59 / 65
第3章 学園編
32 悪役令息
しおりを挟む
「次の試合待った!」
突然桟敷席の方から声がした。バサッと羽音がして、グリフォンがそこから一飛びでバトルエリアの中央に降り立つ。
乗っていたアルネスター殿下とお付きの勝気チワワ、もとい親衛隊長のジェニス・フローラが背から降りた。
「音声!」
チワワが実況役を見やり指示を出す。
「はい!大丈夫です!」
背筋を伸ばして白い髪の生徒は答えた。
コホンと可愛らしい咳払いをしてからジェニスが声を張って話し出しす。
「先程の試合、ユーリスフレッド・アルディ・クリスタスに、人間加勢禁止規定に違反した疑いがある。」
場内の戸惑いが増した。
実際の戦争ならともかく、守護獣バトルでは人間が武器や飛び道具で対戦相手の守護獣に攻撃を仕掛けるのはご法度だ。
ゲームならそんなことしたくてもできないけど、この世界ではやろうと思えば出来てしまうからルールで禁止されている。
「言いがかりだ。僕は何もしてなかっただろう。」
バトルエリアの端に設けられた主人用エリアに立つユーリスがジェニスを睨みつける。
「じゃあシンクロを解いてみてよ。」
唇を突き出してジェニスが返した。
「……。」
しばしの沈黙の後、ユーリスの髪と耳が元に戻る。
すると、ノスニキの体が萎んで犬のサイズに戻った。
ざわざわとした会場のどよめきが加速する。
当たり前だ。こんな現象、俺が知る限り全く記録されてない。
念のため隣にいるジキスに視線を送ると、気付いた彼が首を横に振った。
ジキスすら未知の事態らしい。
「今ので君の介入は明らかだよね。君は失格。10人抜きは終わり。直前の試合も無効。記録は8人だよ。それでも十分でしよう?」
「僕が加勢した証拠は?」
「シンクロを解いたら、守護獣の幻獣化が解けた。十分じゃない?」
「僕はシンクロしただけだ。他には何もしてないのは見てただろう。それが加勢?」
そうだそうだとポツリポツリ場内から声が上がり、ブーイングが出る。
「何でユーリス様が失格なの!?」
「あいつ、ユーリス様がアルネスター殿下の記録より早く10人抜きをしそうだからやっかんでるんだよ。」
「そうだよね!言いがかりだよ!殿下より優秀なユーリス様に嫉妬して!」
こっちのチワワ、もとい、ティモル達が憤慨して言い合いはじめた。
「そこ!キャンキャン五月蝿い!!」
ティモル達の囁き声が聞こえるとは思えない距離なのに、ジェニスが歯をむき出してこちらをにらんでぴしゃりと言い放つ。
その口元には2階から見下ろしてもわかる長さの牙が2本生えていて、耳が黒く長く変化していた。
シンクロしてコウモリの聴力を使ってるのだろう。
その剣幕に、ティモル達3匹がひゃっと怯えて抱き合う。
「卑しくも殿下の認めた御前試合で不正を働くとは、クリスタス公爵家の子息としていかがなものでしょうかっ!!」
ジェニスがまたユーリスを睨みつけて言った。
「ジェニス、証明されてないのに決めつけは良くないよ。それに私は試合の続き見た……」
「殿下はそんな事言いません!!」
「あ……ああ。」
柔らかく仲裁に入った殿下があえなくジェニスに撃退される。
「仮に証拠が無いとしても、不正の疑いがある以上続けるわけには参りません。一旦中止し、疑いが晴れたら日を改めて再開するのが妥当でしょう。」
とはいえ流石に殿下にまで言われてジェニスも引いたようだ。
そうせざるをえないだろうという空気が会場にだんだん広がる。
「……それじゃダメだ……。」
ユーリスのつぶやきは、増幅されてその場に響いた。
「僕は今すぐ一番になるんだ!!」
叫んだ直後、またユーリスの髪色が黒銀に変わり、ドンという音と共にノスニキの周りから外に向かって強風が吹きつける。
その衝撃に場内の大半が押し飛ばされそうになってのけぞった。
アルネスター殿下が素早くジェニスを抱えてグリフォンに飛び乗り退避する。
瞬く間にまたフェンリルに変幻したノスニキが、すぐさまに振りかぶって十傑最後の守護獣に疾風技を叩きつけ、空気が激しく唸る音が響いた。
主人に従って事の成り行きを見守っていたケツァルコアトルには不意打ちだったようで、避けきれずに鋭い衝撃波がその虹色の体に直撃。
場を引き裂くような鳴き声がして羽の生えた蛇竜が墜落し、地面が揺れる。
その場の大半がその光景にあっけにとられたが、白衣を着た青年が竜に走り寄って肩の鳥が巨大な身体に回復をかけるのを見て我に返った。
「おい!流石に合図の前に奇襲するのは卑怯だそ!」
「そうだ!今のは無効だ!!失格にしろ!」
今度はユーリスに向かってブーイングや罵声が飛ぶ。
「うるさい!勝手に無効にでも失格にでも何でもしろ!!」
ユーリスのがなり声が更に増幅され、会場を揺らした。
シンクロは解けていて、また犬に戻ったノスニキは珍しく狼狽えているように見える。
「いいか!僕が言いたいのはな!!ルコに手を出す奴はこうなるぞってことだ!!」
は?
場内の野郎どもほとんどが俺と同じ感想だったと思う。
だから、頼むから、みんな俺を見るのは止めろ。
やめて下さい。
俺だってあのバカ令息の言動にはまったく頭が追いついていないんだから。
「ルコは僕のだ!絶対誰にも渡さないからな!!ルコの尻追いかける奴は全員ぶっ飛ばすから覚悟しとけ!それとジキス・ガーデンシアもだ!!」
「なぜ!?」
ジキスが涙目で叫ぶ。
横にいるミレーユが声を上げて笑い出した。
ルドルスですら口元を押さえて肩が微かに震えている。
「ルコは僕のものだからなぁ!!!……」
この居た堪れない状況に青ざめる俺を残して、叫ぶだけ叫んだユーリスはその場でばったり倒れてしまった。
突然桟敷席の方から声がした。バサッと羽音がして、グリフォンがそこから一飛びでバトルエリアの中央に降り立つ。
乗っていたアルネスター殿下とお付きの勝気チワワ、もとい親衛隊長のジェニス・フローラが背から降りた。
「音声!」
チワワが実況役を見やり指示を出す。
「はい!大丈夫です!」
背筋を伸ばして白い髪の生徒は答えた。
コホンと可愛らしい咳払いをしてからジェニスが声を張って話し出しす。
「先程の試合、ユーリスフレッド・アルディ・クリスタスに、人間加勢禁止規定に違反した疑いがある。」
場内の戸惑いが増した。
実際の戦争ならともかく、守護獣バトルでは人間が武器や飛び道具で対戦相手の守護獣に攻撃を仕掛けるのはご法度だ。
ゲームならそんなことしたくてもできないけど、この世界ではやろうと思えば出来てしまうからルールで禁止されている。
「言いがかりだ。僕は何もしてなかっただろう。」
バトルエリアの端に設けられた主人用エリアに立つユーリスがジェニスを睨みつける。
「じゃあシンクロを解いてみてよ。」
唇を突き出してジェニスが返した。
「……。」
しばしの沈黙の後、ユーリスの髪と耳が元に戻る。
すると、ノスニキの体が萎んで犬のサイズに戻った。
ざわざわとした会場のどよめきが加速する。
当たり前だ。こんな現象、俺が知る限り全く記録されてない。
念のため隣にいるジキスに視線を送ると、気付いた彼が首を横に振った。
ジキスすら未知の事態らしい。
「今ので君の介入は明らかだよね。君は失格。10人抜きは終わり。直前の試合も無効。記録は8人だよ。それでも十分でしよう?」
「僕が加勢した証拠は?」
「シンクロを解いたら、守護獣の幻獣化が解けた。十分じゃない?」
「僕はシンクロしただけだ。他には何もしてないのは見てただろう。それが加勢?」
そうだそうだとポツリポツリ場内から声が上がり、ブーイングが出る。
「何でユーリス様が失格なの!?」
「あいつ、ユーリス様がアルネスター殿下の記録より早く10人抜きをしそうだからやっかんでるんだよ。」
「そうだよね!言いがかりだよ!殿下より優秀なユーリス様に嫉妬して!」
こっちのチワワ、もとい、ティモル達が憤慨して言い合いはじめた。
「そこ!キャンキャン五月蝿い!!」
ティモル達の囁き声が聞こえるとは思えない距離なのに、ジェニスが歯をむき出してこちらをにらんでぴしゃりと言い放つ。
その口元には2階から見下ろしてもわかる長さの牙が2本生えていて、耳が黒く長く変化していた。
シンクロしてコウモリの聴力を使ってるのだろう。
その剣幕に、ティモル達3匹がひゃっと怯えて抱き合う。
「卑しくも殿下の認めた御前試合で不正を働くとは、クリスタス公爵家の子息としていかがなものでしょうかっ!!」
ジェニスがまたユーリスを睨みつけて言った。
「ジェニス、証明されてないのに決めつけは良くないよ。それに私は試合の続き見た……」
「殿下はそんな事言いません!!」
「あ……ああ。」
柔らかく仲裁に入った殿下があえなくジェニスに撃退される。
「仮に証拠が無いとしても、不正の疑いがある以上続けるわけには参りません。一旦中止し、疑いが晴れたら日を改めて再開するのが妥当でしょう。」
とはいえ流石に殿下にまで言われてジェニスも引いたようだ。
そうせざるをえないだろうという空気が会場にだんだん広がる。
「……それじゃダメだ……。」
ユーリスのつぶやきは、増幅されてその場に響いた。
「僕は今すぐ一番になるんだ!!」
叫んだ直後、またユーリスの髪色が黒銀に変わり、ドンという音と共にノスニキの周りから外に向かって強風が吹きつける。
その衝撃に場内の大半が押し飛ばされそうになってのけぞった。
アルネスター殿下が素早くジェニスを抱えてグリフォンに飛び乗り退避する。
瞬く間にまたフェンリルに変幻したノスニキが、すぐさまに振りかぶって十傑最後の守護獣に疾風技を叩きつけ、空気が激しく唸る音が響いた。
主人に従って事の成り行きを見守っていたケツァルコアトルには不意打ちだったようで、避けきれずに鋭い衝撃波がその虹色の体に直撃。
場を引き裂くような鳴き声がして羽の生えた蛇竜が墜落し、地面が揺れる。
その場の大半がその光景にあっけにとられたが、白衣を着た青年が竜に走り寄って肩の鳥が巨大な身体に回復をかけるのを見て我に返った。
「おい!流石に合図の前に奇襲するのは卑怯だそ!」
「そうだ!今のは無効だ!!失格にしろ!」
今度はユーリスに向かってブーイングや罵声が飛ぶ。
「うるさい!勝手に無効にでも失格にでも何でもしろ!!」
ユーリスのがなり声が更に増幅され、会場を揺らした。
シンクロは解けていて、また犬に戻ったノスニキは珍しく狼狽えているように見える。
「いいか!僕が言いたいのはな!!ルコに手を出す奴はこうなるぞってことだ!!」
は?
場内の野郎どもほとんどが俺と同じ感想だったと思う。
だから、頼むから、みんな俺を見るのは止めろ。
やめて下さい。
俺だってあのバカ令息の言動にはまったく頭が追いついていないんだから。
「ルコは僕のだ!絶対誰にも渡さないからな!!ルコの尻追いかける奴は全員ぶっ飛ばすから覚悟しとけ!それとジキス・ガーデンシアもだ!!」
「なぜ!?」
ジキスが涙目で叫ぶ。
横にいるミレーユが声を上げて笑い出した。
ルドルスですら口元を押さえて肩が微かに震えている。
「ルコは僕のものだからなぁ!!!……」
この居た堪れない状況に青ざめる俺を残して、叫ぶだけ叫んだユーリスはその場でばったり倒れてしまった。
16
お気に入りに追加
1,136
あなたにおすすめの小説
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
哀しい目に遭った皆と一緒にしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜
7ズ
BL
異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。
攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。
そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。
しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。
彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。
どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。
ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。
異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。
果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──?
ーーーーーーーーーーーー
狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています
奈織
BL
腐男子だった僕は、大好きだったBLゲームの世界に転生した。
生まれ変わったのは『王子ルートの悪役令嬢の取り巻き、の婚約者』
ゲームでは名前すら登場しない、明らかなモブである。
顔も地味な僕が主人公たちに関わることはないだろうと思ってたのに、なぜか推しだった公爵子息から熱烈に愛されてしまって…?
自分は地味モブだと思い込んでる上品お色気お兄さん(攻)×クーデレで隠れМな武闘派後輩(受)のお話。
※エロは後半です
※ムーンライトノベルにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる