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最終章 僕が来る前に戻った……のか?

1 和解

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 クラウス・キルステン王は元シュタルク王国改め、ゼェメ王国と名乗ることになった。ゼェメはキルステンの古語でガイア神のことだそう。
 土地に根を張り、今いる民とこの地を穏やかで住みやすい地にしたいと願ったからだそうだ。

「ふーん。で、王様は加護は頂けたの?」
「名前だけ付けてもダメだな。それに見合う能力を神に認めてもらわないと」
「そっか。でもさ、心を入れ替えても、そうそう人の行動パターンは変わんないでしょ?」
「うーん……」

 アンジェは唸って黙った。なんか含みがあるような?

「アレス神の加護は……悪く言えば、ユリアンを能なしにしたような性格の人がそのな、もらい易いんだ。ノリだけで生きているというか、勢いがある人だな」
「ふんふん」

 すごい表現だが、アンジェなりの僕に分かり易い言い方なのだろう。
 それはともかく、アレス神は荒神でもある。まあ昔の書物に出てくる、魔王のような神なんだと説明してくれた。
 欲望に忠実で力でなんでも解決したい。会話より力が全てで後はあまり考えず、土地や物を奪うなど征服がゴール。今回の場合は、その後の荒野の始末は宰相に当たる者や、臣下が奮闘して国の形にして行くと、王は信じてた。クルトは理解出来るか?と問われた。
 ちなみに魔王の概念は、元々こちらの世界にはない。たぶん過去の転生者が持ち込んだのだろうって。

「地獄とか天国とか、学問的に理解は出来るが、感情は理解しないのがこちらの人で、死んだら善悪関係なく、ハーデス様が魂の楽園に入れてくれると信じられている」
「うん。それは知ってる。僕ね、改めて神殿に行って教義としての考え方を、司祭様に教わったから理解してる」

 理解してるのなら話は早い。中々難しいだろうなあって。気持ちを入れ替えて人の話をよく聞き、よき王とはなんぞやを、深く追求する必要がある。すぐには出来なくとも、周りがどれだけ支えられるかが、これからのカギ。

「バルシュミーデとヘルテルは反発したが、うちは食料は送ることにした。ツケで」
「へえ。ツケで…ね」

 ヘルテルやバルシュミーデと我が国は、あの戦の負債が違うんだ。うちは少なめなんだよね。だから他がどうするかは不明。うちも見返りが全くないわ騎士も死んでるわで、無償にするほど親切には、感情的に出来ない。いくら優しい気質のうちでもなって。
 それに今、あの国の民と呼べる者は数えるほどしかいない。帰って来てとお触れを出しているけど、不信感しかなくてほとんどの民は戻っては来ないそうだ。国境近くの農民は、多少帰って来てるけど、それくらい。

「今いる貴族を領主として土地をなんとかするべく動いているのが現状だ。今度来るってさ」
「なにが?」
「王様があいさつとお詫びに」
「ほほう……」

 そしてこちらが秋の収穫も終わり落ち着いた頃、ゼェメの王様クラウス・キルステンがやって来た。当然街の人も盛大な歓迎とはならず、城下町を通る王の行列を、それはそれは冷たい目で見ていたそうだ。
 
 その前に国同士の実務者協議があったらしく、近隣三国と共にうちでね。まあギリギリの暴言の嵐で、アンジェは黙って静観していたそう。責めたところで取り返しはつかぬとハルトムート様が場を収めると、フーゴ様たちは席から立ち上がり床に伏した。

「我が王の、我らの不徳のいたす所。大勢の民を犠牲にし、目的のためとはいえ他国を侵略し、こちらを襲わせた。言い訳はなにもございません。ですが!志は真っ当だったのです。王の気持ちには偽りはなかった……グウッ…なにとぞ……」

 五人で嗚咽混じりで床に頭を擦り付けるフーゴ様らの懇願に、うちのハルトムート様が折れた。すると、

「なにを!ハルトムート様、この者たちの所業を許すのか!」
「うーん……初めからではなかったようだしなあ」
「甘い!甘すぎる!どれだけの犠牲があったのか!元シュタルクの民の犠牲も甚大ですぞ!」
「わかってはおるが……」

 ハルトムート様はあちらの被害は甚大で手のつけようもなくなっていたし、大国キルステンの王族が、我ら小国に頭を下げるのは屈辱であろう。長い目で見てやってはどうだと。

「ですが!」
「なにかあったらこの国がケツを拭くのだな?」

 ヘルテル、バルシュミーデの宰相は苦虫を噛み潰したような表情で歯ぎしり。床で震えてる五人を睨みつけた。

「言い出しっぺのうちがなんとかしますよ」
「ならば。……受け入れよう。我らは手を貸さぬ」
「ああうちもだが、出方次第だ。フーゴ様、次はないぞ」

 フーゴ様がバッと顔を上げたが、ヘルテルもバルシュミーデ双方怒りに満ちていたが、クラネルトが責任持つならと折れた。

「感謝申し上げます。きっと我らはいい国にいたします。皆様の寛大なお心に違わぬように」

 ホッとしたようにフーゴ様は頭を下げた。

 それと、あちらの国が整った頃に賠償金も支払うという条約も結び決着。腸が煮えくり返っていたのだろう。少しでもおかしなことをすれば、今度こそ兵を上げて潰すと二国は宣言。それをゼェメは受け入れたそうだ。

「アンジェはあちらの王様に会ったんだよね?どんな方?」
「ああ来てない。宰相だけだ。フーゴ様によく似ているそうだよ。銀髪に紫の瞳。武術に秀でているから筋骨隆々なのに、ものすごいイケメンだってさ」
「ほうほう。僕あんまり記憶になくて」
「見た目は優しげだそうだ。……まあ、フーゴ様も王をなんとかするには、そのなんだ。力不足かなって雰囲気だしな」
「ふーん」

 妾腹で王子とは名乗れなかった方か。そのせいもあるんだろうな。なんか僕は、地面で泣き崩れているのしか記憶になくてなあ。

 その日、大臣や主要な貴族、領主が謁見の間でのあれやこれやが終わり、僕ら妻も参加する舞踏会のホールにアンジェと移動。きらびやかないつも通りの華やかさの中、僕らはゼェメの王を待っていた。すると、スッと会場の明かりが半分落ちて、うちの王様がにこやかに現れた。いつも通りのあいさつが続き宰相様が、

「ではゼェメ王国クラウス・キルステン国王。お願いいたします」

 二階の扉が開き優雅に歩いてハルトムート様の横に並び、一歩前に出た。だけど、みんな冷たい目で睨み、黙ったまま反応なし。

「この場に立つ許しを与えてくれた、この国の人々に感謝する。私はクラウス・キルステンと申す」

 彼はこの戦を始めるきっかけから、今に至るまでを簡単な流れで説明した。王位継承問題は数多い王子の中から幼い王子は除外。ある程度結果を残している五人に絞られ、貴族の支持などを含め、更に三人になった。この三人は当然アレス神の加護持ちである。
 戦歴や民からの人気はほとんど変わらず、母親の身分も差はない。後は本人の能力だけ。だけど争う中、民の支持は第二王子に集まりだしたそうだ。
 彼はあの時、第二王子と自分のなにが違うのか分からなかった。後に知ったが、彼は直轄地の民と交流をしていたそうだ。王子とは思えない砕けた対応で、民と遊んだりもしていたそう。民の不満や要望などもその場で聞いて、改善の余地のある物を議会に掛けて通したりもしていて、人気はうなぎ登り。

「私と第一王子はそのようなことはしていなかった。王位、貴族の反応しか見ていなくて、民は見ていなかった。街の有力者が貴族の後ろ盾になり、第二王子派は勢い付き、それにより我らは失脚。そして放逐された。殺されなかっただけなのだ」

 そして、第一王子は未開の地に趣き、小さな領地のような国を西の果てに作った。自らも森に狩りに行って、民と上手くやっているそうだ。だが自分はあの大国からの矜持が強く、そんな惨めな生活には耐えられないと考えていた。
 ちょうどその頃、シュタルクが滅んだとの情報で、シュタルクに留まっていた輩を制圧。しかしその後が上手くいかず、才のない私は、手っ取り早い方法に舵を切った。

「後はご存知の通り。本当に申し訳なかった。私は国ではアレス神の化身とまで言われていて、それに傲っていた」

 王は力でねじ伏せることを良しとするが、第二王子はプラス対話を尊重し、民のために動く方。あの国の王はそんな、民を思いやる心のある者が選出される。アレス神の力に慢心しない者が……と苦しそうになった。

「自分は飲まれてなどいない。慢心などしていないとシュタルクに入り、荒くれたちをまとめた。そこまでは良かったのだが……だが……ッ」

 話てて苦しくなったのか、跪いて片手で目を覆い泣き出した。え!王が泣いた?会場はザワッとした。小さな声で、自分の不甲斐なさがと嗚咽を漏らす。慌ててお付きの人が腕を取り椅子に座らせたけど、もう後悔なのか話すことが出来ない様子に見える。その王の様子にフーゴ様がなにやら声を掛けて、代わりに前に出て話を続けた。

「我らは国造りを甘く考えていました。そこそこの働きをすれば、勝手に神の加護が受けられるものと。しかし、神は手を貸しては下さらなかった」

 当然荒れた地は白の賢者不在で修復は出来ず、そんな王に民衆は暴れた。食べ物も建物も復旧しない、それどころか日々物や食べ物がなくなって、不審な者が流入する。街は得体が知れない廃墟のようになった。危険ばかりが増して、残った民も国を捨てていなくなった。もう人手もなく、手出し出来る段階を過ぎてしまい、荒れるに任せていたそうだ。

「成すすべがありませんでした。そして武力、食料を手に入れるためにこちらを……それも失敗し、他国で戦士をさらって来ましたがそれも上手く行きませんでした」

 我らはこの三国の強さを侮っていました。地上戦では殊の外強いバルシュミーデ、あのような乗り物で空中戦があるとは予想外で、それによるヘルテルの強さに驚愕した。そして一番戦力がないであろうこの国、クラネルト王国。この白と黒の賢者の常軌を逸した神の加護による強さ。正直こんな辺境の田舎者と、侮っていたと頭を下げた。フーゴ様、言葉選ばないな。この辺が大国の人の言葉遣いかな?まあ、田舎者だけどさ。

「まあ、僕らがおかしいのは認めるし、自分も能力に驚いたよ」
「俺もだ」

 グタグタ言った所で取り返しは付きません。皆様の温情を受けながら再出発いたしますと、気持ちを立て直した王も椅子から腰を上げ、ふたりで深々と頭を下げた。国土は元のシュタルクを全部引き継ぐことは今のゼェメには難しく、クラネルトの半分ぐらいから始めるそうだ。貴族など管理者を用意出来ず、民からの登用も始めているけど、その民がいないんだってさ。

「もしよろしければですが、我が国に来たい者はおりませんか?土地とその地の民を管理して欲しいのです。完全にそちらの自治区といたします。落ち着くまでは税を納めろなど申しません。どうか……」

 会場はフーゴ様の言葉にザワザワし出した。行く者などおらぬとか、え?自治区で好き勝手出来るならば、俺は視察に行きたいとか。男爵や騎士でもいいのかな?とか、あちこちから聞こえる。

「自分の領地の飛び地に出来る、実は二子以降で領主になりたかったとかならば、考える者もいるかもな」
「そうね。アンジェは?」
「あはは。俺は忙しすぎて管理出来ない。今ですら、エルムントたちに丸投げだからな」
「そうだったね」

 ハルトムート様がまあゆっくり考えろと場を閉めて、舞踏会が始まった。僕らは公爵だから初めに前に出て踊った。アンジェと踊り終わるとスッと近づく人が。

「クルト様。覚えておいででしょうか?」
「はい。フーゴ様」

 いや返事はしたけど……おぼろげだね。泣き崩れて頭を下げてたから、正直記憶は曖昧です。彼はアンジェの言う通りイケメン。紫の瞳がとてもきれいで、背丈はアンジェくらいかな。僕は差し出された手を取り、中央に足を踏み出し踊ることにした。

「ふふっこうしてるとあの戦いと同一人物とは思えませんね」
「あはは……普段はこんなです。食べることが大好きなだけの者ですよ」

 踊りながら、あなたはどうやってアルテミス様の加護を受けましたか?と問われたが、答えられない。だから、うちの通常の加護を話した。

「どの神も同じか。本人の資質によるところが大きいのは、アルテミス様も変わらずですか」
「ええ。うちは一族みな民を愛し、ぶどう畑を手入れしてそれを酒にする。その酒を王に献上することを喜びとしています。王が大好きな、穏やかだけが取り柄な一族です」
「そっか……」

 だから特別になにかせずとも、代々加護が土地にも人にも与えられるのかと微笑む。アレス神の加護が当たり前のようにあるのと同じですねってフーゴ様。

「ええ。そこはどの国も変わらない。性格と心の持ちようで加護をくれるようですね」
「ええ。ならば気持ちを新たに頑張るしかありませんねぇ」

 フーゴ様は自分がもらえるように民に心を寄せて、国の発展を願うと言う。あー……それだけだと足りんかもね。

「なぜ?」
「王と国を強く愛する者がなるんですよ、白の賢者はね。王様好きですか?出来立ての国ですが、好きになれそうですか?」
「ゔっ……王は……あはは……」

 思うところが多すぎて、忠誠を本気で持ててるかと聞かれると冷や汗が出ると言う。国はこれから自国になるから愛せますがって。

「今後の王様を見て、心から忠誠を持てるならばきっと」
「それじゃあ国の復興が遅れます」
「そうですね。誰か適任者がいればいいのですが」

 音楽に合わせクルクルぅ。フーゴ様はダンスが上手い。アンジェと変わらないくらい踊りやすいんだ。

「うーん……我が国出身者は力を使うことが好きですからなあ。今はアテナ神の加護を欲しがる者も多いですね」

 アテナ神か。またまた攻撃的な神でございますねえ。建築とか芸事も多少あるけど、戦の神なんだよね。でも、不正を嫌う神でもある。

「フーゴ様の周りには、治癒系の方はいらっしゃらないの?」
「光魔法の者は……残念ながらもういません。戦でとうにいなくなりました」

 今募集中だそうだ。そりゃあ大変だ、病気できないね。

「正直なところ、貴族並みの魔力と能力がある冒険者に貴族になりませんか?とギルドに募集かけているくらいなんですよ」
「ゔっ……それ無理なんじゃ……」
「ええ。うちは悪い評判ばかりだし、あの者たちは自由を愛する。たま~に来るのは残念な人ばかりですね」

 はあってフーゴ様はため息。だろうね。

「自分たちがしでかしたことですから、甘んじて受け止めます。ですが、先を考えると暗澹あんたんたる思いしか湧きません」
「あはは……」

 そんな感じであちらの方と踊ったり、当然僕はバクバク食べた。お家のご飯が美味しくても、他家のご飯はまた違う。最近王室のご飯がちょっと味付け変わって美味いんだ!料理長でも代わったのかもね。ウマウマと端っこで食べていると、目の前が暗くなった?見上げるとフーゴ様に似ている……王様が僕を見下ろしていた。

「クルト殿でよろしいか?」
「はい。クルト・クラネルトでございます。クラウス様」

 急いで立ち上がり微笑んだ。びっくりして冷や汗が出たろ!王様はジッと僕を見つめ、ピクリともしない。えっと……?

「あの……」

 なにも言わねえぞ!どうしよう……











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