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第三章 悩める剣士との出会い

第47話 予行練習

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 ザックス視点

「ロイヤル仮面・・・」

 格好はどうあれ我々の危機を助けてくれた恩人に間違いない。
 あの黒ずくめの男を一撃で吹き飛ばしたのだ相当の剣の使い手だろう。
 しかし・・・

「なぜ木剣だったんだ?」

 実際の斬撃は見てないが、仮面の人物が去り際にチラリと見えた剣は木剣だった。
 ありえなくはないが、やけに気になる。
「修行のためか・・・そういう主義なのか・・・まぁ考えても仕方ないか」

「怪我をした兵士の様子はどうなのですか?」

 一人で考えていた俺に姫様が聞いてきた。おてんばだが家臣を思いやる優しい人お人だ。

「ハッ!重症者が1名おりますが、他は軽症です。仮面の人物が助けてくれなければ、もっとけが人が増えていた思います」
「そう・・・怪我の手当をしてあげて・・・こっちはもう駄目かしら・・・」

 姫様はご自分が乗っていた馬車を残念そうに見た。

 敵の魔法の弾丸が車輪に当たり、軸が折れているのが確認できた。修理するにしても相当時間がかかるだろう。

「部下を何名かシップブリッジへ派遣して替えの馬車を用意させましょう」
「お願いするわ」
「各員周囲の警戒に当たれ!また襲撃がある可能性もある」
「ハッ!」

 ・・・・・・・・・

 アドレーヌ一行が黒ずくめの集団に襲われる少し前。ワタルたちが小さな森の中にいた。

「おに・・・ワ、ワタル・・・お水をいただけるかしら?」
「はい。姫様!こちらをどうぞ」
 俺は水の幼霊に水を出させてユキナに渡す。

「ワ、ワタル・・・梨が食べたいわ」
「はいただいま!」
「あーん」
「姫様それは・・・」
「あーん」
「仕方ありませんね・・・」
 俺はユキナに梨を食べさせる。

 今、俺たちはロイヤルパワー大作戦の予行練習をしている。決してユキナが幼児退行したわけではない。

 貴族馬車に乗り、王族衣装を身にまとい、ティアラを付けたユキナは神々しいまでに美しく、気品あふれる姿でロイヤルパワー全開だ。

 一方俺はユキナに浄化のブレスで服をきれいにしてもらいユキナ姫の前に座っている。

「ユキナは王族だからなんとかなるけど、問題はワタルね。全然従者に見えないわ!」

 ウェンディが的確な指摘をするが、そんなもんやったことがない。
 そもそも従者ってなんだ?
 姫様のワガママを聞く奴隷みたいなものか?
 ホストみたいに振る舞えばいいのかな。

 とりあえず練習してみるかということで、ユキナのわがままを聞いている最中だ。

(これは最高・・・お兄ちゃんがなんでも言うことを聞いてくれる・・・ずっと王族衣装でいようかな)

 ん?なんかユキナがニマニマしているな。真剣に取り組んで欲しいものだ。

「ワタル・・・梨ちょうだい!」
「自分でやれ」
「・・・・・・」

「ワタル・・・私を褒めなさい」
「やだよ」
「・・・・・・」

 ウェンディは俺とユキナの様子を見ていると突然、以前作った花の冠を頭に乗せ、俺に命令してきた。

「なんでやってくれないのよーー!!」
「ウェンディは姫様じゃないだろ!」
「私だってわがまま聞いてほしいのよ!」
「しらねーよ!姫様扱いして欲しいならもっとお淑やかにしてろ!」
「なんですって!!」

「アハハハハハ!やっぱりあなたたち最高だわ!」
 ノーミーは俺たちやりとりを見て腹を抱えて笑っていた。

 ・・・・・・・・・

 キンッ!キンッ!
「姫様を守れ!」

 ん?遠くの方で何かやっているのか?
 突然聞こえてきた甲高い音や叫び声が響いている。誰かが争ってあるのだろうか?

「おいみんな!なんかあそこで争っているみたいだぞ!」
「あらあら・・・盗賊かしら?」
「そうね~貴族が襲われているみたいね」

 盗賊だと!?
 ノーミーは呑気に盗賊と言ったが、めちゃくちゃ怖い。平和な日本で暮らしてきた俺にとって、魔獣よりも恐ろしい言葉だ。

「ん?なんだあれ?新手か?」

 俺がどうしようか悩んでいると、襲われている馬車に乗っていた黒い服を着た男がふっ飛ばされた。

 そして、吹っ飛ばした人物はおかしな格好をしている。茶色のマントを目深に被り、仮面をつけていたのだ。
 剣を振り抜いた格好のまま、黒い服の男の方を見ている。

「何あれ?カッコいいぞ!」
「ワタルはあんなのがいいの?」
「ああ、実はすごく強いけど誰にも正体が分からない設定に憧れる」
「あっそう・・・よくわからないわ」
「ん?でもあれはどこかで見たような・・・」

 そうこうしているうちに黒ずくめの集団は逃げていき、戦いは終わったようだ。仮面マンも風のように去っていく。

「えっと・・・なんか終わったようだし、そばに行ってみるか?」
「ユキナは馬車にいなさい!」
「えー!私も見たい!」
「安全が確認できたら窓からこっそり見てくれ。さすがにその格好では目立つ」
「むぅーわかった」

 ガタゴト・・・ガタゴト・・・

 恐る恐る集団が争っていた場所に近寄る精霊馬車。

「おう!マジモンの騎士だ」

 馬車を守るように固まっている騎士たちがハッキリ見えてきた。
 銀色の鎧に青の線が入った鎧を身に着け、腰には剣をつけている。あんなので切られたら死ぬな。

 バキバキに壊れた馬車の中に女性が数人確認できた。
 皆怯えていて、数人で抱き合っている。よほど怖かったようだ。

「あのー大丈夫ですか?」

 チラッと足を押さえながらうずくまる騎士の姿が見えた時、俺は思わず声をかけてしまった。足が変な方向に曲がっており、痛そうだ・・・

 ボソッ
「ちょっとワタルなに話かけてんのよ」
「だって怪我してる人がいるだぞ。ほっとけないだろ・・・」

「失礼かと存じますが、白竜族のホワイト家の方で間違いないでしょうか?」
「へ?」

 壊れた馬車の中からキレイなドレスを着た金髪の美人がゆっくり姿を現し、俺達に話しかけてきた。

 始まってもいないロイヤルパワー大作戦の終了のお知らせかもしれない・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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