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一章 新たな人生が動き出した
9 討伐の支度
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実家から夕食前くらいに屋敷に戻ると、なぜかアンジェは城から帰っていた。珍しく早いね?
「当たり前だ!お前と離れてるのが……その…なんか…さ…み…しくて…」
「ありがとアンジェ。僕も寂しかった」
帰還したあいさつに執務室に寄ったらいて、口ごもりながら、照れながらのアンジェ。そんな様子に僕は嬉しくて、感極まって鼻がツンとしてしまう。僕が移動し執務机の横に立つと、抱き寄せてくれる腕にとても安心した。
「おかえりクルト。あれから神からの言葉はあるか?」
「うん。あと少しなのは分かった。早くって」
「そうか」
僕らは人に聞かれないように報告し合うため、アンジェの部屋に向かった。屋敷のみんなにはあんまり心配させたくないからね。ローベルトにお茶の支度をさせて外に出した。そして防音のドームをアンジェが展開し、話し出した。
「白の賢者の天啓ということで、王家も城もてんやわんやでな。騎士も臨戦態勢を取っている。衛兵らは民を守る算段は付け街に行かせた。海側に人を集めるように今手配している」
宮中の対応はそれなりに進んでいるようだね。よかった。
「僕は白の賢者の魔法?というか、なにを使用したかの履歴と、魔物図鑑を読んで対策してた。呪文とかないんだよ。想像が力なんだ」
「ふーん……黒と同じか」
国の魔法に呪文があるのは発動させ易いからなだけで、無詠唱でいいらしい。本来火を思い浮かべればそれですむんだけど、人によりそれは難しい。そのため呪文が市井に広まった。
「国の騎士や魔法省の者は訓練してるから、不得意なもの以外は呪文を唱えたりしないかな」
「ふーん」
それにどの魔法も魔物や魔獣に万能で効くものはない。例えばサラマンダーは火だから、そいつに火をぶつけても石ころがポンと当たったくらいしかなく、ダメージにもならない。基本違う属性の魔法でなくてはならないんだ。後は物理攻撃だね。剣や矢になる。そのため、城では騎士と魔法使いの連携の訓練が日夜行われているそうだ。
「対策はした。後は……シュタルクが実際なにをし出かすのかだな。止めに行きたいが……」
すでに親書も使者もシュタルクには送ったそうだ。他二国もね。でも返事はないし何もしてない、迷惑と門前払い。
「よほどの覚悟であの森になにかする気なんだよ」
「そうだね。もう止められないんだね」
ああと、苦々しいと言わんばかりのアンジェだけど、あちらも危険を覚悟で国益でやろうとしているんだろう。
アンジェの話ではあの国はかなり追い詰められてて、特に属国にした地の反乱に手を焼いているそう。
「ほぼ奴隷のように民も貴族も扱い、その国の騎士たちは、なんの情報も与えられず斥候として他国の侵略に使われている。そして無駄に命を散らしている。王族はそれに反抗すればすぐに処刑されるらしい」
その扱いに我慢出来ない王侯貴族が手を取り、民も味方して国を取り戻すためにあちこちで決起し、反乱が起きている。
「土地の鉱脈が狙いだからなにか、大型の魔物か大群を使って人々を殲滅するつもりかもな。こちらはそう思っている」
大型魔獣を自在に操るとか出来るものなの?大型は魔力も物理的な攻撃力も高い。それを操るなんて……
「そんな術あるの?」
「なくはない。獣魔士がいるだろ。彼らを使うんだろうとは思うが……一匹でも難しいのにそんな大群を制御出来るものなのか、こちらは半信半疑だな」
うちにはそこまで強力な魔獣士はいないし(小型を操るくらい)俺が神の加護を全部知ってる訳じゃない。その国独自の加護があり、十二神に比べれば力は弱いが、その子どもの使徒の力を借りる者もいる。使徒はどのくらいいるか定かではなく全員の記録はないし、神はその時の状況でしか教えてもくれない。
「個人的に調べて加護をもらっている者もいるのだろう」
「そっか」
加護はたくさんの神から受けることは出来るんだけど、それを出来てる人は見かけない。普通は多くてふたりだ。家の加護の神ともう一人くらい。他国はよく分からないから、いるのかもしれないね。
「公爵家はアテナ神だ。俺はその加護を受けている」
「知ってる。祭壇も北のお部屋にあるしね。僕たまに行くもん」
「そうか。それとアポロン神だ」
「もう一人いたのか。気が付かなかった」
アテナの祭壇のそばに有ったらしい。ほほう。でもさすがアンジェ。努力を惜しまないんだな。すごく尊敬する。
「だが俺は、どの神も攻撃的な部分の加護しかないんだ。だからアポロンの加護があっても治癒、医療とかには向かない」
「そっか」
当然国はデメテル様とアポロン様。農神デメテル様は戦闘には向かず、アポロン様くらいだけど太陽の神だから火の神に近い。薙ぎ払え!って最大魔法使う人が多く、土地を焦土にするから後が大変なんだ。だから加護を大きく行使する人は滅多にいない。焼き畑農法なんてもんじゃなくて土まで焼くから本当の焦土になる。セラミックの赤土だけに。
「クルト。王族やユリアン、王はあてにするな。俺と同じで攻めるばかりだから」
「はい」
なんだろうね。この牧歌的な国で攻撃力しかない王族……まあ、それが貴族の仕事だけどさ。
僕からは家で調べて来た話を、父様にアンジェにはするなって言われた部分を除いて話した。例え黒の賢者であろうと、その家ごとに決まりはあるからだって。
「さすが義父上、元白の賢者だな。うちも似たようなもんで全ては話せない。言えるのは大きな魔法の発動は加護がなければ出来ないこと、今は俺だけしか使えない。他は記憶を見るとか特殊なのが少しだ」
アンジェも父様もそこの線は越えたりしない。きっとこれが貴族同士仲良くするコツなのかもね。他のお家もきっとなにかあるんだろう。
「ねえアンジェ、父様が言ってたんだけどさ」
「うん?」
ふたりで力を合わせてって魔法があるのでは?って言ってたのを聞いてみた。
「あー……あれな。俺も調べたことはあるが、禁書庫にもなかった。あと付けの話かもしれないな」
「そう……」
そりゃあ残念。早く解決するきっかけになるかもって思ってたんだけど。あーあと僕が残念がってるとアンジェは。
「それか、俺の想像だがアテナとアルテミスが手を組んで天啓をくれるのかもな。だけど記録がないのだけは確かだ」
「そう。その時になって見ないと分かんないのか」
この後も話し合い、あらかた報告が終わるとお腹すいたかも?アンジェに腹減ったと言うと、チラッと棚の時計を見る。遅くなったけど食堂に行って夕食を食べ、それから自室でお風呂に入った。そして遅いからすぐに隣の部屋に行きアンジェのベッドに潜り込む。アンジェの匂いだ……この優しい花の香りは安心する。彼の枕をサワサワ撫でていると部屋にアンジェが入って来た。
「待たせたな」
「ううん」
対策は取れるだけ取ったんだ。後はなるようにしかならない。ならば出来ることをしながらその日を迎えようと、アンジェは僕の横に入って頬を撫でてくれる。
「うん。それしかないよね」
「ああ。だが……」
俺は嫌なんだ。お前がそんな場所に立つのはと抱きしめる。少し震えてる?
「もし妻を二度もなんて俺は耐えられない……」
大丈夫だよ。僕はこんなことで死ぬつもりはない。この幸せを置いてハーデス様のところになんて行かないつもりだ。
「僕は一度死んでるし、たった二年じゃこちらの輪廻に入れないかもしれない。狭間の世界の牢獄で、永遠の時を過ごすなんて考えられないもんね」
アンジェは俺の側を離れるなよ。討伐や戦はなにが起きるか予想はつかないからって。
「うん」
クルト愛してると言ってくれとアンジェ。お前を感じたいとねだる。この期間屋敷に僕の気配がないだけで、とても辛く感じたそうだ。
「僕もだ。家族とアンジェは違うんだ。心から愛してます」
「うん……俺も」
番の本能がなくとも人として愛してるって思えるよう、僕らは活動?していた。たくさん自分のこととか、愛してるって伝えてたんだ。
アンジェはよくしゃべるようにはなったけど、それでも言葉が少ない。だから僕は思ってることはどんな些細なことでも伝えてって頼んでいる。僕はそれに応えるし、ああこんなところ好きだなって思ったら伝えてた。
「アンジェ。僕をお側に置いてね」
「ああ。クルトも俺を側に……」
僕らはふたりの時は愛の言葉を囁やき合う。隠さず正直にたくさんね。愛情をたくさん示して損はないもんね。
「クルトを感じたい」
「ふふっうん」
二週間ぶりに彼に抱かれた。とても幸せで気持ちよくて安心もした。家族は大切だし、あそこの人たちも好き。でもこちらの人たちも好きだし、アンジェの代わりは誰にも出来はしない。
「んう…もっと……奥に……あっはっ…」
「ハァハァ……お前の「もっと」は興奮するな」
ドクドクと中に……出したモノあっかくて彼のモノ自体も熱くて好き。彼が僕の中にいるのがとても好きなんだ。
「クッ……ンッ……っ」
「抜かないで欲しい…の」
「ああ」
少し柔らかくなって来てるけど抜かないで……アンジェ僕と繋がってて……離れたくない。
「ああ、俺も繋がっていたい。愛している。どうにもならないくらいお前を……」
「うん」
それでも疲れてるのかアンジェは数回でやめた。僕はちょっと足りないけど満足はした。
「抜くぞ」
「うん」
ズルっと抜けるとドプッと漏れる。この時が少し苦手で、とても寂しく感じるんだ。名残惜しいなあとアンジェの頬を撫でていると、スッと景色が歪み水が見える。アンジェが洗浄の魔法を掛けてくれて、僕らに纏わりつくようにゆらゆらとすると、消えた。
「ごめん。したいって俺が言ったのに」
「いい。アンジェに抱っこされてるだけで僕は満足だもの」
その後は抱き合って眠り、アンジェは朝早く僕が寝ている間に城に出勤。僕は朝食後、討伐に向けて何を思い浮かべるかを図書室で考えることにしていた。
「いっそ前の世界の武器を……」
「それもありかもですね。どんな武器があるのですか?」
「うんとね」
ティモは興味津々で、僕が知ってる物を言葉を駆使して説明する。
「ピストル。鉛の玉が高速で出て相手を倒す。人なら有効だね。やり方次第では物理攻撃に出来るんだ」
「へえ……」
大雑把な実物大の絵を紙に描いて見せる。僕絵はそれほど下手ではない……はず。伝わるよね?
「ここの引き金を引くだけだから簡単だよ」
「ふーん」
土から金属を錬成、そしてピストルにすればきっとね。だけど魔物には小さいのでは?とティモは不安そう。
「大きさもたくさんあって、馬車より大きな物もある。ミサイルと名前が変わるけどこんなの」
地対空ミサイルを描く。固定台にあのでっかいミサイルを格納する箱を書いた。僕がこちらに来る前、戦争の映像がネットもテレビも多く、記憶にあったんだ。
「えっと……これ目標に当たると爆発するんですよね?」
「うん」
「ちなみに、これの横に人が立つとどのくらいですか」
「うんとね」
発射台の側にちんまりと人を描いた。多分このくらいなんだよね、記憶では。
「あの……馬車どころじゃない大きさですね」
「うん。魔物どころか、着弾点付近の人は全部爆風で吹っ飛ぶね」
「それ却下。味方も防御できずに死ぬでしょ」
「うん……そうね」
熱源を追いかけるのもあるよ?と言うと人もでしょ!って。そうね。こちらの世界では熱源なんかほとんどないから、体温のある人とか獣を追うからねえ。
「ねえティモ。僕の世界は武器は対人、基地や武器倉庫とか、エネルギーを作るところとかの施設、鉄で出来た屋敷くらいの船を破壊するものなんだ。味方がいないのが条件なの」
人や街を攻撃する世界なんだ。使っちゃだめって武器もあるし、長い時間燃え続けたりする物や、水の中ですら燃える物もある。絶対だめだけど核とか。もう人が住むこと自体出来なくて、生き残った魔物も変になる可能性もある。
「あの……こちらの武器より危ない感じに聞こえますが?戦の後は土地は使い物にならないのでは?」
「うん。焼け野原で建物も残骸になる。そして目に見えない瘴気どころじゃない毒だらけかな」
「ふえ?」
却下!あの森がなくなる!ってティモはやめてって。まあ、あそこは魔石とか諸々収穫や狩りをするところでもあるから、消滅は民が困るか。魔力がない、もしくはとても少ない人たちが直撃で迷惑になるね。
「民が後で困るのはダメです。森の復活は……あなたの魔法で出来ますか?」
分からんな。どう復活するのか元通りになるのか、それとも焼けたりしたのを多少再生するのか。魔力が無尽蔵に僕が使えるのか。それすら分からない。記録にないんだよ。
「なら森の被害が少ない方法で!」
「そうね」
そんな感じでふたりであーでもこーでもと相談していた。城は城で頑張っているはずたからね。
魔法省、騎士以外も領地の主は民の誘導、万が一森が溢れた時の対応の準備や、家とかに被害を受けた民への一時金とか、避難所やそこの食べ物とか用意している。やることはたくさんで、父様の教育省のような戦や討伐に関係ない省は、いろんなところにお手伝いに行っている。
今は国中で警戒に当たっていた。ついでにうちの国は隣の二国から追加の戦士は借りられなかった。あちらも森に隣接していて自国の防衛が第一だからね。当然あちらの白の賢者にも天啓があって、三国は連携して計画を練っていた。いつ起きてもいいように、民も貴族もいつもの日常を送りながら、不安の中いつ来てもいいように待ち構えていた。
「当たり前だ!お前と離れてるのが……その…なんか…さ…み…しくて…」
「ありがとアンジェ。僕も寂しかった」
帰還したあいさつに執務室に寄ったらいて、口ごもりながら、照れながらのアンジェ。そんな様子に僕は嬉しくて、感極まって鼻がツンとしてしまう。僕が移動し執務机の横に立つと、抱き寄せてくれる腕にとても安心した。
「おかえりクルト。あれから神からの言葉はあるか?」
「うん。あと少しなのは分かった。早くって」
「そうか」
僕らは人に聞かれないように報告し合うため、アンジェの部屋に向かった。屋敷のみんなにはあんまり心配させたくないからね。ローベルトにお茶の支度をさせて外に出した。そして防音のドームをアンジェが展開し、話し出した。
「白の賢者の天啓ということで、王家も城もてんやわんやでな。騎士も臨戦態勢を取っている。衛兵らは民を守る算段は付け街に行かせた。海側に人を集めるように今手配している」
宮中の対応はそれなりに進んでいるようだね。よかった。
「僕は白の賢者の魔法?というか、なにを使用したかの履歴と、魔物図鑑を読んで対策してた。呪文とかないんだよ。想像が力なんだ」
「ふーん……黒と同じか」
国の魔法に呪文があるのは発動させ易いからなだけで、無詠唱でいいらしい。本来火を思い浮かべればそれですむんだけど、人によりそれは難しい。そのため呪文が市井に広まった。
「国の騎士や魔法省の者は訓練してるから、不得意なもの以外は呪文を唱えたりしないかな」
「ふーん」
それにどの魔法も魔物や魔獣に万能で効くものはない。例えばサラマンダーは火だから、そいつに火をぶつけても石ころがポンと当たったくらいしかなく、ダメージにもならない。基本違う属性の魔法でなくてはならないんだ。後は物理攻撃だね。剣や矢になる。そのため、城では騎士と魔法使いの連携の訓練が日夜行われているそうだ。
「対策はした。後は……シュタルクが実際なにをし出かすのかだな。止めに行きたいが……」
すでに親書も使者もシュタルクには送ったそうだ。他二国もね。でも返事はないし何もしてない、迷惑と門前払い。
「よほどの覚悟であの森になにかする気なんだよ」
「そうだね。もう止められないんだね」
ああと、苦々しいと言わんばかりのアンジェだけど、あちらも危険を覚悟で国益でやろうとしているんだろう。
アンジェの話ではあの国はかなり追い詰められてて、特に属国にした地の反乱に手を焼いているそう。
「ほぼ奴隷のように民も貴族も扱い、その国の騎士たちは、なんの情報も与えられず斥候として他国の侵略に使われている。そして無駄に命を散らしている。王族はそれに反抗すればすぐに処刑されるらしい」
その扱いに我慢出来ない王侯貴族が手を取り、民も味方して国を取り戻すためにあちこちで決起し、反乱が起きている。
「土地の鉱脈が狙いだからなにか、大型の魔物か大群を使って人々を殲滅するつもりかもな。こちらはそう思っている」
大型魔獣を自在に操るとか出来るものなの?大型は魔力も物理的な攻撃力も高い。それを操るなんて……
「そんな術あるの?」
「なくはない。獣魔士がいるだろ。彼らを使うんだろうとは思うが……一匹でも難しいのにそんな大群を制御出来るものなのか、こちらは半信半疑だな」
うちにはそこまで強力な魔獣士はいないし(小型を操るくらい)俺が神の加護を全部知ってる訳じゃない。その国独自の加護があり、十二神に比べれば力は弱いが、その子どもの使徒の力を借りる者もいる。使徒はどのくらいいるか定かではなく全員の記録はないし、神はその時の状況でしか教えてもくれない。
「個人的に調べて加護をもらっている者もいるのだろう」
「そっか」
加護はたくさんの神から受けることは出来るんだけど、それを出来てる人は見かけない。普通は多くてふたりだ。家の加護の神ともう一人くらい。他国はよく分からないから、いるのかもしれないね。
「公爵家はアテナ神だ。俺はその加護を受けている」
「知ってる。祭壇も北のお部屋にあるしね。僕たまに行くもん」
「そうか。それとアポロン神だ」
「もう一人いたのか。気が付かなかった」
アテナの祭壇のそばに有ったらしい。ほほう。でもさすがアンジェ。努力を惜しまないんだな。すごく尊敬する。
「だが俺は、どの神も攻撃的な部分の加護しかないんだ。だからアポロンの加護があっても治癒、医療とかには向かない」
「そっか」
当然国はデメテル様とアポロン様。農神デメテル様は戦闘には向かず、アポロン様くらいだけど太陽の神だから火の神に近い。薙ぎ払え!って最大魔法使う人が多く、土地を焦土にするから後が大変なんだ。だから加護を大きく行使する人は滅多にいない。焼き畑農法なんてもんじゃなくて土まで焼くから本当の焦土になる。セラミックの赤土だけに。
「クルト。王族やユリアン、王はあてにするな。俺と同じで攻めるばかりだから」
「はい」
なんだろうね。この牧歌的な国で攻撃力しかない王族……まあ、それが貴族の仕事だけどさ。
僕からは家で調べて来た話を、父様にアンジェにはするなって言われた部分を除いて話した。例え黒の賢者であろうと、その家ごとに決まりはあるからだって。
「さすが義父上、元白の賢者だな。うちも似たようなもんで全ては話せない。言えるのは大きな魔法の発動は加護がなければ出来ないこと、今は俺だけしか使えない。他は記憶を見るとか特殊なのが少しだ」
アンジェも父様もそこの線は越えたりしない。きっとこれが貴族同士仲良くするコツなのかもね。他のお家もきっとなにかあるんだろう。
「ねえアンジェ、父様が言ってたんだけどさ」
「うん?」
ふたりで力を合わせてって魔法があるのでは?って言ってたのを聞いてみた。
「あー……あれな。俺も調べたことはあるが、禁書庫にもなかった。あと付けの話かもしれないな」
「そう……」
そりゃあ残念。早く解決するきっかけになるかもって思ってたんだけど。あーあと僕が残念がってるとアンジェは。
「それか、俺の想像だがアテナとアルテミスが手を組んで天啓をくれるのかもな。だけど記録がないのだけは確かだ」
「そう。その時になって見ないと分かんないのか」
この後も話し合い、あらかた報告が終わるとお腹すいたかも?アンジェに腹減ったと言うと、チラッと棚の時計を見る。遅くなったけど食堂に行って夕食を食べ、それから自室でお風呂に入った。そして遅いからすぐに隣の部屋に行きアンジェのベッドに潜り込む。アンジェの匂いだ……この優しい花の香りは安心する。彼の枕をサワサワ撫でていると部屋にアンジェが入って来た。
「待たせたな」
「ううん」
対策は取れるだけ取ったんだ。後はなるようにしかならない。ならば出来ることをしながらその日を迎えようと、アンジェは僕の横に入って頬を撫でてくれる。
「うん。それしかないよね」
「ああ。だが……」
俺は嫌なんだ。お前がそんな場所に立つのはと抱きしめる。少し震えてる?
「もし妻を二度もなんて俺は耐えられない……」
大丈夫だよ。僕はこんなことで死ぬつもりはない。この幸せを置いてハーデス様のところになんて行かないつもりだ。
「僕は一度死んでるし、たった二年じゃこちらの輪廻に入れないかもしれない。狭間の世界の牢獄で、永遠の時を過ごすなんて考えられないもんね」
アンジェは俺の側を離れるなよ。討伐や戦はなにが起きるか予想はつかないからって。
「うん」
クルト愛してると言ってくれとアンジェ。お前を感じたいとねだる。この期間屋敷に僕の気配がないだけで、とても辛く感じたそうだ。
「僕もだ。家族とアンジェは違うんだ。心から愛してます」
「うん……俺も」
番の本能がなくとも人として愛してるって思えるよう、僕らは活動?していた。たくさん自分のこととか、愛してるって伝えてたんだ。
アンジェはよくしゃべるようにはなったけど、それでも言葉が少ない。だから僕は思ってることはどんな些細なことでも伝えてって頼んでいる。僕はそれに応えるし、ああこんなところ好きだなって思ったら伝えてた。
「アンジェ。僕をお側に置いてね」
「ああ。クルトも俺を側に……」
僕らはふたりの時は愛の言葉を囁やき合う。隠さず正直にたくさんね。愛情をたくさん示して損はないもんね。
「クルトを感じたい」
「ふふっうん」
二週間ぶりに彼に抱かれた。とても幸せで気持ちよくて安心もした。家族は大切だし、あそこの人たちも好き。でもこちらの人たちも好きだし、アンジェの代わりは誰にも出来はしない。
「んう…もっと……奥に……あっはっ…」
「ハァハァ……お前の「もっと」は興奮するな」
ドクドクと中に……出したモノあっかくて彼のモノ自体も熱くて好き。彼が僕の中にいるのがとても好きなんだ。
「クッ……ンッ……っ」
「抜かないで欲しい…の」
「ああ」
少し柔らかくなって来てるけど抜かないで……アンジェ僕と繋がってて……離れたくない。
「ああ、俺も繋がっていたい。愛している。どうにもならないくらいお前を……」
「うん」
それでも疲れてるのかアンジェは数回でやめた。僕はちょっと足りないけど満足はした。
「抜くぞ」
「うん」
ズルっと抜けるとドプッと漏れる。この時が少し苦手で、とても寂しく感じるんだ。名残惜しいなあとアンジェの頬を撫でていると、スッと景色が歪み水が見える。アンジェが洗浄の魔法を掛けてくれて、僕らに纏わりつくようにゆらゆらとすると、消えた。
「ごめん。したいって俺が言ったのに」
「いい。アンジェに抱っこされてるだけで僕は満足だもの」
その後は抱き合って眠り、アンジェは朝早く僕が寝ている間に城に出勤。僕は朝食後、討伐に向けて何を思い浮かべるかを図書室で考えることにしていた。
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「それもありかもですね。どんな武器があるのですか?」
「うんとね」
ティモは興味津々で、僕が知ってる物を言葉を駆使して説明する。
「ピストル。鉛の玉が高速で出て相手を倒す。人なら有効だね。やり方次第では物理攻撃に出来るんだ」
「へえ……」
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「ふーん」
土から金属を錬成、そしてピストルにすればきっとね。だけど魔物には小さいのでは?とティモは不安そう。
「大きさもたくさんあって、馬車より大きな物もある。ミサイルと名前が変わるけどこんなの」
地対空ミサイルを描く。固定台にあのでっかいミサイルを格納する箱を書いた。僕がこちらに来る前、戦争の映像がネットもテレビも多く、記憶にあったんだ。
「えっと……これ目標に当たると爆発するんですよね?」
「うん」
「ちなみに、これの横に人が立つとどのくらいですか」
「うんとね」
発射台の側にちんまりと人を描いた。多分このくらいなんだよね、記憶では。
「あの……馬車どころじゃない大きさですね」
「うん。魔物どころか、着弾点付近の人は全部爆風で吹っ飛ぶね」
「それ却下。味方も防御できずに死ぬでしょ」
「うん……そうね」
熱源を追いかけるのもあるよ?と言うと人もでしょ!って。そうね。こちらの世界では熱源なんかほとんどないから、体温のある人とか獣を追うからねえ。
「ねえティモ。僕の世界は武器は対人、基地や武器倉庫とか、エネルギーを作るところとかの施設、鉄で出来た屋敷くらいの船を破壊するものなんだ。味方がいないのが条件なの」
人や街を攻撃する世界なんだ。使っちゃだめって武器もあるし、長い時間燃え続けたりする物や、水の中ですら燃える物もある。絶対だめだけど核とか。もう人が住むこと自体出来なくて、生き残った魔物も変になる可能性もある。
「あの……こちらの武器より危ない感じに聞こえますが?戦の後は土地は使い物にならないのでは?」
「うん。焼け野原で建物も残骸になる。そして目に見えない瘴気どころじゃない毒だらけかな」
「ふえ?」
却下!あの森がなくなる!ってティモはやめてって。まあ、あそこは魔石とか諸々収穫や狩りをするところでもあるから、消滅は民が困るか。魔力がない、もしくはとても少ない人たちが直撃で迷惑になるね。
「民が後で困るのはダメです。森の復活は……あなたの魔法で出来ますか?」
分からんな。どう復活するのか元通りになるのか、それとも焼けたりしたのを多少再生するのか。魔力が無尽蔵に僕が使えるのか。それすら分からない。記録にないんだよ。
「なら森の被害が少ない方法で!」
「そうね」
そんな感じでふたりであーでもこーでもと相談していた。城は城で頑張っているはずたからね。
魔法省、騎士以外も領地の主は民の誘導、万が一森が溢れた時の対応の準備や、家とかに被害を受けた民への一時金とか、避難所やそこの食べ物とか用意している。やることはたくさんで、父様の教育省のような戦や討伐に関係ない省は、いろんなところにお手伝いに行っている。
今は国中で警戒に当たっていた。ついでにうちの国は隣の二国から追加の戦士は借りられなかった。あちらも森に隣接していて自国の防衛が第一だからね。当然あちらの白の賢者にも天啓があって、三国は連携して計画を練っていた。いつ起きてもいいように、民も貴族もいつもの日常を送りながら、不安の中いつ来てもいいように待ち構えていた。
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