タバコ

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
18 / 21

禁煙外来がない街

しおりを挟む
禁煙外来がない街

 小さな町に住む人々は、日々の生活の中で煙草と密接な関係を築いていた。街の中心にある公園では、ベンチに腰掛けたおじさんたちが煙草をくゆらせながら、愚痴や昔話を交わす姿が見られた。その光景を目の当たりにすると、煙草の煙が空気を染める中で、人々の心の奥底に潜むさまざまな思いが浮かび上がってくるようだった。

 ある日、町に引っ越してきたばかりの青年、涼介は公園のベンチに腰を下ろした。彼は煙草の煙が苦手で、周囲の人々が吸っている様子に嫌悪感を覚えていた。しかし、ふと隣に座った中年の男性が話しかけてきた。

「お前、煙草は吸わないのか?」

 涼介は微笑みながら答えた。「はい、吸いません。煙草は健康に良くないと聞いてますし…。」

 すると、その男性は苦笑いを浮かべながら言った。「禁煙外来がないこの町では、吸わないことが珍しいんだ。簡単にやめられたら、JT(日本たばこ産業)が潰れちまうぜ。」

 涼介は驚いた。禁煙外来がないとは、まさに異常事態だ。町には煙草が蔓延し、誰もがそれに染まっているように感じた。彼は、自分がこの町でどのように過ごしていくのか不安を覚えた。

「俺たちは、拉致監禁されているのさ。」男性は煙草を吸いながら、遠くを見つめた。

 その言葉には重みがあり、涼介は彼の言いたいことを理解することができた。煙草はただの習慣ではなく、町の人々を束縛するものであると。

 その日以降、涼介は町の人々と交流を深めていった。彼は時折、友人たちと飲みに行き、彼らが煙草を吸う姿を見ながら思った。煙草を吸っている彼らは、どこか楽しそうで、生き生きとしている。彼らの笑顔は、煙草とともにあった。

 だが、彼の心の奥底には、煙草に対する拒絶感が消えない。ある夜、飲み会の帰り道、彼はふと立ち寄ったコンビニで、煙草を手に取った。自分が吸っている姿を想像し、何とも言えない抵抗感が心に広がった。彼は再び手を引っ込め、レジに向かって歩き去った。

「お前も吸ってみたらどうだ?」と、友人が冗談交じりに言った。

 その言葉に、涼介は自分の中に秘めた葛藤を感じた。煙草を吸うことは、ただの習慣なのか、それとも心の中に潜む何かから逃れる手段なのか。彼は迷った。

 数日後、町の広場で行われた祭りの日、涼介はふとした瞬間に、煙草を吸っている若者たちの輪に誘われた。彼はその輪の中に入ることにした。仲間の中に入ることで、彼は自分自身を解放したかのように感じた。

「一緒に吸ってみないか?」と、友人の一人が言った。

 涼介は迷った。彼の心には煙草に対する抵抗感があったが、仲間と一緒にいることの楽しさが勝った。ついに、彼は小さな一本を手に取り、口に運んだ。

 煙草の味は予想以上に苦く、涼介は咳き込みながらも、仲間たちの笑い声に包まれていた。その瞬間、彼は自分がこの町に溶け込んでいく感覚を覚えた。

 しかし、次の日、彼は体調を崩してしまった。頭痛と吐き気に襲われ、彼は寝込むことに。仲間たちとの楽しい時間の代償として、彼は煙草の代わりに体が悲鳴を上げていた。

 町に禁煙外来がない現実は、涼介にとって耐え難いものであった。彼は改めて考えた。この町は煙草によって生きる人々の監獄なのだと。彼はその中で自分を見失い、仲間の一員になることを選んだが、その選択が果たして正しかったのか疑問を抱くようになった。

 数週間が過ぎた。涼介は再び街の公園に足を運んだ。煙草を吸う人々の姿を見つめ、彼は心に決めた。自分の道を選ぶことが、真の自由であると。禁煙外来がないこの町でも、自分だけは自分を見失わない。煙草の煙が漂う中で、彼は立ち上がった。

「俺は、禁煙する!」

 その声は小さな公園の中で響き渡った。涼介は今、新たな決意を胸に、自由な一歩を踏み出したのだった。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

生意気な女の子久しぶりのお仕置き

恩知らずなわんこ
現代文学
久しくお仕置きを受けていなかった女の子彩花はすっかり調子に乗っていた。そんな彩花はある事から久しぶりに厳しいお仕置きを受けてしまう。

処理中です...