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六章 そして行き着いた

最終話 流れ着いて

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「キャル・アルカイネを四賢者に任命し、領地の当主ナムリス・アルカイネより、交代を宣言する!」

 アンリが二十歳を超えた時、モンタネールの領地を彼に譲り、僕とカミーユは正式にサーマリクの貴族になった。幼い子どもたちも成人まではこちらに置いて、成人後好きな国籍を選べとしていた。
 だが、ふたりともこちらに残ると決めて、次男は金持って東の国に消えた。あちらでコレールについて勉強して、他国に進出するってさ。下はまだ学生だからモンタネールの学校にこちらから通っている。

「みんな喜んでくれたね」
「ああ、身内は元々モンタネールに取られてたと考えていたらしいからね」

 領地は僕が引き継いだと言っても、ヘラルドもフェルナンも現役、コレールもね。ナムリスが引退しただけだ。だから、何も変わらない。

「ナムリスはどこだ。フェルナン」
「アンリ様のところに行ってます。こちらはキャルがやればよろしいと、あちらに住み着くそうです」
「はあ?」
「昔のキャル様を思い出して楽しいんだそうですよ」
「へえ。最近昼間は見かけないと思ったら…ったく」

 モンタネールの貴族も代替わりが進み、辺境三貴族は息子たちになっているが、ナムリスはやりたい放題で人んちを荒してる。

「それは違いますよ。稼ぐ方法の提案や新技術の導入とかですから」
「それ、ドナト様のところで実験してるだけでは……」
「それのなにが悪いのですか。上手く行けば一攫千金ですよ。失敗してもそれまで。問題ありません」

 と、完全に手懐けた三貴族とその子弟と楽しんでいる。アンリはナムリスの後ろをついて歩き、呆然。時々こちらに来てはジジィをなんとかしろ、親で番だろと。

「やれるものならすでにしている」
「父様、いつからそんなに使えなくなったのですか!」
「使えないんじゃなくて、愛しい人は放置なんだよ。好きにさせるのも愛情だ、と言う建前だ」
「なんだよそれ!」

 父様に使えないとか言うなとカミーユ激怒。

「なら母様が確実にナムリス様を抑えて下さいませ」
「ゔっ……僕はお仕事よくわかってないからムリ?うふふ……」
「母様も使えないな」

 まあまあと怒りが止まらないアンリをここまで!と小部屋に押し込んで、泣くカミーユを宥める。

「キャル……あの子意地悪になったの。あんなにかわいかったのに」
「うん……時間がなかったから形だけでもと五年で詰め込んだはいいが、僕もナムリスも手を出しすぎるから、嫌なのかも」

 アンリは四賢者の候補かと期待してたが、どうも違うようでね。ライリーの長男も違うらしい。ふたりとも妻以外に興味はなく、うちのエロ魔神も遺伝しなかった。それと、うちの次男もライリーのとこの次男も疑わしいが、ライリーの次男はナロスに逃げていない。ふたりは未知数だ。

 僕はといえば、領地はもうシステムが出来てるからいいんだってナムリスの言葉通りだったが、四賢者の方ね。

「キャル、それはどうなんだ?」
「私が砂漠に行きます。そして魔力防壁を張り先に進む。転送装置なしには先は無理ですよ。どこまで砂漠があるか分からず、あちらで探検者が干からびてるそうじゃないですか!かわいそうでしょう!」

 そうだけどさ、四賢者が出向くとか意味わからんよとダニール様、後継ぎの発現もなのに四賢者が冒険はなあって。フラナガン様もクリストフ様も渋い顔。マルセリオ王は当然だ。

「無理はいたしません。私はナムリスの後継になると決まった時、歴史を勉強し直しました。この番の本能の薄さが気になるのです。どこかに女性がいるのではと言う、期待が捨てきれません」
「ふう……気持ちは分かるがな」

 この国でもこの現象は気にしていた。アンが全滅するような未知の病が発生したら対策はどうするのか。

「それはみな心配はしているが砂漠は広大で、西に海があるであろうが、たどり着けてはいない。歴史は繰り返すものだと危惧はしているが……」

 王は渋い表情だ。他もね。

「なぜそんなに固執する。この東の海岸線に沿った国だけで上手くやっているんだ。それでいいのではと、私は考えているんだよ。キャル」
「私は……」

 この年になって不安が募るんだ。なにか起こるって。すぐどうこうなものではないんだけど、後二~三代先くらいになにか。漠然とした不安で説明し難いんだけどね。

「お前もか、キャル」
「へ?」

 土属性のフラナガン様が口を開いた。彼も僕と同じくらいの四十を超えたあたりから、いい知れぬ不安があるそうだ。

「お前と同じような不安を先代たちも持っていた。だからこの探索者を出し始めたんだよ。商売をするためなんかじゃない」
「そうなのですか?」
「ああ」

 光属性の者と風、土の者が、その時々で言っているんだそう。だけど、今日までなにも起きない。良いことだが、不安はなくならない。

「どこかで女が生まれ始めてゆっくりと入れ替わるのか、それとも激甚的に始まるのか。予測はつかない」
「はい」

 みな自分の能力が、今後百年前後になにか起こるだろうってことしか感じないそうだ。

「我が国の始祖はナロスの王族のひとりだ。だからこれだけの魔力があり、経済発展を遂げた」
「はい」

 昔の人々の種の絶滅の恐怖は理解出来る。あの当時と同じことが起きてもなんら不思議はないと、フラナガン様は言う。

「今あの当時の「アン」に当たる属性はいない」
「はい」
「何かが現れるかもしれぬが、それが女とは限らぬ」

 まあね。我らの預かり知らぬところで何かが誕生しているやもと、クリストフ様も。

「なあキャル。この不安は我が国だけではない。魔力大国はずっと以前から対策をとやっていて、他の国も当然あの砂漠を越えようと色々手を尽くしては来たんだ」
「へえ……」

 成果が出ないのはお互い様でなって。他国は船で移動しているらしいが、海岸線にも人の気配はないそうだ。と言うか生き物がおらず、草木がないらしい。いっそ東の国から対岸を目指したほうがいいのではと国際会議で話が出るほどだそう。

「我らは、この東の隙間しか生き物が住める場所がないと今は考えている。だからダニールは、移動している船に魔法陣が設置出来ないかの研究をしているんだ」
「成果は?ダニール様」
「ふふっキャルそれを聞くのか?」
「すみません……そんなに簡単じゃないのですよね」
「ああ」

 近場で実験したら、行けないか海に落ちる。いかりが下ろせないような場所ではずれるようだって。固定出来ないと難しいらしい。僕は魔法詳しくないから分からんが、魔法陣同士だ何だから出来そうとか思っちゃう。

「それが出来ないんだよ。理由は不明。だからこの固定だ。ゆらゆら揺れるのすらダメでな。行けるところまで行った国もあるが、無人の小さな島が見つかっただけで、人はいなかった。もっと遠いんだろう」
「そうですか……」

 お前が砂漠をどうにかしたいなら止めはしないが、砂嵐も酷く、魔法陣の設置はかなり困難だぞって。我らがやってないと思ってんのかと叱られた。

「撤回します。もう少し考えます」
「そうしてくれ」

 この話は仕事の話ではなく、無駄話の一環でね。本題はもう終わっていたんだ。会議が終わり部屋を出ると王がキャルと呼び止めた。

「今夜閨へ」
「はい……」

 マルセリオ様の下半身は現役だ。ついでにうちのナムリスもな。僕はこのふたりとカミーユだけで他に番はいない。まあ、四賢者としては普通だ。ナムリスと王がおかしいんだよ。

「ん…あっ……はあっ……」
「キャルはいい……若ければいいとは限らぬからな」
「うーーっ」

 噛まれる快感に震えてドクドク……もうおじいちゃんと言っていい年なのに、マルセリオ様はそうは見えない。肌のハリもちんこの勃ちもまあ素晴らしい。バケモンかと思わないでもないが、ナムリスも似たようなもの。抱き合って蕩け合う……

「マルセ……ハァハァ…」
「うん…いくつになってもお前はかわいいな」
「もっとして……」
「ああ」

 さすがに一晩中は無理になったけど、丁寧なセックスは堪らない。
 激しく責め立てるナムリス、絡み合い愛を確かめるようなカミーユ。どれも捨てがたい愛しい番たち。

「グッ……出すぞ」
「あっ……ふっ…あーーっ」

 噛まれながら射精されるとふわっと意識はなくなった。

「キャル……起きてくれ」
「ん…あ…マルセ……」
「愛してる……お前をとてもな」
「僕も愛してる…マルセ」

 頬を撫でながら唇を合わせる。マルセとのキスが僕は一番好き。

「マルセ…もっと…」
「ふふっお前は変わらぬな」
「うふふ。入れて……」
「もう勃たないよ」
「ならキスして」

 僕は彼の回数では足りなくなっていた。マルセとのセックスは気持ちよく楽しい。でもねぇ……二度くらいでは足りないんだ。仕方ないけどさ。

「寝よう」
「うん」

 翌昼過ぎに屋敷に帰り仕事して、昨日の欲求不満をカミーユと解消して。

「キャル」
「なに?」
「ぼく幸せだ」
「うん。僕も」

 ふたりとも大人になる頃には人生に絶望し、未来に希望を見いだせなかった。それが、サーマリクの公爵になり子どもたちも立派に育ち、忙しくも楽しく生きていた。
 閉鎖的だったモンタネールも発展を遂げ、金は人を良くも悪くも変える。正攻法で稼げて、販路も国内のみならず他国に売りに行ける。不正をするものもいるが、明るみになるのも早い。すぐ処分され、国外追放になる。

 そんな貴族を見ているのにも関わらず、民も似たようなものだ。結局心の弱い母の兄は騙されて不正に手を染めた。王も庇いきれず国外追放になり、コンラッド様のお子様のひとりが跡地を直轄地として運営することに。あの国で僕の身内は減ってるんだ。
 兄の行方?んふっ家でこき使ってるよ。コレールの見張りで東の国でこんぶの責任者でね。寒いと文句たれてたけど、路頭に迷わなかったのを感謝してくれ。

「キャルは……王にも愛されて…ぼくの伴侶はすごい」
「あはは。あの方は同性しか愛せないんだよ」
「でもそのひとりに選ばれるなんて名誉なことでしょう?」
「まあね」

 僕は王の寵愛を受ける特別な者と貴族には思われているが、四賢者はいつも通り。特別なにかしてもらってはいない。

「跡継ぎのマリアーノ様も素敵に育って……食いまくってるけど」
「うん……あれは王の資質だから」

 結婚前に子ども作るしね。なにより彼は可愛らしいんだ、母親に似たんだろうなあ、見た目がまあ愛らしい。

「中身は今の王なのに、外見がライリーみたいなかわいい系で……油断してると城中番では?とか言われてるね」
「でも彼はノルンは食わないからね」
「うん」

 婚約者もそんなもんだとドンと構えている、これまたかわいい方だ。中身は男前でかっこいい、クリストフ様のお子様なんだ。クリストフ様自身は渋い色男で若い頃は遊んでた人だ。

「休憩は終わりだ。カミーユ」
「うん…愛してるよキャル」

 まだまだやること、したいことはたくさんあるが、僕の人生の変化はこれで終わりだろう。流されて結局父の後継にたどり着いた。んふっ悪くなかったと今は思う。家を出されて二十年以上だが、濃い人生だったなあ。
 腕の中には僕の好きなりんごの香りを纏うカミーユがいる。

「あっはっ……出ちゃ…うの……」

 僕のもので悦ぶ彼が愛しい。少しシワは増えたが美しいままのカミーユ……僕の番の本能は強く、彼への気持ちは揺るぎない。

「ウーーッ」
「クッ……」

 彼とはこのままじいさんになるまで仲良く過ごすんだろうと思う。まだこの国での僕の人生は始まったばかりだ。死ぬまで公爵をやりたいが、まあ無理だろうから誰かに継がせよう。

「キャルもっとぉ……」
「ああ」

 僕は恵まれているこの環境を大切にしたい。ナムリスがくれたこの地位と環境。愛しいナムリスの期待に応えたいんだ。
 モートンの父、母、娼館の時代。何もかも遠くに感じるくらい今が幸せだ。母はやはり憎いのは変わらないが、どうでもいいくらいにはなった。人は憎しみを長く保つことは難しい。ナムリスの愛が憎しみを減らしたと思う。
 
 この楽しい日が続けられるよう頑張るだけ。なくなったもの全てを僕は取り戻したんだから。











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