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第二章 小さな白竜との出会い
閑話 サツキのお願い
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カツーン
カツーン
一歩歩く度に鳴り響く靴の音。
音の反響からしてかなりの広さの建物だ。
けして悪趣味ではない調度品が並んでいる通路を歩いていると、この建物の主人は権力を財力で誇示しようとはしていないのがわかる。
「時の魔城」
かつてそう呼ばれていた城の中を歩く二人の影が月明かりに照らされて伸びている。
100年前の精魔大戦の時には、執事をはじめ多くの使用人が行き交っていた魔城も、今では一人の城守が管理しているのみだ。
やがて、二人の人物は大きな扉の前に立った。
時を表す砂時計のレリーフの周りに、幾何学模様が並んだ巨大な扉が存在感を放っている。
ギギギギ
扉を開け放つと、僅かな埃が月明かりに照らされてチラチラと舞った。
まるで霊廟のようなその場所は外の世界とは隔絶された雰囲気を持っていた。
「元気そうね」
「まぁ時は止まってますからね」
砂時計の文様が彫ってある台座の上に寝かされている人物を見て、サツキは声を掛けた。
エルザは、当たり前の事を口にする。
寝かされている人物の周りには5つの鎖が付いた杭が建っており、その鎖がその人物の手足を繋ぎ止めている。
「黒の精霊 クロノス クロック」
100前の聖魔大戦の時に、世界の敵としてガンテツたちに封印された精霊。
空間の精霊ディナールとともにアトランティスを治めた女神の一柱は、静かに目を瞑って眠っている。
12~13歳位に見える少女のようなクロノスは真っ黒だったドレスの半分ほどが白に染まっている。
「でも、良かった。ワタルの転生の影響はないみたい」
「そうみたいですね。時空結界に綻びは見当たりません」
「もう、ガンテツったら無茶するんだから・・・」
本来、魂が他の世界に転生する時は、肉体と記憶をリセットする必要がある。
そのままだと、世界の法則を無視することになり、予測不可能な事態が引き起こしかねないからだ。
肉体と記憶を持ったまま転生したガンテツやワタルは極めてイレギュラーな存在と言えるのだ。
サツキとエルザはアトランティスの管理者代行として、かつて封印されたクロノスの様子を見にきていた。
「また、来ますね」
サツキは優しい目でクロノスが封印されている結界に手を触れた。
「ゆっくりお休みくださいお祖母様」
「それではいきましょう」
エルザに促され、その場をあとにした二人。誰もいなくなった霊廟にはクロノスに寄り添うように黒い幼霊が漂っていた。
「それにしてもワタル様に会われなくて良かったのですか?きっとお喜びになると思いますよ」
「私だってワタルに会って抱きしめたいわ・・・」
サツキは月を見つめてつぶやく。
「それなら今すぐにでも・・・」
「でもね。ワタルにとって私は死んだ人間。本来はいない人物なのよ。今会ったら混乱するでしょ?」
「・・・そうですか」
子供に会って抱きしめたい。母親として当然のことだ。
「さて、エルザに頼み事があるんだけどいいかしら?」
「な、なんですか?急に」
「ワタルに色々この世界のことを説明してあげてほしいの。それとアトランティスでサポートをしてあげて」
「まぁそのくらいなら良いですよ」
とんでもない事を要求されることを覚悟していたエルザはほっと胸をなでおろす。
「まぁ嬉しい!持つべきものは優秀な部下ね。でもね、ワタルに手を出すのはだめよ!あなたは彼氏がいるんだから」
「出さねーよ・・・ゴホン。そんな事しませんよ」
「略奪愛は、それはそれで燃えるけど、ワタルには普通に恋愛してほしいの」
「・・・そうですか」
「それが落ち着いたら休暇をあげるから旅行にでも行ってきなさいな」
「・・・はぁ。ありがとうございます・・・」
カツーン
カツーン
二人の影が廊下に伸びていった。
・・・・・・・・・
「みーつけた。こんなところにいたのねアマちゃん」
「ゲッ!サツキかえ?」
「私の世界に逃げるなんて良い度胸ね」
「逆に見つからないと思ったのじゃ」
アトランティスの管理者代行のサツキが地球の管理者アマテラスを見つけたのは、ミルフィーユ王国の南に位置する誰もいない海岸。
普段誰もいないこの場所に、ビーチパラソルを広げ、サングラスをしながらくつろいでいるところに声をかけられた。
「要件は知ってるでしょ?」
「だめじゃだめじゃ。魂を戻すなど許ん!」
「それは、分かっているわ。だからね」
「な、何じゃ」
サツキの願いはワタルの魂を地球に戻すこと。そう思っていたアマテラスは訝しげにサツキを見た。
「少し転生させる前に時間を欲しいの。ハルカ・・・妹と話す時間を与えて欲しいのよ」
「しかしのぉ~お主の息子だけ特別扱いにするのは・・・」
「・・・ふぅ~。あなたの部下のオオクニ君はへんな女に付きまとわれているそうじゃない?」
「何じゃ突然。確かに別の世界の管理者の女が毎日来ておる。お陰で仕事が進まん。あれはストーカーというやつじゃ」
「その女のせいでうちの可愛い部下のエルザとの仲がおかしくなってるのよ」
「ほ、ほう。それはお気の毒にの~」
話が見えないアマテラスは困惑する。
「それをね。五大精霊たちが心配しててね。どうにかしてやろうって言ってるのよ」
「ほ、ほんとかえ。それは助かる・・・っは!」
「だ・か・ら・・・ね」
「わ、分かったのじゃ。ただし、本人の希望を優先するぞえ。そのまま死を望むなら、わらわらが転生させるゆえ」
「まぁ!ありがとう。アマちゃんならわかってくれると思った」
・・・・・・・・・
「恐ろしい女じゃサツキ」
一人海岸に残されたアマテラスがつぶやく。
・・・・・・・・・
「さて、ワタルはどんな選択をするのかしら」
息子のためなら、世界の法則を捻じ曲げる女。それが七星サツキであった。
カツーン
一歩歩く度に鳴り響く靴の音。
音の反響からしてかなりの広さの建物だ。
けして悪趣味ではない調度品が並んでいる通路を歩いていると、この建物の主人は権力を財力で誇示しようとはしていないのがわかる。
「時の魔城」
かつてそう呼ばれていた城の中を歩く二人の影が月明かりに照らされて伸びている。
100年前の精魔大戦の時には、執事をはじめ多くの使用人が行き交っていた魔城も、今では一人の城守が管理しているのみだ。
やがて、二人の人物は大きな扉の前に立った。
時を表す砂時計のレリーフの周りに、幾何学模様が並んだ巨大な扉が存在感を放っている。
ギギギギ
扉を開け放つと、僅かな埃が月明かりに照らされてチラチラと舞った。
まるで霊廟のようなその場所は外の世界とは隔絶された雰囲気を持っていた。
「元気そうね」
「まぁ時は止まってますからね」
砂時計の文様が彫ってある台座の上に寝かされている人物を見て、サツキは声を掛けた。
エルザは、当たり前の事を口にする。
寝かされている人物の周りには5つの鎖が付いた杭が建っており、その鎖がその人物の手足を繋ぎ止めている。
「黒の精霊 クロノス クロック」
100前の聖魔大戦の時に、世界の敵としてガンテツたちに封印された精霊。
空間の精霊ディナールとともにアトランティスを治めた女神の一柱は、静かに目を瞑って眠っている。
12~13歳位に見える少女のようなクロノスは真っ黒だったドレスの半分ほどが白に染まっている。
「でも、良かった。ワタルの転生の影響はないみたい」
「そうみたいですね。時空結界に綻びは見当たりません」
「もう、ガンテツったら無茶するんだから・・・」
本来、魂が他の世界に転生する時は、肉体と記憶をリセットする必要がある。
そのままだと、世界の法則を無視することになり、予測不可能な事態が引き起こしかねないからだ。
肉体と記憶を持ったまま転生したガンテツやワタルは極めてイレギュラーな存在と言えるのだ。
サツキとエルザはアトランティスの管理者代行として、かつて封印されたクロノスの様子を見にきていた。
「また、来ますね」
サツキは優しい目でクロノスが封印されている結界に手を触れた。
「ゆっくりお休みくださいお祖母様」
「それではいきましょう」
エルザに促され、その場をあとにした二人。誰もいなくなった霊廟にはクロノスに寄り添うように黒い幼霊が漂っていた。
「それにしてもワタル様に会われなくて良かったのですか?きっとお喜びになると思いますよ」
「私だってワタルに会って抱きしめたいわ・・・」
サツキは月を見つめてつぶやく。
「それなら今すぐにでも・・・」
「でもね。ワタルにとって私は死んだ人間。本来はいない人物なのよ。今会ったら混乱するでしょ?」
「・・・そうですか」
子供に会って抱きしめたい。母親として当然のことだ。
「さて、エルザに頼み事があるんだけどいいかしら?」
「な、なんですか?急に」
「ワタルに色々この世界のことを説明してあげてほしいの。それとアトランティスでサポートをしてあげて」
「まぁそのくらいなら良いですよ」
とんでもない事を要求されることを覚悟していたエルザはほっと胸をなでおろす。
「まぁ嬉しい!持つべきものは優秀な部下ね。でもね、ワタルに手を出すのはだめよ!あなたは彼氏がいるんだから」
「出さねーよ・・・ゴホン。そんな事しませんよ」
「略奪愛は、それはそれで燃えるけど、ワタルには普通に恋愛してほしいの」
「・・・そうですか」
「それが落ち着いたら休暇をあげるから旅行にでも行ってきなさいな」
「・・・はぁ。ありがとうございます・・・」
カツーン
カツーン
二人の影が廊下に伸びていった。
・・・・・・・・・
「みーつけた。こんなところにいたのねアマちゃん」
「ゲッ!サツキかえ?」
「私の世界に逃げるなんて良い度胸ね」
「逆に見つからないと思ったのじゃ」
アトランティスの管理者代行のサツキが地球の管理者アマテラスを見つけたのは、ミルフィーユ王国の南に位置する誰もいない海岸。
普段誰もいないこの場所に、ビーチパラソルを広げ、サングラスをしながらくつろいでいるところに声をかけられた。
「要件は知ってるでしょ?」
「だめじゃだめじゃ。魂を戻すなど許ん!」
「それは、分かっているわ。だからね」
「な、何じゃ」
サツキの願いはワタルの魂を地球に戻すこと。そう思っていたアマテラスは訝しげにサツキを見た。
「少し転生させる前に時間を欲しいの。ハルカ・・・妹と話す時間を与えて欲しいのよ」
「しかしのぉ~お主の息子だけ特別扱いにするのは・・・」
「・・・ふぅ~。あなたの部下のオオクニ君はへんな女に付きまとわれているそうじゃない?」
「何じゃ突然。確かに別の世界の管理者の女が毎日来ておる。お陰で仕事が進まん。あれはストーカーというやつじゃ」
「その女のせいでうちの可愛い部下のエルザとの仲がおかしくなってるのよ」
「ほ、ほう。それはお気の毒にの~」
話が見えないアマテラスは困惑する。
「それをね。五大精霊たちが心配しててね。どうにかしてやろうって言ってるのよ」
「ほ、ほんとかえ。それは助かる・・・っは!」
「だ・か・ら・・・ね」
「わ、分かったのじゃ。ただし、本人の希望を優先するぞえ。そのまま死を望むなら、わらわらが転生させるゆえ」
「まぁ!ありがとう。アマちゃんならわかってくれると思った」
・・・・・・・・・
「恐ろしい女じゃサツキ」
一人海岸に残されたアマテラスがつぶやく。
・・・・・・・・・
「さて、ワタルはどんな選択をするのかしら」
息子のためなら、世界の法則を捻じ曲げる女。それが七星サツキであった。
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