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2部1章 再スタート
過去を忘れるなんて出来ない
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「き、きき、キス、キス!」
「何焦ってんの? うける」
「だだだ、だって、えええ?」
「幼稚園の頃、私やあまねっちと散々してたじゃん」
「き、キスを? えええ? した? 嘘、いや、で、でも」
「そもそもマウスツーマウスはキスじゃないし、ノーカンノーカン」
ケラケラと笑う夏樹、いや、でも……。
「だって、く、唇が、夏樹と」
「ああ、もう、そんなにちゃんとしたいなら、してあげようか?! ホレホレ」
笑顔で口を尖らせる夏樹に、その顔に僕は思わずドキッとしてしまう。
夏樹となら一緒に風呂に入ってもなんとも思わない……って思っていたのに……一体なんなんだ?
「し、しねえよ! わ、わかった、ノーカンな」
「あら? しないんだ残念」
ベッドの脇に座り寝ている僕をニヤニヤと笑いながら見つめる夏樹……。
ずっと夏樹に憧れていた。子供の頃飛ぶように走る夏樹に追い付きたいってずっと思っていた。
でももう夏樹に追い付く事は出来ない。
「それと、その……ごめん」
酸欠でクラクラする頭を振りながらのそのそとベッドから身体を起こす。
そして、ベッドの縁に腰かけて、床に座る夏樹に向かい合った。
妹と同じくらい一緒にいた。ずっとずっと一緒にいたのに、何故か夏樹の事が頭からすっぽり抜け落ちていた。
忘れていたわけじゃない……ただ何故か考えない様にしていた。
「そうよ、私の存在を忘れるとか、無いよね?」
「うん……ごめん」
「──えっと、じゃあねえ、お詫びとしてーー、またマッサージして貰おうかなあ?」
さっきまでの威勢はどこへやら、夏樹は突然顔を赤らめ僕から目を反らしながらそう言った。
でも……僕は今日マッサージの道具を持って来なかった。
「あ、あのさ……もうやめようかなって……」
「え?」
「昨日で全部終わりにしようって……そう思って走ったんだ……だから、もう振り返るような事はしないって、もう過去は見ないって……」
そう……僕はもう過去を見ない、過去に振り回されない……これからは前を向いて、前だけを見てってそう決めた。
「…………あ、あはははははは」
「え?」
「あははははははははは、うける~~今までかーくんの冗談一杯聞いてきたけど、最高に笑える~~あはははははははは」
床に倒れ腹を抱えて大笑いする夏樹……どうでもいいけどパンツが見えてるぞ……。
「な、なんだよお」
そんなにおかしな事言ってる? あれだけ悩み考えて出した結論、そして昨日僕は命懸けで最後の走りを皆に見せた。
今の僕を見て貰いたくて……。
「だ、だって、か、過去は見ないって、そんな事出来るわけないのに、あっははははははは」
「──え?」
「あははは、ば、バカね、人は過去から逃れる事なんて出来ないの、赤ん坊にでも生まれ変わるつもり?」
「赤ん坊って」
「いくら振り返らないって言っても、結局過去は付きまとう、あまねっちも、私も、会長さんも、白浜さんも、皆かーくんの過去を知ってる、かーくんのその足だって、これから一生付きまとうんだよ? それを見ないって、そんな事できると思う?」
夏樹は涙を拭きながらゆっくりと起き上がると僕の膝の上に頭を乗せ僕を見上げた。
「じゃ、じゃあ……僕のやった事は無駄って事なの?」
「ううん、そうじゃない、あれは必要だったと思うケジメとしてね……かーくんが言うように過去ばかり見るのも駄目だって私も思う、かといって過去を振り返らないってのも駄目……人生って道なんだよ、過去から現在、そして未来へと続いているの、でもね、未来への道って誰にもわからない、だから今まで通ってきた道を確認しながら、先を予想して歩いていくって事だと思うの」
「道……」
「そしてその道を、私は今までかーくんと一緒に歩いて来たの……そしてこれからも一緒に歩いて行きたいって思ってる……だから……生きていてくれてありがとう……だってずっと一緒に歩いて来たんだもん、これから一人で歩くのは寂しいよ……」
夏樹は僕を見て天使の様に笑った。
そしてその顔を見て、僕は思った。
夏樹の事を思い出さない様にしていたのは、自分が過去に捕らわれていたから、過去にこだわっていたから。
僕の過去をほぼ全部知っている唯一の他人……妹とは血で繋がっている……夏樹とは過去で繋がっている。
だから僕は切ろうとした、夏樹共々過去を切ろうとしたんだ。
でもそんな事は出来ない、出来るわけがない……。
今この瞬間も過去は出来ているのだから……。
「うん……僕も寂しい……」
僕はそう言って夏樹のふわふわとした髪を撫でた。
夏樹は猫の様に目を細め、気持ち良さそうに黙ってずっと僕に撫でられ続けていた。
僕はずっと夏樹を追いかけていた。
だからもう追えないって、もう走れないって思った時夏樹を切ろうってそう思ったんだ。
でも夏樹は違っていた。
ずっと僕と一緒に歩いているって思ってくれていた。
そしてこれからも一緒に歩いて行きたいって、そう言ってくれた。
僕と一緒に過去を背負って歩いてくれるって……夏樹はそう、言ってくれた。
僕はその夏樹の言葉を心から嬉しいって……そう思った。
「何焦ってんの? うける」
「だだだ、だって、えええ?」
「幼稚園の頃、私やあまねっちと散々してたじゃん」
「き、キスを? えええ? した? 嘘、いや、で、でも」
「そもそもマウスツーマウスはキスじゃないし、ノーカンノーカン」
ケラケラと笑う夏樹、いや、でも……。
「だって、く、唇が、夏樹と」
「ああ、もう、そんなにちゃんとしたいなら、してあげようか?! ホレホレ」
笑顔で口を尖らせる夏樹に、その顔に僕は思わずドキッとしてしまう。
夏樹となら一緒に風呂に入ってもなんとも思わない……って思っていたのに……一体なんなんだ?
「し、しねえよ! わ、わかった、ノーカンな」
「あら? しないんだ残念」
ベッドの脇に座り寝ている僕をニヤニヤと笑いながら見つめる夏樹……。
ずっと夏樹に憧れていた。子供の頃飛ぶように走る夏樹に追い付きたいってずっと思っていた。
でももう夏樹に追い付く事は出来ない。
「それと、その……ごめん」
酸欠でクラクラする頭を振りながらのそのそとベッドから身体を起こす。
そして、ベッドの縁に腰かけて、床に座る夏樹に向かい合った。
妹と同じくらい一緒にいた。ずっとずっと一緒にいたのに、何故か夏樹の事が頭からすっぽり抜け落ちていた。
忘れていたわけじゃない……ただ何故か考えない様にしていた。
「そうよ、私の存在を忘れるとか、無いよね?」
「うん……ごめん」
「──えっと、じゃあねえ、お詫びとしてーー、またマッサージして貰おうかなあ?」
さっきまでの威勢はどこへやら、夏樹は突然顔を赤らめ僕から目を反らしながらそう言った。
でも……僕は今日マッサージの道具を持って来なかった。
「あ、あのさ……もうやめようかなって……」
「え?」
「昨日で全部終わりにしようって……そう思って走ったんだ……だから、もう振り返るような事はしないって、もう過去は見ないって……」
そう……僕はもう過去を見ない、過去に振り回されない……これからは前を向いて、前だけを見てってそう決めた。
「…………あ、あはははははは」
「え?」
「あははははははははは、うける~~今までかーくんの冗談一杯聞いてきたけど、最高に笑える~~あはははははははは」
床に倒れ腹を抱えて大笑いする夏樹……どうでもいいけどパンツが見えてるぞ……。
「な、なんだよお」
そんなにおかしな事言ってる? あれだけ悩み考えて出した結論、そして昨日僕は命懸けで最後の走りを皆に見せた。
今の僕を見て貰いたくて……。
「だ、だって、か、過去は見ないって、そんな事出来るわけないのに、あっははははははは」
「──え?」
「あははは、ば、バカね、人は過去から逃れる事なんて出来ないの、赤ん坊にでも生まれ変わるつもり?」
「赤ん坊って」
「いくら振り返らないって言っても、結局過去は付きまとう、あまねっちも、私も、会長さんも、白浜さんも、皆かーくんの過去を知ってる、かーくんのその足だって、これから一生付きまとうんだよ? それを見ないって、そんな事できると思う?」
夏樹は涙を拭きながらゆっくりと起き上がると僕の膝の上に頭を乗せ僕を見上げた。
「じゃ、じゃあ……僕のやった事は無駄って事なの?」
「ううん、そうじゃない、あれは必要だったと思うケジメとしてね……かーくんが言うように過去ばかり見るのも駄目だって私も思う、かといって過去を振り返らないってのも駄目……人生って道なんだよ、過去から現在、そして未来へと続いているの、でもね、未来への道って誰にもわからない、だから今まで通ってきた道を確認しながら、先を予想して歩いていくって事だと思うの」
「道……」
「そしてその道を、私は今までかーくんと一緒に歩いて来たの……そしてこれからも一緒に歩いて行きたいって思ってる……だから……生きていてくれてありがとう……だってずっと一緒に歩いて来たんだもん、これから一人で歩くのは寂しいよ……」
夏樹は僕を見て天使の様に笑った。
そしてその顔を見て、僕は思った。
夏樹の事を思い出さない様にしていたのは、自分が過去に捕らわれていたから、過去にこだわっていたから。
僕の過去をほぼ全部知っている唯一の他人……妹とは血で繋がっている……夏樹とは過去で繋がっている。
だから僕は切ろうとした、夏樹共々過去を切ろうとしたんだ。
でもそんな事は出来ない、出来るわけがない……。
今この瞬間も過去は出来ているのだから……。
「うん……僕も寂しい……」
僕はそう言って夏樹のふわふわとした髪を撫でた。
夏樹は猫の様に目を細め、気持ち良さそうに黙ってずっと僕に撫でられ続けていた。
僕はずっと夏樹を追いかけていた。
だからもう追えないって、もう走れないって思った時夏樹を切ろうってそう思ったんだ。
でも夏樹は違っていた。
ずっと僕と一緒に歩いているって思ってくれていた。
そしてこれからも一緒に歩いて行きたいって、そう言ってくれた。
僕と一緒に過去を背負って歩いてくれるって……夏樹はそう、言ってくれた。
僕はその夏樹の言葉を心から嬉しいって……そう思った。
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