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第11話 敵襲

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喊声かんせい
1.大勢で突撃をする時などにあげる、わめき叫ぶ声。
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 翌日、体を休めた僕は槍を持って外に出た。リンに言われてた通り、この槍に慣れるためである。リンはレナちゃんと一緒に出かけて行った。もしもに備えるため、避難所の確認と防衛ラインの構築のためである。この村の周りには柵と堀が設置してあるが、村全体は守りきれないと考えたのだろう。
 僕はお手本である父の棒裁きを思い出して、槍を構える。突きや払いを繰り返す。棒とは違い、槍は穂がついているため重心も変わる。僕はこの変化に慣れようと槍を振るった。
 リンは毎夜見回りに行ってくると出かけ、朝になると戻ってきていた。そしてまた防衛ラインの建設に行った。僕も槍の練習のために、外にでた。そのとき村人とすれ違うことがあるのだが、皆ピリピリしているようである。緊張感が高まっているのを感じた。
 そして僕がこの村に来て三日目の晩に事が起こった。寝静まった夜に鐘の鈍い音がガンガンと響く。

「敵襲だ!避難所に逃げろ!敵襲だ!避難所に逃げろ!」

 大声で叫んでいるようだ。この声は聞き覚えがある。確か村の入口で会ったロボスという名前の青年だったような…。きっと何かが来たのであろう。僕は急いで槍を準備し、今着ているTシャツとズボンで外に出た。そこには村長とレオナさんとレナちゃんがいた。

「仁様。起きられましたか。避難所に急ぎましょう。森に異変があるのはわかっておりましたから、仁様方が入ってこられた森方面の入口から避難所に向けて一定の間隔で篝火かがりびいております。避難所にも警戒のため篝火が焚かれておりますので、広く明るいところへ行けば着くでしょう」
「お父さん、私たちが先導するから大丈夫ですよ。仁様、私は父を背負っていきます。私も気をつけますが、レナがはぐれないように見ていてもらえませんか?」
「わかりました」

 僕は頷いてレナちゃんを見る。とても不安そうにしていて怯えているようだった。僕は彼女の目線に合うようにしゃがみ、手を差し出す。

「はぐれないように、ね。行こうか」
「うん…」

 僕はレナちゃんの手を取り、避難所に向かった。

 避難所に着くと、すでに多くの村の人々が集まっていた。大半の男たちは手に槍を持っている。少数だが弓が使える人もいるようだ。皆、警戒態勢を整えていた。そして動ける女性は男たちのサポートに回るようだ。僕はそこで何が来ているか知った。どうやら今この村を襲っているのはアンデットのゾンビだそうだ。そのゾンビがゆっくりとゆっくりとこの避難所に向かってきているらしい。
 レナちゃんをレオナさんに引き渡し、僕は避難所の防衛ラインの入口に戻る。リンには多少聞いていたが、どうやらここの防衛ラインは一つしかないようである。つまり、ここが最終防衛ラインというやつだろう。さすがにリンも数日しかないので、手広くはできなかったようだ。だがその代わり、ここは地形的に守りやすいようになっているらしい。避難所の裏には川が流れているし、森方面の村の入口から避難所に向けて緩やかな坂になっており、高所を獲得している。そこに補強した柵と深い堀を用意しているようだ。
 リンに聞いた作戦によると、僕とリン、そして村の男たちで役目が異なるようだ。僕とリンは正面から敵を狩る。正面は人が二人分通れるくらいの空間には柵がなく、そこから敵が入ってくるのでそこを蹴散らす。そして村の男たちは柵から敵が這い上がってこないようにする役目を担う。今回はタイミングが悪く、冒険者の援軍も期待できない。そのため、ただ守るだけではだめなのだ。体力があるうちに敵を殲滅するしかないのである。
 少しするとリンが入ってきた。彼女は僕を見つけると近づいてきた。

「村人の避難は完了したようじゃ。作戦通りにいくぞ。仁、覚悟はよいか?」
「良くはないけど、仕方ない。とにかく全力でやってみるよ」

 怖くないと言えば、噓になる。だがリンや村長やレオナさん、そしてレナちゃんを見捨てて逃げ出すことは僕にはできない。父の教えを活かしたこの槍をもって、向き合うしかないのである。

「ふふ、そうか。期待してるおるぞ。それと先ほど偵察してみたが、敵はゾンビだけのようじゃ。ゾンビ一体一体は大した事はないが、今回はその数が問題じゃ。夜で見通しにくかったが、儂が見た限り200はおる」
「200⁉」

 とても多い。この村の人口は約100人。戦えるものに限るともっと少なくなる。それに戦いに関しては素人だ。そしてゾンビはのろまだが、足並みは揃っている。おそらく雪崩のようにやってくるだろう。果たして大丈夫であろうか。

「大丈夫じゃ。そなたと儂がいれば」

 彼女は僕を安心させるように笑い、そう言った。そして真剣な顔になり、覚悟を持った目をした。その後すぐに村長が防衛ラインに村の男やそのサポートをする女性を集め、話し始めた。

「皆よく集まってくれた。今、村はとても危ない状態にある。森からゾンビが押し寄せ、我々を襲おうとしておる。我々は戦わなくてはならん。だが臆することはない。こうして敵を倒す準備は整った。そして我々には私が最も信頼する冒険者様がついておる。こちらのリン様じゃ」

 村長に呼ばれたリンは堂々とした態度で皆の前に姿を現した。そして全ての者に聞かせようと覇気のある声で喋り始めた。

「皆の者!儂は今回村長に任され、作戦の指揮をとる冒険者のリンじゃ。敵はゾンビ!数は多い。だが儂らが勝つ条件は簡単じゃ。ここを通さなければよい!儂らの後ろには避難所がある。避難所には家族がおる。それを忘れるな!儂らが彼らの砦となるのじゃ!」
「「「うぉぉぉぉぉおおおお!!」」」

 辺りに大きな喊声かんせいが響き渡った。彼女は村の男たちの士気を見事に上げたようだ。しかしリンの見た目は少女なのに指揮をとると言われ、よく反対の声があがらないものだ。だがもしかしたら、それも当然なのかもしれない。なんせ彼女は1年前一人の女の子を己の身も顧みず救ったのだ。その話がこの小さな村社会に広まっていてもおかしくはない。もし村長やレオナさんが広めていたら、リンのことはまさに神のごとく扱われているだろう。
 リンの紹介が終わり、それぞれが持ち場についた。戦いのときが近づいているのを感じる。篝火に照らされたゾンビたちが列を成して、避難所までの道を歩いている。そのゾンビたちの一歩一歩が時限爆弾の秒針そのもののようだ。僕は深呼吸をして強く、強く槍を握りしめるのだった。
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