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三章 愛される存在に

6 僕のせい?ならば

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 レストランを出て、馬車で領地の他国から持ち込まれる品の税関に当たる場所を視察。僕は訳わからんからアンジェたちを眺めていた。

「そうか…」
「ええ。シュタルクを抜けられない弊害で、冒険者の需要が高まり、その余分な日数が物の値段に転嫁されてますね」

 どうするかなってみんなで相談している。僕は仕事のことなど何も分かんないから、作業の人を見つめていた。細マッチョの人が軽々とたぶん三十キロはあるだろう麻袋を両肩に乗せて荷馬車に乗せていた。すげえな、フォークリフトとかないと手作業か。そりゃあこっちのノルンがマッチョになる訳だ。魔法使わんのかな?とトコトコとひとりの若者に近づいて聞いてみた。

「クルト様、庶民はそんなに魔力ないんですよ。そんな使い方してたら午前中で魔力切れ起こしてそこらで意識不明になりますって」
「そうなの?」

 僕はふーんと聞いていた。

「そうです。貴族の半分もないんですよ。王や貴族はだから「貴族」なんです。我ら民をあの討伐なんかから守るのを引き換えに、我らは領地に住み労働力というか税を国に提供し、生活する。それが世のことわりです」

 そっか。それで世界は回ってるのか。ほほう。前世は民主主義だから、民から代表を選んで……王国はそういうものか。そんなの意識したこともなかった。税金泥棒くらいに国のこと思ってたよ。この世界の人は、普段は意識しなくても愛国心もあるんだろうなあ。国の移動に制限はないはずだし。ほほう。

「ごめんね。仕事の邪魔して」
「いいえ。……かわいい。クルト様本当にかわいいですね」

 彼は僕をジッと見つめて微笑む。日焼けしたマッチョで、民すらこの世界の人はカッコいい。微笑めば更にね。本当にこの世界どうかしてるってくらい人々がカッコいい。僕がフリーなら、いい寄る人にふらーってするだろうなってくらいには、イケメンばかり。

「ありがとう」

 またねと彼は麻袋を担いで仕事に戻り、僕が振り返るとそこには魔物がおった……

「クルト、隙を見せるな。俺があいつを殺さないためにも」
「ヒィッ!ってか、なに言ってんの!僕が仕事の質問してただけだよ」

 フンと鼻を鳴らしブチュウ……あん……恥ずかしいでしょ……でも気持ちい……じゃねえ!

「アンジェ!」
「お前は俺のものだ。それ以上でも以下でもない。やっぱり視察に連れてくるんじゃなかった。キレそうだよ」
「あのねえアンジェ」
「なんだ」

 目が据わってて怖いよぉー……見下ろされてるから余計怖い。

「ごめんなさい。そんなつもりはなかったの」
「それは分かっている。俺がおかしいだけ」
「わかってんのかい!」
「うん」

 この……!僕はぷるぷる震えてアンジェを睨んだ。するとフッと肩の力が抜けて、アンジェは微笑んだ。

「クルトが睨んでもかわいいだけだな」
「もう!視察は終わったの?」
「ああ、後はミンミーで終わりだ」
「ミンミー?」

 それは馬車に乗ってから話すと四人で乗り込んで牧場方向に移動。

「前回の討伐で逃げたミンミーたちを森に放しに行ったんだが、あいつら森を嫌がってカゴから出なかったんだ」
「え?なんで……森は元に戻したのに」

 はあと、アンジェたちはため息を漏らした。アンジェはお前が元に戻したからだろうって。

「なんで!」
「あの森は適度に瘴気溜まりとかあってな。それが全てなくなった。浄化の効果は森の五分の一だったのが、ゆっくりと森全体に広がり魔物が住めなくなったようなんだ」
「うそ……でもバルナバスはなんとも……」

 あれは強い魔獣だからだ。現在城の調査隊が入って調べてるんだが、アウルベアやサラマンダークラスは帰って来てるそうだ。それより小型はどこかに行ったまま。

「マジか……僕の魔法そんな効果もあったのか。再生してただけなのに」

 魔の者たちは多少の瘴気が必要なんだ。え?でも焼けたところだけだよ?僕が再生したのは。なんで?

「俺も不思議でな。資料にもないし、だからお父上にも確認したんだ。そしたらそういった効果があるのは知らなかったそうだ。まあ、あの森を過去に「白の賢者」が再生した記録はないから、誰も知らなかったんだよ」
「そう……どうしよう。どうすればいいんだろう」

 どうするかなとアンジェたちも困っているそうだ。あの森は魔物や魔獣が生きるには難しい森になってしまっていて、普通の動物は戻っているのは確認済み。

「どうしたら……」

 アンジェは顎を擦りながらうーんと唸る。

「それでな。バルシュミーデ、ヘルテル側の、別の森に返そうかと言う話になっているんだ。あの森から逃げた魔獣は、あちらにけっこう行ってたらしく、森が小さく過剰な魔物で危険な場所にはなってるようだが、仕方ないかと今協議しているんだ」
「あー……」

 僕が生態系のバランスを完全に壊したんだな。バルナバスに相談してもあれも魔獣の一匹で、神でもなんでもない。あれが瘴気を出してる訳でもないだろうし……自然に人が手を出しちゃいけない見本になったか。あーあ落ち込む。頑張ったんだけどな。落ち込んでる僕にアンジェは、

「これは仕方ないんだ。いつか元には戻るだろうがいつになるやらだな。この地は人が住めるようになって千年近く経っていて、あの森がああなったのがいつからか、元々なのかも分からん」
「うん……」

 あの森はゲームで言うところの「ダンジョン」に当たる森。人の生活に密接してて冒険者の訓練やランク上げ、飯の種全部賄ってて……なのに僕がそれを壊したんだ。見た目だけの復元で……なんてことだ。今日の楽しかった視察が全部なくなるくらい落ち込んだ。みんなに迷惑掛けてるのが心苦しい。

「クルトそんな顔しないでくれ。お前の力がなければ、今みんながこうして生活は出来ていないんだから」
「うん…アンジェ」

 ものすごくその言葉に甘えたくなったけど、考えるべきは僕だろう。やったのは僕だから。ならさ、こんな時こそ神様だろ!揺れる馬車の中だけど、僕は手を組んで祈った。こういうのは早い方がいいもん。どうすればいいかをアルテミス様に方法はあるか聞いてみたんだ。答えてくれるかは不明だけど、やらなきゃなにも始まらないもんね。

 ……森に魔獣を返したいのか?……

「はい!人の生活に密接しすぎているのです。あの森は人の生きる糧にもなっているのです」

 ……ならば私が少し手伝ってやろう……

 聞き覚えのある重く低い声、これは「クルト」が会ったハーデス様の声だと僕は感じた。「クルト」が待機の楽園に向かう直前までの記憶を、僕はクルトから引き継いでいたんだ。その先はきっと僕は見てはいけないものだから引き継がれてはいない。使徒の手を取って歩き出すまでは、なぜか記憶にあるんだ。

「冥界の王ハーデス神に請う。以前と同じくらいの森を動物たちに与え給え。私の浄化の力の無効を願い奉る」

 ……明日以降に獣を連れて行くがいい。元に戻してやる……

「神の慈悲に感謝いたします」

 ……私は力は貸すが其方に加護を授けることは出来ぬ。理由は言わずともわかるだろう。後は人が上手く動け……

「はい。心します」

 目を開けるとアンジェたちは静かにしていた。息をひそめるように僕を見つめていて、瞳には怯えの色がはっきりと浮かんでいる。

「クルト終わったのか?」
「うん」
「神との会話はお前の声しか分からない。ハーデス神の加護とは……」

 みんな怯えの表情は更に濃くなる。当たり前だよね死を司る神だから。軽く深呼吸してみんなに僕は今の会話を説明した。

「なんと……ハーデス様がお力を貸してくれるなど前代未聞では?」
「ああ、聞いたことがない。白の賢者とはどの神の力も引き出せるのか。なんという……」

 みんな絶句してそのまま黙った。ガタゴト馬車の車輪の音しかしなくて……変な緊張感が車内に……どうしようか。

「あ、あのね。アルテミス様が他の神に口添えしてくれるようなんだよ。だから白の賢者の力とは言えない……かもね?僕本来の力じゃないし?」

 アンジェが深く息を吐いて、横に首を振った。

「いや、お前の力だな。アルテミス様とはどのような方なのか」
「うーんとね。神々の後ろに美しく控えて静かにしてる方に感じる。慈悲の神でもあるから、人の困りごとをなんとかしたくて周りに頼んでくれるような……そんな神様かな?」

 だから直接の時は声が途切れ途切れで弱々しい時もある。だけど加護のある人の願いは極力叶えてあげようとする、僕はとても優しい神様な気がしてる。うちの文献でもそんなだったし。

「そうか……白の賢者は特殊な魔法使いなんだな」
「そうかもね。たくさんの神様と話しは出来るけど、全部を叶えてくれる訳でもない。その時々だよ」

 うーんとアンジェたちが唸っていると、牧場に到着。建物に入ってすぐに先ほどのことを責任者に説明した。

「本当ですか!よかった……餌代だけでもすごくて売っちゃダメだと通達が出てて、どうしようかと思ってました」

 アンジェはニヤリとした。悪そうな笑みだね。

「一割ぐらい残して餌代として売っぱらえばいい」
「あはは。そうします」

 明日から馬車で運んで放して来ますって責任者は喜んだ。そして多少仕事の話しをすると、すぐに馬車に戻り城へ向かうとアンジェが言う。

「なんで城?」
「各地にミンミーたちを囲ってるんだよ。餌代で金かかってて問題になってるんだ。それとお前が奇跡を起こしたと宣伝もする」
「へ?」
「白の賢者は国に貢献してるって記録に残すんだよ。ハルトムートに恩を売るんだ」
「え……」

 ものすごく馬車を飛ばして城に到着。王を交えて大臣室で報告となった。

「なんてことだ……ハーデス様が助けてくれるなんて聞いたことがない。死者の来世を約束してくれるくらいの……マジか」
「俺はハーデス神が人に手を貸してくれること自体に驚いている」

 口々に驚愕だとしか出てこず……次第に大臣たちは僕を魔物でも見る目になっていた。ひどい。

「白の賢者」とは何者なんだ?とあちこちからヒソヒソ。当然この場には父様もいて、むーんとした顔でよっこらしょって感じで立ち上がり、仕方ねえなと顔が言ってるけど、聞いてくれとみんなに声を掛けた。

「あんり話したくはないですが、こうなったら仕方ない。白の賢者とは、全ての神の力を引き出せるんですよ。アルテミス様の慈悲のお心に触れた案件であれば、ほとんど誰かしらの神が手を貸してくれる。そういった加護なのです」

 おおー……と低い声が部屋に響く。

「アルテミス様単体だと浄化や治癒中心ですが、たぶんやり方次第では、黒の賢者と同等の力も引き出せる能力も秘めています」
「本当か!フリッツ!」

 ハルトムート様は驚いて父様に声をかけた。

「ええ、アテナ神の力をアンゼルム様とふたりで行使も出来なくはないはずですが、白の賢者がその力を使うには条件が多い。簡単には出来ませんが、慈悲や環境保全になるような案件ならば使えるはずです」
「フリッツなんなのだ。白の賢者とは」

 父様は少し顔をしかめ悩んでから、ハルトムート様の方を向いた。

「たぶん加護が強ければ、地上で神と同等の力を行使できる、特別な存在でしょうか」

 みんなグッと息を飲んだ。父様……そこまで言うと化け物よ僕は。本当のことだけどさ。ハルトムート様は呆れたような顔になり、なあフリッツと力のない声で父様に話し掛けた。

「なぜフリッツの家は子爵のままなんだ?こんな大きな力をなぜ隠していた?これは王より力があるのではないか?」

 ハルトムート様は頬杖ついて父様に聞く。

「隠してはいませんよ。みなさんが忘れただけです。私の先祖は近衛騎士だったのをお忘れですか?騎士身分でこの地の開拓を任され、子爵に取り立てられたのです。これでもだいぶ出世しているんですよ」

 優しく父様は微笑む。満足してますよって。

「でもさ、王より力があったのになぜその身分に甘んじたか、家に記録はあるか?」

 父様はどうしようかなあって眉間にシワで唸り、ありますがと考え込んだ。

「そのね、先祖は野心などなかったのですよ。王になりたいとも思ってなかった。あの当時の従者の一人で、エンゲルベルト王に心酔して付いて来た騎士なんです」

 国の建国のため彼のために祈り、アルテミス様の加護を受けて火竜と対戦和解した。彼の王への忠誠心が「白の賢者」の始まりなのです。他国は分かりませんが、我が国の白の賢者の成り立ちはこの通り。田舎で王のために酒を作るんだと高原の地をもらい、今まで酒造りをしているのです。上の爵位、王など全く興味のない一族ですと父様は声に力を込めて言い切った。

「そうなの?魔法省で働くとか考えなかったのか?俺の相談役になるとかさ」

 父様は首を横に振った。

「私たちはぶどうを作りそれを酒にする。時々城の大臣をしたり……それで満足の欲のない者ですよ」

 ハルトムート様は嘘臭えなと言ったが、信じようと。でもなと続けた。

「それは力に対して身分も金も少なすぎるし、領土も少ないだろ」

 ふふっと父様は笑った。王は酒のためのぶどうをよく知らないからなあって。

「山の下の方の土地で作ると、酒に適した良いぶどうが出来ないんですよ。フルーツとしてならいいのですがね。それに山の上過ぎると寒くて白しか美味しくない。難しいんですよ」
「そう……」

 ハルトムート様は尻すぼみになり、他の人も欲のないことをとブツブツ。これだけクルト様が功績を上げたんだから、爵位くらいもらえばいいのにって聞こえる。伯爵相当ではなく伯爵、もしくは侯爵まで望んでもバチは当たらぬと。だけど父様はしっかり王に否定した。

「私たちはこれでいいのです。王への忠誠心はいつもここに」

 父様は胸に手を置いて、ニッコリとハルトムート様を見つめた。だけど王は、

「いや、爵位だけは上げようよ。そうすれば災害時の援助の金額も上がる。民もお前も助かるはずだし、みんな酒好きだものな。みなよいか?」

 パチパチパチと盛大な拍手が沸き起こった。クルトは後で報奨金出すからなって。

「これは確定だ。今日からフリッツ・ラングール子爵改め、フリッツ・ラングール侯爵とする!」

 おおー!と拍手が沸き起こり、後日爵位変更の祝をしようと、ハルトムート様がみんなに声を掛ける。その祝福の中で父様だけがあーあって嫌そうな顔をしていた。うん、父様こういうのあんまり好きじゃないんだよね。自分のペースで淡々とする、職人なんだ考え方がさ。ごめんね僕のせいで。

 そんなめでたい雰囲気で報告会は終わり、みな会議室を各々出て行き始めた。










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