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第26話 異世界から持ってきたもの
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教会での用事が終わり、外に出て帰り道を歩く。そのときルイが思い出したように言った。
「そういえば、仁は異世界の出身だったよね。何か持ってきてないの?ボクは珍しい物が好きだから、何かくれれば宿代とか食事代の分の貸しをちゃらに出来るよ?」
ルイは甘えるように言った。それを言われて懐を触る。僕が異世界から持ってきたのは、財布一つだ。それも父からのお下がりでもらった財布。この財布は父が好きだったブランド物であり、革で作られたもの。生前父が持っていた財布と同じブランドの物であり、おそろいである。僕の宝物だ。これは渡せない。
「僕がこの世界に来たときは突然だったから、財布しか持ってないんだ。でもこれは大事なものだから渡すわけにはいかないんだ…」
「そっか。じゃあ仕方ないね!」
ルイは気にしないように言った。本来なら僕は彼にこの財布を渡すべきだと思う。彼には村でゾンビに襲われたときから世話になりっぱなしだからだ。稽古をつけてくれたり、この世界のことを教えてくれたり、宿代などを肩代わりしてくれている。それに今日は彼の名前で武器と神性石も借りているのだ。それなのにルイは僕が負い目を感じないように明るく言った。
「ごめんね、ルイ。この借りは別の形で返すよ」
「そうだね。楽しみにしてるよ」
ルイは優しい笑顔で言った。それを見てリンも申し訳なく思ったのかルイに謝罪する。
「まあ儂も言ってなかったが、異世界から持ってきている物はある。宝石とライターという物じゃ。軍資金としてこの世界にもある宝石と簡単に火をつけられる便利な物ゆえ持ち込んできた。いざとなればこれで金を返そうと思っておった。黙っておって悪かったな、ルイよ」
「へぇ、リンも持ってきてたんだ。ボクは宝石は興味ないけど、そのライターってものが気になるな。後で見せて!」
「良かろう。ライターはこれからも必須じゃから、あげることは出来んが見せるくらいはよい。ただ火を発生させる物じゃから、誰も見てない外でしかだめじゃぞ」
「もちろん!楽しみだなー」
ルイがウキウキしながら言った。こんなに喜ぶなら、僕も何か財布以外にも持っていれば良かった。あのときは夜更かしでスマホを充電し忘れていた。起きたときには充電がないため、家に置いてきた。そして財布だけ持って花を買って両親の墓地に行っていた。まさかそのまま異世界に来るとは思ってなかったから、何の準備もしてなかった。僕は思わず、こんなことなら…と呟きそうになる。
だがそのとき僕は気づく。そうだ。あのときは花を買った。だったら財布そのものは無理だけど、中身ならある。それもこの世界では存在してなくて、使えない。けど珍しい日本のお金が。この世界では利用価値がないため、手放しても惜しくない。もしかしたらどこかの好事家に売れるかもしれない。しかし僕がこの世界の出身じゃないことは、おいそれとは言えないのだ。でもルイならもう知っている。
まさに今が金の使いどころだ。ルイにならこのお金で日本での価値以上に借りを返せるし、恩も返せる。素晴らしい案だ。
僕はさっそく懐から財布を出してルイに話す。
「ルイ。気づいたんだけど、財布そのものは無理でも中のお金なら渡せるよ。僕の国のお金なんだけど、こっちでは使えないからさ。珍しさだけなら、保証できる」
「へぇ!それは興味あるよ!見せてほしいな」
僕は財布から日本円を出して、ルイに渡した。
「これはそのままルイにあげる。ルイにはかなりお世話になってるから」
「いいの!ありがとう。それにしても紙のお金もあるんだね。凄い精密な絵だ。この世界には硬貨のお金しかないから、紙のお金なんてびっくりだよ。偽造されるかもしれないのにさ」
「そうだね。紙のお金は偽造されるかもしれない。でも僕のいた国は偽造されにくい紙を作ることが出来たから、これが流通しているんだ。例えばこの紙には人の顔が描かれてるでしょ。これは人間が人の顔だったら、違和感に気づきやすいからこうなってるんだ。少し顔のパーツの位置や形が変わるだけで、別人のように見える。こういう偽造を防ぐ工夫がたくさんあるから、紙のお金で大丈夫なんだよ」
「面白いね!」
ルイは僕の話を楽しそうに聞いてくれた。
「ありがとう、仁!僕の宝物にするよ!」
ルイはとても喜んでくれた。その後も歩きながら、ルイはたくさん聞いてきた。この絵の人は誰なのかとか、この絵の模様は何だろうとか。それを見てリンは溜息を吐きながら言う。
「そういう顔を浮かべておけば、そなたはかわいいものを…」
リンのこの言葉に僕は内心同意した。だが同時にルイのこういう一面が見れて良かったと思った。
その後もリンにライターで火を点けるところを見させてもらうと、ルイは子どものようにはしゃいだ。
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聞きかじったこと書いてます
「そういえば、仁は異世界の出身だったよね。何か持ってきてないの?ボクは珍しい物が好きだから、何かくれれば宿代とか食事代の分の貸しをちゃらに出来るよ?」
ルイは甘えるように言った。それを言われて懐を触る。僕が異世界から持ってきたのは、財布一つだ。それも父からのお下がりでもらった財布。この財布は父が好きだったブランド物であり、革で作られたもの。生前父が持っていた財布と同じブランドの物であり、おそろいである。僕の宝物だ。これは渡せない。
「僕がこの世界に来たときは突然だったから、財布しか持ってないんだ。でもこれは大事なものだから渡すわけにはいかないんだ…」
「そっか。じゃあ仕方ないね!」
ルイは気にしないように言った。本来なら僕は彼にこの財布を渡すべきだと思う。彼には村でゾンビに襲われたときから世話になりっぱなしだからだ。稽古をつけてくれたり、この世界のことを教えてくれたり、宿代などを肩代わりしてくれている。それに今日は彼の名前で武器と神性石も借りているのだ。それなのにルイは僕が負い目を感じないように明るく言った。
「ごめんね、ルイ。この借りは別の形で返すよ」
「そうだね。楽しみにしてるよ」
ルイは優しい笑顔で言った。それを見てリンも申し訳なく思ったのかルイに謝罪する。
「まあ儂も言ってなかったが、異世界から持ってきている物はある。宝石とライターという物じゃ。軍資金としてこの世界にもある宝石と簡単に火をつけられる便利な物ゆえ持ち込んできた。いざとなればこれで金を返そうと思っておった。黙っておって悪かったな、ルイよ」
「へぇ、リンも持ってきてたんだ。ボクは宝石は興味ないけど、そのライターってものが気になるな。後で見せて!」
「良かろう。ライターはこれからも必須じゃから、あげることは出来んが見せるくらいはよい。ただ火を発生させる物じゃから、誰も見てない外でしかだめじゃぞ」
「もちろん!楽しみだなー」
ルイがウキウキしながら言った。こんなに喜ぶなら、僕も何か財布以外にも持っていれば良かった。あのときは夜更かしでスマホを充電し忘れていた。起きたときには充電がないため、家に置いてきた。そして財布だけ持って花を買って両親の墓地に行っていた。まさかそのまま異世界に来るとは思ってなかったから、何の準備もしてなかった。僕は思わず、こんなことなら…と呟きそうになる。
だがそのとき僕は気づく。そうだ。あのときは花を買った。だったら財布そのものは無理だけど、中身ならある。それもこの世界では存在してなくて、使えない。けど珍しい日本のお金が。この世界では利用価値がないため、手放しても惜しくない。もしかしたらどこかの好事家に売れるかもしれない。しかし僕がこの世界の出身じゃないことは、おいそれとは言えないのだ。でもルイならもう知っている。
まさに今が金の使いどころだ。ルイにならこのお金で日本での価値以上に借りを返せるし、恩も返せる。素晴らしい案だ。
僕はさっそく懐から財布を出してルイに話す。
「ルイ。気づいたんだけど、財布そのものは無理でも中のお金なら渡せるよ。僕の国のお金なんだけど、こっちでは使えないからさ。珍しさだけなら、保証できる」
「へぇ!それは興味あるよ!見せてほしいな」
僕は財布から日本円を出して、ルイに渡した。
「これはそのままルイにあげる。ルイにはかなりお世話になってるから」
「いいの!ありがとう。それにしても紙のお金もあるんだね。凄い精密な絵だ。この世界には硬貨のお金しかないから、紙のお金なんてびっくりだよ。偽造されるかもしれないのにさ」
「そうだね。紙のお金は偽造されるかもしれない。でも僕のいた国は偽造されにくい紙を作ることが出来たから、これが流通しているんだ。例えばこの紙には人の顔が描かれてるでしょ。これは人間が人の顔だったら、違和感に気づきやすいからこうなってるんだ。少し顔のパーツの位置や形が変わるだけで、別人のように見える。こういう偽造を防ぐ工夫がたくさんあるから、紙のお金で大丈夫なんだよ」
「面白いね!」
ルイは僕の話を楽しそうに聞いてくれた。
「ありがとう、仁!僕の宝物にするよ!」
ルイはとても喜んでくれた。その後も歩きながら、ルイはたくさん聞いてきた。この絵の人は誰なのかとか、この絵の模様は何だろうとか。それを見てリンは溜息を吐きながら言う。
「そういう顔を浮かべておけば、そなたはかわいいものを…」
リンのこの言葉に僕は内心同意した。だが同時にルイのこういう一面が見れて良かったと思った。
その後もリンにライターで火を点けるところを見させてもらうと、ルイは子どものようにはしゃいだ。
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