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第2章 入学前編
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嘘だろ……
屋敷に近い森で自分の用意したメモとユーリスのそれを見比べて目を見張る。
確かにほぼ同じ内容の育成メニューが書かれている。
「ほらな。ルコの考えてることなんか簡単に分かるぞ。」
ふふん、と得意げにこちらを見てくるのが憎らしい。
朝のユーリスの態度から、どうせ私が書いたノートを盗み見たんだろうと考えた俺はあの後こっそり別のメモを作った。
それは肌身離さず持っていたから見られる訳が無い。
これは認めざるをえなかった。
「失礼いたしました。坊っちゃまは一人でももう立派にノスガルデルタ様の育成ができるのですね。」
「まあな。でもこいつちっとも進化しないからな。」
ユーリスが傍に座るノスニキを見下ろして言う。
そうなんだよね。
この6年、俺のやり込みノウハウの全てを捧げてもノスニキは進化しなかった。
ゲームならステータス画面で見られる経験値やレベルも、この世界では見ようがないのであとどれくらいで進化するのかも分からない。
やり方が悪いとも考えられるけど、同じように俺の作ったメニューで育成した公爵の守護獣は今やユニコーンに進化している。
それに全くノスニキに変化が無いわけじゃなくて、新しく実体のあるものをすり抜ける技を覚えた。
つまり、今のノスニキには物理攻撃が無効ってことだ。
すごくない?
ゲームのノスニキには普通に物理攻撃が効いていたので、やっぱりこれは育成によってノスニキのポテンシャルを引き出せた結果なんじゃないかと思ってる。
ただ、今の形態で攻撃力や体力の面で他の守護獣と勝負になるとは思えない。
いい加減ゲーム序盤の成獣形態くらいにはなってもいいと思うんだけど、何か原因があるんだろうか……。
「……坊っちゃまは、今のノスガルデルタ様のままではお嫌ですか?」
ふと心配になって聞いてみる。
学園から届いた入学許可に書かれたユーリスの所属は守護獣育成科だった。
もちろん守護獣は国の戦力や警察力として育てるだけじゃなく、その獣の特性に合わせて他の分野に特化させた育て方もできる。
それでもやっぱり戦闘型の守護獣はこの世界で物語の目的になるくらい花形だ。
良い成績で卒業すれば貴族のユーリスにとっては王立軍の幹部候補として申し分ないキャリアになるだろう。
更にユーリスには幼い頃公爵や亡くなった兄上の立派な守護獣と比べられて傷ついていた過去がある。
このまま入学してそのコンプレックスを刺激されたら捻くれて嫌味な残念ライバルキャラ一直線じゃないか?
流石にもうユーリスのそんな姿を見たら従者として情けなくて涙が出そうだ。
いや、俺は見ることないけど。
「うーん……確かに嫌だな。今の姿だとルコがノスばっかり可愛がるから。」
しばらく真剣に考えたかと思うと、明後日の方向の返事が返ってきた。
「はあ。」
「ノスも絶対それ目当てで進化しないんだと思う。僕がこいつならそうするぞ。だからルコは、もうノスを膝に乗せたり一緒に寝たり、撫でたりしないこと。わかった?」
…………うん。
あほくさ。
「坊っちゃまがノスガルデルタ様をコイツ呼ばわりしたり放り投げたり雑に扱わなければ、ちゃんとあなたの方に懐くはずですよ。あなたの守護獣なのですから。」
己の怠慢を人のせいにしないでほしい。
「わからずや。」
ユーリスが口を尖らせて言う。
いやいや、どっちが。
「それが賭けに勝ったお願いとやらなら恐れ入りますがお断りいたします。守護獣との信頼関係はご自身の努力で築いてください。」
「う゛ぅ゛……」
唸るな。
「で、お願いは何になさいますか?」
「 紫紺の森に行きたい。麓の村にある別荘に一泊とか二泊で。」
「ご旅行ですか。紫紺の森は飼料になる素材が豊富ですので良いですね。随行者や荷物を手配いたします。いつが良いですか?」
「ちがう!2人だけで行くんだ。大勢お供がいたらワクワクしないだろ?」
ええ……それ俺の負担半端なさそう……。
そういう冒険とか自分だけの旅とか憧れちゃうお年頃なんだろうけど、デフォルトで俺が計画に組み込まれてるあたり考えが根っこからボンボン。
「私と2人では食事とか移動とか不便ですよ。我慢できますか?」
「できる。」
絶対嘘だ。
これは何としても遠慮したい。
けど、自分が大変だから嫌だというのは流石に仕えている主人にしていい主張じゃないよな。
「分かりました。公爵様がお許しになったら参りましょう。」
俺は伝家の宝刀を取り出した。
屋敷に近い森で自分の用意したメモとユーリスのそれを見比べて目を見張る。
確かにほぼ同じ内容の育成メニューが書かれている。
「ほらな。ルコの考えてることなんか簡単に分かるぞ。」
ふふん、と得意げにこちらを見てくるのが憎らしい。
朝のユーリスの態度から、どうせ私が書いたノートを盗み見たんだろうと考えた俺はあの後こっそり別のメモを作った。
それは肌身離さず持っていたから見られる訳が無い。
これは認めざるをえなかった。
「失礼いたしました。坊っちゃまは一人でももう立派にノスガルデルタ様の育成ができるのですね。」
「まあな。でもこいつちっとも進化しないからな。」
ユーリスが傍に座るノスニキを見下ろして言う。
そうなんだよね。
この6年、俺のやり込みノウハウの全てを捧げてもノスニキは進化しなかった。
ゲームならステータス画面で見られる経験値やレベルも、この世界では見ようがないのであとどれくらいで進化するのかも分からない。
やり方が悪いとも考えられるけど、同じように俺の作ったメニューで育成した公爵の守護獣は今やユニコーンに進化している。
それに全くノスニキに変化が無いわけじゃなくて、新しく実体のあるものをすり抜ける技を覚えた。
つまり、今のノスニキには物理攻撃が無効ってことだ。
すごくない?
ゲームのノスニキには普通に物理攻撃が効いていたので、やっぱりこれは育成によってノスニキのポテンシャルを引き出せた結果なんじゃないかと思ってる。
ただ、今の形態で攻撃力や体力の面で他の守護獣と勝負になるとは思えない。
いい加減ゲーム序盤の成獣形態くらいにはなってもいいと思うんだけど、何か原因があるんだろうか……。
「……坊っちゃまは、今のノスガルデルタ様のままではお嫌ですか?」
ふと心配になって聞いてみる。
学園から届いた入学許可に書かれたユーリスの所属は守護獣育成科だった。
もちろん守護獣は国の戦力や警察力として育てるだけじゃなく、その獣の特性に合わせて他の分野に特化させた育て方もできる。
それでもやっぱり戦闘型の守護獣はこの世界で物語の目的になるくらい花形だ。
良い成績で卒業すれば貴族のユーリスにとっては王立軍の幹部候補として申し分ないキャリアになるだろう。
更にユーリスには幼い頃公爵や亡くなった兄上の立派な守護獣と比べられて傷ついていた過去がある。
このまま入学してそのコンプレックスを刺激されたら捻くれて嫌味な残念ライバルキャラ一直線じゃないか?
流石にもうユーリスのそんな姿を見たら従者として情けなくて涙が出そうだ。
いや、俺は見ることないけど。
「うーん……確かに嫌だな。今の姿だとルコがノスばっかり可愛がるから。」
しばらく真剣に考えたかと思うと、明後日の方向の返事が返ってきた。
「はあ。」
「ノスも絶対それ目当てで進化しないんだと思う。僕がこいつならそうするぞ。だからルコは、もうノスを膝に乗せたり一緒に寝たり、撫でたりしないこと。わかった?」
…………うん。
あほくさ。
「坊っちゃまがノスガルデルタ様をコイツ呼ばわりしたり放り投げたり雑に扱わなければ、ちゃんとあなたの方に懐くはずですよ。あなたの守護獣なのですから。」
己の怠慢を人のせいにしないでほしい。
「わからずや。」
ユーリスが口を尖らせて言う。
いやいや、どっちが。
「それが賭けに勝ったお願いとやらなら恐れ入りますがお断りいたします。守護獣との信頼関係はご自身の努力で築いてください。」
「う゛ぅ゛……」
唸るな。
「で、お願いは何になさいますか?」
「 紫紺の森に行きたい。麓の村にある別荘に一泊とか二泊で。」
「ご旅行ですか。紫紺の森は飼料になる素材が豊富ですので良いですね。随行者や荷物を手配いたします。いつが良いですか?」
「ちがう!2人だけで行くんだ。大勢お供がいたらワクワクしないだろ?」
ええ……それ俺の負担半端なさそう……。
そういう冒険とか自分だけの旅とか憧れちゃうお年頃なんだろうけど、デフォルトで俺が計画に組み込まれてるあたり考えが根っこからボンボン。
「私と2人では食事とか移動とか不便ですよ。我慢できますか?」
「できる。」
絶対嘘だ。
これは何としても遠慮したい。
けど、自分が大変だから嫌だというのは流石に仕えている主人にしていい主張じゃないよな。
「分かりました。公爵様がお許しになったら参りましょう。」
俺は伝家の宝刀を取り出した。
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