上 下
70 / 84
第三章 悩める剣士との出会い

第59話 エルフの膝枕

しおりを挟む
 久しぶりに昔の夢を見た。
 ハルカに白いぬいぐるみをあげた時の夢だ。

 あのぬいぐるみはどうしたのだろうか?年頃になったハルカの部屋に入ることを控えていたため分からない。

 結婚が決まってから旦那さんと住むために引っ越していったハルカ。
 狭いと思っていた賃貸の住まいも、母さんが亡くなり、親父が行方不明、ハルカが結婚して出ていき、広く感じるようになった。

 夢の後半は良く覚えていない。
 結婚式に来ていた幼馴染のレイカが出てきたような気もするし、ハルカが俺の事を馬鹿にしていた気もする。

「ん・・・・・・」
「おはよう!ワタルの寝顔も可愛かったわ」
「ん?・・・ここは・・・」

 ゆっくりと焦点が俺を見つめている人物に合っていく。
 上から見つめている耳の長い白髪の人。歳の頃は20代後半ぐらいだろうか。
 下から見上げる形になっている俺は状況が理解できない。

「たまに女の子の膝枕もいいでしょ?」

 ガバッ!

「膝枕!?なんで!膝枕!?」
「お腹いっぱいになったら眠ってしまったのよ。だから膝枕してあげたの」

「す、す、す、すいませんでした!俺は初対面の人になんてことを!」

 急いで離れた俺は、その衝撃的な事実に90度の謝罪の礼をする。

「いいの気にしないで。私も久しぶりに若い子の頭を乗せられて嬉しかったわ」
「このお詫びは後ほど必ず!今はお金持ってないので・・・」
「うふふ・・・それじゃまた会ってくださる?」
「ええ。呼ばれれば必ず伺います!」
「良かった。手紙を出すわ」
「はい!それでは失礼します」

 ダダダダ!バタン!

「ふぅー焦った。後でちゃんと謝りに来ないと・・・」
「どうしたんですか?ワタルさん。そんなに慌てて」
「エルザさん!」
「一日商業ギルドマスターが何かご迷惑をかけたのかしら?」
「いえむしろ俺が迷惑をかけたと言うか・・・えっとウェンディは?」
「だいぶ前に起きて飛び出して行きましたよ。私の顔を見て・・・失礼な妖精です」

 俺がロードさんと会っている間、最初の部屋で寝ていたウェンディはどこかに行ったようだ。

「はい!これはあなたの商業ギルドのギルド証です。身分証にもなりますので大切にしてください」
「おお!これがギルド証・・・」
「これでワタルさんも無職卒業ですね!おめでとうございます」
「ありがとうございます。このギルド証・・・やけに光っていますね。これが普通なんですか?」

 エルザさんから貰ったギルド証は金色でピカピカしている。
 こんなに高そうだと盗まれそうだ。

「これは、商業ギルドがある街ならどこでも使えて、人頭税も無料になる最上級のギルド証です。これを持っていれば一目置かれる存在となるでしょう」
「は?俺はまだ何も仕事してないですが・・・普通ので良かったのに」
「駄目です。一番下のギルド証なんか渡したら私が一日商業ギルドマスターに怒られます。諦めてください」
「ロードさんはそんなに権力を持っているんですか?まぁエルザさんがそう言うなら持っていますけど・・・」

 結局ロードさんとは、ご飯を頂き、膝枕してもらっただけだ。
 俺は一体何をしに来たのだろうか?

「あと・・・これを渡しておきます。全部ではないですけど、ワタルさんの知りたいことが書いてあります」
「そうですか。ありがとうございます」

 エルザさんは手紙の入った封筒をくれた。ウェンディに見せたらまた気絶するな。

「最後に妖精とホイホイ契約するのは控えてください。すでにワタルさんは特別な存在であると自覚するようにお願いします」

 ニコッ

「は、はい。善処致します」

「それでは素敵な異世界ライフをお楽しみください」
「はい・・・あの親父が迷惑かけていると思うので謝っておきます。それからいつも助かってます。エルザさんもバカンスを楽しんしでください」
「はい。そうします」
「それでは失礼します」

 商業ギルドの建物を出ると、すでに日が暮れていた。手紙は屋敷に戻ってから確認しよう。それにしてもウェンディはどこにいったのだろうか?

 ・・・・・・・・・

「ワタルさんは行きましたよ。サツキ様」
「そう・・・無理言ってごめんなさいねエルザ。おかげでワタルと過ごす時間ができたわ」

 エルザが部屋に入ると、ロードことサツキは背を向けて去っていくワタルを見ていた。

「やっぱり母親は子供にたくさんの食事を与えるのですね」
「そうね・・・親は子供がお腹を減らしているのを見ると耐えられないものなのよ。エルザも子供ができればわかるわ」
「まだその予定はありませんが・・・」

「そうだ!私が食事係としてワタルについていこうかしら!それがいいわ!」
「駄目に決まってます!過保護も大概にしてください。伝説の聖女が同行したら国中がパニックなります」
「そ、そうね。ワタルの就職どころではなくなるわね」
「食事なら定期的に精霊馬車の収納ボックスに入れておきます」
「分かったわ・・・色々ありがとうエルザ・・・少し一人にしてくれる?」
「・・・はい」

 パタン!

 ・・・ウッ・・・ワタル元気で・・・

 扉を閉めたエルザの耳にサツキの嗚咽が聞こえてきた。

「まぁバカンスを返上する価値はあったかな・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

面白い、続きが気になるという方はいいねや感想を頂ければ嬉しいです♪

    
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

赤毛のアンナ 〜極光の巫女〜

桐乃 藍
ファンタジー
幼馴染の神代アンナと共に異世界に飛ばされた成瀬ユウキ。 彼が命の危機に陥る度に発動する[先読みの力]。 それは、終焉の巫女にしか使えないと伝えられる世界最強の力の一つだった。 世界の終わりとされる約束の日までに世界を救うため、ユウキとアンナの冒険が今、始まる! ※2020年8月17日に完結しました(*´꒳`*) 良かったら、お気に入り登録や感想を下さいませ^ ^ ------------------------------------------------------ ※各章毎に1枚以上挿絵を用意しています(★マーク)。 表紙も含めたイラストは全てinstagramで知り合ったyuki.yukineko様に依頼し、描いて頂いています。 (私のプロフィール欄のURLより、yuki.yukineko 様のインスタに飛べます。綺麗で素敵なイラストが沢山あるので、そちらの方もご覧になって下さい)

ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ
ファンタジー
 おっす! 俺エルドフィン!(声は野沢雅子じゃねぇぞ!)  ぼっち現代が虚無虚無ぷりんでサヨナラしたらファンタジーぽい世界の18歳に転生してた!  転生後の世界って飯は不味いわ、すぐ死ぬわ、娯楽も少ないわ、恋愛要素ないわ、風呂は入れないわで、全っ然つまんないし、別にチートキャラでもなく雑魚だし、いっそまた次に逝ってもいいかな、なんて思ってたんだけど、そんなモブ人生がどうも様子がおかしくなってきたゾっ!  プラチナブロンドの睫毛をキラキラさせて、可愛い瞳のワルキューレたんが俺に迫るのだ。 「やらぬのか? 契約は成された。我のすべては汝の思うがままだ」  えぇーっいいの?! やりますっ! やらせてくださいっ! やらいでかっ! 「人間と魔物の戦いが始まったくらいの昔の話、大戦争にうちの祖先が関わってたって言い伝えがある。魔剣も、その時の祖先が持ってたもので、神から貰った神器だって話なんだ」  顔に恐怖を貼り付けたイケメンも俺に迫るのだ。 「助けてくれ…」   おうっ! 任しとけっ相棒!! だがあえて言おうっBLはねぇっっ!  一度死んだくらいで人はそんなに変わりませんっ…デフォは愚痴愚痴、不平不満ディスり節を炸裂し続ける、成長曲線晩成型?のひねくれぼっちが異世界転生したらの物語。  イケメンホイホイ、ヒロイン体質?の主人公がスーパーハニーなワルキューレ達と大活躍?!  北欧神話と古代ノルウェーをモチーフにした、第四の壁ぶっ壊しまくりの壮大な冒険譚! ※ カクヨム、なろうにも掲載しています。カクヨムにはおまけストーリー・作成資料なども紹介してます☺️❤️   「カクヨム」「アオイソラ」でどぞ☆彡

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...