8 / 14
8,
しおりを挟む
カンテの港町に入ると、ほんのり潮の香りを感じた。
古くから交易で栄えた街だけど、潮風が外壁を風化させるので街並みはレンガ本来の色を活かした赤茶色の建築が立ち並ぶ控えめな趣だ。
「約束の時間まで少しあるから、海が見たいな。」
馬車の小窓から入り込む外の空気を吸い込んで言う。
流石に今日は領地外に出るということで、ハルも渋々一緒に馬車に乗ってくれた。
「畏まりました。」
向かいに座ったハルが、背後にある小窓から御者に向かって指示を出す。
しばらくして港につき、馬車から降り立った。
長い海岸線にいくつも大きな波止場が突き出し、立派なキャラック船や軽快なキャラベル船がひしめいている。沢山の逞しい船乗りが、小舟や荷車を自在に使って忙しなく荷運びをしていた。
「わあ……」
初めて見る巨大な港に眼を見張る。
トーリアの港なら子供の時に見に行ったけど、その何倍かの規模だ。
「少し歩かれるなら、船乗りは粗野な者も多いので私から離れないでくださいませ。」
ハルがスッと僕の背後に立った。
「あ、うん。」
言われてぐっと気を引き締める。
男たちの通行の邪魔をしないよう、道の端の方をそろそろ歩いた。
「あの船は他と違う形だね。」
波止場の一つに、見慣れない船が停泊している。
「珍しいですね。あれは晃(コウ)のジャンク船です。」
「あれがそうなんだね。父さまは東洋の美人画を集めるのが趣味なんだ。」
「では、侯爵のコレクションが増えますね。」
「ふふ、そうだね。せっかく商会に行くし、僕も何か探してみようかな。」
「アモル様も、美人画をご所望で?」
「うーん、どうしようかな。そう言えば、ハルって美人画の東洋のお姫様に似てるよね。」
綺麗な黒い髪と瞳、象牙の肌、繊細な雰囲気なんかがそっくりだってずっと思ってた。
「バレましたか。実は私、東洋のお姫様の子孫なのですよ。」
「ええ!?本当?」
「はい。200年前晃朝初代皇帝の末娘リー姫が、国交のため沢山の宝物を持って海を渡り当時この辺りを所有していた大公に嫁ぎました。しかし大公は亡くなり、未亡人となった姫が恋に落ちたのが当時ベルガ家3代目当主でした。一族は姫様の名を取ってリー・ベルガとなり今に続いているわけです。」
「よくハルのご先祖様は元大公夫人と結婚出来たね。」
「ええ……。そんな高貴な方と、奇跡ですよね。心底羨ましい。」
その言葉にドキッとした。
「ハルは、高貴な人と結婚したいの?」
「はい。」
そ、そうか。ハルも結婚とか考えるんだ。当たり前か。男爵なんだから後継がいるよね。ハルの歳ならいつ結婚してもおかしくない。
ダメだ。ハルが結婚するって思うと胸が痛くなる。
「そうなんだ。ハルくらいに優秀ならきっと素敵な人が見つかるよ!ど、ど、どんな子が良いとかあるの?」
聞かなきゃいいのに、ハルがどんな人が好きなのか気になった。
「代々、当主はリー姫のような黒い髪と瞳に象牙の肌を持つ娘を探して娶ることが多いですね。」
全然僕と違うや……。
「へぇ………」
「しかし私は、栗色の髪で灰と緑が混じった瞳の方がいいです。」
「何だ。そんなのどこにだっているじゃん。僕だってそうだよ。」
ハル、僕の髪色と瞳が好きなんだ。この国じゃ珍しくもない地味な見た目だけど、嬉しいな。
「いえ、たった一人しかおりません。」
ハルが潮風に揺れる僕の前髪をサラリと流した。たった一つの綺麗な瞳が僕をじっと見つめてくる。
「ハル?」
「アモル様、私は……」
「おい、あんたら邪魔だよ。どきな。」
道の端ギリギリまで避けないとぶつかりそうなほどの荷物を台車に乗せた船乗りが後ろから声を掛けてきた。
ハルが僕を庇うように肩を抱いて場所を開けると、ゴトゴト音を立てながら台車が通り過ぎていく。
「ありがとうハル。何か言おうとしてた?」
「いえ、何でもございません。そろそろ行きましょう。」
ハルに促されて馬車に戻り、僕たちはガスゴルク傘下の商会に向かった。
古くから交易で栄えた街だけど、潮風が外壁を風化させるので街並みはレンガ本来の色を活かした赤茶色の建築が立ち並ぶ控えめな趣だ。
「約束の時間まで少しあるから、海が見たいな。」
馬車の小窓から入り込む外の空気を吸い込んで言う。
流石に今日は領地外に出るということで、ハルも渋々一緒に馬車に乗ってくれた。
「畏まりました。」
向かいに座ったハルが、背後にある小窓から御者に向かって指示を出す。
しばらくして港につき、馬車から降り立った。
長い海岸線にいくつも大きな波止場が突き出し、立派なキャラック船や軽快なキャラベル船がひしめいている。沢山の逞しい船乗りが、小舟や荷車を自在に使って忙しなく荷運びをしていた。
「わあ……」
初めて見る巨大な港に眼を見張る。
トーリアの港なら子供の時に見に行ったけど、その何倍かの規模だ。
「少し歩かれるなら、船乗りは粗野な者も多いので私から離れないでくださいませ。」
ハルがスッと僕の背後に立った。
「あ、うん。」
言われてぐっと気を引き締める。
男たちの通行の邪魔をしないよう、道の端の方をそろそろ歩いた。
「あの船は他と違う形だね。」
波止場の一つに、見慣れない船が停泊している。
「珍しいですね。あれは晃(コウ)のジャンク船です。」
「あれがそうなんだね。父さまは東洋の美人画を集めるのが趣味なんだ。」
「では、侯爵のコレクションが増えますね。」
「ふふ、そうだね。せっかく商会に行くし、僕も何か探してみようかな。」
「アモル様も、美人画をご所望で?」
「うーん、どうしようかな。そう言えば、ハルって美人画の東洋のお姫様に似てるよね。」
綺麗な黒い髪と瞳、象牙の肌、繊細な雰囲気なんかがそっくりだってずっと思ってた。
「バレましたか。実は私、東洋のお姫様の子孫なのですよ。」
「ええ!?本当?」
「はい。200年前晃朝初代皇帝の末娘リー姫が、国交のため沢山の宝物を持って海を渡り当時この辺りを所有していた大公に嫁ぎました。しかし大公は亡くなり、未亡人となった姫が恋に落ちたのが当時ベルガ家3代目当主でした。一族は姫様の名を取ってリー・ベルガとなり今に続いているわけです。」
「よくハルのご先祖様は元大公夫人と結婚出来たね。」
「ええ……。そんな高貴な方と、奇跡ですよね。心底羨ましい。」
その言葉にドキッとした。
「ハルは、高貴な人と結婚したいの?」
「はい。」
そ、そうか。ハルも結婚とか考えるんだ。当たり前か。男爵なんだから後継がいるよね。ハルの歳ならいつ結婚してもおかしくない。
ダメだ。ハルが結婚するって思うと胸が痛くなる。
「そうなんだ。ハルくらいに優秀ならきっと素敵な人が見つかるよ!ど、ど、どんな子が良いとかあるの?」
聞かなきゃいいのに、ハルがどんな人が好きなのか気になった。
「代々、当主はリー姫のような黒い髪と瞳に象牙の肌を持つ娘を探して娶ることが多いですね。」
全然僕と違うや……。
「へぇ………」
「しかし私は、栗色の髪で灰と緑が混じった瞳の方がいいです。」
「何だ。そんなのどこにだっているじゃん。僕だってそうだよ。」
ハル、僕の髪色と瞳が好きなんだ。この国じゃ珍しくもない地味な見た目だけど、嬉しいな。
「いえ、たった一人しかおりません。」
ハルが潮風に揺れる僕の前髪をサラリと流した。たった一つの綺麗な瞳が僕をじっと見つめてくる。
「ハル?」
「アモル様、私は……」
「おい、あんたら邪魔だよ。どきな。」
道の端ギリギリまで避けないとぶつかりそうなほどの荷物を台車に乗せた船乗りが後ろから声を掛けてきた。
ハルが僕を庇うように肩を抱いて場所を開けると、ゴトゴト音を立てながら台車が通り過ぎていく。
「ありがとうハル。何か言おうとしてた?」
「いえ、何でもございません。そろそろ行きましょう。」
ハルに促されて馬車に戻り、僕たちはガスゴルク傘下の商会に向かった。
1
お気に入りに追加
360
あなたにおすすめの小説
【完結】深窓の公爵令息は溺愛される~何故か周囲にエロが溢れてる~
芯夜
BL
バンホーテン公爵家に生まれたエディフィール。
彼は生まれつき身体が弱かった。
原因不明の病気への特効薬。
それはまさかの母乳!?
次は唾液……。
変態街道まっしぐらなエディフィールは健康的で一般的な生活を手に入れるため、主治医と共に病気の研究を進めながら、周囲に助けられながら日常生活を送っていく。
前世の一般男性の常識は全く通じない。
同性婚あり、赤ちゃんは胎児ではなく卵生、男女ともに妊娠(産卵)可能な世界で、エディフィールは生涯の伴侶を手に入れた。
※一括公開のため本編完結済み。
番外編というかオマケを書くかは未定。
《World name:ネスト(巣)》
※短編を書きたくて書いてみたお話です。
個人的な好みはもっとしっかりと人物描写のある長編なので、完結迄盛り込みたい要素を出来るだけわかりやすく盛り込んだつもりですが、展開が早く感じる方もいらっしゃるかもしれません。
こちらを書いて分かったのは、自分が書くとショートショートはプロットや設定資料のようになってしまうんだろうなという結果だけでした(笑)
※内容や設定はお気に入りなので、需要があるかは置いておいて、もしかしたら増量版として書き直す日がくるかもしれません。
神獣の僕、ついに人化できることがバレました。
猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです!
片思いの皇子に人化できるとバレました!
突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。
好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています!
本編二話完結。以降番外編。
男とラブホに入ろうとしてるのがわんこ属性の親友に見つかった件
水瀬かずか
BL
一夜限りの相手とホテルに入ろうとしていたら、後からきた男女がケンカを始め、その場でその男はふられた。
殴られてこっち向いた男と、うっかりそれをじっと見ていた俺の目が合った。
それは、ずっと好きだけど、忘れなきゃと思っていた親友だった。
俺は親友に、ゲイだと、バレてしまった。
イラストは、すぎちよさまからいただきました。
転生先のパパが軽くヤンデレなので利用します
ミクリ21
BL
転生したら王子でした。しかも王族の中で一番低い地位です。しかし、パパ(王様)が溺愛してきます。更にヤンデレ成分入ってるみたいです。なので、少々利用しましょう。ちょっと望みを叶えるだけですよ。ぐへへ♪
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
R18/君が婚約破棄するというので、絶対離さないと分からせるまで愛するのをやめない
ナイトウ
BL
傾向:溺愛執着一途婚約者攻め×おバカざまぁサレ役ポジ王子受け
夜這い、言葉責め、前立腺責め、結腸責め、強引
政略結婚とかまっぴらなのでダミーの浮気相手作って婚約破棄宣言したら秒で却下されるわ夜襲われるわ。
ダンジョン内には色んなトラップが仕掛けられています
よしゆき
BL
所謂「セックスしないと出られない部屋」に閉じ込められた二人の冒険者の話。
ほぼガチムチのおっさんがヒィヒィ言わされてるだけの話です。
年下美形×ガチムチおっさん。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる