上 下
7 / 18

7

しおりを挟む

しかし、ゾックはそれを渾身のアッパーカットで砕き、肉まで貫いた。
そのまま小飛竜を飛ばしドラゴンの首下から離脱する。
ドラゴンは喉笛から鮮血を散らしながら落ちていった。
その刹那、遠ざかる竜と確かに目が合った。
悲しげで、何かを言いたげな。

「ぞっ、ゾック!ドラゴンの所に行って!」

思わずお願いする。自分でも自分の言葉の意味は分からない。
でも行かなくてはと強く思った。

「下は燃えていて危険だ。」

「うるさい!良いから行って!じゃなきゃ僕は今すぐ降りる!」

精一杯の力で暴れたら、ゾックは戸惑いながらも降下してくれた。

「……熱が、下がっていくな。」

焼き払われて高温なはずの空間が案外冷えていることに、ゾックか怪訝そうに呟いたけど、そのまま僕を連れて地面におり立つ。
僕はすぐに小飛竜から飛び降りて、横たわる黒炎のドラゴンに駆け寄った。

「まっマル!」

ゾックがあわてて僕を引き留めようとする。

「行かせて!」

ピシャリと言えば黙って一緒についてきた。
それに目もくれず、地面に伏せた黒竜の顔に近づく。
瀕死の竜が、もの言いたげな瞳で僕を見た。

「ねぇ、何か僕に伝えたいの?」

尋ねてみると、瞬きを一つした。
その目元にそっと身を伸ばして触れてみる。
とたんに、僕の体を青白い光が一瞬包んだ。

「マル!」

咄嗟にゾックが僕を抱き寄せて庇う。
けど、危険なことは一切されていない確信があった。
むしろ、何かとても大事なものを託されたのだと分かった。
それが何かは分からないけれど。
そうしてその黒いドラゴンは目を閉じて事切れた。

「マル、大丈夫か?体に異常は!?」

「そんな事より、行かなきゃ。」

「行く?」

「あっちの方。連れて行ってくれる?」

僕がゾックを見上げると、ゾックの少し息を呑んだ気配が分かった。
すぐに軽く頷くと、やっと追いついてきた隊の副長と手短に会話した後、僕を連れて再び飛び立ってくれた。

僕の中に沸いた直感に従って飛んでもらったら、龍郷の麓に行き着いた。

「マル、行くのか?」

ゾックがいつになく真面目に聞いてくるのに頷く。
龍郷は、人間が足を踏み入れてはいけないとされる。
そこは世界でただドラゴンのための聖域とされるだからだ。

「大丈夫。ゾックが入りたくないなら、ここで待ってて。」

「マルだけ行かせるわけが無いだろう。どちらに進めばいい?」

「……あ、りがと。こっち。」

小飛竜で慎重に進むと、直ぐに異常に気づいた。
麓近隣エリアの木々が伐採されて切り株だらけになっている。

「酷いな。人間が龍郷を侵して資源を奪ったのか。黒炎のドラゴンが怒って村を襲うはずだ。」

「前の冬にこの辺は大きな山火事で森林の大半が燃え落ちてたよね。それで、木材が足りなくて冬の準備のためにここから切り出していたのかも。」

まだ実家にいた頃、父さんがそんな話をしていた。
国からもだいぶ国庫から支援を送ったはずだけど、届いていなかったのかな。

「それにしても、中央に無断でこんな無謀な……。人を襲った以上他に道は無かったとはいえ、あのドラゴンには申し訳ないことをした。」

「うん……」

更に奥深くに入っていくと、強く惹かれる方向を感じ取った。

「あっち。あっちだ!」

指差せばゾックがそこに向かってくれる。

「……嘘だろ。」

見えてきたものにゾックが思わず呟いた。
広葉樹葉っぱで作られた巣の真ん中に座しているのが、夏の晴れた日の空のように美しい青の鱗を持った子ドラゴンだったからだ。

「龍の王……」

言葉にしてみても信じ難かった。
数あるドラゴンで唯一青い鱗を持つ伝説上の存在。
それは龍郷が生み出す人への試練と伝えられている。
龍の王が人を愛せばその世は栄え、憎めば大いなる受難となる、らしい。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

お姫様と騎士

ヨモギノ_alp
BL
お姫様のように儚く美しい幼なじみを守る騎士的立場にいたはずなのに、気づいたら逆転してしまっていた(主人公だけが)哀しいお話です。 主人公が気づいたときには遅く、もはや上下関係は不動なものとなっておりますのでご安心(?)下さい。リバは何が起ころうともありません。(目をつむり両手を組んで祈る仕草) 味と香りと糖度は砂糖二つ程入れたロイヤルミルクティー並み。3話完結。 ムーンライトノベルズにも掲載中。

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

屈強冒険者のおっさんが自分に執着する美形名門貴族との結婚を反対してもらうために直訴する話

信号六
BL
屈強な冒険者が一夜の遊びのつもりでひっかけた美形青年に執着され追い回されます。どうしても逃げ切りたい屈強冒険者が助けを求めたのは……? 美形名門貴族青年×屈強男性受け。 以前Twitterで呟いた話の短編小説版です。 (ムーンライトノベルズ、pixivにも載せています)

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

異世界で勇者をやったら執着系騎士に愛された

よしゆき
BL
平凡な高校生の受けが異世界の勇者に選ばれた。女神に美少年へと顔を変えられ勇者になった受けは、一緒に旅をする騎士に告白される。返事を先伸ばしにして受けは攻めの前から姿を消し、そのまま攻めの告白をうやむやにしようとする。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

処理中です...