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第3章 学園編
12 告白
しおりを挟む「坊っちゃま、どうされたのですか?」
その場で動かないユーリスに自分から近寄る。
まさかとは思うけど俺を迎えに来たのか?
「あれ、誰?」
無表情のユーリスの視線の先にはジキスが立っていた。
ユーリスの言葉に、ジキスがさっと姿勢を正す。
「西セレンナーレの領主、カイザロ・ガーデンシア男爵の4男ジキスと申します。昨日の式でのスピーチ、拝聴いたしました。大変素晴らしかったです。」
うっわ。分かってたけど俺の時と対応が雲泥だ。
つい苦笑いが浮かぶ。
「誰の息子とかどうでもいい。お前がルコの何なのか聞いてる。こんな時間まで何してた。」
あちゃー。機嫌悪いな。俺がジキスと遊んでたせいで自分の世話が蔑ろにされたと思ってるぞこれ。
わざわざ迎えに来たのに俺がふざけて遊んでたってのが更に怒りに拍車を掛けている気がする。
ジキスを見ると、ユーリスの態度に顔が少し引きつっているのが分かる。せっかくユーリスを尊敬してくれてるのにちょっと可哀想だ。
「坊っちゃま、ガーデンシア様とは帰りがたまたま同じになっただけで、私が遅刻した原因とは無関係です。戻るのが遅くなり大変申し訳ありません。」
「たまたま?じゃあ良いことするってのは、何?僕を放り出してまでしたいことなのか?約束したくせに。」
あ、そこも聞いてたのか。
おちょくってただけですー。とは本人の手前絶対言えないな。殺されそう。
更にはとっとと戻らないでそんな油売ってたことを自らバラすわけで。
身から出た錆とは言え、タイミングが悪すぎないか?
「それはガーデンシア様と私の話ですのでわざわざ人に言うようなものではございません。」
うーん。我ながら苦しい誤魔化し、と思いながら告げると、ランプが床に落ちる音がしてユーリスにガシッと頭を掴まれた。
いきなりで反応出来ないでいるところに、唇が塞がれてキスをされる。
はぁ!?ジキスの前だぞ!?
「んんっ!!」
慌てて押し返そうとしても後頭部と腰をに腕を回されて強く抱きしめられてしまい中々離れない。
「良いことしたいなら、いつもみたいに僕としようよ。早く戻ろう?それともここでする?」
ジキスに聞こえるくらいハッキリした声でユーリスが言って俺の尻をスルッと撫でる。
こ、こ、こ、こいつ何考えてんだ!?
抑え込んでくる体をとにかく引き剥がそうと押し返していると、視界の隅に横を通り過ぎる姿が目に入った。
「がっ、ガーデンシア様!」
ジキスが早足で立ち去る後ろ姿を成すすべなく見送る。
こんなの、ユーリスと俺の関係をバラしたようなもんだ。
いくら俺の怠慢に腹を立てたからって考えなしすぎないか?
広まったらどうするんだ。
「なぜこんな事……周りにバレてしまいます。」
「僕は別にいいけど。せっかく口説いてたのに、残念だったね。嫌われたんじゃないか?」
ユーリスが嬉しそうに囁く。別に口説いてたわけじゃないけど、そっか。
ユーリスにはそう見えて、サボってた俺への報復でやったのか。
俺はユーリスとのことが知られて一緒にいられなくなるのが怖くて仕方ないのに、ユーリスはそうなっても平気なんだな。
俺、自惚れてたのかもしれない。
自分はユーリスにとってちょっと特別なんじゃないかって。
命懸けで助けてくれたり、足らないところフォローしてくれたり、求めてくれたり、俺だからなんじゃないかなって、どっかで勝手に思ってた。
でも、結局ユーリスが欲しいのは兄代わりで、欲求が解消出来て、身の回りのことしてくれてる存在で、俺がそこから外れたらもう要らないんだな。
「っ……ふ、ぅっ……。」
現実を実際に突きつけられて、胸が締め付けられるように苦しい。
堪えても涙腺が壊れたみたいに勝手に水が流れ出てくる。
止まれよ。
こんな事で泣くなんてガキか。
通算何歳だよ。良い歳して。
でも、前世の記憶をいくら掘り返したって、誰かにこんな気持ちになるのは初めてなんだ。
「ひっ……っ、はぁっ、…ずっ……ぅくっ」
「る……ルコ!?」
いきなりみっともなく泣き出した俺を見てユーリスがたじろいでいる。
こんな風に泣くのなんて今世では初めてだから引かれるのも仕方ない。
前世でもガキの時以来だ。
「ユーリスさ、まっ、ごめっ、なさぃ……でも、おれっ……ここ、いたっぃ……すっ、すきっだ……からぁっ」
あー。とうとう言ってしまった。
頭のどこか冷静な自分が呆れてる。
前世の自由恋愛当たり前の世界じゃあるまいし、ユーリス相手にこんな恋愛感情ぶつけたってどうにもならないのに。
相手は公爵家の一人息子で、俺はただの使用人だ。
俺の言葉の直後、きつかった拘束が緩んでユーリスの腕がストンと両脇に落ちた。
ほらな。思った通り。
使用人に本気になられたって、貴族のユーリスにしてみたら面倒なだけだろう。
ユーリスの前に居たくなくて、棟の出口に向かって転がるように走った。
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