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四章 領主として俺

9.街づくりの最後の手配

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 サミュエルの可哀想な事件も過ぎ去り、新しい街は繁盛した。うん、狭い。

「ロドリグ様。街が狭くなりました」
「ふん。あの計画図では俺は狭いと思ってたんだ」
「なら言えよ!」

 ああ?っと睨まれた。

「あの時言ったら、お前は俺の話しを聞いたのか?聞かなかったはずだ!」
「ゔっ……」

 半年が経って城下町は常にパンパン。新しい街も限界が来たんだよ。
 付き合いの少ない国からも人が来ているようだし、国内の客は日帰りから泊まりまで様々。
 山には今、俺とロドリグ様のフェンリル二匹と他の二匹とで四匹いる。どちらも番で仲良く暮らしてくれて、彼らはサービス精神もあってチラッと飛んでくれたりしている。

 俺がフェンリル見つけた時、大臣に緊急は行けと言われたけど、強くて呼ばれることもない。遊びには行ってるけどな。

「あれが呼ぶなんて事はないだろ」
「ですよね。呼ばれる時はうるせえ、だけです」

 たまに閉山後もどこかに客が隠れてて騒ぎ散らかしてくれる。フェンリルは夜寝るんだよ。だからうるさくてヤダって。俺はすぐ飛んでいくけどそれがある意味緊急かなって。

「そうだな。あれらに取っては緊急なんだろう。向かって来るなら殺してもいいとは言ってあるが」
「でも彼らは人は食いでがない、小さくて味がわからんって言われてます」

 俺たちが会う時は、少し縮んてくれてるんだそうで、本来はもっと大きい。
 元の姿を見せてもらったら小さめの竜くらいあった。あれはマズい。

「生態もよく分からんし言わないからな。まだ隠してる事があるのだろう」
「ですね」

 話がそれたな。

「街の拡張をお願いします」
「どのくらい?」
「今の街の半分くらい大きくすればなんとかと思います」
「それでいいのか?」

 イヤな言い方だな。

「ロドリグ様はどう考えますか」
「俺は倍でいいと考える」
「倍では空き店舗が出ますよ」
「そんなもんすぐ埋まるさ」

 それは経験から?想像?

「経験からだ」
「はあ。なら倍でお願いします」
「うん。今すぐ報酬くれ。抱っこさせろ」

 うっ……仕方ないか。
 膝をポンポン。乗るんか……どうもこういうのはさせる側の属性の俺は躊躇する。

「よいしょ」
「ふふっ」

 ただ膝に乗り抱かれてるだけなんだけど……うとうとしてくるんだ。眠いようなぼんやりするような。

「お前の髪の毛は気持ちいいなあ」
「あふ?そうかな」
「ああ、人族はもっと硬いからな。ほれ」

 ロドリグ様は髪の毛を後ろから回してくれた。確かに硬めかな。でも艷やかな髪でキレイだ。俺のは特に柔らかいんだよ。絡まって大変。ふあ~気持ちよくて眠い……

「疲れてるのか?」
「うん……なんだろ。ロドリグ様に抱かれてると眠くなる」
「なんだそれ」
「分かんないけど……」

 うとうとふわふわ……夢うつつに……ぐう。

「エリオス?」
「……あふん」
「起きろ」
「あ、ごめんなさい」
「いいけどな。寝てて襲われても文句言うなよ」
「んふふっしないでしょ?」
「フン。しないけど」

 ふわあ!よく寝た。背伸びをして立ち上がった。

「最近のお前は俺の膝で寝てばかり。少しつまらん」
「だって気持ちいいですもん。あったかくていい匂いで」
「はあ。俺が自分の欲を抑えられる者でよかったな」
「はい」

 だが、なんでだ?すぐ眠くなるんだよ。セリオの匂いでも眠くなる事はあるけど。安心する匂い?イヤイヤ強い時は怖いもん。ほんのり香る匂いがいいんだろうな。食われないなら俺好みの美しい人に抱かれるなんてラッキーだし。

「キスもしたい」
「え?」
「戻れ」
「もう……はい」

 優しく気持ちのいいキス……すごく上手くて頭がぼんやりうとうとしてくる……うっ!そこ触っちゃダメ!

「耳もしっぽもダメ」
「なんで?」
「……ヤダ」
「ヤダでは分からん」

 分かってるくせに意地悪だなあ。

「分かるでしょう。言わせないで下さい」
「ふん。まあいい」

 俺はきっと彼が好きなんだ。セリオと同じくらい好きになって来ている。セリオもたまに呼ばれて抱っこされたり、キスされたり。セリオもきっと彼が好きになり始めてると感じるんだ。この人はキレイなだけじゃない何かがある。俺たちにとって。

「またおいで」
「はい」

 そして屋敷に帰るとすでにロドリグ様の魔法使いが来ていた。ディエゴたちと書類を広げ話し合っている。

「お帰りエリオス」
「うん。ただいまセリオ」
「今彼らに街の拡張の日程と地図を確認してもらってる」
「そう。早いなロドリグ様」

 そうだね。エリオスがお願いに行ってすぐ来たよ?話しをしてすぐこちらに回してくれだんだろうって感心している。

「俺たちは計画から実行まで時間かかるからな」
「うん。城とは書式も違ってさ。読むだけで時間かかるんだよね」
「だなあ。ここからどれだけかかるかな」

 セリオとグチっぽく話していたら、代表の魔法使いの後ろに立っていたひとりがこちらをチラッと見た。

「少しよろしいか」

 はいと言うとこちらに来て、

「今書式と聞こえたんですが、あなたが統一させればいいのでは?各地の領地のが混じってやりにくいのならば、あなたの書式を作ればいい」
「あ……」

 セリオはと二人で思いつかなかったなって苦笑いが出てしまった。

「そうですね。そんな事すら考えていませんでした」

 ふふっと彼は微笑み、

「その辺はロドリグ様は得意ですよ。ご相談するとよろしいかと存じます」
「ありがとう。相談してみます」
「ええ。ロドリグ様の領地の書類は項目がきちんと分けられていて見やすいですよ」
「へえ。何でも出来るんですね。彼は」

 あの方はねえと。

「城勤めも長く、ドナシアンに移籍後も自家の領地に口出してましたしね。こちらの当主は数年で彼に変更。更に発展させてました」
「優秀……」
「ええ。性格に多少難はありますが、見目麗しく中身も優秀で慕われておりました」
「ふ~ん。若い時から優秀か」
「はい」

 ではと、彼はまた上官の後ろに戻った。

「彼は何でも出来るんだね」
「ああ。努力もたくさんしたんだろうが、元から俺たちと出来が違うか」
「そうだね。若い頃から積み重なった自信があの雰囲気を作ってるんだろうね」
「ああ」

 そんな事を話しながら俺たちは仕事を続けた。

「あのね。僕は彼にエリオスを取られるって気持ちしかなくてね。彼をきちんと見てなかったって最近思うんだ」
「うん」
「エリオスも抱っこされたりしてるけど僕も……なんだろうなあ。警戒しないで話しをきちんとするとね。とてもわかり易くて頼れる人なんだと感じるんだ」
「うん。俺も」

 俺たちもう何かきっかけがあったらダメかもねって言うと、セリオは苦笑いを浮かべた。

「きっと僕は彼が好きなんだ。エリオスと同じくらいね。僕らはたくさんの番をなんてそんな本能はないはずなのに」
「うん……彼以外には感じない」
「だよね……」

 でね……と黙った。

「なに?」
「うん……もし……その……あの」

 言いたい事は分かった。

「報告をくれればいいさ。俺もな」
「うん」

 この気持ちが何なのかさっぱり分からないけど、彼に惹かれる気持ちをどちらも持ってしまったようだ。
 人族の魅力か。それとも俺たちがどこかだらしないのか、尊敬から来ているものなのか。自分の気持ちなのに分からない。

「でもエリオスが一番好き。それは変らない」
「俺もだ。愛してるよ」
「うん僕も」

 フィトは俺たちの会話を黙って聞いていた。

「僕は匂いが合わなくてよかった。こんなに悩まなくてすんだからね。でもね。確かに彼は変な魅力があるよね。あんな歳上なのに」
「だろ?あれはなんだろうな」
「分かんない。僕は性的な魅力は分からないけど素敵だとは思うよ」
「そうか……」

 三人で取り止めのない話しをしながら仕事をしていると、ディエゴと魔法使いの話し合いは終わった。彼らはこちらの魔法使いの部屋を使わせてくれと出て行った。

「エリオス。街の材料は彼らが見つけていたようで、十日ほどで出来るそうだ。取り掛かりは早いほうが良かろうと明後日から始めるそうだ」
「分かった。ダリオたちに報告を頼む」
「おう」

 そしてニヤニヤ。

「お前らは困ったもんだな。チラチラ聞こえだぞ」

 うーん……しかたなかろう。

「お前も匂いが合えば分かったはずと思う」
「そうかな?……そうかもな。あそこの魔法使いと話ししても理路整然で仕事はし易い。城の魔法使いも優秀だがなんか違うよな」
「うん。国の違いか、彼らが優秀なのか」
「どっちもだろ」
「そうか」

 俺には分からん世界だがまあ頑張れってさ。なに頑張るんだか。セリオと見合ってもう仕方ないよねって目で確認した。それほどに俺たちは彼を好きになってしまっていた。


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