タバコ

タバコを止めたらおいしいご飯が食べれるのにな

タバコを止めたらおいしいご飯が食べれるのにな

高校生の頃から、タバコは俺にとっての逃げ道だった。喧嘩で疲れた心を落ち着けるため、勉強のストレスを紛らわすため、タバコを吸うことが習慣になっていた。大人になり、社会人になっても、タバコは俺の側にいた。

そんなある日、友人の紹介で知り合った美咲という女性と出会った。彼女は料理が得意で、初めて彼女の手料理を食べたとき、そのおいしさに驚いた。料理がこんなにも心を満たすものだとは知らなかった。俺は次第に彼女に惹かれていった。

しかし、美咲はタバコが嫌いだった。彼女自身も過去にタバコを吸っていたが、ある日突然やめたという。「タバコをやめてから、食べ物の味が本当に違うって気付いたの」と彼女は言った。その言葉を聞いても、俺はタバコを手放す気にはなれなかった。

それでも、美咲は俺のことを理解し、優しく接してくれた。毎週末、彼女の家で手料理を振る舞ってくれるのが楽しみだった。彼女の料理を食べるたびに、俺は自分がどれだけ幸運なのかを感じた。

ある晩、美咲が特別なディナーを準備してくれると言った。彼女の家に行くと、テーブルには色とりどりの料理が並べられていた。彼女はにっこり笑って、「今日は特別な日だから、あなたに本当においしい料理を食べてほしいの」と言った。

ディナーが始まり、俺は一口一口を楽しんでいた。しかし、タバコの味が口に残り、料理の本当のおいしさを感じることができなかった。美咲が手を止めて、真剣な表情で俺を見つめた。

「直樹、タバコをやめたら、もっとおいしいご飯が食べられるのにって、ずっと思ってたの」と彼女が言った。その言葉に、俺は心が揺れた。彼女がどれだけ俺のことを思ってくれているのか、その気持ちが伝わってきた。

俺はその夜、初めて真剣にタバコをやめることを考えた。しかし、長年の習慣を断つのは簡単なことではなかった。翌日から、俺は少しずつタバコを減らすことに決めた。最初は一日一本減らすだけでも苦しかったが、美咲の応援があったからこそ続けられた。

数週間後、ついに俺はタバコを完全にやめることができた。その瞬間、俺は自分の決意を誇りに思った。タバコをやめて初めて、美咲の料理の本当の味がわかった。彼女の料理は、まるで新しい世界の扉を開くかのように感じられた。

ある日、美咲が新しいレシピを試してくれると言った。彼女の家に行くと、キッチンには新鮮な野菜や香ばしいスパイスが並べられていた。彼女は笑顔で、「今日は特別な料理を作るから楽しみにしていてね」と言った。

ディナーが始まり、俺は一口一口を大切に味わった。以前とは全く違う深い味わいが広がり、料理の一つ一つがまるで宝石のように感じられた。美咲が「どう？」と尋ねると、俺は満面の笑みで「最高だよ、美咲。本当にありがとう」と答えた。

彼女も嬉しそうに微笑み、「直樹がタバコをやめてくれたこと、本当に嬉しいよ。これからも一緒においしい料理を楽しもうね」と言った。その言葉に、俺は胸がいっぱいになった。

タバコをやめたことで、俺はただ健康を取り戻しただけでなく、食べ物の本当の味を知り、美咲との絆を一層深めることができた。彼女の料理を楽しむことが、俺にとっての新しい生き甲斐となった。

そして、俺たちはこれからも一緒に、おいしいご飯を楽しむことを誓った。タバコをやめることで、俺は新しい世界を手に入れることができたのだ。