生きる

心の地図

心の地図

僕は、米津玄師さんの歌が好きだ。彼の音楽は、僕の心の中にある何かを引き出してくれる。それは言葉では表現しきれない感情や、漠然とした孤独感だ。彼の歌詞に描かれる世界は、僕にとってとてもリアルで、どこか救いのように感じられる。

僕の名前は和也、24歳。小さい頃から普通の子どもとは少し違っていた。親や先生は「変わっている」と言い、友達は「わけがわからない」と言った。学校では、みんなが笑っていることがわからなかったし、話すことも得意ではなかった。僕の頭の中には、いつも何かしらのノイズが渦巻いていた。

ある日、母が僕を連れて病院に行った。そこで診断されたのが「高機能自閉症」だった。知的発達の遅れはないが、コミュニケーションが難しい特性があると説明された。母は僕の頭を撫でて「和也は和也のままでいいのよ」と言ってくれたけれど、僕にはその言葉がどこか遠くの世界のもののように感じられた。

中学生の頃、僕は米津玄師さんの音楽に出会った。彼の曲「アイネクライネ」を初めて聴いたとき、僕の中で何かがはじけた。「僕は夢を夢見ている」という歌詞が僕の胸に響いたのだ。そのとき、僕は初めて誰かが僕のことをわかってくれているような気がした。米津さんも自閉症スペクトラムで、言葉の遅れを伴うASDだと知り、なんだか少しだけ心が軽くなった。

米津さんの歌の中には、自分の居場所を探し続けるようなテーマが多い。それは僕にとっても同じことだった。僕も自分の居場所をずっと探していた。彼の歌詞の中の世界が、僕の心の居場所になったのだ。夜中に部屋の中で一人で彼の曲を聴きながら、僕は少しだけ「大丈夫」と思えるようになった。

高校に進学しても、僕の周りの世界は変わらなかった。相変わらずコミュニケーションがうまくいかず、友達も少なかった。でも、米津さんの音楽だけは変わらず僕のそばにあった。「Lemon」の切ないメロディーに、僕は何度も救われた。悲しみや孤独感が深く突き刺さるような日々でも、彼の音楽はその痛みを和らげてくれる気がした。

ある日、僕は学校の音楽の授業で米津玄師さんのことをプレゼンすることにした。教室の前に立つと、手は震えて、声も出なくなったけれど、僕はどうしても伝えたかった。米津さんの音楽がどれだけ僕を救ってくれたのかを。

「彼の音楽は、僕にとって特別なものです」と、震える声で言った。「米津さんもまた、僕と同じように、言葉にするのが難しいことがあって、その中で自分の居場所を見つけようとしています。」

クラスの中には僕の話に興味を持ってくれた子もいれば、そうでない子もいた。でも、それはどうでもよかった。僕にとって重要だったのは、自分の声を出すことだったのだ。米津さんの音楽に支えられて、僕は少しだけ勇気を持つことができた。

僕はその後も何度も米津玄師さんの音楽に励まされた。彼の歌詞は、時に厳しく、時に優しく、僕の心に触れてくる。彼が「Flamingo」や「海の幽霊」で描くような不思議な世界観は、僕の心の中にある混沌とした感情を映し出しているようで、そこに居場所を感じた。

ある日、僕は街のライブハウスで、自分の詩を朗読するイベントに参加することを決意した。小さな会場だったけれど、僕にとっては大きな一歩だった。僕は米津さんの音楽から得た勇気を胸に、自分の思いを詩に込めてステージに立った。

ステージの上で、僕は震える声で詩を読み上げた。少しずつ、言葉が空気に溶け込んでいくのを感じた。終わると、客席から小さな拍手が聞こえた。その拍手の音は、僕にとって大きな励ましだった。僕は心の中で米津さんに感謝した。

あの日、僕は初めて、自分自身を少しだけ誇りに思えた。僕はまだ自分の居場所を探し続けているけれど、米津玄師さんの音楽とともに、その旅を続けることができると信じている。

米津さんの歌は、僕の心の地図であり、コンパスだ。彼の音楽があれば、どこに行っても、僕は自分を見失わない気がする。