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三章 イアサント王国の王として

10.視察と温泉

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 僕はここにきて早二年。不穏な空気は日増しに大きくはなって来てるけど、我がイアサント王国は穏やかだ。

「空から見る街は相変わらず美しいね」
「だなぁ……お?おお!」

 二人ともジュスラン様!ステファヌ様との声がけに手を振る。僕も王様!って声にありがとうと手を振った。

「猫じゃねえとは言われなくてよかったな。クックッ」
「まだ言うか!」

 そう……月に一回くらいのペースで視察には出ていたんだけどある辺境の……リンゲル付近の貴族と街を歩いて説明を受けてたら、街の人に「猫……じゃない!」と言われたんだよ。この辺の人は識字率が低く学校に行けなかった人も年配の人には多い。だから絵だけで判断しててね。

 二人は大笑いして、言った街の人も恐縮しちゃってね。気にしないでと僕は慰めて。でも街の人はかわいい王様だと嬉しそうだった。

「でもさ、あの号外信じる人がいたんだねぇ。改めて先代の学校改革はよかったよ」
「ああ、ビラや看板が読めないと逃げ遅れるかもしれないしな」

 確かにそうなんだ。防御障壁は王国全部には張る力はない。貴族の屋敷を中心として張り、村人や街の人を避難させるから看板が読めないのは致命傷なんだよね。

「父上の政策で一番いい政策だった」
「ああ、その後すぐ身罷ったからな。元々政策らしい事はしてないけど」

 ふ~ん、確かに若くして亡くなったから仕方ないよね。

「ジュスランたちは何したの?」

 ウグッて変な声。

「聞くなよ……俺たち八年はしてたけど立て直すだけで精一杯だったのよ。無理だったの!」
「あははごめんね」
「番には優しくしてよ!」
「は~い」

 この視察の後温泉に行くんだ。父さんと母さんは昨日のうちに行っている。前日に僕が送るよって言ったら変な汗かいて騎士様のに乗る!って大きな声で拒否された。あれから一年経ってるのになんでだ!

「酷くない?僕の両親はさ!」
「あはは!お前を一番知ってて怖いんだろ?」
「僕は結構乗れてるでしょ?何が不安なんだか!」

 ギャハハってステファヌが盛大に笑う。

「ハァハァ……お前時々抜けてるからそれが怖いんだろ?俺たちですら気がつくから親は……うはは!」
「失礼だ!ステファヌ!」

 そうかなぁ……話しながら歩いてて絨毯の縁に引っ掛かって盛大に転ぶとか柱にぶつかるとか?は確かにある。夢中になると他が疎かになる事もなくはないけど、こうやって空飛んでいる時はしないよ!

「どうだか……くぷぷっ!やりそうだよ」
「どう?僕は上手いでしょ?とか言いながら急降下とかな!あはは!」
「もう!番には優しくしてよ!」
「は~い!あはは」

 そんな話をしていると屋敷が見えて来た。父さんたちも迎えに出ていて手を振っている。フワッと庭に降り立つとギヨームがニコニコと近づいて会釈した。

「お待ちしておりましたルチアーノ様。ご両親は昨日から温泉を楽しまれていますよ」
「そう!よかった。あっ母さん!」

 僕は駆け寄り抱きついた。

「お前は……お二人を放ったらかすなよ」
「だってあんまり近くにいても会えないし?いいじゃない!」

 後ろでいつまで経ってもお子様ルチアーノだなと聞こえる。

「たまに子供に返りたくなるの!」
「いいけどさ」

 優しく微笑んでくれた。あ……彼らにはもう甘える両親はいないんだった……

「どうした?」
「ごめんなさい、僕二人の気持ちを……」
「ああ、そんな事か」

 二人は気にするなって微笑む。大体王族の親子の繋がりは庶民とは違ってとても薄いんだそうだ。

「イレールに前に聞いたと言ってたろ?あんなもんなんだよ。たまに顔合わすだけ。こんなに幸せを強く感じるような関係じゃない」
「王族は更に希薄なんだよ。食事の時間も違ったりでさ、週に一回顔見ればいい方だ」

 父さんと母さんはえっ?て顔をした。

「あの……それで親の愛情を感じるのですか?」
「ああ、そうですね。それなりには……」
「頭撫でてくれたり微笑んでくれたり。俺たちに興味がある態度でした」

 え?それで……?

「そんなものなの?」
「うん。世話は乳母がしてくれるし話しするためにお茶会してくれたよ?」

 ゲッ……僕は寂しくて死ぬね、それ。

「はあ……そういうものですか」
「ええ、俺たちは幸せでした」

 ギヨームが立ち話もと屋敷に入れと促してくれて応接室でみんなでお茶を飲んで寛いだ。母さんたちはここに来て温泉に入ったり街の歓楽街に行ったり楽しかったそうだ。

「イアサントにもこんな所があるとは驚きました。リンゲルは山沿いでしたから温泉地はあちこちにありましてたまに行ってたんです」
「ほう、こことは違う感じですか?」

 ジュスランの質問に母さんが、

「こことは比べられませんよ。こちらは本当に遊ぶ所も多く見事と言うしかありませんが、あちらは湯治目的ですかね。長く逗留するための宿屋が多くて他国からも結構来てました。魔法が庶民はありませんから」
「そうだね、僕は一度も行けなかったけど」

 イアサントは腰痛とか痛みは魔力多めの人が治療院開店しててそこに行けば治るからね。温泉は治療ではなくてお風呂が大きいだけの……エロさとかエロさ……を求める場所。賭け事や飲んだり歓楽街と変わらない。でも子供も遊べる遊園地や動物園(小さな魔物や馬、牛とか家畜?)も多く年齢問わず遊べる地なんだ。

 そんな話をしていらたまには家族だけで話したらとジュスランたちが言ってくれて、サロンに僕たちは移動した。お茶をメイドさんが淹れて下がると、

「はあ……いいところだな」
「でしょ?」

 屋敷の中も使いやすくてメイドさんがべったりじゃないところもいいそうだ。

「父さんたちは庭仕事楽しい?」
「ああ!それな。品種改良とかも温室でしててそれに参加してるんだ。野菜ではしてたけど花も面白いな!」

 色んな物に魔力や掛け合わせでどんな花が出来るか研究するのは楽しいと。獣人も多くて緊張しなくて済むし。

「お前は本当に城の人に愛されてるな。どこ行ってもかわいいしか聞かない」
「ホントにね……お前はどれだけの努力をしたんだろうと……頑張ったんだね」

 優しく微笑む二人に涙がジワって……

「二人に褒められると嬉しいよ」
「ああ、フェリクス様もアンベール様もすくすく育ってて会いに行くとジジっ抱っことかわいいんだ」
「でしょ?」
「でも本当に一歳できちんと喋るのな。そこは驚いた」

 うんそれは僕も。よちよち歩くくらいかと思ってたけどしっかり歩くし食べるしね。母様抱っこ!と飛びついてくるし、庭の花の名前も覚えて僕と同じ色のバラをよく庭師から貰ってきて部屋に飾って、

「母様好きでしょ?」

 って嬉しそうにしている。孫ってこんなにかわいいんだと俺たちは幸せだと笑ってくれる。僕はついでに聞きたくて聞けなかった事を聞いてみた。

「あのさ……僕の側にいてってお願いしたけどその……本当は嫌ではなかった?帰りたくなったりしてない?」
「え?」

 不思議そうに僕を二人は見た。母さんが何だそれ?と。

「嫌なはずないだろ?離れて寂しかったしね。そりゃあ畑に未練がないと言ったら噓だけど離れに屋敷立ててもらって、洗濯も食事の用意も要らず、花の世話してみんなと楽しく過ごせて何の不満があるんだ?」
「おう、品種改良は俺のライフワークだったし芋や玉ねぎが花に代わっただけだ。王の親だって大切にもされてる。不満なんかないよ」

 欲しい物は言えば手に入るし食事も自分でやりたいと言えばそれも通る。洗濯だけはそこらに干さないでと禁止されてるけどそれくらいだ。もうかれこれ一年、慣れたよと。

「本当に?」
「ああ!本当だ、ほれみろ俺たちを。ツヤツヤで母さんは真っ白だろ?白金の髪に白い肌、俺が一目惚れした頃と同じだ」
「やだ……アルバーノ恥ずかしい!」

 バシッて父さんを力一杯叩きヨロっとしてごめんなさい!なんて仲がいい。

「ならいいんだ。僕が無理させたのかとずっと思っててね」

 はあ……馬鹿だなあって。

「お前とずっと一緒に……お二人もね。お前の番とまあ身分は違うが夫たちも一緒でこれほど幸せな事はないよ」
「うん。俺たちは幸せだ。気にするな」

 ありがとうとお礼を言って父さんたちの日常を聞いた。近くにいるけどたまにしか行けなくてね。庭仕事はよく見かけるんだけど。

 そうそう、身分の話ししてたけど一応準公爵家にはなっている。一代限りの公爵だから書類上は準が付いてるけどね。二人が亡くなると絶える家。それで予算が付いてるんだ。働いてるのはあくまで趣味の範囲でね。だって庭仕事の報酬って給料換算したら凄い金額になる。でも二人は使ってなくてさ。

 礼服とかお互いの誕生日とか庭師同士の付き合いくらいしか使ってなくて余っている。税金だろ?って嫌がるんだ。だから最低限でカトレア棟から見えない位置に畑作ったり慎ましく暮らしている。

「あのさ帰りたい時は言ってね。騎士さんに送って貰うから」
「ああ!それはもう。この間エネーアの兄の家に子供が生まれてな。見に行くのに連れて行って貰ったんだ。早くて日帰り出来ちまった」
「そう!ブルーノ子供出来たんだ!お祝いを送らなきゃ!」

 二人がやめろ!って怒鳴った。

「他国の王からとか怖いだろ!周りの目もある。お前が王になったと聞こえてきた時にみんな俺たちを見る目が変わったんだよ」
「え?」

 母さんは渋い顔して、

「イアサントの王族とどんな繋がりがと興味と嫉妬が凄くてな。当然兄のクリスティンも大変だったんだ」

 迷惑掛けてたんだね。

「ごめんなさい……」
「お前が謝ることじゃない。うちではない所がそうなら俺たちも同じ事をしたはずだ。周りを責める気にもならないし、気になるのは人の性だよ」

 そう言って笑ってくれた。今は兄のクリスティンの家もブルーノも落ち着いたそうだ。だってイアサントからの援助がないからね。両親も援助はここに来るまで断っていたそうだ。自分たちの暮らしは変えたくないと。やっぱり僕の両親だね、欲がない。

 久しぶりにゆっくり話せて楽しかったけど夕食だとイレールが呼びに来てみんなで食べた。騎士さんも側仕えも関係なくみんなで食事。大勢での食事はとても楽しかった。大臣たちとの会食とは違う身内だけの……サミュエルたちは僕らの移動専属メンバー、気も使わなくなってて楽しく過ごした。

 やっふう!とうとうの温泉だ!これだけは王族とその他と別れて入った。みんなと入るって言ったらジュスランたちが凄い顔になって嫌がったから諦めた。親はともかく騎士もいるしルチアーノの裸見せるとかバカかと。誰も気にしないよと言ったけど信用ならんと。

 まあ、仕方ないと三人で王族用のお風呂場に向かった。

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