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四章 どうしてこなるんだ

6 街の散策とヌーマリム

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 いつものようにロベールは、ふたりの公爵を連れて新しい鉱山に朝早くから向かい、僕はトリムたちと街にお出かけ。

「リシャールあれ買って」
「あれって?」
「あの白いの」

 僕はトリムの指差す方をみると、白い……あれなんだろ。近づくと大きな氷を削ってシロップをかけている。フラッペって言うそうだ。

「トリム、氷のお菓子だって。食べるの?」
「うん。白いのね」
「はーい。ひとつ下さい」

 はいよって屋台の店主はゴリゴリ削って、甘いミルクを掛けてくれる。

「リシャール様、お元気になられたのですね」
「うん。みなに心配かけました。もうすっかり元気だよ」
「でもまだ細いかな……」
「太るよう頑張るよ」

 そんな感じで街を歩いた。元気になったよってみんなにアピールするために。でもみんなまだ具合悪そうと色々くれるんだ。これ食べて元気になってって。果物や野菜、お菓子やハムやベーコン。僕の護衛騎士は両手にいっぱいになった。

「リシャール様、もう持てません」
「今日リュックは?」
「街歩きに持って来ませんよ」
「そっか。なら帰るか」

 えーっもう帰るの?とトリムは騒ぐ。久しぶりのお外なのに、もう少しって。

「なら少し森に行こうよ。もう拐われないからさ」
「え……これ持って?」

 騎士たちはものすごく嫌そう。なら僕たちだけで行くかと言うと、ダメですって強く言われた。精霊が安全になっても、動物も魔獣もいるからダメって。そりゃそうか、僕攻撃力ないし。

「城に置いてくるか」
「そうしましょう!」

 僕と騎士たちが飛び立とうとすると、トリムが待て待てってドヤ顔。なんだろう?

「リシャールこっち来い」
「なんだよぉ」
「いいから」

 街外れの草むらに連れ込まれ、ホラホラこんな時こそ精霊の力だよ?草にお願いしてみろって。

「なにを?」
「あの野菜入れる背負うやつくれって言えば、草はカバンになってくれるよ」
「おおーそんな手があるのか」

 僕は草むらにしゃがんで手をかざす。やり方は特にない。心からお願いすれば草は応えるからなって。ならばと雑草に心から困ってると気持ちを込めた。

「申し訳ないんだけど、あちらに見える野菜とか入れる背負いのカバンになってくれるかな?」

 少し草に魔力を当てると、近くに這っていた蔦がスルスルと編み上がり、それを囲むように草が装飾のように囲み緑のリュック完成。すげえ!

「これに入れれば森に遊びに行ける」
「うん!」

 僕はそれを持って護衛騎士のマットたちに野菜を入れてってお願いした。

「また……こんな裏技みたいなことを」
「いいじゃないよぉ」
「いいですけどね」

 ブツブツ言いながらも手の野菜を詰め込んで背負ってくれた。

「思ったよりちゃんとしてる」
「ああ、それほど肩に食い込んだりしないし、縄より楽だな」

 文句の割にリュックはちゃんとしているようで、まあいいかと。んふふっさすが僕。

「準備は出来た?いっくよおー」
「はーい」

 トリムは今日はこっちだといつもと反対側に案内してくれる。こっちの森はあんまり遊びに来ないというか、人間の生活範囲が大きく森の端っこで、精霊が遊ぶような場所じゃないのにと思いながらついていくと、うわーっ

「どうだ!」
「すごいッなんて美しいんだろう」

 ちょうど村の麦畑を見下ろす小高い丘に僕らは降り立った。まだ刈り取り前で、黄金色の穂が風に揺れている。ずーっと遠くまで金色の麦!

「人の作るものだけど、俺はこの景色が好きなんだ。夕日に照らされると本当にきれいだと俺は思うんだよね」
「うん。もうすぐ夕日だね」

 騎士たちも普段麦畑は見慣れていますが、ここからの景色はとても美しい。どこまでも続く麦畑がこんなにもと、感嘆の声を上げる。この崖に上がるなんて考えても見なかったと感動していた。

「ほら、リシャール空が赤くなり始めたぞ」
「うん」

 太陽の角度では光ってるように見える畑。風がザァーっと吹き抜けると、麦の香りが強い。何とも言えないいい香りだ。

「この畑から俺たちは生まれない。でも……人はすごい。こんな世界を作るんだな」
「うん」

 夕暮れの物悲しさが、なんともいい気分と見つめていた。秋の入り口のこの季節。爽やかな空気と高い空。世界が広がったと錯覚するような不思議な気持ちに浸っていた。すると、目の端にモコモコとヌーマリムの大群が藪から出来るのを発見。

「イヤーッ」
「なんですかいきなり!びっくりするでしょうリシャール様」
「ヌーマリムが麦食っとる!」
「え?」
「あそこ!」

 僕の指さす方をみんなが見るとあー……って。このあたりは日陰が多いからやはり出るのかとマット。僕はヌーマリムのところに急いで向かった。くっ散らかしてるヌーマリムの側に降り立った。

「お前ら食うな!」
「キュ?」

 キュじゃねえ!お構いなしに二十匹くらいでバリバリかじってる。

「トリム、説得お願いします」
「はーい」

 精霊の言うことならと頼んだけど無理そう。ヌーマリム今度はキューキューと口を開き抗議するように鳴き出した。仕方ねえ自分でするか。

「ヌーマリム。僕を覚えているものはいるか」
「お前だれ?」
「あ、俺知ってる。ずっと前に野菜食うなって言った人だ」

 よかった、あの時ロベールと説得した個体がいたか。あの時は夏で野菜はたくさんの種類があって食べ放題になってたんだ。

「僕、去年食べないでって言ったよね?」
「はあ?お前その後エサも寝床もくれなかったじゃないか」
「え?」

 僕は後から追いかけてきた騎士に事情を聞くと、いやあ……あのと。ふたりは困ったなあって。

「あのですね。リシャール様が失踪されてて、その……ロベール様は忘れてたのか、後回しにしたのか……まだ牧場が出来てません。最近思い出したように始められてます」
「あー……そう。そっか……それはごめん」

 お前が約束守らないなら、俺たちも守らないもーんとあちこちで聞こえる。その通り過ぎてなにも言えない。あの後くれるかと期待してたヌーマリムは冬の厳しさを乗り越えるため、当然のように畑は食い荒らしたそうだ。クソッタイミング悪すぎ。僕嘘つきじゃないか。ズーンと落ち込んでいるとここの持ち主かやって来て、ヌーマリムの大群を見てうわって叫んだ。

「あれリシャール様ですか?何してるの?ヌーマリムなんか集めて」

 畑の農道にたくさんのモコモコは怖い。その感想は正しい。

「いやね。麦を食い荒らそうとしてたから止めたんだけど、止めちゃうとこの子たち食べ物がないんだ。どこに誘導しようかなあって考えててさ」

 ああって。今牧場建設中らしいですねって農夫の方。お触れは出てるけどいつとは言われていない。それまで自衛してねってしか買い取りの役人に言われてないそうで、困っているらしい。自衛は毎年してるけど、この時期はこいつら本気で食っ散らかすからと、ヌーマリムをそれは憎そうに睨む。

「収穫の終わった豆がらなら今あちらに積んでますから、それでよければ食ってもいいですよ。燃やすだけだから」

 どう?とヌーマリムに提案したら、チラッと見て頭が下がる。

「あれマズい」
「グッ……マズくて嫌だそうです」

 ええ?ならなにがいいかなあって。お前らが食っ散らかして腐ってるのならあそこにと農夫の人が指を指すとヌーマリムも見つめて、あれは食いたくない。本気で食べ物がなければ食うけど、変な臭いのものはマズいから嫌いって。僕はため息しか出ない。君らは人の物食べない時なに食べてんのと気持ちが折れながらも聞いてみた。

「俺たちは冬は木の皮とか根っことか。落ちてる木の実も食える葉っぱも強いやつがすでに食べてないから、あんまり美味しくないけど」
「ふーん。あったかい季節は森に食べ物あるでしょう?」
「あるけどどんぐりや木の実探すの面倒くさいし、自分がエサになるかもだし。人の傍は他の動物がいなくて食い放題だろ?なんで森で食わなきゃならんのだ」

 その通りでなんも言えねえ。仕方なく農夫の方にヌーマリムの言葉を伝えた。

「生意気なネズミめ。だが今追い払ってもまた来るし、こいつらだけ来なくても別の群れが来るし。うーん」

 この季節ヌーマリムは普段は数匹でいるんだけど、春と秋は若い個体の初めての繁殖の季節で群を作るんだ。春は森の草木が新芽であまり畑を攻めてはこないが、秋はね。

「仕方ねえなあ。明日から刈り取りだから、明日来い。ワラなら分けてやる」
「いいんですか?」
「実を食われるよりいい。端に積んどくからそれを食え」

 農夫はヌーマリムに向かって吐き捨てた。まあ気持ちは分かる。大切に育てて来たんだもん。それをかじられちゃ面白くない。

「明日から刈り取りなんだって。ワラを端に積んでいてくれるから、それ食べてって」
「分かった。今日は?」

 グッどこまで図々しいんだこいつら!

「今日は頑張って森で探して!今ならそんなに苦労しなくてもそこらにあるでしょ!」
「……早く巣をくれ。行くぞ!」

 ヌーマリムは黒い瞳をジーッと僕に向け、顔を森の方に向けると走って行った。なんでこんなに図々しいんだヌーマリムって。僕は茶色の毛皮が藪に消えるまで見つめていた。

「リシャール様、ロベール様に急いでもらって下さいませ。冬は森に食べ物が減ります。一部冬眠しなくて、育ちきらないキャベツなんかを襲いますから」
「はい。努力いたします。それと麦わらありがとう」
「そのくらいならいいですよ。でもワラも売り物なんです。補填を」
「はい……お名前をお聞きしても?」

 あははっ冗談ですよ笑われた。少しくらい毎年のことですからいいですよって。そるにロベール様のお気持ちはわかります。妻が伏せっていたのですからねって。ですが、このように遊べるまでになったのですねと僕を見つめた。

「お元気になられたのなら我らのためによろしくお願いいたしますよ」
「はい。がんばります!」

 でもなんでこの時間に来たの?と聞けば、彼はこの時間にヌーマリムが来るのを知ってて追い払いに来たそうだ。毎日の日課で、収穫量に関わるからってね。

「実際ヌーマリムだけではなく、鳥も他の獣も来る。だが、あいつらは根元から全部食うんです。他の獣と違い被害が大きいんですよ」
「そうなんだ」

 そこから農夫は日頃の苛立ちをこれでもかと話し、僕はまくし立てられて去りどころが分からなくなってしまった。ウンウンと一方的に聞いていたんだけど、

「リシャール様、もう日が暮れました。お帰りのお時間です」
「はい」

 僕はマットの声に我に返った。ああすみません。つい長話をと農夫は苦笑いして頭を掻いた。

「遅くなりましたが、お元気になられてよかった。ロベール様の哀しそうなお顔は民も辛かったのですよ」
「うんありがとう。これからもロベールを支えて上げてね」
「ええ。それはもちろん」

 またねって僕らは空にスーッと上がる。遠くの空の紺と紅色が少し見える。真上はもう満天の星。

「帰ろう」
「ハッ」

 僕らは遅くなったとスピードを上げて、城に向かった。










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