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最終章 僕が来る前に戻った……のか?
14 報奨の祝典の日
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人とは現金なもので、自分なりの解決策が見つかれば前向きになれる。そしてなぜティモがあのようなことをしたのか、心から理解出来る気がしたんだ。お互い相手に「自分が求めるものを持っている」ことに気が付き、依存した。その依存が心地よく幸せで、依存していることに気が付かなかった。主を慕っていただけだ、側仕えだから寄り添ってくれるのは当然だと思い込んで。
「半分当たり半分間違い。ですよ」
「分かってるよ」
お昼のお茶の時間。カールは私もそこまで寄り添える主に巡り会えば……かなって。でもね、家臣たるものそれではダメなんですよ。主を諌めるのも仕事ですからねと。
「うん……そう言えばティモはあんまり僕に注意はしなかったなあ。共感してくれることが多くてね。お裁縫が苦手なのも、やりなさいって強くは言わなくて、腹巻き作ってくれたりね」
赤ちゃんの刺繍も母様に頼んでくれて、お披露目ではバレてる臭かったけど、表面上整えた。他もねぇ、思い出せばきりがない。
カールはなにか思いついたようにカップを置いた。クルト様、根本原因はティモにはあったのではないかと言う。え?
「あなたがティモの目の前で死にかけたのが不味かったかなと、私は思いますね。ティモにはそれがとても辛かったのでしょう」
「ああ、そこは考えなかったな」
家臣が生きてて主が死んだ。それも仲のよかった主で家族のように思っていた。それが目の前で血だらけで、絶望的な光景なのに自分だけ生きている。カールは、そこがティモの、思い詰める分岐点ではないですかと僕を見つめた。ティモのその時の恐怖を考えればそうなのかもなあ。僕には実感はないけどさ。
「あのねカール。僕は知らない世界にひとりぼっちで、実家にいる間記憶の中の仲の良かった私兵団長やティモにべったりだったんだ。家族は嵐の後片付けで忙しくて頼れずで、僕は本調子ではないし、お嫁入りも近かったし」
「ええ」
あの時は自分がこの世界を知ることと、弱った体を元に戻し、知識を補填するが命題だった。この世界でおじいちゃんになるまで生きるんだと思ってたから。
「原因はひとつじゃなかったんですよ。あなたの都合やティモの性格、色んなことが重なって、彼の心の一部が壊れたのかなと、私は感じます」
「うん。僕も自分のことで手一杯で、周りが見えていなかった。アンジェに嫁ぎたくないと思ってたのも本当なんだ。他はともかく、アンジェあの頃無口すぎてさ」
「あははっ確かに。旦那様は婚活市場で人気なかったですから、そう思っても仕方ありませんね」
グレゴールの新作のオレンジのチョコーレートケーキが美味い。オレンジのリキュールも入ってるみたいで、口に入れるとチョコとのハーモニーは絶妙だ。ティモとならきっと美味しいとふたりで笑い合えたんだろう。今はカールと見合って笑い合う。これも楽しいと最近は思うんだ。
「明日は報奨の式典です。おふたりの晴れ舞台ですから頑張って下さいね」
「うん」
翌日。
日の出前から湯浴みにお肌の手入れ。僕が作ったアロエの保湿剤を念入りに塗り込む。これプルプルになるんだ。反則技、僕の魔力を込めたアロエで作っている。前の世界で手作りローションを試したことあってね。その知識で作ったんだ。
うーん……これの開発でかなりの貴族に憎まれたんだよなあ。なにせ奥様方が褒めちぎったからね!化粧の文化はなくても、お肌に潤いが欲しいのはどのアンも同じ。この世界の潤いはオイルだけで、お風呂で使うのが一般的。それも洗い流すタイプだ。
ヘルテルやバルシュミーデはその文化すらなく、ワセリンのような油を塗るだけ。それだと日焼けもするし、紫外線で年取るとシミが多くなる。だから特に喜ばれててね。日焼け止めの成分は不明だから……僕の反則技、日焼けしない成分!クワッと念じている。これの製法は、アロエの下処理を職人さんにしてもらって、たまに僕が出向き、クワッと樽に念じて作る。ありえない作り方をしてるけど、前世のような物が出来上がるんだ。おほほほ、魔法は便利。
そんで交易のある国にアンジェの商会を作り、かわいいビンに入れて売りまくった。若い奥様はそれこそ飛びついてくれたんだ。当然嫁入り前のアンたちは店に押しかけてさ。きれいでいたいのはどこでも同じ。
いまや我が領地は潤いまくり。ワイバーンを増産して、あちこちの国に売り歩いているんだ。ああそう、名前はネーベ・ビアンカ。白い雪という意味だね。美白を打ち出したんだ。今はローション、乳液、ナイトクリームまでは作った。あとハンドクリーム。これはノルンに人気。
「クルト様、旦那さまと同じ色のコートは……変えませんか?」
「ああ、はい。なんで?」
次の化粧品なんにしようとか、別のこと考えちゃったよ。カールに声を掛けられて僕が振り向くと、新しく新調したコートとウエストコートを持ってうーんと唸る。
「モスグリーンとか私は嫌です。クルト様かわいいんだから、赤とか深めのオレンジ色とか明るい色の方が映えますよ。刺繍は確かに華やかですけど……」
カールは夫婦で色を揃えるのも大切ですけど、、こういった華やかな場で「アン」をアピールしてもバチは当たらないはずだと言う。うーん……ならオレンジがいいかな。僕の大好きな色で出席するか。
「はい!ではどれにします?」
初めに選んだ時、白の賢者だから真っ白?とか思ったけど、花嫁じゃねえんだぞと怒られた。
白の賢者は「光魔法」のせいで言われているだけで、色じゃないって。ならアンジェは真っ黒だもんね。そしたら葬式か!とまた叱られた。ふう
「うん。よくお似合いです。でも旦那様の目の色の髪留めの宝石や胸元の襟やカフスの宝石が……あんまりになりますね」
「そうだね。なら代えるか」
「はい!」
ということで、僕の瞳の色の緑の宝石にチェンジ。
「いいですねぇステキです。緑はとても合いますね」
「そう?ならこれで」
「ええ」
コンコンコンと部屋がノックされて、ローベルトが城から迎えが来ましたって呼びに来た。
「ではカール、いってきます!」
「はい。いってらっしゃいませ」
僕が玄関に向かうともうアンジェが待っていて、早く来いと手を上げる。かっこいい……正装してるアンジェは、なんてイケメンなんだろう。上から下まで眺めて……少し年齢が上がったからか、すごくかっこよくなってる。
「クルト?」
「ふえ?ああっごめんなさい。あんまりイケメンで見惚れてた」
「クッお前はもう。でも嬉しいよ」
僕の大好きな笑顔でお手をと差し出してくれる。んふふっ
「母様はいつまでも父様大好きだねえ。こちらが照れるだろ」
「うっ……いいでしょ!」
「いいけどね」
リーンハルトは呆れたように僕を見つめて、でもそんな母様が好きですよって。
「僕らは明日のお昼の園遊会に行きますから、くれぐれも失敗しないでくださいね。母様そそっかしいから」
「分かってるよ!頑張ります!」
「……心配」
うっさいぞ!母様もやる時はやるんだよと、リーンハルトと言い合っていたら、アンジェは母様をいじめるなと笑う。
「父様は心配してませんが、母様は不安です。父様、しっかり見張ってて下さいませ」
「ああ。大丈夫だ」
僕、子どもにまで心配されるような母なのかよ。でもいいんだよこれが僕だから!よしっ気を引き締めるもん!みんなのクスクスという笑い声の中、見送られて馬車に乗り込んだ。。
「半分当たり半分間違い。ですよ」
「分かってるよ」
お昼のお茶の時間。カールは私もそこまで寄り添える主に巡り会えば……かなって。でもね、家臣たるものそれではダメなんですよ。主を諌めるのも仕事ですからねと。
「うん……そう言えばティモはあんまり僕に注意はしなかったなあ。共感してくれることが多くてね。お裁縫が苦手なのも、やりなさいって強くは言わなくて、腹巻き作ってくれたりね」
赤ちゃんの刺繍も母様に頼んでくれて、お披露目ではバレてる臭かったけど、表面上整えた。他もねぇ、思い出せばきりがない。
カールはなにか思いついたようにカップを置いた。クルト様、根本原因はティモにはあったのではないかと言う。え?
「あなたがティモの目の前で死にかけたのが不味かったかなと、私は思いますね。ティモにはそれがとても辛かったのでしょう」
「ああ、そこは考えなかったな」
家臣が生きてて主が死んだ。それも仲のよかった主で家族のように思っていた。それが目の前で血だらけで、絶望的な光景なのに自分だけ生きている。カールは、そこがティモの、思い詰める分岐点ではないですかと僕を見つめた。ティモのその時の恐怖を考えればそうなのかもなあ。僕には実感はないけどさ。
「あのねカール。僕は知らない世界にひとりぼっちで、実家にいる間記憶の中の仲の良かった私兵団長やティモにべったりだったんだ。家族は嵐の後片付けで忙しくて頼れずで、僕は本調子ではないし、お嫁入りも近かったし」
「ええ」
あの時は自分がこの世界を知ることと、弱った体を元に戻し、知識を補填するが命題だった。この世界でおじいちゃんになるまで生きるんだと思ってたから。
「原因はひとつじゃなかったんですよ。あなたの都合やティモの性格、色んなことが重なって、彼の心の一部が壊れたのかなと、私は感じます」
「うん。僕も自分のことで手一杯で、周りが見えていなかった。アンジェに嫁ぎたくないと思ってたのも本当なんだ。他はともかく、アンジェあの頃無口すぎてさ」
「あははっ確かに。旦那様は婚活市場で人気なかったですから、そう思っても仕方ありませんね」
グレゴールの新作のオレンジのチョコーレートケーキが美味い。オレンジのリキュールも入ってるみたいで、口に入れるとチョコとのハーモニーは絶妙だ。ティモとならきっと美味しいとふたりで笑い合えたんだろう。今はカールと見合って笑い合う。これも楽しいと最近は思うんだ。
「明日は報奨の式典です。おふたりの晴れ舞台ですから頑張って下さいね」
「うん」
翌日。
日の出前から湯浴みにお肌の手入れ。僕が作ったアロエの保湿剤を念入りに塗り込む。これプルプルになるんだ。反則技、僕の魔力を込めたアロエで作っている。前の世界で手作りローションを試したことあってね。その知識で作ったんだ。
うーん……これの開発でかなりの貴族に憎まれたんだよなあ。なにせ奥様方が褒めちぎったからね!化粧の文化はなくても、お肌に潤いが欲しいのはどのアンも同じ。この世界の潤いはオイルだけで、お風呂で使うのが一般的。それも洗い流すタイプだ。
ヘルテルやバルシュミーデはその文化すらなく、ワセリンのような油を塗るだけ。それだと日焼けもするし、紫外線で年取るとシミが多くなる。だから特に喜ばれててね。日焼け止めの成分は不明だから……僕の反則技、日焼けしない成分!クワッと念じている。これの製法は、アロエの下処理を職人さんにしてもらって、たまに僕が出向き、クワッと樽に念じて作る。ありえない作り方をしてるけど、前世のような物が出来上がるんだ。おほほほ、魔法は便利。
そんで交易のある国にアンジェの商会を作り、かわいいビンに入れて売りまくった。若い奥様はそれこそ飛びついてくれたんだ。当然嫁入り前のアンたちは店に押しかけてさ。きれいでいたいのはどこでも同じ。
いまや我が領地は潤いまくり。ワイバーンを増産して、あちこちの国に売り歩いているんだ。ああそう、名前はネーベ・ビアンカ。白い雪という意味だね。美白を打ち出したんだ。今はローション、乳液、ナイトクリームまでは作った。あとハンドクリーム。これはノルンに人気。
「クルト様、旦那さまと同じ色のコートは……変えませんか?」
「ああ、はい。なんで?」
次の化粧品なんにしようとか、別のこと考えちゃったよ。カールに声を掛けられて僕が振り向くと、新しく新調したコートとウエストコートを持ってうーんと唸る。
「モスグリーンとか私は嫌です。クルト様かわいいんだから、赤とか深めのオレンジ色とか明るい色の方が映えますよ。刺繍は確かに華やかですけど……」
カールは夫婦で色を揃えるのも大切ですけど、、こういった華やかな場で「アン」をアピールしてもバチは当たらないはずだと言う。うーん……ならオレンジがいいかな。僕の大好きな色で出席するか。
「はい!ではどれにします?」
初めに選んだ時、白の賢者だから真っ白?とか思ったけど、花嫁じゃねえんだぞと怒られた。
白の賢者は「光魔法」のせいで言われているだけで、色じゃないって。ならアンジェは真っ黒だもんね。そしたら葬式か!とまた叱られた。ふう
「うん。よくお似合いです。でも旦那様の目の色の髪留めの宝石や胸元の襟やカフスの宝石が……あんまりになりますね」
「そうだね。なら代えるか」
「はい!」
ということで、僕の瞳の色の緑の宝石にチェンジ。
「いいですねぇステキです。緑はとても合いますね」
「そう?ならこれで」
「ええ」
コンコンコンと部屋がノックされて、ローベルトが城から迎えが来ましたって呼びに来た。
「ではカール、いってきます!」
「はい。いってらっしゃいませ」
僕が玄関に向かうともうアンジェが待っていて、早く来いと手を上げる。かっこいい……正装してるアンジェは、なんてイケメンなんだろう。上から下まで眺めて……少し年齢が上がったからか、すごくかっこよくなってる。
「クルト?」
「ふえ?ああっごめんなさい。あんまりイケメンで見惚れてた」
「クッお前はもう。でも嬉しいよ」
僕の大好きな笑顔でお手をと差し出してくれる。んふふっ
「母様はいつまでも父様大好きだねえ。こちらが照れるだろ」
「うっ……いいでしょ!」
「いいけどね」
リーンハルトは呆れたように僕を見つめて、でもそんな母様が好きですよって。
「僕らは明日のお昼の園遊会に行きますから、くれぐれも失敗しないでくださいね。母様そそっかしいから」
「分かってるよ!頑張ります!」
「……心配」
うっさいぞ!母様もやる時はやるんだよと、リーンハルトと言い合っていたら、アンジェは母様をいじめるなと笑う。
「父様は心配してませんが、母様は不安です。父様、しっかり見張ってて下さいませ」
「ああ。大丈夫だ」
僕、子どもにまで心配されるような母なのかよ。でもいいんだよこれが僕だから!よしっ気を引き締めるもん!みんなのクスクスという笑い声の中、見送られて馬車に乗り込んだ。。
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