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春秋花壇

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老人たちのデストピア

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老人たちのデストピア

2100年、地球はかつての面影を失い、無機質な都市が広がっていた。空は灰色に覆われ、人工的な光が絶え間なく煌めく。その中で、異様な国が存在していた。名を「イーライ」と呼ばれるその国は、老人たちを一人も許さないという、極端な規律に従っていた。

イーライの国は、国家の存続をかけて高齢化社会を避けるために、厳格なルールを設けていた。すべての人が75歳になると、自動的に「安らぎの館」と呼ばれる施設に送られ、そこでの人生を終える運命にあった。人々はこの制度を当たり前のものとして受け入れ、長寿は祝福ではなく、避けるべきものとされていた。

アリシアは、イーライで最年長の75歳を迎えることとなった。彼女は今、最後の瞬間を迎える「安らぎの館」に向かうため、感情を押し殺しながら歩いていた。国民たちはアリシアの歩く姿を無関心に見守り、誰もがその運命に無関心であった。

「安らぎの館」に到着すると、アリシアはその冷たい雰囲気に包まれた。館は現代的なデザインで、外見は優雅だが、中身は冷徹で無機質だった。館の内部は完璧に管理され、すべてが予定通りに進行するように設計されていた。アリシアは案内された部屋で、最後の時間を過ごすことになった。

彼女が部屋に入ると、中央に配置されたシートが目に入った。それは、人間の生命を終わらせるために設計されたものであり、彼女の最後の「安らぎ」を提供するためのものであった。アリシアはそのシートの前に立ち、自分の運命を受け入れる準備をした。

だが、その時、彼女は自分の周りの景色に目を向けた。部屋の壁には、国の歴史や「安らぎの館」の設立趣旨が掲げられていた。彼女はその説明を読みながら、イーライの国がどれほど冷酷で非人間的なシステムを持っているのかを再認識した。長寿が罪とされる国で、人々が幸福に暮らすために、どれほどの犠牲を払ってきたのか。

その瞬間、アリシアは心の中で一つの決断を下した。彼女は「安らぎの館」の規則に反抗することを決意した。彼女は、自分が最後に何を成し遂げるべきかを考え始めた。彼女は国民に、長寿がどれほど貴重であるべきかを示すために、最後の行動に出ることにした。

アリシアは部屋のコンソールにアクセスし、全システムのスイッチを切り替える操作を始めた。システムがシャットダウンし、館全体が暗闇に包まれると、人々がどれほど機械的に自分たちの運命を受け入れているかが明らかになった。

彼女の行動は、急速に国全体に影響を及ぼし始めた。人々は、「安らぎの館」の本当の目的に気づき始め、長寿を恐れる理由が単なる国家のプロパガンダであったことに気づいた。アリシアの最後の抵抗は、国民の間に希望と疑問を呼び起こし、長寿を祝福する新たな価値観が広がり始めた。

「安らぎの館」の崩壊とともに、イーライの国は大きな変革を迎えた。人々は、長寿がどれほど貴重で美しいものであるかを再評価し、以前の冷酷な制度に代わる新たな価値観を模索し始めた。アリシアの決断と行動は、国の未来を変えるきっかけとなり、長寿が罪ではなく、むしろ祝福であることを証明した。

そして、イーライの国は新たな時代を迎えた。人々は過去の失敗を教訓に、より優しい社会を築くために努力を始めた。アリシアの遺志は、国民たちの心に深く刻まれ、彼女の勇気がデストピアを変える力となったのであった。








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