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春秋花壇

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女郎花(おみなえし)

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「女郎花」

晩夏の風が穏やかに吹き、野に咲く花々がゆらゆらと揺れている。高台の古びた寺院の境内には、鮮やかな黄色の花をつけた女郎花(おみなえし)が静かに咲き誇っていた。この寺院は、訪れる人も少なく、ひっそりとした佇まいを見せていた。

寺院の本堂の奥には、修行僧である和也(かずや)が一人、花を見つめながら座っていた。彼はこの寺院に来てまだ数年だが、若くして住職の役目を任されていた。和也がこの寺に来たのは、ある過去の出来事から逃れるためだった。

彼が思い出すのは、寺に来る前の生活――都会での慌ただしい日々と、その中で出会った一人の女性、絵美(えみ)のことだった。絵美は和也の初恋の人であり、彼が心から愛していた人だった。しかし、二人の関係は不運な結末を迎えた。絵美は突然、病に倒れ、命を落としてしまったのだ。

絵美を失った和也は深い悲しみに暮れ、すべてを投げ出して逃げ出したくなった。そんな彼に、古い友人でありこの寺院の前住職であった老人が、「この寺で心を落ち着け、己と向き合ってみるのも一つの道だ」と勧めた。

和也はその言葉に従い、この山奥の寺に身を寄せた。最初のうちは、心の痛みが癒えることはなかったが、日々の修行と静かな自然の中で、少しずつ心が穏やかになっていった。しかし、絵美のことは常に彼の心の中にあり、忘れることはなかった。

ある日、和也が寺の境内を歩いていると、女郎花が一輪、風に揺れているのに気づいた。その花は、まるで絵美の微笑みを映し出すかのように、優しく和也に語りかけているように感じた。

「絵美…」
彼はその花にそっと手を伸ばし、花びらに触れた。触れた瞬間、和也の心の中に、絵美との思い出が一気に蘇った。彼女の笑顔、彼女の声、そして彼女が最後に残した言葉――「幸せになってね」。

和也はその言葉を思い出し、涙が止まらなくなった。彼はずっとその言葉に縛られていた。絵美の願いに応えることができなかった自分を責め続けていたのだ。しかし、今、彼は初めて気づいた。絵美が本当に望んでいたのは、彼が自分を許し、前に進むことだったのだと。

和也は涙を拭い、静かに女郎花に向き直った。「絵美、ありがとう。君のおかげで、ようやく心が晴れたよ」とつぶやいた。

その後、和也は毎日、女郎花の前で絵美に祈りを捧げるようになった。彼女の思い出を胸に刻みながらも、新しい一歩を踏み出す覚悟を決めたのだ。彼の心は再び穏やかさを取り戻し、寺院での日々を大切に過ごすようになった。

秋が深まり、やがて女郎花の季節は過ぎ去っていった。しかし、和也の心には、永遠に咲き続ける花が残った。それは、愛と許し、そして再生の象徴として、彼の胸の中で色鮮やかに揺れていた。

そして、和也は心から絵美に感謝しつつ、新たな人生を歩んでいく決意を固めた。彼にとって女郎花は、絵美との絆を永遠に感じさせる特別な花となった。これからも、彼はその花を見つめ続けるだろう。そして、そこに込められた思いとともに、日々を静かに、そして力強く生きていくのだった。






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