上 下
50 / 65
第3章 学園編

23 限界

しおりを挟む
頭と足中心のブラッシングは、ゲーム内でやる気パラメーターを上げやすいコマンドだ。パフォーマンスにむら気のある種類に進化した時は重宝するんだよな。
んー、……でも、何かこの子の感じ、元々の性格だけじゃない気もする。

しばらく施しているとスッキリした顔つきになったので手を止め、大きな背中に手を回して起きるように促す。
それに合わせてグレが体を起こしてお座りの姿勢になった。
使い終わったコームをティモルに返す。

「あっ、ありがとうございます。」
彼は驚いた様子でグレとコームを交互に見た。

「訓練に入る前に、今のブラッシングを習慣づけて下さい。むら気のある子は、『これをされたら集中して訓練』というきっかけの動作を作ってメリハリをつけると良いですよ。」

「はい。」

「課題はフープくぐりでございますか?」
ティモルが手にしているフラフープから推測して聞く。
この手の獣には珍しい選択だ。

「はい。あの、本当は障害物コースがいいんですが、グレって僕から少しも離れないんです。だから、フープくぐりにしたんですけど、グレでも障害物コース出来るようになりますか?」

ティモルがすがるような視線を投げてくる。俊敏な方ではないと思うけど、コースをこなすくらいなら身体的には問題ないはずだ。けど、普段からそんなにべったりなのは何故なんだろう。

「……失礼ですがこれまでグレ様に対して離れて欲しくないとか、ずっとそばにいて欲しいなど強く願ったことは?」

「あ……あります。お父さんが死んだ時、グレはいなくならないでねって。」

「左様ですか。だからグレ様は、ネイサム様のために今の姿になったのでしょう。」

「そうかもしれません……。でも僕もう大丈夫です。新しいお義父さんはいい人だし、家族みんな仲良しだし。」

「では、これからはもう大丈夫だってたくさん伝えて安心させて差し上げて下さい。そうしたら障害物コースもきっとこなしてくれますよ。」

「あ、うん。分かりました。」

ティモルがそっとグレの頭を撫でると、グレは優し気な瞳を細めた。

「あの、ブライトン様のことルコ様って呼んでもいいですか?」

「ご随意に。」

「僕の事はティモルでいいですから。そ、それと、迷惑でなければグレの障害物コースの練習に……」

「ネイサム、君も障害物コースにするの?」

後ろからユーリスの声がして振り返ると、明るい笑顔で立つ彼がいた。

「クリスタス様!はっはい。できるか分かりませんが、ルコ様のアドバイスで変える勇気が出ました!」

ティモルの少しそばかすが浮いた丸みのある顔がほんのり赤くなっている。
な、何だその反応は……。

「そう、じゃあ一緒に練習しようか。」

爽やかな笑顔しちゃって。
サボってたくせに、さも真面目にやっていたような口ぶりはどうなんだろう。

「ふぁ、ふぁいっ!」

まんまと騙されてうっとりした顔で返事をするティモルの背に手を回して歩くように促すユーリス。
大人気ないのはわかってるけど、胃がジリジリした。
さっきから一度もこっちを見ない。
まるで俺なんかそこにいないみたいな態度だ。

どうにか研究科の生徒の立場に縋ってる俺の悪あがきなんて、ユーリスには関係ないんだな。

心臓がぎゅうっと縮まって体が急速に冷える。感じていためまいと吐き気がより強くなった。
ぐにゃりと視界が歪んで、自分が立っているかどうかあやふやになる。
視界がすうっと暗くなった。

「ルコ様!!」

ティモルの声が遠くに聞こえて、その直後に体が地面にぶつかる衝撃を感じる。
そのあと、意識がふっつりと途絶えた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 哀しい目に遭った皆と一緒にしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています

奈織
BL
腐男子だった僕は、大好きだったBLゲームの世界に転生した。 生まれ変わったのは『王子ルートの悪役令嬢の取り巻き、の婚約者』 ゲームでは名前すら登場しない、明らかなモブである。 顔も地味な僕が主人公たちに関わることはないだろうと思ってたのに、なぜか推しだった公爵子息から熱烈に愛されてしまって…? 自分は地味モブだと思い込んでる上品お色気お兄さん(攻)×クーデレで隠れМな武闘派後輩(受)のお話。 ※エロは後半です ※ムーンライトノベルにも掲載しています

処理中です...