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四章 戦とアンジェ

7 他国の白の賢者と話すのは楽しい

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 んあ?ここは……見たことのない装飾のテントで……ゴソゴソと起き上がる。見渡すとかなり無駄を削ぎ落とした自衛隊のテントのような生地で、房と飾りとかなにもなく、この世界としては異質なものだった。

「お目覚めですか?」

 見知らぬ文官姿の人がいて、おはようございますって。この人もクラネルトと服は似てるんだけど、フリルなどの装飾がなく、サラリーマンのワイシャツのようなシャツ姿。飾りっ気のない服装だ。

「うん…僕どうしてここに……」
「魔力切れ起こして倒れたんですよ」
「あれま……」

 彼に、こちらをどうぞと温かいミルクのカップを差し出された。

「お砂糖も入れておきました」
「ありがとう」

 口につけると美味しい。魔力切れはなんでか体が冷えるんだよね。あー食道から胃まであったかい。体温が戻るように感じた。僕はベッドでゆっくり味わっていると、アンジェが心配そうに幕を上げて入って来た。

「目が覚めたか」
「うん。ごめんなさい」
「いいや」

 アンジェはベッドに腰掛けて、僕の頬を引き寄せチュッ

「体が冷たいな。ポーションは飲んだのか?」
「飲んでない。今温かいミルクもらって飲んでる」
「そうか」

 よかった。お前が無事で本当によかったと頬を撫でてくれて、痛かったろと放置していた頬の切りキズを癒やしてくれた。そして、いつもの優しい大きな手で撫で続けた。

「覚えてないんだけど……迷惑かけたよね?」
「いいや。俺が思っているよりかわいい暴走だったな」
「なにそれ」

 なら話してやろうと、アンジェは僕の暴走のことを話してくれると言う。負担なら途中で止めるからなと。話してくれたけど、

「おお……僕なにしてんの……」

 ふふっとアンジェ微笑んだ。いつもの優しい笑みだ。

「お前は敵を殺すと笑いながら、魔力全開で追跡する白い矢を放った。敵の生き残りを全て始末するんだと、とめどなく矢を放った。そしてどう選別したのかは分からないが、味方は一人たりとも殺さなかったんだ」
「そう……よかった。目に入る者を全部とならなくて」

 アンジェは先ほど話したという、ヨルク様の話もしてくれた。白の賢者は無意識にでも自分と味方のみを守ろうとするから、敵以外は目に入らないんだって。ほほう。

「それほどまでに周りの者を守ろうとするのが、白の賢者だそうだ」
「ふーん」

 きっとお前は自分と俺や家族を守りたかったんだろうって。この世界の理解が浅いから、身近な人に意識が向いたはずだとアンジェ。確かにね。

「ここで死んだらアンジェと離れちゃう。それが怖くて……頬から血が出て、これ当たったら死んじゃう?って思ったんだ。死ぬかもって思ったら怖くてね。そしたらブツンって頭に音がしたんだ」
「……そうか」

 敵が見当たらなくなっても暴走から目が覚めなくて地上に降りたが、それでも戦うとアンジェの手を引いてたそうだ。

「なんにも……」

 本気でなんにも思い出せない。アンジェ怖いって言うまでなにも。

「お前は俺のキスが好きだから、もしかしたら目が覚めるかなって」
「ああ。だからキスされてたのか」
「うん」

 ほらおいでって抱き寄せられてキス。んふっ…はふっ…んっ……

「好きだろ?」
「うん……アンジェキス上手いから…」

 気持ちいい……アンジェの舌の動きはとても気持ちいいんだ。んっ……

「俺はお前が誇らしい。これだけの無理を押し付けたのについて来てくれて」
「ありがと。でも失敗しちゃったね」

 アンジェに触れているだけで安心する。

「失敗なんかじゃない。俺への愛だと自惚れてるから」
「んふふっ正解だよ。僕は一番にあなたとのこれからを考えたから」

 だろう?俺はお前の愛のほとんどを向けられてるんだ。愛してるよと唇が重なる。

「アンジェと離れるなんて考えたくないんだ。まだ戦は続くと思うけど側にいてね」
「当然だ」

 んっ…うっアンジェの触れる手が気持ちい……マズいしたくなる。

「アンジェ終わりにして…お尻も股間もビチョビチョに……」
「ふふっうん」

 テントの幕の外から食事にしましょうと呼ばれて、焦って洗浄の魔法を掛けて外に出ると…?

「なにこれ……何にもなかったみたいだ」

 テントの周りは元の森になっていた。僕が焼いた跡はなくなっていて、普通の森だ。爽やかな木々の香りと、朝食の匂いだけ。うわーっ

「がはは!この周りだけでもと思いましてな」

 声の方を向くとヨルク様。あなたの頑張りに私からのお礼です。この術は疲れるんだけど、せめて目に見える範囲だけでもと、美しい森を見せたかったと笑う。

「ありがとう存じます。とても嬉しいです」

 こちらに食事を用意したから来なさいって。具だくさんスープとパンが簡易のテーブルに用意されてて、みな揃ったところで食べ始めた。おお!他国は味が違うぞ!香辛料が強く酸味がある。

「エスニック風だな。美味しい」
「そうか。クルトは他国の料理は初めてか」
「うん」

 こちらはお前の実家の領地より北で、少し冬が厳しく、夏もそれほど暑くはならない。この森の近くはともかく、ヘルテルの内陸は乾いた空気で雪はさほど降らないが、寒さはキツいそうだ。だから香辛料が必要。体の熱の制御が必要だそうだ。インドとかの辛さを求めるものではなく、しょうがとか温める系だね。

「我が国は年中乾燥してましてな。ほら見て下さい。肌はこうなりがちですな」

 隣に座るヨルク様は手の甲を見せてくれた。ガサガサで指の関節も太く、肌がゴワゴワに見えた。魔法使いなのに、どう見ても力仕事をしている指の深いシワと、年齢的なシミなどがある、力強い手だった。

「油を塗るとかされないのですか?」
「しててもなるのですよ」
「へえ……」

 水もクラネルトとは違い、毎日風呂なんぞ入ったら髪も肌もパサパサになるんだと言う。あー……この国は硬度が高い水なのかもね。保湿しないと困るのか。

「保湿はされないのですか?」
「保湿とは?」

 ほう、概念がないのか……そういやうちにも乳液とか保湿ローションはないな。

「お手をよろしいですか?」
「ああ」

 僕はヨルク様の手を取り、保湿をイメージして尿素入りハンドクリームをヌリヌリ。お肌柔らかぁってやってみた。すると、見た目は粉ふいてる感じはなくなった。

「どうでしょうか?」
「はあ……あ?おお!若い頃のような手触りだ!これはどういう理屈だ?」

 お肌の水分を年齢の最大限まで引き上げ、そこに蓋をするように油ヌリヌリですと説明した。尿素入りなんて意味分からんだろうからね。

「よく分からんが乾燥しなければいいのか」
「ええ、水を使った後油を付ければだいぶ違いますよ」
「ふーん……アンの者が喜びそうだな」

 ヨルク様は自分の手を繁々と眺めた。この世界は男ばっかだから化粧もなくて、お肌がどうとかはみんな言わなかった。冬に油を少し塗る程度で、髪の毛には気合い入れるのにね。いや、僕が知らないだけか?

「アンジェ、こちらにアロエとかある?」

 アンジェはモグモグと食べながらああ、あるなあって。

「海沿いに勝手に生えてるあれだろ?棘がある」

 そうそう、手振りでこんなのだろって。そうそれ。

「うちの領地にはあるかな?」
「海が遠いからないな。あれがなんだ?」
「保湿剤や剥いて食べると便秘に効く」

 ふーんと言ってこれ以上は話すな。うちの領地で開発して売るからって。あはは、ありだね。

「僕の魔法で反則技で大量に作るかな……」
「いいな。お前の名前でクルトの保湿剤とかな」
「それはヤダよ。なんかダサい」
「なら名前を考えろ」
「うん」

 ボソボソ話してたんだけど、聞こえたのか出来たら安く卸せとヨルク様。失礼だが、あなたはこちらの世界の人ではないだろう?って。うちにも大昔に違う世界から来た者がいた。その者に似ているって。いたんか!

「いつ頃ですか?」

 ヨルク様は遠くを見る目になり、ヒゲをしごく。そうだなあ、いつだったかなあって。

「五百年は前だが、彼は革新的なことを言ってて誰も理解出来なかった。だが、今も我が国が存在しているのはそのおかげだ。それと土地の開発だな。農地としては適さない場所に石を組み上げて段々畑にしたり、川の水を引く方法とかな。その案は彼のお陰で、白の賢者が実行したんだ」
「へえ……」

 ヘルテルは山から水を引くために、水道橋を作ってるんだそう。川が少なく水に困ったからね。なら……ヨーロッパ系の方かな?紙もその頃ヘルテルから世界に広かったんだとヨルク様は言う。マジか!過去の転生者が広めたから紙が異様に安く、印刷技術があったのか!今や当たり前にどの国も自国生産になっているかなって。

「なんか不思議だったことに納得しました。彼と同じ異世界から来たんだと思います」
「やはり。そんな気がしたぞ」

 アレス神のミスは時々起きている証拠だよね。なにしてるんだかなあ、あの神はとアンジェに言うと、

「言葉は悪いが、バカなんだろ」
「だよね」

 ヨルク様は神にバカと言うにはなんだが、あれだ、考えなしなんだよなあと。天真爛漫で楽しいことを追求し、その結果など遊戯の一つくらいに考えているんだろうなあ。あーあとため息。

「それをバカと言うのでは?」
「……そうだな。言葉を飾っても無理か」
「そうですね」

 三人であははと笑った。あの神は面倒臭えが、上手く加護を使えれば軍事大国も夢じゃない。力に飲まれない強い意志のある者が加護を受ければ、よい国になる。それが前のシュタルクの王の祖国だと言う。

「ケンプフェル王国は成功例ですね」

 アンジェの言葉にヨルク様はああ、あれほどの成功例はないなあとスープをすすった。

「ムダな争いはせず、交渉が決裂すれば激しく奪う。そして属国として国に組み入れ、本国の土地との差を付けずその土地を豊かにし、税収を上げる。アレス神の加護の国とは思えぬ、見事な発展をしているな」

 アンジェは、あの国とはクラネルトは付き合いは少なく未知の国だが、いい国と評判だそうだと教えてくれる。民も多く寒さも厳しいのに、農業も当然で紙の大量生産をして近隣に売りまくり。寒いところは針葉樹が多くなりがちなのに、紙用の落葉樹の植林も活発に行い、紙の一大生産地になっているそうだ。軍事も商業もどちらもか。なんとも賢い王族がいるやらだな。

「シュタルクの王や今回のキルステンの王子と、ケンプフェルの王はなにが違うんでしょうか」

 僕の問にヨルク様はそうだなあ。なんだろうなあって。

「もう頭の出来の違いとしか。だが、国益と戦、個人の欲を上手く制御出来る方なのだと、私は思うよ」
「そうですね。僕のように考えなしに動いたり、魔力に飲まれて暴走したりしないだろうな。もう少し僕が賢かったら、もっとみんなの役に立てたのに」

 ヨルク様は嫌だねえクルト様はって。あなたのは人を愛する気持ちからのもので、悪くない暴走ですよって。私も若い頃やりましたからと笑う。
 王と民の安寧を守りたかったと言えば聞こえはいいですが、自分の周りを守りたかった。愛する番が幸せに生きる世界を守りたかっただけ。キルステンの王もきっと、そんな気持ちのある方なんでしょうとにっこり。

「動機なんてそんなもの。それが国の安定に繋がるんです。一番小さな団体が夫婦なんですから」

 そうだね。一人の次は夫婦だもんね。

「ありがとう存じます。気持ちが楽になりました。同じ白の賢者の言葉は嬉しく思います」
「だろう?お父上としっかり話しなさい。まだご健在だろ?」
「はい」

 そんな話をしながら食事が終わり、ラムジーに今夜はこちらをどうぞとテントに案内された。少し小さめでこれは僕らだけのように見えた。

「ラムジー。俺たちだけでテントひとつは不味いだろ」
「いいのです!命がけで我らの助けになってくれたんですから。偉そうに使ってくださいませ」

 そうかとアンジェ。ならば遠慮なくとふたりで中に入る。

 中は床にも布が敷いてあってベッドも大きく、ふたりで寝るように一個だけ……?

「あはは。わざわざ俺たちのために用意したんだな」
「ありがたいね」

 戦闘服を脱いでいるとアンジェが全裸になれって。アンジェも当然全裸。するとブワッと魔法の水が体を覆い、髪も体の隅々まで水が纏わりつき洗い流す。

「さっぱりとはいかないが野外はこれだな」
「うん。ちょっと前の討伐を思い出して懐かしいね」
「そうだな」

 僕はテントで全裸洗浄が久しぶりで、水を追いかけるように眺めていた。アンジェと毎日一緒で大変だったけど楽しくもあったんだ。不意にクルトと呼ばれ振り返った。

「なあに?」

 見上げるとアンジェはなんだか困ったような、なんとも言えない目で僕を見つめていた。視線を下げると股間はそそり立って?

「お前の負担が大きいのは分かってるんだ。だが、抱きたい。わがままなんだが俺の腕にいるんだと実感させてくれないか」
「あっうん」

 僕はアンジェに近づくと、アンジェは僕の体を引き寄せ舌を絡めてくる。

「んぅっ…アンジェ……」
「うん……」

 気持ちよくて膝が折れたついでに、彼のを掴んで口に含む。硬い…いつもよりずっと硬くてゴツゴツする。僕はアンジェの太ももに掴まってしゃぶっていた。

「んっくっ…甘い……」
「んっ…ベッドでしてくれ。跪くのは辛いだろ」

 アンジェは僕を抱き上げベッドに移動。アンジェの脚の間に入り僕は続きを……太くて硬くて漏れるのも多いし……ネロネロと味わっていると、

「はッ……クッ…クルト……ゴメン出る……ウッ!」

 喉に苦しいくらい押し込まれドクドク。喉の奥に生暖かいモノが流れ込む。息苦しいのに頭が蕩けるほど興奮する……アンジェが股間を口から引き抜いて、

「ハァハァ…戦闘の興奮は欲と結び付く。お前もだな」
「え?」

 前はともかく、股間から脚に盛大に垂れていた。うそ?こんなに愛液が漏れることなんてなかったのに。

「死の不安から、体が子孫を残せと言ってるのかもな」
「そうか。死にそうになると性欲がって……そっかこれが」

 僕は横になるアンジェに跨り自分で彼のを掴んでズブズブ。んふぅ……愛液がどこに溜まってるのか分かんないけど、入れた分だけヤラしい音と共に漏れた。

「緩んでて奥まで入る。それだけ戦は心の負担なんだ」
「ハァハァ……出ちゃ……入れただけなのに…」

 まだイキたくないと自分で股間を強く握ったけど、やめろとアンジェ。触れたいからおいでって胸に乗ると、暖かな体に安心する。

「あー俺も持たない。入れてるだけで幸せだ」
「んふふっ僕も」

 僕は勝手にイッちゃってて、アンジェが少し腰を振るだけでドクドクと絶頂が続いた。アンジェもビクビクとさせて、僕が震えている間にドクンッ

「アンジェ抜かないで。このまんま寝たい」
「ムリだな。俺が寝られない」
「ええ~」
「なら、少しだけな」
「うん」

 アンジェが布団というか毛布を掛けてくれて僕は彼の胸に頬をつけた。くは~っあくび出る。

「アンジェおやすみ」
「ああ、おやすみ」

 繋がったままでも寝られるくらい僕は疲れていたけど、体を重ねると落ち着けたんだ。疲れててもこんな性欲が出ることにも驚いたけど、それほど死の恐怖は強いんだなと思った。だから、僕はさっきまでのことは考えず、アンジェだけを感じるんだと、彼の体温と胸の鼓動を聞きながら目を閉じた。
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