上 下
11 / 84
第一章 妹との別れ、妖精との出会い

第10話 親父からのメッセージ

しおりを挟む
「こんなものでどうしろと?」
 突然目の前に現れた荷台と木馬を前に呟く。

 俺がウェンディに風魔法でふっ飛ばされた時に折れた木々の空間にそれは鎮座していた。
「これは・・・何かな?ウェンディさん?」
「これは何かしら?ワタル?」

 木でできた荷台は全長3メートル、横幅2メートルほど。4つの車輪が付いており、こちらも木製のようだ。まさにこれで何かを運んで下さいと言っているような物だ。
 荷台の先端には御者台がついている。

 一方、存在感を放っているのが木馬だ。
 大きさは、以前付き合いで同僚の佐々木と行った競馬場で見たサラブレットよりも一回り小さい。
 全体的に黒っぽい茶色で見たまんまの木馬だ。全く動かないので巨大な置物みたいで不気味。

「・・・馬車みたいね。動かないけど」
「・・・みたいだな。ウェンディ、触ってみろよ。きっとこれは、ウェンディへの贈り物だ」
「なんで私なのよ!あなたが触りなさいよ!」
 危険物には、「近づかない、触らない、匂いを嗅がない」が鉄則だ。まして、異世界だから慎重になるのは仕方ない。

「ウェンディはもしあの木馬に噛みつかれても、魔法で吹っ飛ばせるだろ?か弱い人間の俺は死んでしまうぞ!」
「私だって死ぬわ!ボケ!」
 言い争うことしばし・・・

「ふー。こうしていても仕方ない覚悟を決めるか」
 俺は恐る恐る荷台に触れてみた。

 ブンッ
 〈七星ワタル様をオーナーに設定しますか?YES or NO〉
 突然目の前にディスプレイが現れた。

「うわっ!何だこれ?」
「何かの魔法なの?なんか書いてあるよ」
「俺をこの馬車?のオーナー・・・所有者にすることができるみたいだ」

 とりあえずYESを選択してみる。

 〈七星ワタル様をオーナーに設定しました。各種機能が使用可能となりました〉

「ねぇどうなったの?所有者になったの?」
「なったみたい。でもどうすればいいんだ?各種機能ってなんだ?」
 相変わらずこの謎の木馬は動きそうもない。いきなり動き出したら嫌だけど。

「あっ!何かある」
 何かを見つけたウェンディは荷台の方へ行き、二枚の紙を持ってきた。
 手紙のようだ。

 一つは日本語で書かれており、もう一つは知らない文字だけどなぜだか意味は分かる。
「どれどれ・・・まずは日本語の方を見てみるか」

「「いよ~ワタル!無事異世界に行けたみたいだな!早速、楽しんでいるようで何よりだ。」」
 親父だ!
 とてもキレイとは言えない字で書いてある・・・むしろ象形文字に近い癖のある字は間違いない。

「ねぇねぇこれホントに文字なの?ミミズのような絵みたい。」
 ・・・これを書いたのはアナタの憧れの金髪イケメン勇者の七星ガンテツです。ひどい言われようだぞ親父。

「「初日から妖精と契約するなんてさすが俺の息子だ!これで女にモテないなんて悲しいぞ。」」
 ぐっ・・・破り捨てたくなった。

「「さて、異世界アトランティスで快適生活を送るために、格好良くて、素敵なプレゼントを用意した。眼の前にある馬車は精霊馬車だ!精霊馬車は超絶すごい機能と、あっと驚く仕掛けが満載だ!これでモテること間違いなし!むしろモテないと俺は悲しむぞ!それじゃまたな!
             ガンテツ 」」

 バリバリッ
 俺は無言で手紙を破り捨てた。
「馬車の名前しかわからねーよ!!後半俺の悪口だし!」

「突然怒り出してどうしたの?ねぇ何が書いてあったの?」
「これは精霊馬車っていうみたいだ」
「それだけ?」
「それだけ。あまりにも汚い字だから破り捨てた」
「あなた怒りやすいのね。それじゃもう一枚読んでみようよ。・・・あっこれは私でも読めるわ!」

 ウェンディが読んでいる手紙を覗き込む。

「「拝啓 初夏の候、梅雨明けが待ち遠しい季節となりました。貴殿におかれましてはますますご活躍のこととお慶び申し上げます。
 ワタル様は今頃「馬車の名前しかわからねーよ」と叫び、お困りのことでしょう。」」

「かた!文章かたっ!」
「預言者なの?書いた人預言者なの?」
 俺とウェンディが同時に叫んだ。
 間違いない。これを書いた人はエルザさんだ。内容が全く無い親父の手紙をフォローしてくれるようだ。

「「お届けした馬車は精霊馬車と呼ばれるものです。ガンテツ様があなた様の為にお作りになりました。なんでも地球のトラックをイメージしたそうです。
 精霊馬車には様々な機能がありますので、ウィンドウを開き、取り扱い説明から使用方法をお確かめ下さい。

 最後に、ガンテツ様からのメッセージです。「これをお前の仕事に役に立てろ」とのことです。どう扱うかはワタル様次第です。では、よき異世界ライフをお楽しみ下さい。

 これから暑くなる季節となります。どうぞご自愛下さい。   敬具      
               エルザ」」

 なるほどね。これを使って仕事をしろってことか。
 俺は、ハルカの結婚式の時に新しい仕事をすることを決意した。

何の役に立つか分からないが、精霊馬車とやらを使って異世界で就職活動をしてやろうじゃないか。

 早速、ウィンドウを開く。

 〈木馬に手を触れ登録作業を開始して下さい〉

「この木馬に触れるだけで良いのか?」
「そうみたいね」
 ゆっくりと手を伸ばし、立髪辺りに手をおいた。体の中にある何かが吸い取られる感覚がする。

 パアァァァァ
 木馬が光り、辺りを染めていく。
「うぉ!何だ!」
「キレイね~」

 やがて徐々に光が収まると、見事な毛並みの一頭の馬がいた。
















しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~

和田真尚
ファンタジー
 戦国大名の若君・斎藤新九郎は大地震にあって崖から転落――――気付いた時には、剣と魔法が物を言い、魔物がはびこる異世界に飛ばされていた。 「これは神隠しか?」  戸惑いつつも日本へ帰る方法を探そうとする新九郎  ところが、今度は自分を追うように領地までが異世界転移してしまう。  家臣や領民を守るため、新九郎は異世界での生き残りを目指すが周囲は問題だらけ。  領地は魔物溢れる荒れ地のど真ん中に転移。  唯一頼れた貴族はお家騒動で没落寸前。  敵対勢力は圧倒的な戦力。  果たして苦境を脱する術はあるのか?  かつて、日本から様々なものが異世界転移した。  侍 = 刀一本で無双した。  自衛隊 = 現代兵器で無双した。  日本国 = 国力をあげて無双した。  では、戦国大名が家臣を引き連れ、領地丸ごと、剣と魔法の異世界へ転移したら――――? 【新九郎の解答】  国を盗って生き残るしかない!(必死) 【ちなみに異世界の人々の感想】  何なのこの狂戦士!? もう帰れよ!  戦国日本の侍達が生き残りを掛けて本気で戦った時、剣と魔法の異世界は勝てるのか?  これは、その疑問に答える物語。  異世界よ、戦国武士の本気を思い知れ――――。 ※「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも投稿しています。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

処理中です...