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第20話 黒い教会と黒い神父

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大仰おおぎょう
1.ある物事を誇張したり、話を盛ったりする様子を表す言葉
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 僕らは教会に行くことにしたが、そろそろお昼になるということで先にお店に入ってご飯を食べた。時間に余裕があるため、意味もなく2時間ぐらいはまったりした。
 その後僕たちは教会の前についた。そこは大きく、古く、黒い教会だった。そして死神の使徒の証である黒い十字架のマークを持った教会であった。僕らはそこにある少しボロイ木の扉から入っていった。そして中を見る。そこは歴史を感じさせた。基本的には日本にもあった教会に似ている構造をしている。だがここは全面的に黒い基調で整えられており、整然としていた。そしてそこに黒い十字架を首に下げて教会用の服を来た神父が座っていた。彼はこちらを見ると立ち上がり嬉しそうにした。

「おやおや、お久しぶりですね。ルイスラート。そちらはお客様ですか?」

 60代ぐらいで顔に皺を浮かべたにこにこした白髪の神父さんが、ルイをフルネームで呼んだ。そして僕らを見てそう言った。

「久しぶりだね。ヌー爺じい。彼女たちはお客様じゃないよ」
「そうですか。それは残念ですね。近頃はお仕事が増えそうだと思ったのですが…。ところでルイスラートは元気でしたか?」
「元気だよ」
「それは良かった!元気ならさぞ稼いでいそうですね」
「?」

 僕は一瞬、彼らの会話についていけなくなった。なぜこのタイミングで稼いでいるという話になるんだろうか。

「ヌー爺。本音が漏れてるよ。それより挨拶しなよ」
「おっと…。そうでしたな。私はヌームスと申します。ヌー爺とお呼びください」

 なんか…、変な人だな。

「僕は仁です。神来社仁からいと じん。よろしくお願いします」
「儂はリンじゃ。変な爺よ、よろしく頼む」

 リンは僕と同じ感想を抱いたようだ。そしてストレートにそれを言った。

「ぬふふ。あなた方も十分変ですよ。神性力を持つ仁さんにじじい口調のお嬢さん」

 やはりこの人は変だ。変なおじさんならぬ、変なおじいさんだ。そして僕が神性力を持っていることがわかるということは、彼も加護を持っているんだろう。黒い十字架を首からさげているのがその証だ。

「あなたも死神の使徒なんですか?」
「ええ、そうですよ。ただし、ルイスラートに比べるとかなり弱い加護ですがね」

 彼はにこにこして言った。

「先ほど近頃は仕事が増えそうだとおっしゃってましたが、これから何かあるんですか?」

 死神の使徒は死を与える。その仕事もきっと死を与えるものだ。それが増えるとは物騒なことになるのではないだろうか。

「いいえ。これからはわかりませんが、既に何かはあったでしょう。あなた方が体験したことが」
「!」

 この人は僕たちが村で戦ったゾンビのことを言っているのだ。冒険者ギルドに報告したのはついさっき。いったいどこで聞いたのだろう。

「驚くことではありません。あなた方が報告したことは既に冒険者ギルドやこの町の代官のところに周知されていますから」
「相変わらずだね。ヌー爺。いったいどうやってそんなに情報を集めてるの?」
「ぬふふ。年の功というやつですよ。それに情報は儲かりますからね」

 いい笑顔をしている。

「ヌー爺。また本音がでてるよ」
「おっと。失礼しました」
「よくそんなので神父なんてやってられるよね」

 ルイが呆れた顔で言った。ルイの呆れた顔なんて初めて見た。

「それはもちろん死神様のご加護がありますから。それにお客様の前では控えております」

 つまり僕たちが最初にお客様だと言っていれば、教会の神父のこんな一面を知らずに済んだということだ。

「それよりヌー爺。例の目録見させてよ」
「例のですか?まぁあなたが言うのでしたら、そうしましょう」

 そう言うとヌー爺さんは別の部屋に行った。

「ルイ、例のって何?」
「この教会が所持しているものの目録だよ。村で言ったでしょ。君には神性石が必要だって。それがあるか確認するんだよ」
「この教会の所有物を僕に預けていいの?」
「大丈夫だよ。ボクの名前で借りるだけだから。その代わり必ず返してね。もしもなくしたりしたらすごい怒られるから」
「わかったよ」

 すごい怒られる…。もしかして返さなかったら死神の使徒に追われたりするのだろうか。そんなことがあったらまさに背後に死神を感じながら生きていくことになるだろう。恐ろしいものだ。そこでルイに声がかかる。

「ルイスラート、持ってきましたよ」
「おっけー、見せてもらうよ!じゃあ、行ってくるね。さすがに目録は関係者以外は見せちゃだめだから」

 そう言うとルイはヌー爺さんの持つ書類を受け取り、少し離れたところに移動した。代わりにヌー爺さんが近づいてくる。そこでずっと周りを観察していたリンが疑問を口にする。

「ヌー爺とやら、この教会は黒の基調で整えられておるが、死神の教会は全てそうなのか?」
「ええ、そうですよリンさん。なんせ黒は細かい汚れが目立ちませんから」
「え?」
「おっと、間違えました。黒の色は死神様の色です。それゆえですよ」

 ヌー爺さんはにこにこしている。僕は理解した。彼も確信犯である。ルイと同類だ。冒険者ギルドで聞いた、死神の使徒はやばいという評判は確かだった。リンは溜息を吐きながら話を続ける。

「はぁ。それとヌー爺よ。そなた先ほど情報は儲かると言っておったな。現在この周辺で起きておる行方不明事件について何か知っておるか?」
「少しは知っていますよ。失礼ですが、ご予算はおいくらほどお持ちですか?」

 ぬふふと答えながら質問した。どうやら接客モードになったようだ。

「儂は手持ちがない。そこらへんはルイと相談してくれ。ただしお友達価格で頼むぞ」
「お友達価格ですか…。しかし情報を集めるのにもお金はかかりますからねぇ」

 リンはお金は持っていないが、宝石は持っている。そのことは言わず、ルイに支払せて情報をただで得ようとしているようだ。お友達価格で。リンも負けずあくどかった。優しいのか優しくないのかわからない。そしてリンが思ったことを口にする。

「まったく、教会の神父がこんな守銭奴でいいのか?」
「いいのですよ。見てくださいこの教会を。人手は私一人、建物は古い。そのくせお客様は来ない。我々にはお金が必要なのですよ」
「それは仕方ないんじゃないかな。ゾンビになった友人や家族でもいない限り、この教会に来る人なんていないからさ。それにここは太陽の神を崇める国。ボクらの神様を崇めているほうが稀だよ」

 ルイが戻ってきた。確かにここは太陽神国と呼ばれるところ。死神はメジャーではないようだ。

「それとヌー爺。そんなだからこの教会はお金にがめついなんて陰で噂されてるんだよ。知らないの?」

 噂されてるのか。まぁされるだろう。

「ルイスラート、あなたはお金に困ったことがないからそんなことが言えるのですよ。死のないゾンビたちが当てのない終わりを求めて彷徨さまようように、お金のないわたくしは黄金の輝きを求めて動き足掻あがくのです」

 ヌー爺さんが悲しそうな表情をして、大仰おおぎょうにそれっぽいことを言って自分を肯定した。僕たちは呆れた。

「ヌー爺。なんか教会の神父っぽく言ってるけど、それなりに私腹を肥やしていること知ってるからね」
「ええ、そうですよ。それにしても私腹を肥やすとはいい響きですね」
「…ははは、もう手遅れだよね?この人」
「そ、そうみたいだね」

 ルーが僕に同意を求めてきた。確かに手遅れだ。でも僕は肯定しつつも心の中で思った。おまえもな…と。
 その後ルーはヌー爺さんから情報を買ったり、目録から用意してほしいものを伝えていた。目録に記載のある物の在り処は秘密になっているようなので、後から必要なものを届けてくれるようだった。そして別れの挨拶をして教会を出た。その後すぐ、ヌー爺さんから買った情報の共有を行った。それによると把握しているだけでも全体でなんと600人以上が行方不明になっているそうだ。しかも村によっては、畑がそのままで人がいなくなった場所、畑が荒らされた状態で村人がいなくなったところがそれぞれあるらしい。そしてここの代官はその対応に後手後手になっているそうだ。

「ふむ、ルイはどう思った?」
「うーん。ボクは村で君たちと一緒に戦ったゾンビは、もしかしたら行方不明になった人たちだったんじゃないかなーと思った。後はここの代官が無能だなって」
「そうか。じゃが、儂らが倒した数と行方不明になった数があわん。半数以上の行方不明者の行方がわかっておらん状態は危ういのではないか?」
「そうだね。でも同じようにゾンビになってたら体が腐ってしまう。だからどこかの村に隠そうとしても、においで居場所がバレるんじゃないかな?この町の冒険者が調査したはずだから。それに全体を見れている訳ではないけど、森の異常も収まってたでしょ。どこに行ったんだろうね?もしかして神隠しにあったとか」

 ルイが冗談ぽく言った。それをリンが鼻で笑う。

「ふん!笑えんな」

 リンと同じように僕も笑えなかった。

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inoinoです。

このエピソードを書いてるときに『溜息を吐きながら』という部分を変換したとき、『溜息を覇気ながら』と表示されました。

僕はそれを見てなんかすごそうだなと思いました!

以上です
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