだけだと考えていたからだ。だが、絢子という女性はその信念を揺さぶる存在だった。

その夜、俊成は自宅の書斎で過去の手紙を読み返していた。その中には絢子からの手紙も含まれていた。彼女の手紙には、彼への思慕が滲んでいたが、彼はその気持ちにどう応えて良いのか分からず、ただ手紙を閉じた。

ふと、彼の心にある古い友人の言葉が浮かんだ。「男は一人で生きるのが最も清々しい。しかし、真に愛する人に出会ったならば、その人を大切にするのもまた人生の一つの道である。」

俊成は自問した。この心の揺れ動きは、果たして男としての品位を失うものなのか。否、それとも新たな道を切り開くための挑戦なのか。彼の心はますます混迷の中にあった。

翌日、俊成は決意を胸に絢子を訪ねた。絢子の家は庭に季節の花々が咲き乱れ、彼女の自由奔放な性格を映し出していた。俊成は深呼吸をして扉を叩いた。

「絢子、少し話をさせてくれないか？」

絢子は驚いた表情で彼を迎え入れた。俊成は率直に話し始めた。

「絢子、私はこれまで一人で生きることが男の道だと思っていた。だが、君との出会いが私の考えを変えた。君に心惹かれる自分に気づいたのだ」

絢子は微笑んで彼の手を握った。その温もりが俊成の心に伝わり、彼は自分が一歩踏み出したことを実感した。

「俊成さん、私もあなたと同じ気持ちよ。あなたと過ごす時間が、私にとって何よりも大切なものになっているわ」

二人は静かに見つめ合い、その瞬間、俊成は自身の選択が正しかったことを確信した。彼は絢子と共に新たな人生を歩む決意を固めた。

それからというもの、俊成と絢子は互いに支え合いながら暮らしていった。世間の目を気にすることなく、自分たちのペースで愛を育んでいった。俊成は、妻を持つことが必ずしも男の価値を下げるものではないことを実感した。むしろ、愛する人と共に生きることで得られる喜びと充実感を知ったのだ。

彼の庭には、絢子が持ち込んだ花々が咲き乱れ、二人の愛の象徴となっていた。彼は、その花々を眺めながら、こう思った。

「人生は予測不可能なものだ。しかし、予測できないからこそ、美しい」

俊成の心には、常に新たな喜びと発見があり、それが彼の生きる力となっていた。彼は今、自らの選択に満足し、未来に向かって歩み続けているのだった。

こうして、俊成と絢子の物語は、新たな章を迎えたのである。彼らの愛は、決して色褪せることなく、いつまでも輝き続けるだろう。