4 / 14
4,
しおりを挟む
そろそろ陽も傾き出す昼下がり、僕はハルにだき抱えられながら馬に乗り、トーリア領内のザーハルツ家の城を目指している。
……何故こんな事に!?
王都からトーリアまでは訓練した伝令馬でも3日かかるから、極秘とはいえ調査を命じられた僕も遅い馬車ではなく長距離馬を乗り継いでトーリアまできた。
だからお城までも自分で馬に乗って行くつもりだったけど、トーリア領内でそんなことさせられないとハルが断固反対。
休んでいた宿場町から馬車で行く事になった。
問題は、用意した馬車の御者席にハルが乗り込もうとした事だ。
今度は僕が男爵に御者をさせるわけにはいかないと断ったけど、ハルは僕が乗るなら自分がやると言って聞かない。
正直なんでそんなことしたがるのかわからないけど馬車を使うわけにもいかず、結局ハルと一緒に馬に乗る形で妥協した。
馬は早くも遅くもない速さで領内を駆けていく。
だから領内の様子がよくわかるけど、8年前と比べてもだいぶ良くなっている印象だ。
田畑はよく手入れされ、集落も以前より大きく建物も綺麗な家が増えた。
トーリアの税収が年々右肩上がりなのは領地が発展しているからなのがよく分かる。
「あっ!代行様だ。ご機嫌よう。」
「代行様ー!このリーク良ければ持って行ってください。」
「代行様、チーズはいかがですか?」
ハルは領地では代行と呼ばれている。
侯爵の代理ってことだ。
通る先々で領民から作物がおすそ分けされるので、積荷が凄い事になった。
ハルってみんなに好かれてるんだな。
「わぁ!アモル様だ!ようこそトーリアへ!」
「アモル様だ!いらっしゃい!」
「ようこそ!」
にしても領地に全く顔を出していない僕の認知度がやたら高いのは何故。
「みんな何で僕のこと知っているの?」
ハルに聞いてみた。
「学校でしっかり教えていますから。臣民教育は領地の基盤でございます。領民が自らの主人を日々敬うよう、侯爵様から定期的にザーハルツ家の肖像画をお借りして領内の印刷所でエッチングにして領民に配布しております。」
「なるほど……」
「アモル様の肖像画もたくさんお借りして複製いたしましたが……」
そう言って前に座る僕をじっと見下ろす。
「本物に敵うべくもありませんね。」
ほう……とハルが満足気な溜息を吐いた。
確かに、領主の顔を領民が覚えるなら、領内をめぐって顔を見せるのが一番なんだろうな。
ハルと僕は、日が暮れる頃に沢山のお裾分けと共に無事城に到着した。
城に着けば、城で働く下男や侍女が世話係として待っている。
あとはその人たちに任せて今日は休めばいい。
と、思っていた。
けど実際はハルがいつまでも僕のそばに引っ付いてきてまるでフットマンのように着替えや食事の世話をしてくる。
僕の世話係兼護衛として一緒にきていた人たちすらいつの間にかいなくてどういうことだ。
何度ハルにそんなことしなくていいと言ってもだいたい丸め込まれて最後は受け入れてしまう。
けど、これは流石に……
僕は浴室でお湯が張られて湯気が立ち上るバスタブを見た。
「これもハルが用意してくれたの?」
「左様でございます。アモル様に旅の疲れを癒して頂きたく。」
「ありがとう、ハルにそんな事までさせてごめんね。使わせてもらうね。」
城に来てから身支度に食事、荷解きまで全部ハルが完璧にやってくれるんだけど、ハルって何でもできるんだな。
凄いや。
「ではあちらの脱衣スペースへどうぞ。」
ハルが僕を浴室内の衝立の裏に誘導してくれ、自分も後ろからぴったり付いて来る。
「あの、わかったからもう出て行って大丈夫だよ。ちゃんと終わったら教えるし……」
「入浴もお手伝いさせて頂きます。さ、脱衣しましょう。」
ハルが僕の襟元のスカーフを解きだした。
「ええ!?ハル、そんな事しなくていいよ!一人で入れるからっ。」
慌てて今日何度目かの断りを入れる。
王都でも背中を洗って貰う時以外お風呂くらい一人で入ってるし。
「この城でアモル様お一人で入浴させるなどそんな無礼な事いたしかねます。」
いやいや、無礼でも何でもない。普通。普通ーですよー!!
「無礼だと思わないから。ね?」
「アモル様、私の奉仕にご不満があるのですか?だからいつも断られるのでしょうか……。不足があれば何でも仰ってください。」
ハルが冷たいタイル敷きの床に跪いて見上げてきた。
こちらに向けられた眼帯に、今日何度目かの罪悪感がこみ上げる。
「不満なんてないよ。ただハルがする事じゃないから……」
「私の使命はアモル様にお仕えする事です。アモル様には私の全てを捧げておりますので、どうか拒まないでください。」
ハルが僕の手を取り、優しく自分の眼帯に押し当てた。
う、ううう……。
「わ、わかった。お願いします。」
「はい。お脱がせしますね。」
ハルは薄く微笑むと軽やかに立ち上がってまた襟元を緩め始め、僕はあっという間に全裸にされた後布に包まれてバスタブ脇に連れていかれた。
そこにはバスタブとは別に大きな桶に張られたお湯と小さい手桶、あと木製の小さなスツールの足元に石鹸と海綿が用意してある。
そのスツールに座らされて布を剥がれた。
そこまで寒い季節じゃないし、お湯の熱が十分室内を温めているので寒くはない。
「長旅で汚れも溜まっているでしょうから、湯船に入る前にこちらでしっかり洗いましょう。」
確かに、田舎は風呂のある宿は少ないから髪も体もお湯で流すか濡れ布巾で拭くくらいしか旅立ってからはしてない。
頷くと、ハルは僕の体に手桶でお湯を掛けながら濡らしていく。
その後石鹸を海綿で泡立てて、泡に包まれた手で僕の左腕を擦り始めた。肘先から丁寧に撫で、泡で洗う。
嫌な予感がした。
……何故こんな事に!?
王都からトーリアまでは訓練した伝令馬でも3日かかるから、極秘とはいえ調査を命じられた僕も遅い馬車ではなく長距離馬を乗り継いでトーリアまできた。
だからお城までも自分で馬に乗って行くつもりだったけど、トーリア領内でそんなことさせられないとハルが断固反対。
休んでいた宿場町から馬車で行く事になった。
問題は、用意した馬車の御者席にハルが乗り込もうとした事だ。
今度は僕が男爵に御者をさせるわけにはいかないと断ったけど、ハルは僕が乗るなら自分がやると言って聞かない。
正直なんでそんなことしたがるのかわからないけど馬車を使うわけにもいかず、結局ハルと一緒に馬に乗る形で妥協した。
馬は早くも遅くもない速さで領内を駆けていく。
だから領内の様子がよくわかるけど、8年前と比べてもだいぶ良くなっている印象だ。
田畑はよく手入れされ、集落も以前より大きく建物も綺麗な家が増えた。
トーリアの税収が年々右肩上がりなのは領地が発展しているからなのがよく分かる。
「あっ!代行様だ。ご機嫌よう。」
「代行様ー!このリーク良ければ持って行ってください。」
「代行様、チーズはいかがですか?」
ハルは領地では代行と呼ばれている。
侯爵の代理ってことだ。
通る先々で領民から作物がおすそ分けされるので、積荷が凄い事になった。
ハルってみんなに好かれてるんだな。
「わぁ!アモル様だ!ようこそトーリアへ!」
「アモル様だ!いらっしゃい!」
「ようこそ!」
にしても領地に全く顔を出していない僕の認知度がやたら高いのは何故。
「みんな何で僕のこと知っているの?」
ハルに聞いてみた。
「学校でしっかり教えていますから。臣民教育は領地の基盤でございます。領民が自らの主人を日々敬うよう、侯爵様から定期的にザーハルツ家の肖像画をお借りして領内の印刷所でエッチングにして領民に配布しております。」
「なるほど……」
「アモル様の肖像画もたくさんお借りして複製いたしましたが……」
そう言って前に座る僕をじっと見下ろす。
「本物に敵うべくもありませんね。」
ほう……とハルが満足気な溜息を吐いた。
確かに、領主の顔を領民が覚えるなら、領内をめぐって顔を見せるのが一番なんだろうな。
ハルと僕は、日が暮れる頃に沢山のお裾分けと共に無事城に到着した。
城に着けば、城で働く下男や侍女が世話係として待っている。
あとはその人たちに任せて今日は休めばいい。
と、思っていた。
けど実際はハルがいつまでも僕のそばに引っ付いてきてまるでフットマンのように着替えや食事の世話をしてくる。
僕の世話係兼護衛として一緒にきていた人たちすらいつの間にかいなくてどういうことだ。
何度ハルにそんなことしなくていいと言ってもだいたい丸め込まれて最後は受け入れてしまう。
けど、これは流石に……
僕は浴室でお湯が張られて湯気が立ち上るバスタブを見た。
「これもハルが用意してくれたの?」
「左様でございます。アモル様に旅の疲れを癒して頂きたく。」
「ありがとう、ハルにそんな事までさせてごめんね。使わせてもらうね。」
城に来てから身支度に食事、荷解きまで全部ハルが完璧にやってくれるんだけど、ハルって何でもできるんだな。
凄いや。
「ではあちらの脱衣スペースへどうぞ。」
ハルが僕を浴室内の衝立の裏に誘導してくれ、自分も後ろからぴったり付いて来る。
「あの、わかったからもう出て行って大丈夫だよ。ちゃんと終わったら教えるし……」
「入浴もお手伝いさせて頂きます。さ、脱衣しましょう。」
ハルが僕の襟元のスカーフを解きだした。
「ええ!?ハル、そんな事しなくていいよ!一人で入れるからっ。」
慌てて今日何度目かの断りを入れる。
王都でも背中を洗って貰う時以外お風呂くらい一人で入ってるし。
「この城でアモル様お一人で入浴させるなどそんな無礼な事いたしかねます。」
いやいや、無礼でも何でもない。普通。普通ーですよー!!
「無礼だと思わないから。ね?」
「アモル様、私の奉仕にご不満があるのですか?だからいつも断られるのでしょうか……。不足があれば何でも仰ってください。」
ハルが冷たいタイル敷きの床に跪いて見上げてきた。
こちらに向けられた眼帯に、今日何度目かの罪悪感がこみ上げる。
「不満なんてないよ。ただハルがする事じゃないから……」
「私の使命はアモル様にお仕えする事です。アモル様には私の全てを捧げておりますので、どうか拒まないでください。」
ハルが僕の手を取り、優しく自分の眼帯に押し当てた。
う、ううう……。
「わ、わかった。お願いします。」
「はい。お脱がせしますね。」
ハルは薄く微笑むと軽やかに立ち上がってまた襟元を緩め始め、僕はあっという間に全裸にされた後布に包まれてバスタブ脇に連れていかれた。
そこにはバスタブとは別に大きな桶に張られたお湯と小さい手桶、あと木製の小さなスツールの足元に石鹸と海綿が用意してある。
そのスツールに座らされて布を剥がれた。
そこまで寒い季節じゃないし、お湯の熱が十分室内を温めているので寒くはない。
「長旅で汚れも溜まっているでしょうから、湯船に入る前にこちらでしっかり洗いましょう。」
確かに、田舎は風呂のある宿は少ないから髪も体もお湯で流すか濡れ布巾で拭くくらいしか旅立ってからはしてない。
頷くと、ハルは僕の体に手桶でお湯を掛けながら濡らしていく。
その後石鹸を海綿で泡立てて、泡に包まれた手で僕の左腕を擦り始めた。肘先から丁寧に撫で、泡で洗う。
嫌な予感がした。
1
お気に入りに追加
357
あなたにおすすめの小説
αなのに、αの親友とできてしまった話。
おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。
嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。
魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。
だけれど、春はαだった。
オメガバースです。苦手な人は注意。
α×α
誤字脱字多いかと思われますが、すみません。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
Q.親友のブラコン兄弟から敵意を向けられています。どうすれば助かりますか?
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
平々凡々な高校生、茂部正人«もぶまさと»にはひとつの悩みがある。
それは、親友である八乙女楓真«やおとめふうま»の兄と弟から、尋常でない敵意を向けられることであった。ブラコンである彼らは、大切な彼と仲良くしている茂部を警戒しているのだ──そう考える茂部は悩みつつも、楓真と仲を深めていく。
友達関係を続けるため、たまに折れそうにもなるけど圧には負けない!!頑張れ、茂部!!
なお、兄弟は三人とも好意を茂部に向けているものとする。
7/28
一度完結しました。小ネタなど書けたら追加していきたいと思います。
親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺
toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染)
※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。
pixivでも同タイトルで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/3179376
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/98346398
【短編】無理矢理犯したくせに俺様なあいつは僕に甘い
cyan
BL
彼は男女関係なく取り巻きを従えたキラキラ系のイケメン。
僕はそんなキラキラなグループとは無縁で教室の隅で空気みたいな存在なのに、彼は僕を呼び出して無理矢理犯した。
その後、なぜか彼は僕に優しくしてくる。
そんなイケメンとフツメン(と本人は思い込んでいる)の純愛。
※凌辱シーンはサラッと流しています。
ムーンライトノベルズで公開していた作品ですが少し加筆しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる