上 下
36 / 40

第36話 なぜかを聞く

しおりを挟む
 僕はリンの指摘を聞いて疑問が出来た。それはなぜその剣と鞘で彼らが騎士だとわかったのかという点。そして彼らがこの国の騎士であれば、なぜ同じ騎士であるフィリアを殺そうとするのかという点だ。

「リンはどうして彼らの剣を見てその二人が騎士だとわかったの?」
「簡単なことじゃ!儂とやりあっておったセネクスとやらも同じ剣と鞘を持っていたのじゃ。そこの男たちはこの町の兵士の変装は出来ても、使い慣れた武器は手放せなかったようじゃな」

 なるほど。単純なことであった。だが代わりに同じ騎士であるフィリアはなぜ気づくことが出来なかったのか気になった。

「それでそなたはなぜ見抜けなかったのか?」
「それは…、その…」

 リンが質問にフィリアは恥ずかしそうになって答える。

「…私が使ってる剣はフィン姉様から頂いた物だから。支給品の剣は家に飾ってあるのよ」

 どうやらフィリアは特別扱いを受けていたようである。それゆえこの国で使用されている騎士の剣を見慣れていなかったのかもしれない。今回はその特別扱いが裏目に出たようだ。初めから見抜けていれば、リンに助けられることもなかっただろう。

「フッ…、どうやら見抜かれたようだな」
「先輩、どうするっすか?」
「まぁ、いいだろう。こいつらの言ってることは間違っていないからな。そうだ!俺たちは騎士だ。お前らの言うことは正解だ。ただ剣に関しては足りていないが」
「足りていないじゃと?」
「そう。使い慣れているから手放せないというのは、間違っていない。この国で騎士に支給される剣は一級品だからな。だが別の剣でも良かったのは事実だ。俺はただそこの小娘に同情しただけさ」
「同情?」

 これから殺そうという相手にいったい何を同情するのだろうか。

「…そう。同情だ。俺とそこの小娘は名誉を尊ぶ騎士だ。同じ騎士としてこれから殺されるのであれば、そこらへんに売っている模造品で斬るのは可哀想ではないか?そんな剣より選ばれた者だけが持つことができる剣で斬られたほうがそいつも喜ぶだろう」

 黒髪の男はそれが当たり前のような顔で言った。

「…ふん!くだらんな。それでそなたたちはなぜフィリアを狙うのじゃ?」

 リンは僕が気になっているもう一つのことを言及した。

「やはり気になるか。まぁ当然か、いいだろう。何も知らずに死ぬのはそいつが可哀想だからな。パブロ教えてやれ」
「えー、いいんすか先輩?」
「いい。死人は喋ることは出来ない。せいぜい死神への土産話に持っていくといい」
「わかったっす。じゃあ教えてやるっす」

 パブロと呼ばれた茶髪の男はにやにやして嬉しそうにした。表面上は先輩と呼ぶ男を止めたが本心は喋りたくて仕方ないようだ。まるで漫画のネタバレをするようにそいつは喋りだした。
「俺らの目的は、そこのお嬢さん。フィリア・クリスドールとセネクス・クレルディアの二人なんすよ。第一目標がそこのお嬢さんで、その次がベテランで信用の厚いおっさん騎士。本当は最初の一撃で仕留めるはずが、計画が狂っちゃいましたがね。なので今はそこのお嬢さんだけを殺すつもりっす」
「…何でその二人を?」
「仁よ、わかるはずじゃ。考えるのじゃ。その二人の共通点を」
「?」

 リンは既に気づいているようだ。二人の共通点は騎士であることだ。ここ太陽神国の騎士。聖騎士であるフィンさんのお供をしている…。そこで僕も理解した。

「フィンさんのお供の騎士を狙っているのか?…でも何で?」
「正解。そこそこ頭は回るようっすね。理由はそこのお嬢さんならわかるんじゃないすか?今の時期に何が行われているかを考えれば…ね」

 彼は答えにたどり着くように誘導している。僕らを子ども扱いしているようだ。だが彼のヒントでフィリアは察した。

「まさか教皇の選定…?」
「え?」

 教皇の選定。どこかで聞いた話だ。たしか今この国は教皇がおらず、その選定中であること。派閥争いをしているせいかそれが長引いていること。そしてその教皇は十人の聖騎士が決める権利を持つこと。リリさんとの話で聞いたことであった。でもまだ謎はある。僕はそれが知りたくて聞く。

「何で…それでフィリアを狙うんだ?」
「ひひ。わからないっすか?そうっすよね!でもこうするしかあの聖騎士にダメージは与えられないんすよ。あの聖騎士は強すぎる。俺らの手に負える相手じゃないっす。だからその周りの人間を狙う。彼女の味方を斬って、彼女を支えるものを伐って、彼女の陣営を切り崩す。つまり派閥争いの一種というわけっす」

 この男は言いたいことを言って満足そうにしている。この男の言うことを信じるのであれば、フィンさんがこの町に来ているのだって派閥争いの結果ということだ。だがこいつの言うこともわかる。フィンさんは強すぎる。だから別のところを狙う。彼女だって人間だ。味方がいなくなり、孤立すれば耐えられるものではないだろう。しかしわかるだけだ。納得は出来ない。それはリンも同様だった。

「…ほう。であれば儂らの存在は計算外だったのではないか?」
「…そうっすね。それは事実っす。でも逆に都合がいい状況になったっす。勝手に争い始めたんすから。ただ死神の使徒の存在は邪魔だったんでゾンビで足止めさせてるっすけど」

 彼らはタイミングを見計らっていたらしい。そしてどうやらルイの方にもゾンビが行っていたようだ。それはつまりルイの援護は期待できないということを表している。

「じゃあ、フィンさんは…?」
「ひひひ。さっきこの町に響く鐘の音が聞こえなかったすか?あの聖騎士にはモンスターの相手をしてもらってるっす。この町の冒険者共と兵士と一緒にね」
「ふむ。儂らと引き離したということかのう」

 彼らは計画をしていたようだ。用心深く、綿密に。そしてフィリアは狙われているもう一人の所在を聞く。

「…セネクスはどうしたの?」
「さぁ?知らないっす」
「フィリアとやら、安心していい。あやつにはゾンビの相手を任せておる。あやつは強い。一人でゾンビの相手ぐらい何とかなるじゃろう」

 リンは他人事のように言った。それを聞いて僕は思った。リンはもしかしてゾンビの相手を押し付けたのではないだろうか。町中にゾンビがいることに異変を察知して僕たちのほうに来たのではないかと。押し付けられた方は溜まったものではないだろうなと思った。だが結果的にフィリアの命を救ったのだから、許してくれるだろう、たぶん。

「これでここの状況が、お前らの現状が、あの聖騎士の実情が少しはわかったっすか?」

 この男はむかつく笑顔を浮かべた。

「ふん!わかっておるわ。つまり儂らがそなたたちを倒せばその計画は潰えるということじゃ!そなたちが時間をかけて、労力をかけて、金をかけたであろう計画がな」

 さすがはリンである。僕もそのつもりであったからだ。それに対し、今まで黙っていた黒髪の男が答える。

「ガキどもに何が出来るというんだ?俺たちは騎士だ。訓練を積み、経験を積んでいる。大人の騎士として、騎士の大人としてお前らを斬ってやろう」

 どうやらここで話は終わりのようだ。

 僕は正直教皇の選定などという国の行く末を決める行事とは関係のない一般人だ。蚊帳の外にいる冒険者だ。この世界の初心者である異世界人だ。でもフィンさんの人柄を少し知っている。知ったうえで少し信頼している。そしてこの二人組の男に少しイラついている。フィンさんは決してこんな卑怯な男たちに邪魔されていいような人ではない。こんな自称騎士のような存在に。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

処理中です...