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五章 流れに身をまかす

13 雪国を楽しみ帰宅

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 ハッと正気になり宿屋に入った。たぶん古いこの国の作りの茅葺屋根の大きな宿屋だった。ロビーに当たるであろう板間を抜けて壁のない渡り廊下の先。たくさんの部屋があってその一つの部屋に通されると…?

「どうぞ。足を中に入れてくだされ」
「はい」

 座敷の真ん中に四角い「こたつ」なるものがあった。言われるまま僕は毛皮のコートや騎獣服の装備を解いて、足を入れた。

「あっかい!父様あったかいよ!」
「そうか」

 椅子のように座れる「掘りごたつ」というもので、コレールと父様とでぼんやりこたつに入る。こたつの上にはみかん。オレンジとは違う手で剥けるからと、コレールが見本を見せてくれて、剥いて房をひとつ口に放り込んだ。

「あま!なんて美味しいんだ」
「この国特有のオレンジですね。門外不出でこの国でしか手に入りません。商会の近くが産地です」
「ふーん」

 たくさん積んであったんだけど、小さいから食べ終わると剥いてを繰り返していた。

「キャル食べ過ぎだ。夕食食べられなくなるぞ」
「はーい」

 まだすぐには夕食にはならないもん。外は雪で暗いけど、まだお茶の時間くらいだ。そのままゴロンと横になった。あの座布団がしいてあって……いい。この国はゴロゴロしやすくてだらしなくなるね。

「キャル様、仮眠なさるならお布団で。風邪ひきますよ」
「うーん……ここでいい。あっかいから」

 仕方ないなあってコレールが「はんてん」と呼ばれる綿入りの上着を掛けてくれた。湯上がりに館内で浴衣の上に着る服で、綿入りのガウンのようなものらしい。

「ありがとう」
「いいえ」

 そのまま僕はうとうと寝てしまっている間に、父様たちはこの雪の中仕事をしていたらしい。こちらの北の海でしか取れない「こんぶ」なるものを南に送る手はずを整えていたそうで、サーマリクに運ぶそうだ。

「こんぶは旨味が強くてな。うちの商会の目玉にしたいんだ。この国のものが最高級品で高値で売れる。魚をこれで巻いて味を移したり、スープのベースに煮込んだり出来るんだ」
「ほほう」

 旨味の塊で使い方は料理人次第で、どうにでもなると楽しそう。いい物が手に入ったし商談もうまく行ったと、コレールと嬉しそうにみかんを食べる。

「はあ、父様は商魂逞しいな」
「まあ、領地だけの収入でも問題はないんだが、お金を貯めてまだ見ぬ国に出店したいんだ。たのしそうだからな」
「そうだねえ……これだけ違うのなら見たことない物も人もいそうだよね」
「そう思うだろ?」

 お前も頑張って薬草売ろうぜって。

「まだ山とか残ってるだろ?上手く野生に近い育て方すれば、薬効が強くなって更に稼げるぞ」
「ふーん。うちの魔法使いとかヘラルトに提案してみるよ」

 そんな北国では雪だるま!やかまくら!とかを作って遊んだ。魔法も使って中に入れる大きなのを宿屋の空き地に作らせてもらった。この場所は夏には畑や田んぼだそう。

「お客さん。この七輪でもち焼いて、しょうゆつけてノリ巻いてな」

 立派なかまくらだと宿屋の主が褒めてくれて、それならここで楽しめと床に敷物とこたつを用意してくれた。そこに女将と呼ばれる奥様がもちや七輪持ち込んでくれた。宿の主が見本を見せてくれて、コラールが焼いてくれた。

「うま……もち美味しい。この国食事が美味しすぎる。魚以外」
「あはは!魚は嫌か。かまぼこは魚だぞ」
「あれは別枠です。あれ国で作れないかな。サラダとかに入ってたら美味しいよね。夜のつまみとか、使い方は色々ありそう」

 父様たちも食べながらそれムリじゃないかなって。

「職人を雇わないとだが、ここの国の人は外に出ないぞ」
「チッ……仕方ない。父様が定期的にうちに納品して下さい。僕買いますから」
「だってよ。コラール」

 クスクスとコラールは笑い、

「かしこまりました。必ず」
「ありがとう」

 なんて雪を堪能しながら過ごして、屋敷からの呼び出しもなく一月半遊び呆けて帰宅。

「おかえりキャル」
「ただいまカミーユ」

 小部屋を出るとカミーユが目の前に。コラールがこちらに連絡入れてくれていたようだ。カミーユは僕の頬に手を添えて、

「いい顔になったね。ぼくの大好きなキャルだ」
「うん。心配かけたね」

 すまなかったと謝って夕食取ってから、部屋で少し飲もうとあちらから持ち込んだお酒やかまぼこ、スパイスなどで料理を作ってもらい、つまみながらね。

「そんな成人の儀式があるのか……こちらでも嫁いでから不妊発覚でつらい人は貴族も民も聞くね」
「僕も娼館の頃に少し耳にしたんだ。だから僕の客になってる人もいたんだ。嫁に行くことも出来ないアンの人がね」
「……それ辛いね」
「うん」

 カミーユはそれを防ぐ儀式かと考え込んだ。成人頃に分かっていれば、ノルン同様に家のためや、文官としてしっかり働くことも出来る。結婚がなければアンでも能力の高い人はたくさんいるからねって。そして黙った。

「どうしたの?」
「うん……ぼく子ども産めてよかったと思ってさ」
「うん、アンリはかわいいもんね」

 それにねって。僕は生きるだけが仕事だったから、不妊で一生キャルの奥さんは子どもがいる今、怖く感じると言う。それとねってもじもじとし始めた。なんだ?

「キャル匂いが少し変わった気がする」
「え?そんな訳……あ」

 この儀式は親と交わるから、なんか匂いが変わる場合ありと父様言ってたな。この儀式は親の魔力を浴びるからだそう。

「そうかも」
「すごく……ハァハァ…」
「どうした?」
「興奮するの。大人の淫らな匂いって言うのかな。それが増えてる」
「マジで?」
「うん。抱いて欲しい」

 うん、ベッドに行こうって誘ったら、

「ここでして」
「え?」
「犯して」

 ど、どうしたんだろう。こんなこと言う人じゃ……まあいいか。リオンを外に出して脱がすと、

「カミーユ……びちょびちょだな」
「匂いに興奮しておかしいの」
「ちょっと待ってて」

 僕は部屋に隠していた媚薬を持って来てヌリヌリ。ノルン用だから減らしてね。久しぶりなんだから気持ちよくなって貰おう。

「いやあ!指入れただけで!」
「すごいでしょ」
「う、うぅ……ちんこイッたのにすぐ勃つ……お尻もおかしい」

 ドクドクと吐き出したのに萎えもしない。

「こっち向いて」
「う…うん」

 僕はキスしながらあの媚薬を舌で押し込んだ。ゴクンと飲んだのを確認してどう?と。

「なにこ……グッ……」

 すご……アンに飲ますと前も後ろもおしっこ漏らしたみたいに……匂いも強烈で僕の頭がやられる。

「キャ…る…これな……に……欲しくて…なんにもしなくてもイッちゃ…う」
「ちょっときつかったか。ノルン用だから少なくしたんだけど」
「ぼく…エロいから…反応がつよい……のかも…」

 僕はカミーユの足を広げずぶり。ぐあっ!いきなり締め付けて!

「カミーユ締め過ぎてる……もげそう」
「む…り……ん…あ…」

 もう意識は曖昧でぐったりしてるくせに中はビクビクと。

「して……いなかった時間をちょうだ…い」
「うん」

 久しぶりなのに穴は柔らかく、グチュグチュと愛液溢れ…キャル!キャル!と叫ぶ。

「奥に!強く!もっとぉ!」
「ああ!」

 カミーユは激しく乱れて自分で股間をしごきながら、すぐ復活して締め付ける。

「足らな…い…もっと……いくらイッても快感がなくなんない……ああ……もっと…して…」
「ああ…足らないよね」

 匂いに頭が痺れて言われるまま押し込んで、僕は射精しながらふたりで絡み合う。外は白み始めたけど、カミーユは僕を求めた。ベッドに行こうと連れて行き更に責めた。
 溢れ出す愛液と精液、僕の精液も混ざり合い、甘いりんごと花の匂いが濃く部屋に充満する。

「キャル愛してる!」
「僕も愛してるよ」

 本当に心から愛していると言える。この旅は僕を変えたんだ。僕の前には薄いベールがあって、それ越しに世界を見ていたと思い知った。父様に心を完全に開いたら世界は広く、そして輝いて見えた。親を信じることを父様は教えてくれた。親の無償の愛があると信じさせてくれる旅だったんだ。

 その開いた目でカミーユを見つめ、抱けば彼への愛が溢れ止まらない。欲しいならいくらでも応じようと思えた。それから本心でアンリが愛しく思え、父になれたんだと感じる。僕はそのベールを掛けることで、親や他人、カミーユまでも距離をとっていて、他人を心から信じることが出来ない自分を守っていたと。それを知ることが出来たんだ。抱かれたせいもあるかもだけど。

「あー……薬抜けたみたい」
「ごめんね。自分があまりによかったからあなたにもって思って」
「ううん。すこくよかったからいい。半分意識なかったけど、ちょっとした刺激すら気持ちよくて……んふふ……はまる」
「え?」
「たまに使おうよ」
「でも今立てないでしょう?」

 そうでもと起き上がろうとしたらゔっと腰に手を当てた。

「いてて……立てないくらいするなんてないでしょう?そんな暇も時間もなかったから」
「うん」

 ぼくはキャルが思っている以上に愛してますと、僕に腕を回す。

「あなたはこの旅行で別人のように見えるくらい素敵になった。匂いとかではなく、なんだろう」
「なにかな?」
「うーん。そうだ!変な言い方だけど心に芯が出来たんじゃないのかな?」

 芯?……うーん。

「キャルは自分のやりたいことをこれまでしてきたのかな?僕もだけど、周りに合わせたり、流されて生きてきてない?」
「ああそうかもね。それしか選べなかったから」
「でしょう?」

 ぼくらの立ち位置はとても不安定だったんだ。ぼくは生きていればいいだけ。死ななければいいとそれしか仕事はない。キャルはアセベド様に捨てられ命を狙われた。それがあんな形で終わり、本当の父様が他国から現れて……それにうちの王族は利用して今があると、迫力のある、騎士の顔になった。

「利用したなんて自分の親を……」
「いいえ、王があなたの出自を利用して国を立て直したんだ。コンラッド兄様も同罪だよ。それしかこの国では選択肢がなかったキャルを利用したんだ。あなたの気持ちは置き去りだった。申し訳ありませんでした」

 いや……そんなことは思ったこともないよ。あなたに拾われなければ今頃お金貯めて娼館を経営してた。サイオスの領地かどこかで好き勝手に生きてただけだからと言うと、違うよと叱られた。

「そうする選択肢もキャルにはあったんだ。ぼくがあなたの人生を大きく変えたの。あの時はふたりで死ぬまであの別宅で過ごすしかなかったから、それで変化は終わるはずだったんだ」

 捲し立てるカミーユに僕は、

「そうかもしれない。だけどアセベドの父が死んだのもすでに僕の範疇はんちゅうではなくなってたし、あの頃はナムリスの父たちの事情も知らなかったし」

 いいえ!ごめんなさい、ぼくのわがままであなたは苦労してしまったんだとカミーユは肩を震わせた。

「カミーユ。ナムリスの父はアセベドが亡くなったことを知れば、きっも本気で僕を探したと思うんだ。だから、僕が連れ戻されてサーマリクに行っても同じような結果が待っていたはず。妻があなたでなかっただけだ」
「そうかもだけど、今よりはきっと苦労は少なかったんだ。ナムリス様もライリーもお祖母様も大切にしてくれたはずなんだ!」

 僕はカミーユの頬を両手で挟んだ。

「なにずんの!」
「カミーユ、過去は魔法でも変えられない」
「ゔん」
「なら前を向こうよ。僕と幸せになろう?」

 チュッとしてから手を離した。エグエグ泣きながら僕の目を覗き込むように見つめる。

「ぼくを許してくれるの?」
「許すもなにも、愛しいカミーユとしか思ってないよ。カミーユに見初められてよかったと思ってるよ」
「ホント?」

 本当だ。嘘偽りはない。心のしこりを和らげたこの旅行は僕にやる気と、人を本当の意味で信じて愛することを理解させた。僕はウォッシルを掛けてカミーユにガウンを着せる。

「恥ずかしくて言わなかったんだけど、父様とふたりで旅行してるうちに……その、子どもに気持ちが返ってる気分だったんだ。彼の子どもをやり直してるような感じてね。毎晩抱かれてもいたのに子どもに返っていたんだ」
「え?毎晩?」
「うん…父様は僕の匂いに母の匂いを嗅ぎ取ったらしくて、親ではない愛情が湧いたらしくてさ」

 僕の言葉にメラメラとカミーユの目に炎が見えた気がした。

「カ、カミーユ?」
「くそオヤジめ、儀式は分かるがキャルをぼくから取ろうとしてるのか!クソが!」

 え……カミーユ怖い。

「と、取る気はないと思うけど……」
「分かんないでしょ!エロ魔神なんでしょ!ナムリスは!キャルを奪うなら迎え討つ……」
「そこまで父様はバカじゃない」
「知ってるけど!親子は結婚できるんだよ!それも第二夫人まではあちらも持てるはずだ!」

 ふう……カミーユまず前提条件がおかしいんだ。僕は「ノルン、タチ」だ。結婚自体出来ない。どんなに愛し合ったとしても、番にもなれないんだと言い聞かせた。

「あ……そっか。つい」
「父様は母と僕との境が曖昧になってるだけだ。きっと今頃正気になってるよ」
「むう。ならいいけどさ。ねぇ、今日は休んで明日から仕事する?」
「うんその予定だ」

 なら寝ようって抱き合って眠る。旅の間は父様の腕に抱かれてたけど、今は僕の腕にカミーユ。うん、収まりはいいし、この甘いりんごの匂い大好きだ。







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