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五章 流れに身をまかす

3 休息日のお茶会

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「カミーユ様!」
「はいはい……」

 ガイナスは、カミーユの身の回りから股間の始末までする側仕え兼側近だ。今はオーキャンが僕の側仕えとなっている。まあ、彼はヘラルドの助手の仕事が大半で、僕の身の回りはメイドのリオンがほとんどだ。索敵魔法が得意なサーマリクからの子だ。

「リオン。悪いんだけどガイナスと一緒にカミーユに付いててあげてよ」
「はあ、よろしいので?」
「うん…ひとりじゃ大変そうだから」

 カミーユはつわりが軽く動き回るんだよ。体力が余ってるのか庭の東屋に行ったり、鍛錬場にウロウロ行ったり。魔法の訓練するんだ!ってね。しなくていいと言ってるけど聞きやしねぇ。今日は週に一度の安息日、昼下がりのお茶の時間はカミーユの東屋でね。

「カミーユ?みんなの迷惑だからあんまり負担にならないように」
「はい……でもねキャ…」
「でもじゃありません!お腹も目立って来てるしみんな心配なんだよ」
「ゔー……」

 バリバリ漬物かじって不貞腐れた。あのね、お母さんになるんだから自覚してくれ。

「はい……ごめんなさい。キスして欲しい」
「ふふっ」

 チュッとすると機嫌は直る。あはは、僕この素直なカミーユ大好き。僕の胸に愛しさがあふれるんだ。前なら勃起もついでにしてたけど、そういう欲は起きなかった。多分他の人には分からない、カミーユの香りが変わったからだろう。これが欲を抑えているようなんだ。父親が他に種を撒かなくなる番の仕組み。まあ、絶対ではないらしい。

「それね。気になってセフィリノ兄様に聞いたんだよ。そうしたらジルベルト様もそうなったって」
「そう」

 リオンは皆さんそういいますねって。番以外の人には分からない変化で、当然妻に反応しない人もいる。番の本能が薄い人とか、相性がギリギリとか。射精時の噛むのも意味はあるはずなんだけど、これも噛みたくなる人とならない人がいる。ガイナスは、

「私もなりましたよ。妻は愛しいけど欲はなくなりました。生まれて少しすると香りも戻りますよ」
「へえ。子どもはかわいい?」
「それはもう。まだ小さいので妻のベルカントは大変そうですけど」
「ふーん。僕も赤ちゃん楽しみだ」

 カミーユの愛らしさを持った子が生まれるといいなあ、なんて思いながらお茶を飲んだ。カミーユはガイナスに、ベルカントはどうしてるの?とか食いついて聞いている。

「キャル様どうぞ」
「ありがとう」

 リオンにお茶を淹れて貰いながら木漏れ日を眺めた。この番の本能の弱さは大陸中らしい。動物は当たり前にあるから、人が変化してるんだろう。いつかこの本能もなくなるのかもしれない。そうなったら……いいや、その時の人が考えればいいことだ。

 目を閉じる。こんな穏やかな日がずっと続くといいと思う。小川のせせらぎに頬を撫でる暖かな風。自分が自然に溶けていくような気がした。

「キャル!寝ちゃダメ!」
「うあ?ごめん。寝てた?」
「寝てました!」

 二人だけのお茶会はついね。種付けから二か月。忙しさは変わらずで、結婚式の分もあるからみんな忙しい。王から貴族には話しは付けたから、今から半年だってこの間手紙が届いた。今は衣装や諸々……まあ、側近たちが忙しいだけだけどさ。庭も民が入ってもいいように少し植栽とか減らしたり。動物の植栽は切るな!とカミーユが言うからそれは残したり。

「赤ちゃんどんなかなあ」
「どんなでもかわいいさ。でもあなたに似てると嬉しいかな」
「えー、ぼくはキャルに似てて欲しい。ぼくねキャルの見た目大好きなの」

 似ればお嫁さん困らないからねって。ガイナスたちも確かにって笑う。

「これほどの美男子で領主の息子ときたら引く手あまた。ひとりに絞るほうが難しそうですけど」
「でしょう?うちの国にここまでの美男子いなくないからね!」
「確かに。キャル様は見た目サーマリク人ですから」

 うーん……あちらに行くようになって気が付いたんだけど、以前は似た民族と考えてた。確かに似てはいけど、目が慣れると白人ってだけで似てないところが多い。肌の色がモンタネールの人より白く、瞳の色も多彩で金髪多し。そして国全体で美形で、優しげな雰囲気の顔立ちの人が多いんだ。

「こちらは肌も色々だし、建国の頃にたくさんの人が入ったのかもね」

 カミーユの発言をガイナスが否定した。

「国が大きくなると他国からの移住がかなりあったようです。北からも南からもですね」

 ガイナスの発言に僕も考えた。初代の王は魔力が多く、時代と共に少なくなった。その頃から魔力が少ない、もしくはない国から移住者がたくさん来たそうだ。
 そして肌の色の濃さは後に人さらいの標的になった。彼らはおおらかで、警戒心が薄いせいもあってね。今や国には黒人はほとんどおらず、サーマリクの人より少し色がある程度だ。

「……女の人見てみたい」
「え?」

 突然なにを言う?話が飛んでるし、女性はとうの昔に絶滅してるけど……

「ぼくね、妊娠してから教会に行ったんだ。元気な子が生まれますようにって先祖にお願いしにね」
「うん」

 そこで神父に色々聞いたらしい。お母さんはぼくらアンとは違うって。きめ細やかな愛情を注いで慈しんで育てたって記録にはあるそうだ。男ばかりになって、アンがその代わりをしているが、女性だけで楽しむ文化は廃れたようだと。今もアンの人はおしゃべりだ。だけど、記録よりも貴族も庶民も近所の人と家族みたいに仲良くするなんて関係性は、少なくなっているらしい。

「女の人はおしゃべりが大好きで、夫の不満や子育て相談とか井戸でしてたんだって」
「へえ……」

 昔は家々に井戸はなくて、庶民は共同の井戸やかまどがあって、まとめてパン焼いたり、川で洗濯したり。今もだけど、魔力切れ起こすから全部手作業だったし、近所付き合いは密で、助け合って生きていたそうだ。

「今の民はそんなじゃないよね。もっとドライっていうか。山にみんなで果物取りに行くもなくなったし、他人の子を自分の子と同じように世話するなんてないもの」
「まあね。便利にはなったからかな?」

 たぶんねって。全くない訳じゃないと神父さんも言ってたけど、今はお祭りとかでもなければって、少し寂しそうに話してたそうだ。

「あの絵のような、柔らかそうな体と素敵な笑顔を見てみたい。そんで話してみたい」
「はあ……」

 父上は人類探しの旅?を国を上げてやっているって言うから、いつかどこかで見つかるかもねと慰めたけど、まあムリだろ?北から南まで何十という国は見つけても、どの国も記録しか残ってないんだもん。いつか……あの山脈の向こうにいるかもだけど……

「ムリは分かってるけど……」
「うん。ならカミーユがお茶会とかすればいいよ」
「ふふっうん。サイオス様やラインハルト様の奥様たちとは仲良くなったからね」
「そうなんだ……」

 少し嫌な汗が出たけどにっこりしてごまかしたが、カミーユの話は続く。東の国は夫が働いて妻は家のことだけをするって。夫をまるでもう一人の子どもか?ってくらい世話をするそう。え?……それ庶民では珍しくないか?

「そうなんだよ。奥さんが側仕えみたいなんだ。でもその代わり夫は食べ物とか、お金をきちんと家族を養えるだけ稼ぐらしい。出来なきゃすぐ離婚ってなるようだけどね」
「へえ……それがいいのかわかんないね」
「うん。文化らしい。奥さんもいつでも自立できるように、勉強も手に職も独身の時に身に付けてて、そういった人を雇う場所もあるそうだよ」

 ある意味ドライだな。愛想が尽きれば早いのか。そんな取り留めのない話をしながらお茶会はお開き。この話はライリーがたまに僕が知らないうちに来て、カミーユに吹き込んでるそうだ。まあいいけどね。
 こんな感じでカミーユの出産まで、お仕事の日は寂しかったとか、ライリーやメイドから仕入れた話なんかを聞いて過ごしたんだ。



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