上 下
25 / 84
第二章 小さな白竜との出会い

第22話 妖精の噂は光の如く

しおりを挟む
 ヒソヒソ

「ねぇねぇ聞いた」
「うん。ウェンディがエアロ様に呼ばれたんでしょ?」
「そうそう。またお説教でしょ」
「たぶんね~人族にお節介掛けたらしいよ。無理やり人族の男女をくっつけるために、風を起こすつもりが竜巻起こしたんですって」

「なにそれ~ウケる~」
「それで、人族の男を吹き飛ばしたらしいよ。」
「あはは~!そりゃエアロ様に怒られるわ」
 今日も妖精たちの噂話は止まらない。

 ここは、ミルフィーユ王国にある風の神殿。
 石造りの大きな柱に風を模したレリーフが彫られている。
 そこは心地よい風が吹いており、花びらが舞い散る場所。まさに神聖な雰囲気の中を多くの風の妖精や幼霊が行き交っっている。

 ミルフィーユ王国では風の精霊エアロ、木の精霊ドリュアスが広く信仰されており、その象徴の一つである風の神殿の中心にはエアロの像が鎮座し国民を見守っていた。

 神殿の階段を降りた先には礼拝堂があり、多くの信徒が訪れている。

「いつも風の精霊様はあなた方を見守ってくださっております。いい加減な噂などに惑わされず、風の導きの元、正しい行いをしましょう」
 風の神殿の神官は、訪れた信徒に説教をしているのはこの国の日常的な風景となっている。

 ・・・・・・・・・

「ねぇねぇ聞いた。」
「聞いた聞いた。ウェンディが人族にくっついて何かしてるんでしょ?」
「・・・あなた何でも知ってるのね」
「風の幼霊が見たって言ってたのよ。どういうことだと思う?」
「それはね!」

 二人の妖精に割り込んで来たのは、自称事情通として知られる別の妖精だ。

「出たわね自称事情通!」
「私の友達の知り合いの幼霊が見た話によると・・・」
「もはや他人じゃない」
「ウェンディと男の人族が、一緒に旅をしているらしいわ」
「へぇ~。エアロ様のご命令かしら?それとも彼氏なんじゃ・・・」
「「まさかね~!」」

 ニヤリ
「・・・ほほう。たまには神殿に来てみるべきね。特ダネの予感・・・」
 楽しそうに話している3人の妖精を柱の陰から盗み聞きしている怪しい影が呟いた。

 ・・・・・・・・・

 アトランティスにいる妖精は人族に執着することは少ない。

 人族とは寿命が違いすぎるため、たとえ妖精が興味を示しても一瞬(妖精基準)で死んでしまうのを知っているからだ。

 しかし、風の妖精は比較的人族に興味を持っているのは良く知られている。このいたずら好きの妖精は、人族にちょっかいをかけては面白がっているからだ。
 人族の間で急に風が吹くと風の妖精がいたずらしているなんて話をよく耳にする。

 自然と人族に伝わるおとぎ話には、よく風の妖精が出てくるので5大精霊の中で最も親しみやすい妖精と言えるだろう。

 そんな風の妖精がいたずらの次に好きなのが噂話。
(どこそこの国の王子は実はあの子が好き、あの町娘の本命は本当は違う人などなど)
 その人個人ではなく、まるでテレビドラマやエンターテイメントを楽しんでいる感覚で噂話をしている。

 五大精霊と勇者ガンテツが契約を結び、黒の精霊を封印したのは有名な伝説だが、ガンテツが地球に帰ったあとも、五大精霊それぞれとガンテツとの馴れ初めや契約を交わした時のセリフなど妖精たちが勝手に話を作り、盛りがっている始末。

 そんな妖精たちの間で、身内とも言えるウェンディが人族の男と何やら行動を一緒にしているなど格好のネタである。

 風の妖精の中では最年少にあたるウェンディ。まだ、人族の恋というのがわからない妖精の行方に風の妖精界が注目し始めていた。

「きっと美形のエルフの男よ。あの子好きそうだもの」
「いやいや、劇の俳優と見たね。ウェンディは良く王都の劇場に行っているの知ってるんだから」

 ニヤリ
「まずは情報収集からね。どこにいるのかしらウェンディ」

 妖精の噂話は尽きることがない。

 ・・・・・・・・・

 そんな状況になっている事など知らないワタルたちは、相変わらず森の中の街道を進んでいた。

 ゴトゴト

 精霊馬車は今日も快調だ。
 契約精霊の馬が普通の馬と同じく不調になるか分からないが、機嫌は良さそうで安心する。
「ああうまい。タンパク質が身にしみる」
「私は梨があればいいわ」

 ベアフからナッシーウッドの梨のお礼にもらった干し肉をかじりながら御者台に座っている俺は、久しぶりの肉に感激していた。
 ウェンディにも干し肉を勧めたが、梨がお気に入りのようだ。

「・・・ベアフにこの国のことを教わったが、本来はウェンディが俺に教えるべきだと思うぞ」
「何言ってるのよ。魔法の使い方とか教えているじゃない」
「俺は、この世界で仕事を探すんだぞ。通貨とか細かい地理とかのほうが重要じゃないか」
「そういうのは自分で聞いたり調べたりしなさい。なんでも教えたら良くないってエアロ様が言っていたわ」
「・・・・・・そうですか」
 俺のサポートするんじゃなかったのかウェンディ。

「へくちっ!」
「どうした?風邪か?」
 突然くしゃみをしたウェンディに声を掛ける。
「・・・妖精が人族の病気になるわけないでしょ。でも寒気がしたわ。何かしら?」
「わからん。今日はこのへんで休むか」
「そうね」

俺たち旅は続く。














しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ステータス999でカンスト最強転移したけどHP10と最低ダメージ保障1の世界でスローライフが送れません!

矢立まほろ
ファンタジー
 大学を卒業してサラリーマンとして働いていた田口エイタ。  彼は来る日も来る日も仕事仕事仕事と、社蓄人生真っ只中の自分に辟易していた。  そんな時、不慮の事故に巻き込まれてしまう。  目を覚ますとそこはまったく知らない異世界だった。  転生と同時に手に入れた最強のステータス。雑魚敵を圧倒的力で葬りさるその強力さに感動し、近頃流行の『異世界でスローライフ生活』を送れるものと思っていたエイタ。  しかし、そこには大きな罠が隠されていた。  ステータスは最強だが、HP上限はまさかのたった10。  それなのに、どんな攻撃を受けてもダメージの最低保証は1。  どれだけ最強でも、たった十回殴られただけで死ぬ謎のハードモードな世界であることが発覚する。おまけに、自分の命を狙ってくる少女まで現れて――。  それでも最強ステータスを活かして念願のスローライフ生活を送りたいエイタ。  果たして彼は、右も左もわからない異世界で、夢をかなえることができるのか。  可能な限りシリアスを排除した超コメディ異世界転移生活、はじまります。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ
ファンタジー
 おっす! 俺エルドフィン!(声は野沢雅子じゃねぇぞ!)  ぼっち現代が虚無虚無ぷりんでサヨナラしたらファンタジーぽい世界の18歳に転生してた!  転生後の世界って飯は不味いわ、すぐ死ぬわ、娯楽も少ないわ、恋愛要素ないわ、風呂は入れないわで、全っ然つまんないし、別にチートキャラでもなく雑魚だし、いっそまた次に逝ってもいいかな、なんて思ってたんだけど、そんなモブ人生がどうも様子がおかしくなってきたゾっ!  プラチナブロンドの睫毛をキラキラさせて、可愛い瞳のワルキューレたんが俺に迫るのだ。 「やらぬのか? 契約は成された。我のすべては汝の思うがままだ」  えぇーっいいの?! やりますっ! やらせてくださいっ! やらいでかっ! 「人間と魔物の戦いが始まったくらいの昔の話、大戦争にうちの祖先が関わってたって言い伝えがある。魔剣も、その時の祖先が持ってたもので、神から貰った神器だって話なんだ」  顔に恐怖を貼り付けたイケメンも俺に迫るのだ。 「助けてくれ…」   おうっ! 任しとけっ相棒!! だがあえて言おうっBLはねぇっっ!  一度死んだくらいで人はそんなに変わりませんっ…デフォは愚痴愚痴、不平不満ディスり節を炸裂し続ける、成長曲線晩成型?のひねくれぼっちが異世界転生したらの物語。  イケメンホイホイ、ヒロイン体質?の主人公がスーパーハニーなワルキューレ達と大活躍?!  北欧神話と古代ノルウェーをモチーフにした、第四の壁ぶっ壊しまくりの壮大な冒険譚! ※ カクヨム、なろうにも掲載しています。カクヨムにはおまけストーリー・作成資料なども紹介してます☺️❤️   「カクヨム」「アオイソラ」でどぞ☆彡

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

処理中です...