上 下
39 / 65
第3章 学園編

12 告白

しおりを挟む


「坊っちゃま、どうされたのですか?」

その場で動かないユーリスに自分から近寄る。
まさかとは思うけど俺を迎えに来たのか?

「あれ、誰?」

無表情のユーリスの視線の先にはジキスが立っていた。

ユーリスの言葉に、ジキスがさっと姿勢を正す。

「西セレンナーレの領主、カイザロ・ガーデンシア男爵の4男ジキスと申します。昨日の式でのスピーチ、拝聴いたしました。大変素晴らしかったです。」

うっわ。分かってたけど俺の時と対応が雲泥だ。
つい苦笑いが浮かぶ。

「誰の息子とかどうでもいい。お前がルコの何なのか聞いてる。こんな時間まで何してた。」

あちゃー。機嫌悪いな。俺がジキスと遊んでたせいで自分の世話が蔑ろにされたと思ってるぞこれ。
わざわざ迎えに来たのに俺がふざけて遊んでたってのが更に怒りに拍車を掛けている気がする。

ジキスを見ると、ユーリスの態度に顔が少し引きつっているのが分かる。せっかくユーリスを尊敬してくれてるのにちょっと可哀想だ。

「坊っちゃま、ガーデンシア様とは帰りがたまたま同じになっただけで、私が遅刻した原因とは無関係です。戻るのが遅くなり大変申し訳ありません。」

「たまたま?じゃあ良いことするってのは、何?僕を放り出してまでしたいことなのか?約束したくせに。」

あ、そこも聞いてたのか。
おちょくってただけですー。とは本人の手前絶対言えないな。殺されそう。
更にはとっとと戻らないでそんな油売ってたことを自らバラすわけで。
身から出た錆とは言え、タイミングが悪すぎないか?

「それはガーデンシア様と私の話ですのでわざわざ人に言うようなものではございません。」

うーん。我ながら苦しい誤魔化し、と思いながら告げると、ランプが床に落ちる音がしてユーリスにガシッと頭を掴まれた。
いきなりで反応出来ないでいるところに、唇が塞がれてキスをされる。

はぁ!?ジキスの前だぞ!? 

「んんっ!!」

慌てて押し返そうとしても後頭部と腰をに腕を回されて強く抱きしめられてしまい中々離れない。

「良いことしたいなら、いつもみたいに僕としようよ。早く戻ろう?それともここでする?」

ジキスに聞こえるくらいハッキリした声でユーリスが言って俺の尻をスルッと撫でる。

こ、こ、こ、こいつ何考えてんだ!?

抑え込んでくる体をとにかく引き剥がそうと押し返していると、視界の隅に横を通り過ぎる姿が目に入った。

「がっ、ガーデンシア様!」

ジキスが早足で立ち去る後ろ姿を成すすべなく見送る。
こんなの、ユーリスと俺の関係をバラしたようなもんだ。
いくら俺の怠慢に腹を立てたからって考えなしすぎないか?
広まったらどうするんだ。

「なぜこんな事……周りにバレてしまいます。」

「僕は別にいいけど。せっかく口説いてたのに、残念だったね。嫌われたんじゃないか?」

ユーリスが嬉しそうに囁く。別に口説いてたわけじゃないけど、そっか。
ユーリスにはそう見えて、サボってた俺への報復でやったのか。

俺はユーリスとのことが知られて一緒にいられなくなるのが怖くて仕方ないのに、ユーリスはそうなっても平気なんだな。


俺、自惚れてたのかもしれない。
自分はユーリスにとってちょっと特別なんじゃないかって。

命懸けで助けてくれたり、足らないところフォローしてくれたり、求めてくれたり、俺だからなんじゃないかなって、どっかで勝手に思ってた。

でも、結局ユーリスが欲しいのは兄代わりで、欲求が解消出来て、身の回りのことしてくれてる存在で、俺がそこから外れたらもう要らないんだな。

「っ……ふ、ぅっ……。」

現実を実際に突きつけられて、胸が締め付けられるように苦しい。
堪えても涙腺が壊れたみたいに勝手に水が流れ出てくる。

止まれよ。
こんな事で泣くなんてガキか。
通算何歳だよ。良い歳して。

でも、前世の記憶をいくら掘り返したって、誰かにこんな気持ちになるのは初めてなんだ。

「ひっ……っ、はぁっ、…ずっ……ぅくっ」

「る……ルコ!?」

いきなりみっともなく泣き出した俺を見てユーリスがたじろいでいる。

こんな風に泣くのなんて今世では初めてだから引かれるのも仕方ない。
前世でもガキの時以来だ。

「ユーリスさ、まっ、ごめっ、なさぃ……でも、おれっ……ここ、いたっぃ……すっ、すきっだ……からぁっ」

あー。とうとう言ってしまった。
頭のどこか冷静な自分が呆れてる。

前世の自由恋愛当たり前の世界じゃあるまいし、ユーリス相手にこんな恋愛感情ぶつけたってどうにもならないのに。
相手は公爵家の一人息子で、俺はただの使用人だ。

俺の言葉の直後、きつかった拘束が緩んでユーリスの腕がストンと両脇に落ちた。

ほらな。思った通り。
使用人に本気になられたって、貴族のユーリスにしてみたら面倒なだけだろう。

ユーリスの前に居たくなくて、棟の出口に向かって転がるように走った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヘタレな師団長様は麗しの花をひっそり愛でる

野犬 猫兄
BL
本編完結しました。 お読みくださりありがとうございます! 番外編は本編よりも文字数が多くなっていたため、取り下げ中です。 番外編へ戻すか別の話でたてるか検討中。こちらで、また改めてご連絡いたします。 第9回BL小説大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございました_(._.)_ 【本編】 ある男を麗しの花と呼び、ひっそりと想いを育てていた。ある時は愛しいあまり心の中で悶え、ある時は不甲斐なさに葛藤したり、愛しい男の姿を見ては明日も頑張ろうと思う、ヘタレ男の牛のような歩み寄りと天然を炸裂させる男に相手も満更でもない様子で進むほのぼの?コメディ話。 ヘタレ真面目タイプの師団長×ツンデレタイプの師団長 2022.10.28ご連絡:2022.10.30に番外編を修正するため下げさせていただきますm(_ _;)m 2022.10.30ご連絡:番外編を引き下げました。 【取り下げ中】 【番外編】は、視点が基本ルーゼウスになります。ジーク×ルーゼ ルーゼウス・バロル7歳。剣と魔法のある世界、アンシェント王国という小さな国に住んでいた。しかし、ある時召喚という形で、日本の大学生をしていた頃の記憶を思い出してしまう。精霊の愛し子というチートな恩恵も隠していたのに『精霊司令局』という機械音声や、残念なイケメンたちに囲まれながら、アンシェント王国や、隣国のゼネラ帝国も巻き込んで一大騒動に発展していくコメディ?なお話。 ※誤字脱字は気づいたらちょこちょこ修正してます。“(. .*)

【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします

七夜かなた
BL
前世はブラック企業に過労死するまで働かされていた一宮沙織は、読んでいたTL小説「放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない」の悪役令息ギャレット=モヒナートに転生してしまった。 よりによってヒロインでもなく、ヒロインを虐め、彼女に惚れているギャレットの義兄ジュストに殺されてしまう悪役令息に転生するなんて。 お金持ちの息子に生まれ変わったのはいいけど、モブでもいいから長生きしたい 最後にはギャレットを殺した罪に問われ、牢獄で死んでしまう。 小説の中では当て馬で不憫だったジュスト。 当て馬はどうしようもなくても、不憫さは何とか出来ないか。 小説を読んでいて、ハッピーエンドの主人公たちの影で不幸になった彼のことが気になっていた。 それならヒロインを虐めず、義兄を褒め称え、悪意がないことを証明すればいいのでは? そして義兄を慕う義弟を演じるうちに、彼の自分に向ける視線が何だか熱っぽくなってきた。 ゆるっとした世界観です。 身体的接触はありますが、濡れ場は濃厚にはならない筈… タイトルもしかしたら途中で変更するかも イラストは紺田様に有償で依頼しました。

異世界トリップだって楽じゃない!

yyyNo.1
ファンタジー
「いたぞ!異世界人だ!捕まえろ!」 誰よ?異世界行ったらチート貰えたって言った奴。誰よ?異世界でスキル使って楽にスローライフするって言った奴。ハーレムとか論外だから。私と変われ!そんな事私の前で言う奴がいたら百回殴らせろ。 言葉が通じない、文化も価値観すら違う世界に予告も無しに連れてこられて、いきなり追いかけられてみなさいよ。ただの女子高生にスマホ無しで生きていける訳ないじゃん! 警戒心MAX女子のひねくれ異世界生活が始まる。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

農場経営?そんなことより僕は恋が仕事です!

ただのひと
恋愛
異世界転生して農場の経営チートを持っている主人公は、運命の人(仮)と出会った。農場経営? いや、そんなことよりこの恋を成就させねば!

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

処理中です...