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第28話 少女の神の怒り

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 町は聖騎士が来るという話で持ちきりとなっていた。この国でたった10人しかいない最高戦力の一人だからだ。それに今この町の人たちは行方不明の事件の噂で不安になっている者たちが多い。そこに聖騎士が問題の解決にやって来るのである。町は歓迎ムードであり、町民にとっては一筋の光のように感じているのかもしれない。

 だから、聖騎士が来るという今日は門に人だかりが出来ていた。その姿を一目でも見ようとしている人たちで溢れている。そして僕とリンもその一人である。僕は単純な興味からであり、リンは因縁のある聖騎士ではないかを確認するためである。ちなみにルイはお留守番だ。さすがに人だかりが出来ている中、むき出しの大きな鎌を持って歩くのは危ないためである。

 町の人たちと同様に待っていると門から馬を歩かせ、鎧と剣を携えている騎士が三騎入ってくる。それらの鎧にはこの国で信仰されている太陽の神の紋章が入っている。そして先頭にいる一人はその鎧が特別豪華だ。その騎士は自分たちが来たことをアピールしているのか顔を出して登場した。
 
それは20代くらいの女性であった。輝く金髪を邪魔にならないように編み込み、凛とした顔つきをしている。そしてその瞳は太陽を映したかのようなオレンジに似たアンバーの色をしており、背筋が伸びて高身長であることがわかる。所作がきれいで控えめに言って美人だ。

 僕は一目見てわかった。彼女が聖騎士であると。なぜなら目を離すことができない存在感を持っているからだ。

 彼女の登場で町の人たちは歓迎の声を上げる。そして彼女はそれに応えるように手を振っている。どうやら彼女は民衆に人気があるようだ。

 そのとき不意に背中から服が引っ張られる。後ろを見るとリンが僕の背中に隠れていた。嫌な予感がして、まさかと思った。それは的中した。リンは眉を寄せ、渋い顔をしている。どうやら彼女がそうであったらしい。リンは僕を見て一言。

「仁、戻るぞ」

 そう言った。

 その後、僕らは宿の部屋に戻った。そこでルイを含めて話をする。リンは溜息をつきながら言う。

「面倒なことになったのう」
「というと君の言う因縁のある聖騎士が来たのかな?」
「そうじゃ。これでやりにくくなる」
「へぇ。ねぇ、今後のためにリンとその聖騎士で何があったか聞いてもいいかい?」

 ルイがリンに問うた。それは確かに気になる。内容によっては今すぐ町を出ていく必要があるかもしれないからだ。

「そうじゃな。そのほうが良かろう。これでそなたらも無関係ではいられなくなったからのう」

 リンは真面目な顔になった。

「では話すぞ。そなたら村にいたレナを覚えておるか?」

 リンは話してくれるようだ。だがそれでなぜレナちゃんの名前が出るのだろうか。

「それって村を出るときにリンに抱きついていた子だよね?」
「覚えるてるけど、レナちゃんが関係あるの?」
「ふむ。それはじゃなーー」

 それからリンは事情を話した。それは村で村長に聞いた話であった。レナちゃんが奴隷として売られそうになったという話だ。そのときリンがこの町で何を見たか、何をしたのかを話した。

「儂は依頼を受けこの町に来て、レナを探し見つけた。そしてレナが売られそうになる前に身柄を確保した。その後、儂はこの国では禁止されているはずの奴隷売買をしている者たちを調べ、潰した。それはこの町の裏社会の商人たちじゃ。儂は他に関係者がいないかを確かめるために一人一人を縛り、尋問した。ほとんどの人間からは大した話は聞けなかった。金のためにやったという話じゃ。だがその中のリーダー格の商人の一人を尋問した際、一人の男の名前が挙がった。そやつが問題じゃった」
「問題?それは一体誰だったの?」

 ルイが聞いた。

「それはじゃな…。この町の代官である助祭の息子じゃ」
「え!」

 リンが驚くことを言った。それはつまり、この町の権力者の息子が非合法な奴隷売買に関与していたということだった。

「儂は驚いた。本当かどうか確かめるために、捕まえた裏社会の商人たちを使った。脅して商人たちにそやつを呼び出させた。金を渡すという名目でな。そしてそやつを捕まえ、尋問した。するとそやつが代官の息子じゃと確認できた」

 リンも驚いたようだ。そして真実を確かめた。その方法として尋問したと言っているが、それは暴力をちらつかせたものに違いない。リンは続ける。

「じゃから儂は問うた…。この商売はこの町の代官も知っていることかと。そなたの父親はわかってやっていることかと。そしたらそやつは頷いた。儂に怯えながら、自分の正当性を主張した。儂を犯罪者と呼び、父親の権力を振りかざそうとした。あまつさえ儂に『今なら許す、解放しろ』と命令した。儂はその醜い姿を見て…、穢れた声を聴いて…、怒りで我を忘れかけた!」

 リンは憤怒の表情をして、こぶしを握り締めた。こんなやつにレナちゃんが食い物にされそうだったことが我慢ならないのだろう。

 そして代官の息子が関わっているという事実が大きかった。権力者の息子が犯罪をしており、それを代官が知っていたのだ。それを知ったリンはレナちゃんに向けた笑顔とは正反対の表情をしていたに違いない。今と同じように燃えるような目の色をしていたに違いない。リンは話を続ける。

「そやつに詳しく話を聞くと、どうやら主犯は儂が捕えたこの息子じゃった。そしてこの町の代官は息子の商売を黙認していたのじゃ!」
「…それでリンはどうしたの?」
 
 僕はゴクッと唾を飲み込みながら、聞いた。この話がここで終わるはずがない。なぜならこの話をしている彼女の目は未だに燃えているからだ。リンはその怒りを映した目を僕に向け、話を続ける。

「当然処罰した。やつらはもうおらん。レナの父親を名乗る男を含め、後悔させてやった」
「…そう」

 リンは落ち着いた声音で言った。リンは彼らが許せなかったのだ。彼女はわずかな報酬で村の危機を救った正義感の持ち主である。レオナさんやあの村の村長の話を聞き、現場に駆け付け、レナちゃんの扱いを知って耐えられなかったのだ。そして理不尽な目にあっている一人の女の子を救った。

「じゃが、一つ残念だったのはこの町の代官までは手を出せなかったことじゃ」

 リンは悔しそうに言った。代官をその息子たちと同様の目に遭わせることが出来なかったことを。代官の息の根を止め、権力の乱用を止め、最後までやりきれなかったことを。

 僕は彼女の話を聞いて思った。リンが代官を殺そうとしたことやその息子たちを殺したことはきっと間違っていないと。きっとそれしか方法がなかったに違いない。この町の権力者は代官だ。その息子を法の下処罰することは難しいに違いない。それにリンはこの町に伝手がない。彼女はこの町に来てから、誰も知り合いに会っていない。そもそもいないからだ。だからリンはリンのやり方でしか彼らを罰することが出来なかった。それと今も代官が代わっていないのは、リンにとっては納得がいっていないことだろう。

 だがこの話はまだ終わらない。なぜなら、まだ聖騎士が出てきていないからだ。それに村長から聞いた、リンがボロボロで戻ってきた話と辻褄が合わない。それをルイが真面目な表情をして問う。

「それで結局、その話とこの町に来た聖騎士がどう繋がるの?」
「それはじゃな、そやつらを始末したときにこの町にその聖騎士が来ておったのじゃ。そして儂が代官の息子を始末したことが知られたのか、儂の身柄を拘束しようとした。儂はレナを連れて帰らねばならぬ。だから、何度か振り切って逃げた。じゃが、その聖騎士はしつこくてな。儂をずっと追ってきたのじゃ」
「リンはその聖騎士を倒すことは出来なかったの?」

 その聖騎士を行動不能にしておけば、時間を稼ぐことは出来たのではないだろうかと思った。だが僕の言葉はルイに否定された。

「仁、この国の聖騎士はそんな簡単に倒せるような相手じゃない。ましてリンは戦闘に強い神じゃないし、おそらく本気で戦えば僕よりも弱い。とてもじゃないけど、厚い加護を持っている聖騎士に正面から勝てるとは思えないよ」

 そうなのか。確かに相性の問題もあるが、ルイはリンよりも簡単にゾンビを倒していた。それにリンが神だと知っている人は僕ら以外に会ったことがない。そんな神と国で崇めらるような神の加護を持つ騎士では話にならないのであろう。

「それに万が一、倒してしまった場合はもっと問題になるからね。リンの逃げるという行動は正解だよ」

 ルイが続けて補足した。ルイの言う通り、聖騎士はこの国の権威の象徴だ。それが辺境でどこの馬の骨かわからぬような輩にやられたとしたら、それは辺境の問題ではない。国の問題となる。だから逃げるしかないのだ。

「そうじゃな。儂もそう思って逃げた。だが一応言っておくぞ!儂は逃げたのであって、負けたわけではないからな」
「…」

 彼女は悔しそうに負け惜しみを言った。この負け惜しみがなければ、リンが負けたとは思わなかったのに…。だがこれで彼女が村に着いたときボロボロだった理由がわかった。

「やつから逃げおおせたのは運が良かったともいえる。なぜなら助けがあったのじゃ。じゃがまぁ、今はそれはどうでもよい。それより問題はあの聖騎士がこの町にまた来たということじゃ!」

 どうやら一人では逃げきれなかったようだ。それはつまりリンよりも強く、僕よりも強いということだ。僕がそんな感想を抱いているとルイがそういえばと質問をする。

「そういえば聞いてなかったけど、どんな聖騎士が来たの?」

 僕は今日見た聖騎士の特徴を話した。

「へぇ!それは有名な聖騎士だよ。彼女は聖騎士の中でも人気が高い人だからね!」

 ルイはテンション高く言った。確かにこの町に来るときは凄い歓迎されていたので、人気があるのは間違いないだろう。でも僕はこの国には詳しくないので、何で有名かも知らなかった。それゆえルイに訪ねる。

「どんなふうに有名なの?」

 僕の疑問にルイはそれはねと、前置きして答える。

「彼女は聖騎士の中の聖騎士なんだ。燃えるようなアンバーの瞳と日差しのように輝く金髪。太陽から頂いた呼び名を持つ者。太陽の聖騎士団、第3席。『陽光』フィン・フィレノナ・ロナウドール。この国でも有数の血筋を持つ名門出身の騎士さ」

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アンバーの瞳のイメージ
参考までにどうぞ


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