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五章 僕のこれから

9.ドミンクスに潜入(ジュスランside)

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 俺たちはルチアーノが図書館や保健省の研究室に入り浸っている間、上皇となった彼の補佐の仕事はない。

「サミュエル!」
「準備は整っております」
「よし!なら行くかな」
「はい。行くぞみんな!」
「「おお!」」

 爽やかな朝の太陽の中、護衛騎士と共に城の庭から飛びたった。今日はドナシアンの貴族に最後の種付け行脚だ。俺たちも五十を超えてあと少しで城を出る。王族としての最期の努めだ。

「いい天気だな」
「ああいい風だ。今回は大使館経由して半月の旅だ。こんな長旅もこれが最後だよ」
「そうだな、仕事ではこれが最後だなあ……」
「ああ、俺な、城出るの生まれて初めてだからこれからが楽しみだよ」
「ああ、俺も」

 そうなんだ。この旅が終わると新しい屋敷に移る。フェリクスの代になったはいいが、どうにも城全体がルチアーノの色から変わらない。これをルチアーノが嫌がったんだ。
 フェリクスはよくやっているんだよ?戴冠式の後から大臣の世代交代させたり、お茶会や舞踏会をしたりさ。だけどルチアーノの活躍を知っている者ばかりで「ルチアーノ様ならこうするのでは?」なんて言われたりして、あいつも自信がないのか「ではそれで」とか。大きな会議は黙って隅で見ているとそんな感じ。

「ルチアーノ魔物みたいな顔になってたな」
「ああ、あれは怖い」
「な、目を血走らせてフェリクス睨んでるしな」

 向こう岸が見えて来た。今夜は猫族王国にお泊まりだ。海を超えて湊の上を駆け抜けると城下町に。更に行くと貴族街の中の大使館に昼過ぎには着いた。

「お疲れ様でした。ジュスラン様、ステファヌ様」
「おう、みな元気か?」
「ええ、こちらは雨も少なく魚も美味い。そしてのんびりな国で問題はありません」
「そうか」

 な~んて話しながら中に入った。それから遅いお昼を食べながら、大使に隣はどうなんだという話しになった。

「ええ、コンタクトは取ろうと頑張ったんですけどね。どうにも……」
「そうか。秘策の俺たちと同じドナシアン由来の国だろ攻撃は?」
「あはは……無理でした」

 今いるカルデロン王国の隣、ドミンクス王国。あの国な、やっぱりドナシアンを嫌った王族が建国し完全鎖国。かなり魔力が濃く多い人が作ったらしく、強固な防壁と警備で中のものは出ないし、外からも入れない。
 で。何度か書簡を行き来させたけど、同じ血だけど王は「我らは外とは繋がりを持ちなくはない。のんびりとここで暮らしたいから構うな」と何度も同じ返事。
 戦に参加した者は悪かったが、あれはこちらの不穏分子で放逐した者たちだ。あれらの命をもって償うから構うなってさ。

「そうか、ベトナージュ建国の後の王族らしかったから、繋がりをと思ったんだけどな」
「ああ、完全にイアサントと同じで国を捨てたんだな」

 ええ、と大使。捨て方は本気も本気。未来永劫戻らぬ関わらぬとなっているようだ。

「せめて一度会えないかな?」

 呆れたように

「無理でしょ?我らも強行突破とばかりに門まで行きましたが不可と追っ払われました」
「そう……なあ、ステファヌ?」

 隣をニヤニヤ見た。

「ん?……嫌だなあその顔」
「行ってみようぜ、追っ払われたらその時だよ」

 大使がダメでも俺たち王族ならさと提案。

「無理だろ?」
「いやいや、行って見ようぜ。行くだけならタダだろ?」

 眉間にシワを寄せてステファヌは俺を睨んだ。

「お前面白がってるだろ?」
「おう」

 あ~嫌だね。この年までなんも変わらんおっさんはと言いながら付き合ってやるよと笑う。

「んふふっ連絡しておいてよ。明日向かう」
「ええ~……本気ですか?まあ、急ぎ連絡はしますが無理だと思いますよ?」
「いいからさ!」

 まあそれならと渋々大使は準備してくれて、翌日門の前に到着。
 おお!防壁分厚くてすげえな。上からもすごかったが近くで見ると更にすごい。これは物理防御も付与されてるだろ?と感心している間に大使が門番に話しを通しに行って入れてくれるらしい。

「ジュスラン様!奇跡です!ですがお二人のみで他はダメだと」

 少ししょんぼり。自分も入りたかったようだ。

「いいさ、俺たちだけで行く。もう俺たち間違って死んだとしても困らんしな」
「馬鹿を言わないで下さいませ!あのぉ……辞めておいた方が……」

 いや?楽しそうだろ?短期決戦なら俺たちはまだ強いさと、大使に手をヒラヒラさせて中に入った。

「こちらへどうぞ」
「ああ」

 門番に案内されて付いていくと、馬車が用意されていて乗り込む。のどかな馬のカポカポと鳴らす足音に揺られながら、ゆっくり進む。おお!昔の町並みだな。窓の外は古い形式の建物と衣服の民。街中なのに農民のような商人とは思えないのどかさだ。

「古いが穏やかそうだな」
「うん……古いリンゲルみたいだ」

 嫌な匂いもせず街は活気に満ちている。人々の笑顔もあるし、飢えているなんて様子もない。体裁を整える時間はなかったはずだから、これがいつもなんだろう。
 そんな感じで城下町を抜け、貴族街を通り城に。質素な装飾の少ない……大きめな屋敷といったところだ。正門前に騎士がずらりと並び、その中を一人歩いてくる。

「急なお越しで何も出来ませんが、ようこそ。私は宰相エドメと申します。こちらへ」
「急で悪かったな」

 まあ、いいですよと客間に案内された。当然中も古い様式で、ドナシアンの城を思い出させた。

「こちらでお待ちを」

 そう言うと部屋から出ていって二人だけ。

「ラッキー!押してみるもんだな」
「お前は……でも入れてラッキーなのはそうだな」

 調度品も形式が古いが新品のように手入れされていて、メイドが出してくれるお茶も普段飲んでいるものと変らない。お菓子も……もぐもぐ。うん、くるみの美味しい味だ。
 半時ほど待たされ、王のお出まし。正式な訪問ではないからここでと言われて彼は座った。

「初めまして。私が現王フェルナンです」

 見目麗しい青年が目の前に来た。俺たちの若い頃によく似た金髪、青い目、優雅な立ち居振る舞いの若い王。衣服はやはり古い形式の……

「急な訪問を受けて下さりありがとう存じます。ですがなぜ受けて?」

 王は楽しそうに笑った。

「ふふっ僕が幼い頃にドナシアンを滅ぼした勇敢な王族に会って見たかったからです」
「ああ」

 それにうちの放逐した魔法使いが迷惑もかけましたからと微笑む。あの戦を聞かせてくれませんか?と言われ、ステファヌがルチアーノに着いて行ったからと説明をさせた。

「なんとまあ、ルチアーノ様にも会ってみとうなりました。なんと勇敢な」
「ええ、どこにそんな力がと思うほど我らの番は強いですよ」
「我ら?」
「ええ」

 俺たちの成り立ちなんかも説明した。

「ほほう、珍しいですね。二人で一人の番とは」
「ええ、どうにも他が見つかりませんでした」

 彼はふふっと微笑み、

「ですが、お二人は幸せそうですね」
「とても幸せですよ。あれ以上の者はいません」

 そうですかと笑うと真顔になり、我が国は鎖国しておりますから、年々人は減っております。王侯貴族だけで番うというのにも無理が来ていて、庶民でも才覚のある者とは番になったりもします。もうこの国は限界が近いと私は考えています。ですが……

「ですが?」

 俺は問うてみた。

「ふふっ我が国の魔法使いは他国にはない強い力があります。いにしえの力が残っておりますからね。その力はこの世界にふさわしくはない。混乱をもたらすのみでよいことはありませんから」
「そうですかね?」
「そうですよ」

 彼は悲しそうな表情になった。

「では中に入れるだけでも人の層が……」

 待て待てと彼は遮った。

「いいえ……実家に帰れもしない嫁入りに応じてくれる貴族も民も居らぬと思いますが……ね?」

 それにこの国の内情は農業主体のぼんやりした国なんですよ。防壁が大きいだけでね。来る途中に見たでしょう?小さな村のような感じがこの小国全体なんです。土地の魅力もあまりなくて……
 魔法使いもこの防壁の維持のためだけにいますし、医療もある程度完備しています。だから病で死ぬ者は少ない。それでも血が濃くなっているのか、みな短命ですねと国内の事情を説明してくれた。

「ならばこのままでは……」
「ええ、遠からず消滅でしょう」

 消滅……それでいいのか?

「この国はそれを良しとしているのですか?」
「んふふっ先祖の遺言で、絶えるまで存続すればよい。それも運命と」

 だからなんの対策も取らず、ゆるゆる生活してますと。マジかぁ……強い力を封じ込めるためなのか何なのか……かなり特殊な人物がこの国作ったんだな。

「ちなみにあなた自身はそれを良しとしますか?」
「え?僕ですか。う~ん………」

 考え込んで黙ってしまった。そんなものと思って考えた事もなかった様子だ。

「う~ん、僕自身は民が好きです。外に出たいとも言わず、牧歌的に生活してくれて、私を慕ってくれてもいます。鎖国を開放するのは……環境の変化が怖いが本音ですね」
「そうですか」

 確かにこれだけの事が出来る魔力を持つ魔法使い……あの戦の時の強さはアンセルムすら手こずって、数人失ったと聞いている。俺たちもいにしえの技もどきを習得していなかったらかなりまずかったし、放逐された者たちの不気味さは……この国の牧歌的なものになじまなかった異端者なのはわかるな。それの開放は確かに怖い。

「では、時をかけて人を入れてみては?あなたはこの国が民が好きなのでしょう?」
「ええ、ですが先程も言いましたが……」

 ステファヌがドナシアンから魔力をもらったりの話をした。

「まず我が国からはどうでしょう。このまま滅ぶのを待つのは同じ血脈として忍びない。それに我ら王族は魔力量と濃さもここと引けを取らないはずです」

 彼はそれだけではないですよ?帰れないんですよ?と。こちらに住民登録すると門が魔力で弾いて出られません。そんな国に来てくれるのでしょうか?と困り顔。う~ん。

「我が共和国内にここと似た国があります。その様な国だと宣伝すれば来たがる者もおりましょう」

 ステファヌは疑問に思ったらしい事を聞いた。

「ちなみに獣人の入国は?」
「構いません。元々この大陸は獣人の大陸です。城下町には少ないですが地方には多くいますよ」
「なら問題はありませんよ。どの国も農民はその土地から動きませんしね」
「そうですが……」

 すぐには決められませんが良い案だとは思います。このまま消滅はやはり哀しく思っていましたからと。

「ならばイアサント、ドナシアンとゆっくり協議しましょうよ」
「そうですね……どう思う?エドメ」

 ふむと顎を擦りながら、綺麗だが目つきの悪そうな宰相は、

「話しは聞いておりましたが、私もこの消滅の未来は辛く感じておりました。豊かな土地はありますし、土地も空いています。迎え入れるのは賛成ですが、魔法使いの外に向けた教育には時間がかかります。ですので開国は難しかろうと感じます」
「だよね。ではそちらの魔法使いが成熟し、こちらも交流に慣れた頃開国ですかね」

 まあな、魔法使いはここの者と渡り合えるくらいになればかな。

「まだすぐにどうこうはないんですから、ゆっくりと妥協点を見つけましょう」
「ええ」

 そんなやり取りをしてお暇した。あの宰相、大陸会議の時の不気味さは演出だそうだ。関わりたくなくない雰囲気を醸し出す……話してみれば穏やかな国らしい人物だった。
 んで、帰りに騎獣で視察もさせてもらった。城下の城壁内以外は本気で畑しかなかったよ。娯楽施設も温泉地くらいでな。そして、獣人も確かに多かった。

「まるでリンゲルだな」
「ああ、王も欲のないファンダルにそっくりだったな」

 眼下を眺めながらそんな感想しか出てこない。どれだけドナシアン王国が嫌だったんだろうと思わざるを得ない風景だ。それに畑に精を出す農民の手を振る笑顔は眩しかった。外の評判など一面でしかなかったんだな。

 そして翌日。予定通りドナシアンに向かいあんあんいわせて……ドナシアンたちにあんあんいわされて……これはイヤ。俺の尻どうなってんだ?というくらい気持ちよくて……

「あはは、ジュスラン気持ちいいだろ?」
「うっ……あっ……もっと……そこ……」
「ああ!楽しめ」

 ズクンッと腰掴まれて押し込まれると快感に蕩けて意識が……あああ!あはん……全身が喜んだ。なんなんだよ、この快感はよ!番とのセックス以上の……ああ……無理だ。ルチアーノ……ごめん……気持ちいい……


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