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三章 愛される存在に

7 父様はとっくに気がついていた

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 ミンミーたちの処遇の会議が終わり、みんな部屋を出て行った。さて、僕らも帰ろうとアンジェと出口に歩き出したら、父様に肩をガシッと掴まれて少し残れと。あー……叱られるのかな。

「クルトまあ座れ。アンジェも」
「はい」

 仕方なく近くの椅子に座ると、父様の目が怖い。侯爵になったの怒ってるんだよね?ごめんなさい。

「それはもういい。なぁクルト、ずっと思ってたんだがお前、以前のクルトじゃないだろ。俺の子のクルトはどうした?」

 あららぁ……そっちか。直球でズバンと来たね。隠してもいいことはなさそうだし、もう隠せない所まで来てたのか。あーあ、俺の子じゃないって言われるのかな。僕の立場はどうなるのかな。アンジェはきっとそれでもと言ってくれるだろうと信じてるけど、いらねって言われるのかな?僕は恐怖もありつい軽口で、

「あの……いつバレました?」

 顔色変えずに父様は僕を見たまま、やはりという顔をした。

「お前があの事故で目覚めて少ししてからだな。あまりに変に感じて、俺の加護のディオニュソス様に祈ったんだ。そしたら言葉を濁し、ゴネて嫌がったが最後には教えてくれた」
「あはは……加護の人には神は優しいんだね……」
「そうだな」

 僕はもう無理かと説明した。正確には子どもではあるけど微妙な……僕が彼に混ざった感じかな。あの日の馬車の襲撃の後から丁寧に説明した。

「そうか……あの事故で死んでたのか」
「ええ、彼の記憶を全部引き継いでいるので全く別人でもなくて……彼と混ざってるのが正しいかと」
「うーむ」

 父様は黙って考え込んだ。そりゃそうだよね、しゃべってるのは蓮だから別人だよね。でも死ぬ前までの記憶は僕のだと思えるくらいには、もうクルトと同化してるんだ。

「なんだろうな。クルトより賢いし、親にやたら懐くから変だなあって。ついでにアルバンも分かった上でお前を弟と思ってるそうだ」
「あ……兄様そうなんだ。ありがとう存じます」

 アンジェも分かった上で嫁にしていると言ってくれた。

「その…言いにくいんですけど、以前のクルトよりその……愛してます」
「それは見ればわかる。アンジェ」

 そっかあ、俺の子は死んだのか。それも嬉しそうに死んでいったのかとぽつり。アンジェは恐る恐る父上と声を掛けた。

「たぶんですが、前のクルトは俺との結婚が嫌だったのだろうと思います。あの頃の俺はあんまりだったので……」

 父様はアンジェを見つめて確かになと。今は別人のようになったもんなって。

「でもさ。俺はアンジェのどこに不満があったのか理解出来ないんだ。こんないい男で公爵。白の賢者でなければ、ただ愛されて面白おかしく暮らせたはずなのにさ」
「父様ちょっと言い過ぎ」

 僕は慌てて注意した。いくら身内になろうがぶっちゃけ過ぎだし、アンジェは公爵だよ。

「本当のことだろう?クルト。お前は今幸せか?」

 うっ……幸せですと答えた。

「だろうと思ったよ。アンジェが愛情深いのはみんな知ってるんだ。ベルントの横暴に頭を下げて歩き、親が死んだ時も気丈に振る舞って必死に頑張っていた。若いけどなんと素晴らしいヤツだろうと俺たち世代は言ってたんだ。王族であるのを差っ引いても素晴らしいってな」
「ありがとう存じます」

 アンジェは父様の言葉をとても嬉しそうに聞いていた。

「なあアンジェ。どうするのが正解だと思う?」
「あの、なにが?」
「クルトの素性だよ」

 あー……と考え込んで、顔を上げた。

「別に言わなくてもいいのではないでしょうか。身近な者が知っていればそれで。特に問題にもなりませんし」

 父様はうーんと唸り、そうだが隠しきれなそうだぞって。

「今のクルトは、こちらの世界の人と感性が違うように俺は感じてるんだ。うーん、例えば今回の顛末が起きたら、俺たちはどうしようとする?」

 はあとアンジェは生返事して、どうにもならないし、元に戻るのを待つと選択するのが普通で、方法がないのは分かってるから時間に任せるだろうと答えた。

「魔獣たちは仕方ないから他に放す場所を探すか、魔石や食べるかですかね」
「だろ?神に頼むなんて思いつかないんだよ。神をそこまで身近に感じてなくてさ」
「えっそうなの?」

 僕は驚いてアンジェを見上げた。彼はまあなって。加護はあってもそれほど神は言葉はくれないんだそう。死ぬまでに片手で足りるくらいの天啓があれば、愛されてるねって言われるレベルだそうだ。え?僕この二年でだいぶお話してるよ?

「そうだ。お前のは神の寵愛と取れるほどなんだ。たぶん神の罪悪感もあるのだろうがな」
「はい……」

 この先お前はもっと活躍するはずだ。その時「勇者、英雄」が本物の称号になる。耐えられるのかって。父様は今までなにがあってもそんな方法は思いつかなかったよって笑う。領地の嵐の始末ですらなって。

「分かりません。その時が来てみなくては……」
「まあそうだな。クルト、顔をよく見せろ」
「はい」

 僕は父様と向き合う。父様は僕を上から下までじっくり見つめ、頬を撫でて調べるような目で、深くため息。

「アンジェに同化したいのかと思うほど魔力の層が厚いな」
「それはどういう?」
「愛され過ぎだ。相性がいいのだろうがな」
「はあ……悪いことなのですか?」

 父様は横に首を振る。

「いいことだな。アンにとってここまで愛されれば本望だというくらいだ。でな、俺はお前を俺の子どもとする。お前、前の世界ではけっこう辛い思いをして来たんじゃないのか?親を見る目がおかしいだろ?」

 さすが父様、よく見ていたね。僕が討伐のために家に帰っていた二週間で、改めてこれは完全に俺の子の「クルト」じゃないと改めて思ったそう。
 僕はその時、自分を気にかけて見てくれる親が嬉しかった。母様は深夜に本を読んでいると部屋に来て「体は大丈夫?無理してない?」と気遣ってくれた。兄様も術の発動のイメージなんか教えてくれて嬉しかった。こんな家族の愛はとうの昔に僕の手からこぼれ落ちていた物なんだ。

「……はい。僕は親に愛されませんでした。僕の世界では同性を愛することはおかしい人くらいに思われてて……親は異常な者を見る目で…僕を嫌いました」

 泣きそう……あの頃の両親の汚らわしい者を見る目が思い出された。理解出来ないと言うような目を。心の繋がりの切れる、ブツンという音が聞こえた、ゲイがバレたあの日を思い出した。

「そうか……こちらではそんなものはないがな。人の種類も少し違うようだし、文化もな」
「はい」

 俺たちはお前が親に甘えるのを嬉しく思っていた。元のクルトは親に興味はなく、家の仕事を多少手伝うくらい。嫁に行くからそんなものなのだが、困ったら親や兄弟に相談しよう、頼ろうって思ってくれるのが嬉しかったんだと言う。「クルト」はあまり家族とべったりではなかったそうだ。

「甘えてたのは寂しさがさせてたんだな」
「はい。失くした物が手のひらに戻った気でいました。兄様は本当に嬉しかった。僕はひとりっ子でしたので」
「そうか。苦労したんだな」

 もう我慢できずにポロッと涙が頬を伝う。苦労したんだなと言ってくれるのか。どこから来たか分からない、自分の息子の体を乗取ったような僕に。

「父様……ありがとう存じます」

 まあいいや、お前はレンだがクルトでもある。俺の息子は死んじゃいないことは分かったし、俺たち親はお前の味方だ。助けを求めてくれ、アルバンもずっとお前を助けると言っていた。心配するなって。

「はーすっきりした。俺の子どもじゃないなんて言うつもりはなくて、前のクルトのことを少し聞きたかったのと、アンジェの気持ちと、これからのことを話したかっただけなんだ」
「はい」

 アンジェ悪いがクルトを助けてやってくれと父様は頭を下げた。

「はい。そこは大丈夫です」

 父様は僕をしっかり見つめ、お前は俺の自慢の子だよと笑った。

「半分クルトだがな。だがお前の中身も俺は好きだ。レンだったか。お前も俺の子に間違いない」

 父様、僕を息子と思ってくれるんだね?なんて寛大な方なんだ。

「くっ……うっ…父様ありがとう存じます。あなたに恥じない子どもでいるよう努めます」
「ああ、そうしてくれ」

 僕の肩をボンボンと叩くと、またなって父様は部屋を出ていった。父様ありがとう……本当にありがとう。涙が止まらない。父様も母様も本当の僕の親になってくれるって。なんて奇跡が僕に訪れたんだろう。僕を愛してくれる家族を手に入れたんだ。

「アンジェどうしよう。僕本当の子どもって言ってもらえた」
「うん。よかったな」

 初めから言っておけばよかった。きっと今と同じ言葉をくれたはずなんだ。僕が拒否されるのが怖くて、親と兄様を失くしたくなくて口をつぐんだ。

「そうだな。俺にはもう親はいないが、ふたりを大切にしなさい」
「うん」

 その後僕は帰宅して普通に生活していた。あの会議からひと月後には国中の全てのミンミーたちを森に返し、こちらに戻る個体もなく正常化した。これで本当に森のことは終わったんだ。

「魔獣は火竜が怖くて戻らなかったのかと思ってました」
「僕も。それが清浄過ぎて嫌とは思わなかったよ」

 ティモに髪を梳いてもらいながら朝のお話。でも、クルト様はすでにうちの領内では旦那様と共に勇者となってしまいました。ミンミーたちのこともあって更にねって苦笑い。
 国が発表しちゃったんだよね。ハーデス様のお力を借りて森を元に戻したって。どれほどの衝撃が国中に走ったかは言いたくない。フリートヘルム公爵領は「特別に神に愛された土地」とか言われ始めてるんだ。

「お陰様で、野菜や家畜は高値で取り引きされてるそうですよ。神の寵愛を受けた土地の物を食べれば「いいことあるかも」って」
「ねえよ。願掛けだろうけどさ。自分で神に祈ってくれ」
「そうですがね」

 民とはそんなもので、そうやって野菜や肉を売り込むんだそう。その話しに僕は、うちの国は多少商売っ気はあったんだなあと感心もした。

「でもさ、それだと僕化け物じみてない?」
「そんなことないですよ。僕は知ってます。旦那様が大好きな思いやりのある優しい人だと」
「ありがと」

 ただみんなが僕を知っている訳じゃないし、回りまわって尾ひれがついて……とか思わないでもない。心配しても変わらないけどね。なんて思ってだけど案の定でね……はあ







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