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第3章 学園編

32 悪役令息

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「次の試合待った!」

突然桟敷席の方から声がした。バサッと羽音がして、グリフォンがそこから一飛びでバトルエリアの中央に降り立つ。
乗っていたアルネスター殿下とお付きの勝気チワワ、もとい親衛隊長のジェニス・フローラが背から降りた。

「音声!」

チワワが実況役を見やり指示を出す。

「はい!大丈夫です!」

背筋を伸ばして白い髪の生徒は答えた。

コホンと可愛らしい咳払いをしてからジェニスが声を張って話し出しす。

「先程の試合、ユーリスフレッド・アルディ・クリスタスに、人間加勢禁止規定に違反した疑いがある。」

場内の戸惑いが増した。
実際の戦争ならともかく、守護獣バトルでは人間が武器や飛び道具で対戦相手の守護獣に攻撃を仕掛けるのはご法度だ。
ゲームならそんなことしたくてもできないけど、この世界ではやろうと思えば出来てしまうからルールで禁止されている。

「言いがかりだ。僕は何もしてなかっただろう。」

バトルエリアの端に設けられた主人用エリアに立つユーリスがジェニスを睨みつける。

「じゃあシンクロを解いてみてよ。」

唇を突き出してジェニスが返した。

「……。」

しばしの沈黙の後、ユーリスの髪と耳が元に戻る。
すると、ノスニキの体が萎んで犬のサイズに戻った。

ざわざわとした会場のどよめきが加速する。
当たり前だ。こんな現象、俺が知る限り全く記録されてない。
念のため隣にいるジキスに視線を送ると、気付いた彼が首を横に振った。
ジキスすら未知の事態らしい。

「今ので君の介入は明らかだよね。君は失格。10人抜きは終わり。直前の試合も無効。記録は8人だよ。それでも十分でしよう?」

「僕が加勢した証拠は?」

「シンクロを解いたら、守護獣の幻獣化が解けた。十分じゃない?」

「僕はシンクロしただけだ。他には何もしてないのは見てただろう。それが加勢?」

そうだそうだとポツリポツリ場内から声が上がり、ブーイングが出る。

「何でユーリス様が失格なの!?」

「あいつ、ユーリス様がアルネスター殿下の記録より早く10人抜きをしそうだからやっかんでるんだよ。」

「そうだよね!言いがかりだよ!殿下より優秀なユーリス様に嫉妬して!」

こっちのチワワ、もとい、ティモル達が憤慨して言い合いはじめた。

「そこ!キャンキャン五月蝿い!!」

ティモル達の囁き声が聞こえるとは思えない距離なのに、ジェニスが歯をむき出してこちらをにらんでぴしゃりと言い放つ。

その口元には2階から見下ろしてもわかる長さの牙が2本生えていて、耳が黒く長く変化していた。
シンクロしてコウモリの聴力を使ってるのだろう。

その剣幕に、ティモル達3匹がひゃっと怯えて抱き合う。

「卑しくも殿下の認めた御前試合で不正を働くとは、クリスタス公爵家の子息としていかがなものでしょうかっ!!」

ジェニスがまたユーリスを睨みつけて言った。

「ジェニス、証明されてないのに決めつけは良くないよ。それに私は試合の続き見た……」

「殿下はそんな事言いません!!」

「あ……ああ。」

柔らかく仲裁に入った殿下があえなくジェニスに撃退される。

「仮に証拠が無いとしても、不正の疑いがある以上続けるわけには参りません。一旦中止し、疑いが晴れたら日を改めて再開するのが妥当でしょう。」

とはいえ流石に殿下にまで言われてジェニスも引いたようだ。
そうせざるをえないだろうという空気が会場にだんだん広がる。

「……それじゃダメだ……。」

ユーリスのつぶやきは、増幅されてその場に響いた。

「僕は今すぐ一番になるんだ!!」

叫んだ直後、またユーリスの髪色が黒銀に変わり、ドンという音と共にノスニキの周りから外に向かって強風が吹きつける。
その衝撃に場内の大半が押し飛ばされそうになってのけぞった。

アルネスター殿下が素早くジェニスを抱えてグリフォンに飛び乗り退避する。

瞬く間にまたフェンリルに変幻したノスニキが、すぐさまに振りかぶって十傑最後の守護獣に疾風技を叩きつけ、空気が激しく唸る音が響いた。

主人に従って事の成り行きを見守っていたケツァルコアトルには不意打ちだったようで、避けきれずに鋭い衝撃波がその虹色の体に直撃。
場を引き裂くような鳴き声がして羽の生えた蛇竜が墜落し、地面が揺れる。

その場の大半がその光景にあっけにとられたが、白衣を着た青年が竜に走り寄って肩の鳥が巨大な身体に回復をかけるのを見て我に返った。

「おい!流石に合図の前に奇襲するのは卑怯だそ!」

「そうだ!今のは無効だ!!失格にしろ!」

今度はユーリスに向かってブーイングや罵声が飛ぶ。

「うるさい!勝手に無効にでも失格にでも何でもしろ!!」

ユーリスのがなり声が更に増幅され、会場を揺らした。

シンクロは解けていて、また犬に戻ったノスニキは珍しく狼狽えているように見える。

「いいか!僕が言いたいのはな!!ルコに手を出す奴はこうなるぞってことだ!!」









は?




場内の野郎どもほとんどが俺と同じ感想だったと思う。

だから、頼むから、みんな俺を見るのは止めろ。
やめて下さい。

俺だってあのバカ令息の言動にはまったく頭が追いついていないんだから。

「ルコは僕のだ!絶対誰にも渡さないからな!!ルコの尻追いかける奴は全員ぶっ飛ばすから覚悟しとけ!それとジキス・ガーデンシアもだ!!」

「なぜ!?」

ジキスが涙目で叫ぶ。
横にいるミレーユが声を上げて笑い出した。
ルドルスですら口元を押さえて肩が微かに震えている。

「ルコは僕のものだからなぁ!!!……」

この居た堪れない状況に青ざめる俺を残して、叫ぶだけ叫んだユーリスはその場でばったり倒れてしまった。

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