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五章 平穏から一転

7 僕のアンジェ 

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 エルムントに叱られてアンジェは数日は大人しくしていたけど、なんか違うとキレた。文官がいなけりゃいいんだろと、なにかあって文官が来ても僕を膝から降ろさなくなった。他の文官は仕方ねえと見なかったふりをしてくれたけど、たま~に来るエルムントは、脳の血管切れるんじゃ?って感じ。でも、扉を出ればいつもの彼になる。扉に結界でもあるんじゃ?ってくらいクッキリそこで別けていた。寝室ではなく廊下の扉……それについてアンジェに聞いた。

「俺は……」
「俺は?」

 就寝前の居間でのおしゃべりタイム。ソファで抱っこさせてって言われて、僕は膝に乗り抱きつく。んふふっ心臓バクバクだね。

「後で言う」
「うん」

 こんなにバクバクいってんのに、見上げるとアンジェの表情は変わらず。
 こうして我慢して色んなことに耐えて来たんだろうと思うと、僕は切なくなってギュッと抱きついた。

「アンジェはもう少しわがままでもいいと思う」
「うん……」

 黙って僕の背中に片腕回してワインをゴクン。ありがとうと耳元で囁く。僕の苦労とは違う寂しさが、アンジェにはたくさんあったんだね。
 僕もなんか飲むってローベルトに言うと、シードルをどうぞって、グラスに注いでくれた。

「美味しい」
「う…ん……」

 あれ?なにか考えてるモード突入らしく、アンジェ反応が悪いな。

「アンジェ寝る?」
「あ…あ…うん」

 無表情でちゃんとしてるふうなぼんやりだ。こうなると意識は別のところに行って、僕の声は聞こえてないんだよね。

「ローベルト、コレ子どもの頃からかな?」
「ふふっ考えごとに集中してしまうと旦那様は生返事になります。聞こえてるんだかどうだか」
「ねえねえ。なに考えてると思う?」
「今の会話か……思い出した仕事のことか」

 ローベルトと見合ってふふって笑う。

「でもこんなふうに考え込むのはあなたが来てから少なくなりましたよ」
「ふーん。お仕事いっぱいだから、考えることはあるはずだよね」
「ええ」

 今まではそれと違うことをたくさん考えてたんでしょう。今は仕事だけだからかも?とローベルト。

「そうかもねぇ」

 と言うと、グイッと肩を押されて体が離れた。

「お前ら俺で遊ぶな。みんな聞こえている」
「お?正気になったね」

 ああ?ずっと正気だよって。ローベルト、アンジェ正気だってさと、ふたりで笑った。

「アンジェ嘘はいけません。僕らはアンジェの側にいるから分かるんだよ」
「あー…少し返事が遅くなっただけだろ」

 ほほう。なら僕らは今なに話してた?とアンジェに問う。

「えーっと……仕事のこと考えてるのか?とかだな」
「ブブーッそれもだけど、考え込むとぼんやりすることが議題でーす」
「はあ……お前ら」

 あははとローベルトと盛大に笑ったら、アンジェはブスッとした。

「クセなんだよ。聞こえてるんだけど頭に入らないんだ」

 照れくさそうに僕から目をそらした。

「アンジェかわいい。なに考えてたの?」
「言わない」

 お?完全に拗ねたね。僕はローベルトに目配せしてグラスを渡し、目をそらすアンジェをクイッと頬を手で挟んで、僕の方を向かせた。

「アンジェ」
「なんだよ」

 目はそらしたまんまで投げやりな返事。アンジェホントにかわいい。キリッとした昼間と全然違う。きっとこれは僕だけに見せる顔だ。

「アンジェ大好き。誰にも見せないアンジェだよねコレ」
「……うん」

 私室にいる時に、ムダに気を張っても疲れるししたくないそうだ。

「僕はあんまり裏表がないからこのまんま。人の厚みがないんだ。隠し事も苦手だし」

 アンジェの目がスッと僕を見る。ん?

「だからクルトは信頼出来るんだ」
「ありがと。でもさ、これじゃあ子どもだよね」
「いいや。素直で優しくて人を思いやれるのは、俺は特別なことだと思うよ」

 そうかな?考えが浅くて今を楽しんでいるだけ。この世界を完全に理解してなくて、先を具体的に考えられないからなだけ。だからおじいちゃんになるまで、アンジェと一緒にいられればいいくらいしか考えてもいない。
 褒められたから改めて自分のいいところを考えてみた。実は環境がガラッと変わるのは苦手だし、たくさんの人と仲良くするのも苦手。頭の出来は平均で、目先のことしか考えてない。いいところねえな。それに、僕が考えても上手く行かないと前世でも思っていたんだ。
 ゲイであることを親に強く否定されたことがトラウマで、心からの幸せはあの時止まったまま。今も思い出すと心がギュッと締め付けられる。それが、この世界に来て一歩前に足が出せたんだ。

「クルト」も性格は似たようなもので、僕らの雰囲気の違いは、近くの人しか別人とは気が付かれなかった。でも……今の僕を「クルト」の友だちはどうしたんだろうと思ってるかな?

「俺の妻になったからと思ってるだろ」
「そうかな?それならいいけどね」

 俺に嫁いで、公爵夫人として頑張った結果と思ってるから心配すんな。そろそろ寝ようとアンジェに抱かれてベッドに行き、普通に並んで眠る。

「ねえねえさっきなに考えてたの?誰もいないよ?」

 アンジェは天井を見つめていた。静かに言葉を探すようにじっとして。

「俺は今まで我慢しすぎてたかなって思ったんだ。辛くても悲しくても出来ます、やれますと周りに助けを求めなかった。もうやめようかなって」

 言い終わるとこちらを向いて微笑んだ。その微笑みは柔らかくふわふわだ。僕はアンジェの頬を手を当てて、

「そうだねぇ。我慢しすぎるのはよくないね」
「だろ?だから家くらいは自分らしくいたいし、子どもたちが見てようが、妻が愛しい気持ちを抑える必要なんかないかなって」
「それでいいと思うよ」

 今のアンジェはふんわりした愛を僕にくれる。前のように俺を見ろ!って感じじゃなくて、包まれるような感じのもの。安心出来るんだ。

「僕ね。アンジェの微笑みは今でも好きなんだけど、鼻血出なくなったんだ。気がついてる?」
「ん?そう…だな」

 でしょうと見つめると、うんって頷いてくれる。

「アンジェが変わったからだと思うんだ。僕もアンジェの気持ちに引きずられて、少し前のめりだったのかなって」

 そうかもな。でもかわいかったからそのままでもよかったかな?とニヤリ。

「あれはね。気を抜いてるとたら~ってするから恥ずかしいんだよ?」
「俺は嬉しかったがな。夫に興奮してるんだろ?愛されてるって実感出来て嬉しかった」
「あはは。それはごめんなさい」
「いいさ」

 ふふっと微笑みいいかって言うからうんって。

「クルト」
「うん?」
「…なんでもない」

 優しい微笑みで唇がが重なり、チュッチュッと触れる……んふふっこれ好き。カプって食べられそうなキスも好きだけどこれ……んっ…フッ…

「どんな触れ方でも喜んでくれるな」
「うん。気持ちいいから」

 僕の上に乗りずっとチュッチュッと……ヤダキスだけで震える。お尻は疼くし、僕の股間に押し付ける硬いものにドキドキする。

「アンジェ…キスだけでイキそう」
「イケないだろ?これがないとさ」
「んふふっ」

 スルスルとパジャマを捲り、脱がされて乳首を吸ったり捏ねたり。キレイなセックスなのにすごく興奮して、僕はいたるところから漏れるんだ。ものすごく興奮しているような表情じゃないけど、アンジェも同じかな。強い花の香りを咽るほど発しているんだ。いつもよりずっと。僕、クラクラする。ハァ…アンジェの…匂いであー……

 朦朧と香りに酔いしれていると、乳首がグァッ痛気持ちい…噛まないで……ブチュってお尻が……感じ過ぎて…ンンッ入れてないのに腰が浮く。欲しい……お腹の中が欲しいと熱が溜まるんだ。

「クルトはベッドの中も、なにもかもいい」
「ハァハァ……アンジェ入れて…っんもぅ…」

 アンジェも脱いで僕の脚を広げると、ググッと押し込む。あーーっイッ…た……ビクンビクンと体が!股間と連動するの!

「前戯が長いと気持ちいいだろ?」
「う、うう……っ」
「言葉がないか……」

 腰を引いて奥にグイッと押し込まれて……ダメだ…ソコ……

「いい締め付けだ」
「ンッアッ……ダメ…イヤだぁ…苦し…」

 押し込まれるたびにピュルピュル出てる気がするし、お尻からも流れて愛液が伝ってビチョビチョに……アッアッ…なにこれ……快感でおかしくなる。苦しいの…気持ちよくて苦し……っ

「聞こえてるか?」
「待っ…あっ…おかし…の……」
「俺に蕩けているお前を見るのが好きだ。淫らに喘いで求めてくれるのも好きだ」

 腰は止まらず僕を責め続ける。おかしくなりそうっ

「アンジェ……気持ぢい…怖いのぉ…ああっ」
「気持ちよさに集中しろ。俺のものにな」

 グチュグチュとされるたびに意識は朦朧として、アンジェのキスに頭を抱えて求めた。欲しくて堪らない。激しく求めるばかりじゃないんだね。セックスってこうし……て……気持ちよくて勝手に涙出るし……ハァハァ…

「こんなに満足そうに蕩けるんだな。もっと早くに気がつけば……愛されているのをもっと感じられただろうに……クッ」
「あーーッ」

 アンジェの出すものから魔力が……体に広がるように吸い込んで……あうっ……んっ……

「クルト?」
「ハァハァ…かろうじて…意識あった……んくっハァハァ……」
「抜く?」
「イヤ!」

 アンジェは僕を強く抱き上に乗せた。

「ア、アンジェ抜けちゃうぅ」
「気をつけた」

 この繋がっていたいってのは変わらない。とっても幸せを感じるんだ。アンジェは僕のものって思えるから。僕だけを愛してくれてるんだって実感出来るから。これは言わないけどね!恥ずかしいから。

「なにニヤニヤしてるんだ?」
「ニヤニヤしてないもん」
「ふーん」

 ぬるんと抜けた!うそっなにしやがる!

「言わないから」

 アンジェは僕の頬に自分の頬を寄せて、耳に吐息が……あふんっ

「ゔっ……だって恥ずかしいんだもん」
「なにが?」
「聞きたいの?」
「ああ」

 いや……夫を自分のだと思うのはおかしくないとは思う。「愛してる」とは言えるけど僕のものだよね?とは言えない……

「俺にも言わせたろ?」

 うー……モゾモゾしながら、アンジェの耳に唇を寄せて、小さな声で話し出したけど、声が恥ずかしくて震える。

「……繋がってると…ね?」
「うん」
「アンジェが……その」

 僕はその先が言えない。大好きとか愛してるとかより、もっと強い言葉は言いにくいものなんだ。変な汗が出る。ほら言ってと耳を舐め……んな!

「繋がってると……その、アンジェが…僕のものって気が……して。あー……とっても愛されているような…気が…する」

 言わせんな!と耳から頭をそらして叫んで、アンジェの胸に擦りついた。恥ずかしいよぉ

「ああ、全部お前のだ。俺はお前に全部やる」
「え?」

 顔を上げてアンジェの青い瞳をを見つめた。きれいな瞳に僕が映る。ふふっとアンジェは微笑んでやるって。

「言葉の通りだ。その代わりお前を全部くれ」
「うん!返品不可だからね!」
「ああ」

 僕の頭を優しく撫でる大きな手が嬉しくて、ふふって声が出た。アンジェの手を取り指を組んでニギニギ。ノルンらしい大きくて……指がキレイだな。スラッと長くて……あれ?こんなにきれいな手だったかな?柔らかくて僕の一回りは大きい。まあ、身長差も二十センチくらいは違うから当たり前だけど。

「なんだ?」
「アンジェ手がキレイと思ったの」
「そう?まあ、あまり剣術とかはしないからなあ。ハンネスよりはゴツくはないかな」
「あははそうだね」
「だが、側仕えや文官よりはゴツいかな」

 それはそうだけど、男らしい手で、とても好きな手だ。

「変なところに目が行くな」
「そう?」
「アンの手がとか言うなら分かるが、ノルンはなあ」
「僕はアンジェ全部好きだよ。手も足も胸もこの唇も……ね」

 指でアンジェの唇をなぞる。柔らかで少し厚みがあって、重ねると気持ちいいんだ。体毛も白人としては薄め。お尻はツルツルだしヒゲも少ないかな?こちらの人は体毛は処理せずそのまんま。お股も脇、胸毛もそのまんま。アンジェは薄いけどね。んふふっ

「足りなかったのか?」
「違うの。僕のアンジェを楽しんでるの」
「ふーん」

 まあいいと布団を掛けてくれた。戦も討伐も忘れて、アンジェとラブラブで過ごしていた。子どもたちとも毎日駆け回り……幸せの頂点にいたんだ。これがずっと先まで続くと信じてた。そんな訳ないのも心の奥底で理解もしてた。でも、目先の幸せに、ユラユラふわふわと地に足がつかないような幸せを、僕は楽しんでいた。なのに……











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