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二章 緑の精霊竜として

9 国の成り立ちから変な話に

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 僕らの国は約千年……正確には九百年とちょっとだけど、王族は始祖からの血が変わっていないはず。他国は結構王族の独裁が目に余り、他の貴族や民衆に倒されて、国名だけしか残っていないところは多い。

「ロベールたちは始祖の王からの血筋?」
「あん?なんだ突然」

 就寝前のぼんやり時間にふと、思いついて聞いてみた。

「いやね。この間図書館で本読んでたらさ、他国は建国から今までに結構王家が代わっててね。そういや我が国はと思ったの」

 ああ、それねって。確かに火竜の血があるから西のリーリュシュ王族関連とは分かってるけど、どうなのかなって。初代から綿々と続いてるのかな?

「あー……俺たちは確かに火竜になれる一族だ。だけどな、二回くらいかな。王族は王族なんだけど、本国から来てる王がいる」
「へえ。記録にはないよね?」

 ロベールによると、建国から三~四百年の頃、他の地域で小競り合いが多く発生していたそうだ。その時魔石や核が大量に売れて、国が異様に潤ったことがあったそう。その時の王はそれに気をよくして、国庫無視して散財する人が多数。それこそ王たちは側室ところか性を消費するだけの者を大量に抱え、それに賛同した貴族と毎晩遊び放題。よからぬ薬も使い、行方不明になる者も多数発生。あ、それまずいやつと僕でも分かる。

「民に不正も横行して街は無法者で溢れたんだ。冒険者の格好はしてるが、後ろ暗い組織ばかりが根城を構えててな。治安は目も当てられなかった」
「今では考えられないね」

 あちこちの街は異臭と犯罪の温床で、善良な民は地方の小さい町や他国に逃げていた。貧民も異常発生でアンは性を売る者、奴隷商に拐われる人など、治安の悪さはあり得ないほど。西も東も王都は衛兵もおかしくなってて、もうね。

「それをどうにかしたいと、善良な貴族の一部が本国に訴えたらしいんだ。王族に直に楯突いたところで勝てないのは分かってるから、リーリュシュ本国」
「うん」

 素手でも強いのが王族。まあ魔力量半端ないから、適当な術でも当たれば致命傷。それが頭イカれてて、心も荒んでやりたい放題で、人の命を軽視している頃だもの。うん、嫌な光景が目に浮かぶ。

「リーリュシュの王はその腐敗に嘆き、出兵してくれたんだ。まあ、民には分からないようにな……まあ分かってたと思うけど」
「ふーん」

 本国の王族を多数連れて粛清したらしい。城もかなり壊れたり街もな。そして新たな王がやって来て落ち着いた。

「そしてそれから数代先かな。王位継承問題で揉めたことがあったんだ」
「へえ。うちでもあったんだ。こんなに仲いいのに」
「それはこれから話す事件があったからだ」

 その代は、王子がたくさんいて、なおかつ優秀な者が多かった。そして異例なことだが、王の資質の、あの白い炎の力が二人に発現したらしい。

「なんで……世代にひとりでなのでは?」
「うん。あの代だけ異例だな」

 当然揉めた。その時は第二王子と第五王子。性格はまあ第五王子がより悪かった。第二は割と大人しく、民に寄り添う方だったそうだが、味方に付いた貴族の力の相関で第二王子は暗殺される。

「後は同じ流れになり、本国から第五王子(その時の王)を成敗にやって来て、王が入れ替わっている」
「おおぅ……やっぱり」

 国に不都合な記録は表には残していなくて、学校で民や貴族には教えない。禁書庫に残してるのみだそうだ。だが、覚えている貴族もいるだろうなあって。

「たから今の規則があるんだ。直系の子どもがあまりにも多いと、こんな不測の事態が起こる可能性が高い。万が一があっても側室の子なら他所の国に養子に出すとか出来るから、王位継承権を剥奪出来る」
「そっか」

 アルフレッドが子作り頑張ってるけど、そんな側面もある。だから側室の子は王にはなれないんだそうだ。王族も制限があるんだね。

「俺は第二王子だから、あんまり勉強してないと言うか必要ないと言うかで、ヘルナー討伐までなんも知らなかったんだよ」

 あの事件があったから、王族は仲違いなどせず仲良く過ごすのが役目で、民にいらぬ不安を与えず寄り添うのが仕事と教わるそう。税収も多いから国は民に散財して、王族が出張るようなものは格安、もしくはタダが基本。敵を作る動きはするべからずが家訓だそうだ。

「だから今がある。サイクル的に考えれば、今頃何か起きてもおかしくはなかったんだがな」
「あはは。そうだね」

 でも、確かに現在は王族に対する不満は大きい。ほんの些細なことも、してもらって当然と考える貴族は多くなっている。お前がすぐに動けなかったのを、ネチネチ言うオッサン連中が多いのもそのせいだろうって。王族を敬愛してるのと、これは別なんだよって。

「王族や貴族は民の小間使じゃない。何かあった時税の代わりに民を守るのが仕事。戦も災害もそうだが、国を維持するのも大切な仕事なんだ」
「そうだねえ。こんな小国でもリーダーがいなければあっという間だろうしね」

 魔石の鉱山だって千年同じところから採掘なんて当然出来ない。あちこち探してるんだ。

「なんでそんなこと聞くんだ?」
「うん?なんとなく……かな」

 僕に出来ることは土地の活性、植物に関すること以外出来ない。召喚術士としては戦もないからなんにも役には立てないんだよね。討伐はいかないし。

「僕は赤ちゃん産むしか役に立てないなあ」
「ああ?もう一度言ってみろ」

 肩に回る手に力がはいって痛い!顔を見上げればコワッ
 クオールがやめなさいと窘めてくれて、力は緩んだ。

「ごめんなさい」
「お前は俺のモノでいてくれればいい。それが一番の仕事で役に立ってるんだ」
「はい」

 俺たち王族は妻の力に頼ろうとは思っていない。夫である自分たちを支えてくれるのが仕事で、特に心の支えになってくれることを望む。

「無理を言うつもりはないんだ。リシャールとこうして過ごすことに意味がある。竜の仕事はまあ、付加価値でしなくて、やりたくなければやらなくてもいい」
「でも……」

 今まではなくてもこうして国として成り立っている。僕がいると早いし作物が豊作になるだけ。

「なるだけとか言い方は悪いが、年月を掛けて土地の改良や天候に強い品種を増やせばなんとかなるんだ。それをお前が数日でやるってだけ。金で解決出来ることなんだよ」

 クオールもそうですよ。あなたの能力は農業の裏技的な物です。無理することなどなにもないんです。東の城の方では役に立つでしょうから、今はゆっくり過ごせばよろしいと。

「そっかな。他の妃殿下より役に立ってる気がしなくてね」
「そりゃあ赤ちゃん産まれたばっかりだから、お茶会とか催しを控えてもおかしくないだろ?」
「うん……」

 なんかね「お嫁に行きたい!」って頑張ってて、お嫁に来れた。リーンハルトも産まれてとてもかわいい。ロベールもみんなも良くしてくれて、王は僕を自分の子どもだと言ってくれもする。
 オリバー様とはとても仲良くなったし、僕が苦手なお裁縫を全部してくれて、赤ちゃんのお披露目はそれはそれは素敵な衣装を用意してくれた。他の王子たちの子どもたちも、赤ちゃんかわいいと遊びに来てくれて、まるで弟が出来たように大切にしてくれる。

「そうだ……僕お嫁に行きたいしか考えてなかったんだ。その先をなにも考えてなかった」
「ん?」

 みんなの顔ははてな?と不思議がった。ミレーユは、お嫁に来たら王族の一員として恥ずかしくない振る舞いと、アンですから赤ちゃん産んで次の世代を作り、公務をこなせばいいのでは?と言う。

「そうだね……それが正しいと思う」
「なにが不安?不満なんだ?」

 ロベール、不安とは違うんだ。そうだね、僕という「個」がなくなったと感じてるんだ。自分の意志で仕事して、成果を上げるようなことがなくなった。フェニックスを使役出来ることの能力評価、付与技師としての仕事の正確さや早さの評価とか、僕個人の……なにも言えなくて項垂れた。

「ごめんなさい。なんでもないです」

 ロベールはフンと鼻を鳴らし、指でグイッと顎を上げられた。見上げるロベールは厳しい表情で僕を見つめる。
 僕は過ぎた夢を見ただけなんだ。母様みたいになりたかったんだけど、母親になってみたら僕の個はなく、赤ちゃんのお母様でしかない。竜の仕事も年に数度くらいで、公務もあくまでもロベールのおまけ……僕、ロベールといる内に欲張りになってた。

「ごめんなさい……本当になんでもないです」
「嘘つくな」
「嘘じゃありません」

 結婚して早二年とちょっと。僕は王族と結婚するとは、どういうことか全然分かってなかったんだ。今も幸せではあるんだ。ロベールに愛されてなんの不自由もなく生活出来て、手取り足取りしてくれる側仕えもいる。なにもかもあってなにもない。こんなこと考えてるくせに「じゃあなにしたいんだ?」と聞かれれば分からない。

「言え」
「なにもありませんよ。あはは」

 素知らぬ顔して笑う。でもなんで急にこんな気持ちが吹き出したのか。たぶん幸せ過ぎたんだよね。振られてばっかで両親にも兄にも「また振られたか」と言われるのにも飽きていたのも本当。大好きな兄様に求婚されて飛びついて……こんなに幸せなのになんでだろ。睨まれたままだけど、言う気はない。

「もう寝ましょう?明日も公務で北の駐屯地に行くのでしょう?」
「行くけど構わん」

 僕は彼を手を避けて立ち上がった。

「僕は寝ます。みんなまた明日ね」
「あ、はい……おやすみなさいませ」

 みんなも、なんと声を掛けたらいいかと困った感じだったけど、僕は寝室に向かい布団に入って目を閉じた。着いてきたミレーユは、

「よいのですか?」
「うん。いくら愛してる夫であろうとも全部を話す気はない」
「まあそうですけど」

 ミレーユは、私はあなたの側仕えですからもうなにも言いませんが、不満などは我慢しない方がいいですよ。心の負担はいずれ体にも壊れる。解消するお手伝いはしますからねって、にっこりとした。

「私も妻ですから、夫になんでもかんでも話すなど確かにしません。でもね、リシャール様のは話した方がいい気はします。そのお顔ではね」

 きっと僕は不安な顔でもしていたのだろう。ポンポンと肩を叩くミレーユの手を握った。

「ふふっいつか……自分の気持ちが落ち着いて、冷静に話せる時が来たら考える」
「はい」

 ではまた明日とミレーユは出て行って、代わりにロベールがすぐに入って来た。

「俺も寝る」
「はい」

 僕は少しずれてロベールと並んで横になる。いつもならすぐにおいでって抱き寄せてくれるけど、今日はただ並んでるだけだ。まあそうだよね。

「話したくないならいい。でも本当に辛くなってしまう前に言えよ」
「はい。ありがとうございます」

 この気持ちは僕のわがままでしかない。王の補佐になるロベールを支えるのが仕事なんだ。僕の「個」など必要ない。ないんだ……




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