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平和の王、ソロモン

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平和の王、ソロモン

ダビデが晩年の祈りを捧げる中、エルサレムの夜空には無数の星が輝いていた。その一つ一つが彼に過ぎ去った日々を思い起こさせた。彼は長きにわたり、剣を手にして戦い、エホバの名の下に敵を打ち破り、イスラエルの国を広げてきた。しかし、彼の心には常に欠けているものがあった。

「主よ、あなたのために家を建てることが私の望みでした」とダビデは星空に向かって呟いた。「しかし、私の手にはあまりにも多くの血が染みついています。」

そのとき、エホバの声が彼の心に響いた。「ダビデよ、あなたの息子が生まれる。彼の名はソロモン──平和の王となる者だ。彼が私のために家を建て、その治世には平和が訪れるであろう。」

ソロモンの誕生
数年後、ダビデの王宮に歓声が響いた。バテ・シバが男児を産んだのだ。その子は、エホバの約束の証として「ソロモン」と名付けられた。同時に、預言者ナタンを通じて「エディデヤ」という名が与えられた。「ヤハの愛する者」という意味を持つその名は、エホバがダビデとバテ・シバの結婚を祝福し、子を是認したことを示すしるしであった。

幼いソロモンは、他の兄弟たちと共に成長する中で、特別な使命を帯びていることを感じていた。父ダビデは彼に戦場の話を語りつつも、剣ではなく知恵を重んじるよう諭した。「お前が平和を築くのだ、ソロモン。神が望まれる家を建てるためには、剣ではなく心の強さが必要だ。」

平和の治世
やがて、ダビデが世を去り、ソロモンが王として即位した。彼の最初の課題は、エホバの神殿を建設することだった。それは父ダビデの夢であり、エホバの命令でもあった。

ソロモンは周囲の国々と友好を築き、最良の資材を集めた。レバノンの杉、金、銀、大理石──それらはすべてエホバへの捧げ物として用いられた。神殿は7年の歳月を経て完成し、その壮麗さはイスラエルだけでなく近隣諸国にも響き渡った。

エホバの名のために建てられたその家の完成式典で、ソロモンは民の前に立ち、祈りを捧げた。「主よ、この家があなたのための住まいとなりますように。そして、この民があなたの知恵と平和の道を歩むことができますように。」

知恵の試み
ソロモンの治世には多くの試練が訪れたが、彼の知恵が常に光を放った。ある日、二人の母親が一人の子を巡って争い、彼の元に現れた。どちらが本当の母親であるか分からぬ中、ソロモンは剣を取り、「この子を二つに分け、両方に与えなさい」と命じた。

その言葉を聞いたとき、一人の母親が叫んだ。「どうかその子を殺さないでください!彼女に与えてください!」その瞬間、ソロモンは微笑みながら言った。「真の母親はあなたです。」

その裁きは知恵の象徴として語り継がれ、ソロモンの名声を高めた。

平和の代償
しかし、平和の統治には代償が伴った。ソロモンは異国の妃を迎え、彼らの文化や信仰を取り入れることで安定を図ったが、それが後にイスラエルの民に混乱をもたらす原因ともなった。晩年の彼は、かつての純粋な信仰を失い、心に葛藤を抱えるようになった。

彼は『伝道の書』にこう記した。「すべては空であり、風を追うようなものだ。」その言葉には、彼の苦悩と悟りが込められていた。

遺されたもの
ソロモンの死後、王国は分裂の危機を迎えたが、彼が築いた神殿とその知恵の言葉は、後世に生きる人々への教訓として残った。平和とは、ただ戦争がない状態ではなく、神への忠誠と知恵によって成り立つものである──その真実は、彼の名「平和」に刻まれている。






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