上 下
65 / 84
第三章 悩める剣士との出会い

第54話 港町

しおりを挟む
「うわー!すごーい!ひろーい!」
「ユキナちゃんは海を見るのは初めてなの?」
「うん。ずっとお城か森の中で遊んでたから」
「ユキナ!すごいわね!あっあそこで魚が跳ねたわ!飛んでいって捕まえてこようかしら!」

 小高い丘から海を見たユキナのテンションは最高潮となり、金色の瞳をキラキラしながら子供らしくはしゃいでいるのがわかる。

「あの・・・アドレーヌ様は街に出て大丈夫なんですか?」
「大丈夫ではありません。しかし、ユキナール様が街に出てみたいと言ったので、我々ではアドレーヌ様を止められません」
「そ、そうですか。なんかすみません」
「まぁわれわれ騎士団もおりますし、なんといっても妖精様が三人もいれば安心ですけど」
「一人は人族よりもはしゃいでいるけど」

 ユキナはトカリ村で貰った町娘風の服を着て、白い三角巾を巻いて白い髪を隠している。

 一方、アドレーヌ様も何故かユキナと同じ町娘スタイル。
 頭もユキナと同じ三角巾を被って金色の髪を隠している。

 後ろからみると年の離れた姉妹みたいだ。

 すっかり機嫌を直したユキナは、俺に街に出てみたいといってきた。
 まぁ変装すればなんとかなるかと思い、精霊馬車を幌馬車スタイルにして出かけようとした時、何故かアドレーヌ様が屋敷の門で待っていたのだ。

「あの・・・何をなさっているのですか?」
「あらあら・・・おかしなことを聞きますねワタル様。私がユキナちゃんに付いていくのは当たり前のことなのに・・・」
「いやそんな当然のように言われても。副団長さんは知っているのですか?」
「・・・・・・うふふ」
「笑って誤魔化しても駄目です」

 すでに馬車に乗り込んでしまったているアドレーヌ様を乗せて屋敷まで戻り、副団長ザックスさんに事情を説明。
 ドタバタと警備の準備を進め、今に至る。

「おーいそろそろ行こうぜ!」
「「はーい!」」

 なんか引率の先生みたい気分だな・・・ウェンディは俺より年上のはずだか・・・

 ガタゴト・・・ガタゴト・・・

 やがて馬車は街の中心までやってきた。少し開けた広場に大きな石像が2体あるのが見える。
 その石像の周りは人々が行き交い、たくさんの露店が出ていて、ワイワイと賑わっている声が聞こえてきた。

 右側の一体は、無骨な剣を腰に佩いた鎧姿。肩には妖精を乗せて上を空を見上げている。

「あれが英雄ザリオンなのかノーミー?」
「だいぶ美化されてるけどそのようね。私は全然似てないけど」
「アハハ!そっくりじゃないノーミー。特に無愛想な感じが・・・」
「まだ、縛られた事を根に持っているのねウェンディ?案外ネチネチ系なのかな」
「一体お前ら何があったんだ?・・・んーともう一体は誰だ?」

 英雄ザリオンの横で笑っている長髪のイケメンの像はローブ姿。左手には立派な杖を持っている。歳の頃は20歳くらいだろうか?

「どう見ても勇者ガンテツ様じゃない?お父様の顔を忘れたの?」
「はぁ?何を言っているんだウェンディ?あれのどこが親父なんだ?」
「石像より格好いいって言いたいの?本物の姿を知っているワタルは認められないのね・・・でもこの石像のガンテツ様はこの世界では誰もが知っているお姿よ」
「・・・いや違くて」
「ワタルがガンテツ様の息子だなんて今でも信じられないわ・・・少しでも似ていればモテたのに残念ね」

「・・・・・・・・・」

 あれが親父だって?こんなロン毛のイケメンは断じて親父などではない。
 俺の知っている親父は、短髪で頭にタオルを巻き、岩のような顔でトラックを運転しているような奴だぞ!

 異世界転移した時に、顔を変えてもらったのか?転生者が女神特典でイケメンにしてもらうなんてラノベ設定でよくあることだ。

 それとも親父の姿を知らない第三者が想像した姿を後世に伝えたのか?
 しかし、精魔大戦を共に戦い、親父の姿をを知っているノーミーも認めているし・・・どうなってんだ?

「あの・・・ワタル・・・なんかごめんねそんなに落ち込むなんて・・・まぁワタルもよく見れば格好良くも見えなくもないし、一部の人にはモテると思うわよ」
「ウェンディ・・・慰めているのか、けなしているのかハッキリしてくれ」
「一部の人ね~フフフ・・・」

 ウェンディは俺が黙り込んでしまったため、よほどショックを受けたのだと思ったのだろう、彼女なりに慰めているつもりらしい。
 そんな様子をノーミーはニマニマしてみている。

「お兄ちゃんどうしたの?怖い顔して」
「ユキナ・・・この世は不思議がいっぱいだ」
「???」
「何でも無いよ・・・俺の理解が追いつかないだけだ」

 御者台で喋っていた俺に、馬車の窓を開けてユキナが話しかけてきた。
 心配そうな顔で見ているユキナに優しく笑ってあげた。

 まぁ考えても答えが出ないので、一行はレストランに入り食事をすることにした。

「えっとこんな所に入って大丈夫なんですか?俺たちはお金ないですよ」
「ここは王家御用達のレストランです。個室も用意しています。お金の心配はしないでください」

 別に食事をする予定はなかったが、アドレーヌ様が是非ユキナにシップブリッジの名物を食べてほしいと案内されたのは、明らかに庶民が入るような食堂なんかではない。

 給仕さんが一つ一つ料理を運んでくれるコース料理を堪能する俺たち。

 アサリのような貝のスープは出汁がよく出ており、大きなエビを焼いて良く分からないソースをかけたものは、日本人の口に良く合っている。

「ここは、勇者ガンテツ様もお気に入りのレストランでしたよ」
「そ、そうですか」

 ボソッ
「親父のヤツ贅沢しやがって」

 親父が転生したのは俺が生まれる前のことだが、こんな美味いものを食べていたなんてどうなんているんだ?

 そんな事を思いながら、シップブリッジの港町の観光は終了したのであった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

面白い、続きが気になるという方はいいねや感想を頂ければ嬉しいです♪


















しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

#歌は世界を救う?~異世界おっさん探訪記~

takashi4649
ファンタジー
ちょっとブラックな会社に勤めている伊紗歌 慧(33) いつも通り録り溜めたアニメを見て、自分の部屋で寝たはずが…… ……起きたらそこは、深い森の中だった。 森の中で寂しくなり、ついつい歌を口ずさむと精霊たちに囲まれる! 話を聞くと、どうやらこの世界はほぼ音痴しか居らず 精霊たちは歌に餓えているとの事らしい。 いっちょおっさん一肌脱ぐしかない? 特にちぃと能力の無いおっさんが行く、ゆるうた異世界探訪記 果たしておっさんの行く末は如何に? 1話の文章量を少なくしておりますので、いつでもお手軽にスナック感覚で楽しんで戴けたら幸いです。

赤毛のアンナ 〜極光の巫女〜

桐乃 藍
ファンタジー
幼馴染の神代アンナと共に異世界に飛ばされた成瀬ユウキ。 彼が命の危機に陥る度に発動する[先読みの力]。 それは、終焉の巫女にしか使えないと伝えられる世界最強の力の一つだった。 世界の終わりとされる約束の日までに世界を救うため、ユウキとアンナの冒険が今、始まる! ※2020年8月17日に完結しました(*´꒳`*) 良かったら、お気に入り登録や感想を下さいませ^ ^ ------------------------------------------------------ ※各章毎に1枚以上挿絵を用意しています(★マーク)。 表紙も含めたイラストは全てinstagramで知り合ったyuki.yukineko様に依頼し、描いて頂いています。 (私のプロフィール欄のURLより、yuki.yukineko 様のインスタに飛べます。綺麗で素敵なイラストが沢山あるので、そちらの方もご覧になって下さい)

ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ
ファンタジー
 おっす! 俺エルドフィン!(声は野沢雅子じゃねぇぞ!)  ぼっち現代が虚無虚無ぷりんでサヨナラしたらファンタジーぽい世界の18歳に転生してた!  転生後の世界って飯は不味いわ、すぐ死ぬわ、娯楽も少ないわ、恋愛要素ないわ、風呂は入れないわで、全っ然つまんないし、別にチートキャラでもなく雑魚だし、いっそまた次に逝ってもいいかな、なんて思ってたんだけど、そんなモブ人生がどうも様子がおかしくなってきたゾっ!  プラチナブロンドの睫毛をキラキラさせて、可愛い瞳のワルキューレたんが俺に迫るのだ。 「やらぬのか? 契約は成された。我のすべては汝の思うがままだ」  えぇーっいいの?! やりますっ! やらせてくださいっ! やらいでかっ! 「人間と魔物の戦いが始まったくらいの昔の話、大戦争にうちの祖先が関わってたって言い伝えがある。魔剣も、その時の祖先が持ってたもので、神から貰った神器だって話なんだ」  顔に恐怖を貼り付けたイケメンも俺に迫るのだ。 「助けてくれ…」   おうっ! 任しとけっ相棒!! だがあえて言おうっBLはねぇっっ!  一度死んだくらいで人はそんなに変わりませんっ…デフォは愚痴愚痴、不平不満ディスり節を炸裂し続ける、成長曲線晩成型?のひねくれぼっちが異世界転生したらの物語。  イケメンホイホイ、ヒロイン体質?の主人公がスーパーハニーなワルキューレ達と大活躍?!  北欧神話と古代ノルウェーをモチーフにした、第四の壁ぶっ壊しまくりの壮大な冒険譚! ※ カクヨム、なろうにも掲載しています。カクヨムにはおまけストーリー・作成資料なども紹介してます☺️❤️   「カクヨム」「アオイソラ」でどぞ☆彡

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

処理中です...