タバコ

シケモク探し

「シケモク探し」

がさごそと部屋の掃除を始めた田中浩二は、一見何気なく片付けているように見えたが、実は違った。彼の目的はシケモクを探すことだった。たばこをやめると決意してから数週間が経ち、禁断症状が彼を苦しめていた。特にイライラがひどく、気持ちを落ち着かせるためにどうしても一服したくなったのだ。

「精霊の通りがよくなるって?」浩二は自嘲気味に呟いた。「そんなわけないよ、ただシケモクを探してるんだ。」

リビングのソファの下や、古い雑誌が積み上げられたコーナー、引き出しの中など、ありとあらゆる場所を探し回った。しかし、見つかるのはただのゴミばかりで、望むシケモクは見当たらない。焦りとイライラが募る。

「もうダメだ、こんなこと続けていたら気が狂いそうだ。」

そう思いながらも、浩二は探し続けた。ある瞬間、古いジャケットのポケットから一本のシケモクが出てきた。「これだ！」彼は目を輝かせた。そのシケモクは短くなっていたが、確かにたばこであった。彼は急いでライターを取り出し、火をつけた。

深く吸い込むと、懐かしいニコチンの味が口いっぱいに広がった。安堵と同時に、罪悪感が胸を刺した。「やっぱり、やめるのは無理なのか…」

その瞬間、背後から声が聞こえた。「浩二、何やってるの？」美恵子だった。彼女の目は驚きと失望で満ちていた。

「美恵子、これは違うんだ…ただ、一度だけ…」浩二は言い訳をしようとしたが、美恵子の表情がそれを遮った。「もう、言い訳は聞きたくないわ。あなたがどれだけ苦しんでいるか、私は知ってる。でも、もう一度考えてみて。たばこに支配される人生が、本当にあなたの望むものなの？」

その言葉に、浩二は深く考えた。たばこを吸うことによって一時的な安らぎを得る一方で、健康や家族との関係を犠牲にしている自分を思い返した。美恵子の言葉が彼の心に響いた。

「分かったよ、美恵子。もう一度、挑戦してみるよ。今度こそ、本気でやめるんだ。」浩二はシケモクを手に取り、それを折り捨てた。「これが最後だ。」

その後、浩二は禁煙外来に再び通い始め、サポートグループにも積極的に参加した。ニコチンガムやパッチを使用し、精神的なサポートも受けながら、彼は少しずつたばこからの解放を目指した。

禁煙の日々は容易ではなかったが、美恵子の励ましと支えが彼を強くした。「あなたは一人じゃないわ、私も一緒に頑張るから。」その言葉に力を得て、浩二は毎日を戦い続けた。

数ヶ月が過ぎ、浩二はついにたばこを完全にやめることができた。健康も回復し、家族との時間も増えた。彼は自分自身に対して誇りを持ち、たばこに支配されることなく自由に生きる喜びを感じた。

ある日、部屋の掃除をしているとき、彼はふと古いシケモクのことを思い出した。「もうあんなことはしない。」そう決意しながら、彼は部屋をきれいにし、精霊の通りがよくなるようにと微笑んだ。

「やっぱり、変わることはできるんだ。自分を信じることが一番大切なんだ。」浩二は心からそう思い、これからも禁煙を続けることを誓った。