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1部最終章 終焉
追い込んだのは誰? そして救ったのは誰?
しおりを挟む「それって……どういう……」
会長は厳しい口調で私にそう問いかけた。
「私だってわからない、だから聞いてるの!」
「で、でも……」
なんでそんな事を……だってお兄ちゃんはあいつを選んだんだよ? 私があいつを叩いて、だからお兄ちゃんはあいつを……、なのに……なんでそんな事を?
「あまねっち……その時……雨の中でかーくんに何か言った?」
「え?」
「多分……それが原因な気がする……」
二人の目線が私に突き刺さる、そんな事言われても……。
「わかんない! だって、だって! 悪いのはお兄ちゃんなんだから! 私が、私があんなにお兄ちゃんの面倒見て上げたのに、それなのに、それなのに、あんな奴と、白浜 円なんかと一緒にいて、私を騙して迄一緒に! 酷いのはお兄ちゃん! 悪いのは白浜 円! 私は、私は何も悪く無い!」
私は何も悪くない! 一生懸命頑張ってお兄ちゃんの面倒を、可哀想なお兄ちゃんの面倒をずっと見てきた……なのに……なのに……。
また、またボロボロと涙が溢れる。 私の大好きな、格好いいお兄ちゃんを奪ったあいつが、憎い、憎くて、憎くて……どうしようもない。
「あまね……」
「……」
二人は黙って私を見ている……私はその場でボロボロと泣き続けた。
そして……そんな私をじっと見つめていた会長が口を開く。
「そうね……気軽に死ぬなんて言う人には、幻滅するわね、結局死なないし、口だけなのよね。本当に天さんの言う通り、今は何の取り柄もなくなった、ただの脱け殻、可哀想な人」
「か、会長?」
「天さんは、そう思ってるのよね?」
「え?」
「私がいなくちゃ何も出来ない情けない人、だから私の言う事だけ聞けば良いのに、何故って、何故嫌いな人に、私の嫌いな奴と一緒にいるんだ? って」
「そ、それは……」
「翔君は、貴女の言いなりになる……オモチャじゃ無いのよ」
「そ、そんな事……思って……ない」
「可哀想だから、してあげた……そう言われたら、信頼していた人から、そう言われたら……どう思う?」
「……そ、それは……」
「……事故の後、彼はずっと前を見ていた……自分はまだ終わっていないって、走っていた時と同じ目をしていたの……私も彼にわだかまりはあった……あんなに心配したのに、何も言わない彼にイライラしていた。でも……気が付いたの……彼は何も言い訳をしなかった。あんな事になって、周りから言われ、それでも何も言わないって、言い訳をしないって……凄い事なんだって……だから彼の応援をしようって、彼の居場所を作ろうって……」
「それで……生徒会長になったんですか? 陸上部に在籍しながら」
「そうね……でも結局、それも彼を追い詰めていたのかも知れない……高等部に入って来た彼は何か諦めていた目をしていた……期待も同情も彼にとっては、全て余計なお世話だったのかも知れない……」
「……なっちゃん……なっちゃんはそれで距離を取ったの?」
「……少しね、元気づけようって……声をかけたりマッサージを頼んだりはしていたけど」
中等部迄は私と同様毎日の様に、お兄ちゃんのお世話をしていたなっちゃん、でも高等部に入ると部活を理由にお兄ちゃんから距離を取っていた。
「天さん……貴女は逃げたくなったんじゃない?」
「え?」
「白浜さんが同じ学校にいると知って」
「な、なんで私が……私はむしろあいつがいるから……」
「本当に? うちは外部入学が極端に難しい、最難関と言っても良いくらい……でも白浜さんはそれを乗り越えた……もし貴女が不合格になったら、負けるって、それが怖くなったんじゃない? 勉強も、そしてお兄さんへの思いも……」
その会長さんの碧眼の瞳は、まるで私の心を、心の底を直接見ているかのようだった。
「そ、そんな事……ない……」
「会長さん、その辺で……」
「ふふ、そうね……負けたのは私も一緒だものね、勿論川本さん……貴女もね」
「……」
「白浜さんは、何もかも捨て努力を重ね、全身全霊で彼と向き合い、彼に寄り添った」
「そ、そんなの当たり前の事……」
お兄ちゃんをあんな身体にしたんだ、それくらい……。
「そうね、それは天さんも、川本さんも、そして私も、していたかも知れない……でも、悔しいけど、彼女は前を向かせたの……。
死ぬつもりだったなんて、私に言う必要なんてなかった、でも彼は多分逃げないって、決めたから、あえて隠さずに言ったんだと思う。そしてそれを言わせたのが、白浜さん……寄り添っているだけじゃなく、突き放す事でもなく、導いた……ううん、導こうとしている……」
「前を向かせた?」
「導く?」
私は、いや、なっちゃんも、会長さんが何を言っているのかわからなかった。
でも、私達の疑問に答えるかのように、会長さんは、信じられない事を言った。
「翔君が私に電話をしてきたのは……お願いがあったから、私に頼みたい事があったから……私は彼のお願いならなんだって聞く……例え無茶だとしても出来ないって思っても……そして言ったの、翔君は自分の願いを……自分のやりたい事を……私に……」
「そ、それって……」
なっちゃんも私も直ぐにわかった……でも、絶対に無理だって、そう決めつけていた。
それはお兄ちゃんも……わかっている筈。
「翔君は……走るって……明日帰ったら、そのまま学校に来て、陸上競技場で走るからって……だから……準備を……お願いしますって」
「そんな……」
無茶に決まってる……走れるわけがない……歩く事もままならないのに……。
「会長! 無理です、かーくんが走れる筈ない!」
「言ったでしょ? どんな願いでも聞くって、彼がそうしたいと言ったのだから、私は準備するだけ」
「そんな……」
お兄ちゃんが走る? そんな事……出来るわけがない……。
あいつの為に? あいつがそう言ったの? そう、そそのかしたの? もしかして……あいつの負担、心の負担を軽くする為に?
「……最後にね、天さんがいるって伝えたら、見に来てくれって……僕の走りを見に来てって、そう言って電話を切ったわ……」
「見に来て……」
会長さんは悔しそうな、でもほっとしたような、複雑な顔で、私を見ていた。
明日お兄ちゃんが走る……走れるわけがない……もし走れたとしたら、奇跡以上の何かだ……。
お兄ちゃんは、私に、私たちに何を見せようとしているのか?
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