63 / 79
2部1章 再スタート
夏樹暴走する
しおりを挟むとりあえず妹と話して今まで通り? になったと円にメッセージで伝える。
『一緒に叩かれたかったなあ』
という、なんて返していいかわからない微妙な返信と残念そうなウサギのスタンプを送って来る……。
とりあえず、『勉強は明後日からでお願いします』と丁寧に返事をして、スマホを閉じた。
自分の部屋……ベッドに寝転び天井を見上げる。
見慣れた天井を見ると……何も変わっていない様に思える。
でも、今の僕はもう過去を見ない……もう振り返らない。
自分がいつまでも過去に捕らわれこだわっているから、周囲もそういう目で見ているのだと気が付いた。
だからこれからは前を見ようって、そう決心した。
そして、いつか……円と……円の横に並べる様な……そんな人に、男になりたいって、そう思った。
「まあ、とりあえず……勉強と、リハビリだな……」
もう走れない……それを知りたくなかったから、そこから逃げていたから……ずっとリハビリをして来なかった。
ずっと妹に甘えてきた……。
でも、リハビリをすれば、訓練をすれば、ある程度は治るって言われている。
治るというよりかは、付き合う事が出来ると言った方が良いだろう。
最終的には杖無しで歩く……少しずつ少しずつやっていけば……いつかは出来るって今はそう思っていた。
この身体と、この足と一生付き合う覚悟をした今、僕はやる気に満ち溢れていた。
頑張る……円の為にも、妹の為にも……応援してくれる人の為にも……。
◈◈◈
「今ここで、殺してあげるうううううう」
「ぐええええええええ」
頑張ろうと思っていたのに、僕は今絶命しかけていた。
旅の疲れ、最後の走りの疲れを癒すべく、自宅で昼過ぎ迄たっぷりと寝た僕は、約束通り隣に住む夏樹の部屋にやって来る。
一応呼び鈴は鳴らすが中からの返事を聞く前に扉を開く。
鍵は掛かっていないかったので、恐らく誰かしらは家にいると思われる。
まあ、誰もいなくても、鍵が掛かっていても、鍵の隠し場所は知っているので問題はない。
昨日は色々あったので、昼過ぎに行くって程度の曖昧な約束。
夏樹がいなかったら、夏樹の部屋でのんびり待てばいいや、なんて思いつつ、勝って知ったる幼なじみの家に僕は入って行った。
「こん~~」
玄関で靴を脱ぎつつ奥にいるであろう夏樹か若しくは夏樹のお母さんに声をかける。
しかし誰の返事もない……。
「あれ? リビングにはいない?」
まあいいいかと、深く考えずに、ゆっくりと階段を上り夏樹の部屋向かう。
見慣れた扉、僕はいつも通り扉を開け中に入る。
え? ノック? なにそれ? たとえ夏樹が着替え中でも問題無い。
全く興味無いって断言出来る。
しかしいないと思っていたが部屋に入ると、突然背後から誰かが、いやわかる扉の手前で潜んでいた夏樹が、僕に近付きそして、腕と思わしき物を僕の首に巻き付いた。
そして……僕の首がギュっと締まり、冒頭のセリフが僕の耳元から聞こえてくる……。
「かーーくん……死にたいなら言ってくれれば、私が殺してあげたのにいいいい!」
プロレスはよく知らないが、こんな技があったよな? スリーパーなんちゃら?
僕は夏樹に背後から首を絞められていた。
「ぎ、ぎぶぎぶ、く、くるしいいいぃぃ」
「死にたいんでしょ? だったらここでわたしがああああああ!」
「ぐえええ…………」
ああ、意識が薄れていく……あ、死んだおばあちゃんが僕を見て手招きしてる……おばあちゃん~~今行くからねえ、いや、逝くからねえええ…………って、違う、そうじゃない!
「うげええ、ご、ごめん……しにだくないがら、ごめんんん」
「本当に!?」
夏樹はさらに腕に力を入れ僕にそう聞いてくる。
もう声は出せない、意識が遠のく……僕は縦方向に首を小刻みに動かしそれを肯定した。
その瞬間夏樹の腕の力が緩む。
「はああああああああ」
身体が勝手に息を吸い込む。空気が肺に入り酸素が血液を回り脳に供給されて行くのを実感する。
「げほっ、げほっ、おええええぇぇ」
いきなり大量の空気を吸ったので今度はおもいっきりむせた。
しかし、夏樹はそんな僕の頭を「ペシン」と音を鳴らし力一杯叩いた。
「これはおじさんとおばさんの分」
そしてさらに僕のお尻を蹴りあげた。
「これはあまねっちの分!」
「いってええええ!」
前にも言ったが夏樹の足は瞬発力に優れている。1mを越える跳躍力、その足から繰り出される蹴りは凶器と言っても過言では無い。
僕はその蹴りで夏樹のベッド迄吹っ飛ばされた。
うつ伏せで倒れこむ僕の背中に夏樹が覆いかぶさって来る。
ヤバい……怒っている……今僕はようやく実感した。
今まで夏樹が怒ったのを見たのは2回……温和な夏樹、滅多に怒る事は無いのだが、その2回……怒った夏樹は鬼神と化していた。
「ごご、ごめんなさい!ま、マジで」
生きたい、僕は再びそう思った。鬼神と化した夏樹はあの赤色の目の時の〇蟲よりも、暴走したエ〇ァ初号機よりも恐ろしい。
「許さない、絶対に、許さないんだからあああ、うわあああああああん」
そう言って、夏樹は僕の背中に抱きついて……そして……号泣した。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる