神様と猫と俺

琴音

文字の大きさ
上 下
9 / 17

9 俺がなんだって?

しおりを挟む
 あの湖に出かけた日なぜだか分からんが、神様の腕でそのまま寝てしまって目が覚めたら自室にいた。

「アラン……」

 心配してか彼は俺のベッドに自分の腕枕で寝ていた。ごめんね……俺は彼の体を撫でた。フカフカだなあ。

「んあ?ああ目覚めましたか?」
「うん。心配掛けました」
「いいえ。主様も寝てるだけだと仰ったのですが、気になって夜中に来てしまいました」
「ありがとう」

 あのまま寝てしまったからお風呂をどうぞと。そうだねと布団を剥いだら全裸……本気でそのまま寝かせたのか。なんかだかなあ。まあいいかと起きるとガウンをどうぞとアランは差し出してくれた。裸で歩き回るのは辛いでしょうって。

「アラン分かってくれるの?」
「ええ。私は使徒です。神の末席にいますから、現世の者に近い。ですから気持ちは分かるつもりです」
「うっ……嬉しい。神様分かってくれなくて」

 昨日あったことをつらつらと話した。

「あはは。それが神なのですよ。羞恥心などありませんから」
「そう……」
「あなたもいずれそうなりますが、まだね」
「うん」

 私がフォローしましょうと短い指でグッと手を握り、親指を立てた。

「心強いよ」
「はい。私はおふたりの生活全般を任されている者。当然でございます」

 ニッコリと微笑んでくれた。そっか……部下みたいなものか。心から……とは違うのかもね。当たり前なのになんだか淋しく感じた。

「どうされた?」
「ううん。なんでもない」

 ふうとため息を漏らし、ベッドに上がって俺の膝に乗った。なに?猫してくれるの?

「違います。あなた様は我慢が過ぎるでしょう。この世界に来て理由も分からず、ただ主様に俺といろと言われて不安なのでしょう?我らと感覚が違うのに、何か引っかかるのでしょう?」
「い、いやそんなことは……」

 そうなんだけど、話すべきじゃないと思う。いつかここに馴染めば感じなくなる感情なんだ。その日はいつか来るから言わなくてもいい。

「アランご飯の支度は?」
「しますよ。話をそらさないで」

 俺の頬を柔らかな肉球でポンポンとして、ギュッと挟む。なにするの!

「主は淡々としているように見えますが、本当に喜んでいます。嬉しくて堪らないのです」
「ゔん……」

 私もですよ。仕える身ですが主の喜びは私の喜び。その対象がこんなではダメです!と手に力が入る。

「でも……こんなに短い時間では……」
「あなたは馴染むのが遅い。今までの奥様は、三日目には昔からここに住んでいたように馴染みました。なのにあなたは……なぜですか?」

 なぜと聞かれても……分からん。

「ねえ、俺と同じように生きている人がここに来たことは?」
「いましたよ。主はお気に入りの場所が現世にはたくさんあって、だいたい無人島です。流れ着いた者や、まあ骨だったりもしますがね」
「骨……」

 無念なのか魂の一部が残っていたりでですね。そんな者の中で好みでない者は力を使わず薬で治療したり、飢えていれば食べさせる。たまに好きになられるとあなたのように大切にする。私がここに来て好いて連れて来たのはあなたで三人目。それほど多くはないのですよって。その前は話だけで実際見てはいないそうだ。

「何が嫌ですか?冥界に行きたいとか?」

 うん……なんと話したらいいやらと思いを巡らせた。

「風引くと熱がぶり返すでしょ?それみたいに時々強く思い出すんだ。そうするとここは俺がいていい世界なのかなってなるんだ。働かないで神様と泳いだりしてていいのかなって」

 アランは黙って聞いてくれた。優しげな緑の瞳で真剣にね。

「親父はきっと冥界で働いている。なんの仕事をしているかは分かんないけど、きっと頑張ってるはず。なのに俺は……」

 うちの村の暴虐の話しも心に残る。貧しくても先祖のしたことの贖罪の気持ちは全村民が持っていて、小さいうちから教え込まれるんだ。あの禁忌の島のジョンや村人に心を寄せるのは当たり前と信じてた。俺本当に悪いことしたと思ってるんだとアランに話した。だから……

「ここはあまりにも違う。俺は……弱いんだ。ここに染まりそうになると突然思い出すんだ。アラン、あなたもだ。神様の部下だから俺によくしてくれるんだろ?俺を見て言ってないだろ?」

 アランはびっくりしたように目を見開いた。

「なんと。あなたは……そうか、やっと見つけたんだ。だからここに染まりにくいのか」

 なにが?アランは俺の頬から手を離して、今度は手を握った。フカフカだね。

「御子様。きっとあなたは主がずっと待ち続けていたお方なのですね」
「はい?」

 アランの目はウルウルとし出した。なんで?

「あなたは……ようございました。主はこの先淋しくなることも、悲しくなることもない。なんとめでたいことか……リオネル様、私はあなたの絶対の使徒です。なんなりとお申し付け下さい」
「な、なにが?」

 ふふっと笑って、今は分からなくてもいい、いつか分かります。それがいつかは私も、たぶん主も分からない。大丈夫、ここはあなたのお家ですと瞳孔を広げてうるうる。なんでじゃ!

「やっと見つけたのですね主様。ふふっ」
「だから何なんだよ!」

 アランは零れそうな涙を手で拭い俺を幸せそうな顔で見つめる。

「ああそうだ。あなたを心配したのは主の伴侶だからではございません。私があなたを好ましく思ったから。そこは疑いを持たぬように」
「ああはい」

 さあお風呂ーっとほら早くと急かされた。なんなんだよ。自分が話せって言っておいて、自分だけ納得して訳分からんだろ。気にしないーいつか分かるからーと、鼻歌交じりに俺の手を引いて階下へ。そしてバスルームにぶち込まれた。ふう。まあいいや、そのいつかを待とう。

 お風呂にゆっくり浸かって出ると、神様とアランが食べずに待っていた。うおっ!

「ごめんなさい。お待たせしました」
「待ってないよ。さあ食べよう」
「はい」

 今日が始まった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

水の巫覡と炎の天人は世界の音を聴く

井幸ミキ
BL
僕、シーラン・マウリは小さな港街の領主の息子だ。領主の息子と言っても、姉夫婦が次代と決まっているから、そろそろ将来の事も真面目に考えないといけない。 海もこの海辺の街も大好きだから、このままここで父や姉夫婦を助けながら漁師をしたりして過ごしたいのだけど、若者がこんな田舎で一生を過ごしたいなんていうと遠慮していると思われてしまうくらい、ここは何もない辺鄙な街で。 15歳になる年、幼馴染で婚約者のレオリムと、学園都市へ留学しないといけないみたい……? え? 世界の危機? レオリムが何とかしないといけないの? なんで? 僕も!? やけに老成したおっとり少年シーラン(受)が、わんこ系幼馴染婚約者レオリム(攻)と、将来やりたい事探しに学園都市へ行くはずが……? 世界創生の秘密と、世界の危機に関わっているかもしれない? 魂は巡り、あの時別れた半身…魂の伴侶を探す世界。 魔法は魂の持つエネルギー。 身分制度はありますが、婚姻は、異性・同性の区別なく認められる世界のお話になります。 初めての一次創作BL小説投稿です。 魔法と、溺愛と、ハッピーエンドの物語の予定です。 シーランとレオリムは、基本、毎回イチャイチャします。 ーーーーー 第11回BL小説大賞、無事一か月毎日更新乗り切れました。 こんなに毎日小説書いたの初めてでした。 読んでくださった皆様のおかげです。ありがとうございます。 勢いで10月31日にエントリーをして、準備も何もなくスタートし、進めてきたので、まだまだ序盤で、あらすじやタグに触れられていない部分が多いのですが、引き続き更新していきたいと思います。(ペースは落ちますが) 良かったら、シーランとレオリムのいちゃいちゃにお付き合いください。 (話を進めるより、毎話イチャイチャを入れることに力をいれております) (2023.12.01) 長らく更新が止まっていましたが、第12回BL大賞エントリーを機に再始動します。 毎日の更新を目指して、続きを投稿していく予定です。 よろしくお願いします。 (2024.11.01)

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました

下菊みこと
恋愛
突然通り魔に殺されたと思ったら望んでもないのに記憶を持ったまま転生してしまう主人公。転生したは良いが見目が怪しいと実親に捨てられて、代わりにその怪しい見た目から宗教の教徒を名乗る人たちに拾ってもらう。 そこには自分と同い年で、神の子と崇められる兄がいた。 自分ははっきりと神の子なんかじゃないと拒否したので助かったが、兄は大人たちの期待に応えようと頑張っている。 そんな兄に気を遣っていたら、いつのまにやらかなり溺愛、執着されていたお話。 小説家になろう様でも投稿しています。 勝手ながら、タイトルとあらすじなんか違うなと思ってちょっと変えました。

異世界転生したけどチートもないし、マイペースに生きていこうと思います。

児童書・童話
異世界転生したものの、チートもなければ、転生特典も特になし。チート無双も冒険もしないけど、現代知識を活かしてマイペースに生きていくゆるふわ少年の日常系ストーリー。テンプレっぽくマヨネーズとか作ってみたり、書類改革や雑貨の作成、はてにはデトックス効果で治療不可の傷を癒したり……。チートもないが自重もない!料理に生産、人助け、溺愛気味の家族や可愛い婚約者らに囲まれて今日も自由に過ごします。ゆるふわ癒し系異世界ファンタジーここに開幕!【第2回きずな児童書大賞・読者賞を頂戴しました】 読んでくださった皆様のおかげです、ありがとうございました!

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ
BL
国の都の外れの塔には悪魔が封じられていて、王族の血筋の生贄を望んだ。王族の娘を1人、塔に住まわすこと。それは、四百年も続くイズモ王国の決まり事。期限は無い。すぐに出ても良いし、ずっと住んでも良い。必ず一人、悪魔の話し相手がいれば。 時の王妃は娘を差し出すことを拒み、王の側妃が生んだ子を女装させて塔へ放り込んだ。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

処理中です...